男は『顔が整っている』という言葉が霞むほど美しかった。
雪のような白い肌、優しく下がった目じり、コートの下には男にしては薄い華奢な体が隠れていた。
アムラスと名乗った彼は腰まである茶色のストレートな髪を葉を模した髪留めで一つに纏めて前に流していた。
片目は前髪で隠し、エメラルドのように美しい翠眼の左目のには泣きホクロがあった。
そして、アムラスという名前と―――尖っている耳。
ナミ達は彼を知っている。
ナミ達は震える手でアムラスを指さし…
「え……え…アムラスって…その耳…その髪…そのホクロ…え?え???―――ええええええええ!!?」
叫んだ。
その叫びにベッジ達は思わず耳を塞ぎ、息子であるペッジが驚いて泣いてしまいベッジに怒られてしまったが、ナミ達はそれどころではない。
「おや、僕を知ってるのかい?」
「知ってるっていうか…」
「ゾウでネコマムシさんとイヌアラシさんのお2人からあなたの事をお聞きしたのです…双子のフレイルがいらっしゃると」
アムラスは新聞や手配書で彼らを知っているが、彼ら本人とは今顔を合わせたばかりだ。
不思議に思ったが、知り合いの名前に驚いたように彼らを見る。
「イヌアラシ君とネコマムシ君か!!懐かしいなァ…もうあれから26年になるからなァ…あの子達も大きくなっているんだろうね…あの子達は元気にしていたかい?」
「あのお2人は今モコモ公国で王をされている」
「王!あのやんちゃな子達が王様!!すごいなァ…時間の流れを感じさせる…ララノアにも教えてやりたいなァ…」
答えたのはペドロだった。
アムラスはイヌアラシ達がモコモ公国で王をしていると知り懐かしそうに破顔した。
「ララノアならすでに王と会ってるよ!近くに来たからって王達に会いに来てくれたの!」
「ララノアが?…そうか…あの子は無事逃げられたんだね」
『良かった』と言うアムラスはとても優しく、兄の表情を浮かべていた。
妹であるララノアとは16年前に政府に捕まり、引き離れて以来だ。
兄妹として生まれてから引き離されるまで離れて暮らすのは初めてなのもあるのか、普段は寂しくなるし心配で不安になるため思い出さないようにしていたが思い出すと途端に妹に会いたくなった。
「随分と話が逸れてしまったね…本題に入ろう…ルフィ君、僕は合格かな?」
ミンク族達から妹の話を色々と聞きたかったが、今は時間がない。
サンジ同様アムラスもビッグ・マムの傍を長時間離れることができない立場である。
アムラスはビッグ・マムの夫として役目を求められているが、最初から逃げる事を前提として今の立場を受け入れた。
勿論、それは誰も知らない。
逃げるなら、アムラスの実力であれば逃げるだけなら出来るし、ビッグ・マムと対峙しても無事で済む。
しかし、アムラスは妹とは違い海を出て生き延びる技術がない。
妹と二人旅をしていた時に学んだが身に付かず、結局妹にばかり頼っていた。
そのため、乗せてくれる船が必要だった。
密航も考えたが、そうなればその船に迷惑をかける。
ルフィを筆頭に、麦わらの海賊団は世間からしたらイカれた連中だ。
数多くの強敵に挑んだだけではなく、世界政府、そして天竜人でさえ手に掛ける頭の狂った連中。
そして、彼らはビッグ・マムにも立ち向かおうとしている。
離れる好機だと思った。
それに、アムラスは彼…ルフィを知っている。
ルフィは自分を見つめるアムラスを何も言わず見つめ返した。
「ああ、いいぞ」
しばらく見つめ合っていたら、ルフィが頷いた。
敵対関係であったし、戦ったが、それでも彼の目を見てルフィは彼を受け入れた。
アムラスは笑顔を浮かべた。
その笑みは仮面を被っているようなものではなく、彼本人の笑みに感じる。
「ありがとう…ああ、そうだ…この子を返しておくよ」
脱出で必要な海路と船を手に入れれば、後はやるべきことをするだけだ。
幸いにもビッグ・マムとは戦い慣れており、1人ならまだしもルフィやベッジなどの協力者もいる。
『先を知っている』からこそ、ルーキーである彼らに声をかけた。
本題に入る前に、アムラスは思い出したように手に1つの箱を出現させコトリとテーブルに置いた。
「これは?」
「開けてみれば分かるよ」
ルフィ達に返すと言いテーブルに置く手のひらサイズの箱にチョッパー達は首を傾げながら箱に近づくが、箱詰めされたり箱で攻撃されたナミは恐々とブルックを盾に後ろに隠れる。
言われた通り箱の蓋を開けると―――1匹の大蛇が現れた。
「シュラハテン!?」
≪こ、ここは一体…≫
その大蛇はアスカに懐いているシュラハテンだった。
シュラハテンの箱にいるとき眠らされており記憶がない。
