(249 / 274) ラビットガール2 (249)

時間は過ぎ、ついに式の始まる時間となった。
その時間に合わせてアスカはカタクリと共にビッグ・マムのいる席に戻り、ビッグ・マムの隣をアスカ、その隣をカタクリが座る。
カタクリに誘導されながら座ると、フリルの隙間からチラリと写真立てが見えた。


(あれが例の写真…)


ルフィ達に聞かされ、カタクリからも注意された作戦の要となる写真立て。
写真立てがあるのは何となく分かったが、その写真の人物がどんな顔をしているかまでは見えなかった。
その写真立てはビッグ・マムと対面するようにテーブルに置かれており、そこからやはりビッグ・マムにとって写真立ての人物は特別なのだと分かる。
そして―――


≪さてご来場の皆々様!本日のメインイベント!シャーロット家35女!シャーロット・プリン様と!ヴィンスモーク家3男!ヴィンスモーク・サンジ様の!ロイヤルウエディングを執り行います!!≫


ついに式が始まった。
あとは銃声を合図に全てが動き出すのを待つだけ。
たったそれだけなのだが、アスカは緊張で心臓が止まりそうだった。
サンジとプリンが登場し、招待客やプリンの兄弟達が盛り上がりを見せる中、アスカは緊張で震える手を隠すようにグラスを持って飲み物を口に含ませる。


(やっぱりサンジはサンジだった…)


ビッグ・マムの能力であるゼウスがティーカップを模した台に乗っている2人を運ぶと、盛り上がりは頂点に達した。
ベールで隠れて見えないから、全員サンジ達に注目していていたのでちょっとベールを捲って見上げる。
やっぱりサンジが鼻の下を伸ばしているのが見えた。
命が失わず良かったと安堵しつつも、アスカは自分を殺そうとしている相手に鼻の下を伸ばすサンジに呆れを通り越して尊敬してしまいそうになる。
サンジの実力からして心配はしてはいなかったが、サンジの鼻の下を伸ばしている間抜けな顔を見てアスカの緊張は少し和らいだ。
とはいえ、奪還するとはいえサンジが望んでいない結婚を喜べず、周囲とは真逆にアスカはただ席に座ったままサンジを見つめていた。
すると、コックたちが現れ歌を歌い出し…


「いでよ!!祝福の〜〜ウエディングケ〜〜キ!!」


能力者なのか、それともそういうギミックなのか。
地面から巨大なウエディングケーキが生えたように現れた。
その大きさは巨体を持つビッグ・マムでさえ見上げるほど。
さらに、ビッグ・マムが目をハートにさせ涎を止める事ができないほど良い出来だった。
サンジ達はケーキの天辺で誓いの儀式を行うことになっており、先に神父が待っていた。
その間もサンジの鼻の下は伸ばし続け、アスカはもう何も言うまいと悟っていた。
兄弟、招待客全員が席につき、ついに儀式が始まろうとしていた。


(あれ…あの人がいない…)


ふと、隣の席が空いていることに気づく。
周りを見渡しても、レースが邪魔して相変わらず視界が悪く見つけきれなかった。
今回の主役ではないため、カタクリはアスカの傍ではなく銃声を合図に行われるヴィンスモーク家の暗殺のためにアスカの傍を離れていた。
そうしている内に儀式が始まった。


「病める時も…健やかなる時も…富める時も…貧しき時も…時に歩み死が2人を分かつまで―――」


神父の前でサンジとプリンは見つめ合い、誓いの言葉を受け止める。


「ではベールを上げて近いのキスを…」


誓いの言葉を受け入れた2人に、ついにその時が来た。
誓いのキスを行うため、プリンが屈み、サンジがプリンのベールを捲る。
しかしベールを捲ったサンジは一瞬時が止まる。
―――プリンの額に、三つ目の瞳が見えたのだ。
プリンは普通の人間ではなく…三つ目族の血を引いていた。
その瞳を隠し続けてきたプリンは、この時、この瞬間、暗殺のために露にした。
だからサンジの動きが止まった―――と思うだろう。
だが、サンジはサンジであった。


「なんて…美しい瞳だ…」


プリンは三つ目を見て驚き固まっているサンジを、隠し持っていた銃で撃ち殺そうとした。
しかし、サンジの呟かれた言葉によってプリンは―――涙をこぼした。
三つの瞳から涙が零れるのを見たサンジは我に返り慌てる。


「あ…ご、ごめん!近くで見てたら…つい…!見惚れて…」

「…っ!」


サンジの言葉に、ついにプリンが崩れ落ちてしまう。
顔を覆って崩れ落ちるプリンに、招待客や兄弟達からどよめきが生まれた。


(何言ってんだコイツ…!!ふざけんじゃねェ!!生まれてきてからたった一度も!この目を美しいなんて言ったやつは…!!―――私は三つ目の醜い化け物なんだ!!)