外にいた記憶から箱から出されたと思えば室内に変われば誰だって混乱するだろう。
辺りを見渡したシュラハテンの視界にアムラスが写り、その瞬間、アムラスに襲い掛かった。
≪貴様!!!≫
「ま、待って!シュラハテン!!」
箱の中にいる時は周囲の音は聞こえないし外は見えない。
だからアムラスが味方となったと知らないのだ。
ナミ達が慌てて襲い掛かろうとするシュラハテンを止めようとした。
しかし、シュラハテンの方が速く、シュラハテンの速さに追いつくはずのルフィは何故か止めようとはしなかった。
アムアスも向かってくるシュラハテンに笑みを浮かべただけでモーションも取る様子もない。
ついにシュラハテンの牙がアムラスに届いたと思ったその時――アムアスの姿は一瞬にして消えた。
勢いが止まらず、シュラハテンは地面に突撃した。
「えっ!き、消えた!!?」
初めてアムラスの能力を知るチョッパー達やベッジ達は驚きの表情を浮かべる。
誰もがアムラスの姿を探そうとしたその時。
「随分とお転婆なイルルだね」
「!!」
ベッジの後ろからアムラスの声がした。
振り返ればアムラスが笑みを浮かべながら立っていた。
地面に倒れたシュラハテンが顔を上げ、再び襲い掛かろうとしたのを、ナミ達が間に入り止めた。
シュラハテンはナミ達に事情を聞くもアムラスを睨むのを止めず不貞腐れたように鼻を鳴らし、ブレスレットへ姿を変えナミに向かって飛ぶ。
どうやら気に入らないが、敵ではないのは受け入れたようだ。
「ねえ…ちょっと聞きたいんだけど…アスカは今どうなっているのか分かる?」
拗ねてブレスレットになったシュラハテンを手首に通しながらナミは一番心配していたことをアムラスに聞く。
アムラスはその問いに『そうだね』と呟き、どこから話そうかと考えながらルフィ達が座っていたソファに腰を下ろす。
「アスカ君は今、丁重に扱われているから安心していいよ…リンリンはずっと自分の血を継ぐ子供を産むフレイルを求めていたからね…息子を介してだけどやっと自分の血を混ぜることができるフレイルと出会えたんだ…アスカはリンリンのお気に入りとして大抵の事を許されるだろうね」
足を組み優雅にルフィ達に入れた飲み物を勝手に飲みながら答えたアムラスに酷い扱いをされていないとルフィ達の誰もが安堵した。
子供を産まされると聞いていい気分ではないが、アスカが結婚する前に救出するのだから関係ないだろう。
仲間の無事を聞き安堵するルフィ達を見ながらアムラスは心の中で思う。
(昨日の夜にはカタクリ君に手籠めにされているって言ったら多分ブチ切れるんだろうなァ)
昨日の夜の出来事はカタクリとアスカしか知らない。
手籠めにされていない事実も口止めされているメイド2人しか知らず、アムラスですら知らない。
だから、アムラスは昨日の夜、カタクリとアスカが一夜を共にしたと思っている。
自分だって妹であるララノアが同じ目に遭っていたと聞くと激情に駆られるだろう。
傍若無人な妹であるが、あれはあれでアムラスにとって可愛い妹だ。
だからこそルフィに言えなかった。
「ママが自分の血を継ぐフレイルっていう人の子供を欲しがっていたのなら…義父さんじゃ駄目だったのかしら…」
呑気に紅茶を飲んでいると話を黙って聞いていたシフォンが口を挟んだ。
その言葉にアムラスは香りのいい紅茶から義理の娘へとその緑色の美しい瞳を向ける。
義娘であっても義父の顔は初めて見た。
まさかこんなにも美しい男性だったとは思っておらず、思わず義父の美しさに気圧されてしまう。
そんな義娘に気づいたのか、アムラスはニコリと人好きのする笑みを浮かべ答える。
「僕はエルフだからね…エルフは他種族との交配では子供は望めない種族なんだ…だから、僕とリンリンは子供が出来なかった」
そう言いながら尖った耳に触れる。
容姿の他に分かりやすい特徴が長い耳だ。
エルフは同族でなければ子供を望むことはできない。
そのため、この世界ではハーフエルフは存在しない。
特に、アムラスとララノアはエルフ達の中でも最も希少となる種族になる。
エルフが森に引きこもる種族であるのもあるが、エルフ同士でなければ子供を望めないから滅んだと言われていた所以の1つである。
「さて…随分と長話になってしまったね…時間も押していることだし作戦を立てようじゃないか」
もっと聞きたいことはあるのだろう。
アムラスもフレイルを仲間に持つ彼らに色々と教えてあげたいが、時間がない。
話を逸らしたのは自分だが、だからこそアムラスは話を戻した。
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