騒めきを感じながら、プリンの脳裏にある出来事が浮かぶ。
三つ目はエルフと同じく、ヒューマンショップの一覧にも載っていないほど希少な種族だった。
そのせいか、様々な種族が共存しているこの国でさえプリンは差別の対象だった。
周囲は勿論、生みの親である母からも気味が悪いから三つ目を隠すよう命じられた。
最初こそプリンも性格が悪い子供だったわけではない。
周囲は泣いて止めてと言っても虐めや差別を止めなかった。
だから、防衛せざるを得なかった。
環境がプリンの暴力的な側面を育てたのだ。
それなのに、サンジは三つ目を美しい瞳と言ったのだ。
美しくて見惚れていたと。


「ふざけんな!!殺すんだ!私は…お前を!!」


初めて言われた言葉に、プリンは泣き出してしまう。
蹲るプリンにサンジは慌てて駆け寄る。
その雰囲気は視界を奪われたアスカでも肌で感じ取っていた。


(な、なに…何かトラブルでも起きたの…?)


何かが起こったことは分かるが、如何せんベールのせいで把握しきれない。
兄弟達はベールを取ったサンジが三つ目に驚いている間に銃で殺すはずのプリンが突然顔を覆って蹲り動揺が走る。
だが、1人だけ。
たった1人だけ、見聞色によってプリンが泣き崩れるのを察知したカタクリだけがすぐに動く。
プリンが崩れ落ちたのを見てビッグ・マムがプリンでは駄目だと判断し神父に銃でサンジを殺すよう指示をするが、それも避けられると分かったカタクリが殺そうとジェリービーンズを飛ばした。
しかし、それをサンジが避け、ジェリービーンズは神父に当たり、神父はその衝撃で銃の引き金を引き、その弾はサンジではなくどこかへ放たれた。


(えっ!まって…これ、合図になるの!?一体どうなってるの!?)


作戦では銃声を合図にルフィ達が現れてビッグ・マムの恩人の写真を壊す手はずだったはず。
だが、銃声は聞こえたが周囲の様子から、撃たれたのはサンジではなく神父だというのは分かった。
ルフィがいる時点で作戦通りにはいかないとは予想はしていたが、まさか作戦の合図時点でトラブルが起こるとは思っていなかった。
今動いていいのか、それともまだ様子見した方がいいのか迷うが、まずはルフィ達が来てから動くことにした。


「どうしたカタクリ!プリンに何が!?」

「それ所じゃねェ不測の事態だママ…!おれにも手が出せねェ!」


カタクリはすぐに武器を持ち、母…そしてアスカの前に出る。
動揺が隠せないのは何もアスカだけではなく、ビッグ・マムやカタクリ達でさえ作戦が失敗し混乱が起こっていた。


「アムラス!アスカを守れ!」


とりあえず、ビッグ・マムはまず娘のプリンよりもフレイルであるアスカを優先とさせた。
夫の実力は自分が一番理解しており、不測の事態とやらに上手く対応できると信じているが、アスカはビッグ・マムから見ればまだまだ殻を付けているヒヨコ同然だ。
そしてアスカは自分の血を引いた子を産むことができるフレイル。
長年の夢の1つを叶えることができる大切な存在だ。
過保護に扱っても足りないくらいの存在だ。
ビッグ・マムの命令はアスカ達からしたら都合がよく、アムラスはその指示に従いアスカの傍に向かう。


「何があったの?」

「どうやら両軍の思惑は失敗したようだね…でも、銃声はルフィ君たちに届いているはずだ…もうすぐ彼らが来てくれるさ…それまで動かないで」


同じく視界を奪われているはずなのにアムラスははっきり何が起こったのか分かるようだった。
それは種族的なものなのか、それとも慣れか。
とはいえ、ビッグ・マム側の作戦も、ルフィ側の作戦も、上手く事が進まなかったのは間違いではなかったらしい。
とりあえず、状況がどうであれ銃声はルフィ達に届いているはずなので後はアスカとアムラスは彼らが現れるのを待つだけとなる。
――――するとついにその時は来た。


「ビッグ・マム〜〜!!!」


ウエディングケーキが震えたと思えば中から無数のルフィが現れた。
ケーキを破壊しながら現れた無数の麦わらのルフィにビッグ・マム含むその場にいる全員が驚愕する。

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