(64 / 293) ラビットガール (64)

アスカは進水式を終えた後、ローグタウンも遠ざかり一通り危機を脱した。
アスカは進水式の時から感じていた寒気と頭の痛みが強くなり、こめかみ辺りを押さえてとりあえず痛み止めの薬を飲もうと中に入ろうとした。
それを視界の端に収めたナミが首を傾げて振り返る。


「アスカ?どうしたの?」

「ちょっと、頭痛いから…薬飲んでくる…」


頭を押さえるアスカをナミは心配そうに見つめ、歩み寄る。
頭が痛いという他にも寒気がするというアスカにナミはアスカの額に手を当てると少し熱っぽく感じた。


「ちょっと熱あるじゃない…これ風邪ひいてるわね…もう暖かくして寝なさい」

「うん…でもちょっと雨に当たりすぎたんだと思うから心配しないで…」

「馬鹿ね…心配しないわけないじゃない…出来れば眠る前に冷たくなった体を温めたいからお風呂に入れたいんだけど……私は今手が離せないからなァ…」


雨が降っているから確かではないが風邪のような症状、そして顔も少し赤く見え、ナミは暖かくして寝るよう言い聞かせた。
しかし今ナミが抜けてしまえばこの船は遭難率100%。
手が離せず、しかしアスカと同性はこの船に自分しかいない状態である。
仕方なくお風呂は諦めてあとで入れるとして、ナミはサンジに体が温まる飲み物でも作ってもらおうとした。
しかしサンジを呼ぼうと、サンジへ振り返ったその時…


「じゃあ…ルフィに頼む…」

「……は?」


ナミはアスカとナミのためなら火の中水の中海の中そして戦場の中なサンジを呼ぼうと口を開けた。
しかし、アスカの言葉に口を開けたままでアスカに体を戻しアスカを凝視する。
頭もぼうっとしているのか、そんなナミにも気づかずアスカは覚束ない足でゆっくりとルフィへ近づき、ルフィの服をちょこんと摘まみ、そして―――


「ルフィ…一緒にお風呂入って」


爆弾を落としていった。
アスカの言葉にナミを含めルフィ以外の全員がシンと静まり返っていたのだが、それも気づかないアスカに、鈍感でもあるルフィも気づかずアスカの言葉に怪訝と首を傾げる。


「風呂ォ?なんでだ?」

「ナミがお風呂入れって…」

「ふーん…いいぞ!」

「「「ちょっと待てーーーっ!!!」」」


ルフィの服をちょこんと摘まむアスカは可愛い。
元気のなさげな姿もまた可愛い。
この船の中でそう思えるのはアスカを目に入れても痛くないナミと、女なら誰でも骨抜きなサンジのみだった。
しかし今はそんな説明をしている暇はなく、ルフィは能力者の性質や野生児から週に一度しかお風呂に入らないタイプである。
たまに我慢できなくなったアスカが一緒に入ったりルフィの服を脱がしてお風呂場に放り込み見張りの長身ウサギ二匹を立たせて強制的にお風呂には入ってはいるが、あまりお風呂は好きではない。
だから素直に頷くことはできなかったが、主語を通り越したアスカの説明にナミの命令なら仕方ねェかと頷き、自分の服をちょこんと摘まんでいるアスカの手を取り船内へと入ろうとした。
そこをすかさずナミ達が待ったをかける。
船内の入り口に近い場所に立っていたナミがドアの前に立ちふさがり、後ろからウソップとゾロがルフィの肩に手を置いてルフィを止め、その隙にサンジがアスカをルフィから助け出す。
アスカは大人しくサンジの腕に抱かれており、ルフィはみんなに止められ怪訝とナミ達を見渡した。


「なんだよ一体!」

「それはこっちのセリフだ!!」

「お前なに普通にアスカちゃんと入浴しようとしてんだよ!!クソ羨まし―――」

「……サンジくん?」

「―――くはなくて最低だなお前!!」

「そうよ!最低よルフィ!!あんた何アスカと一緒に入る気満々なわけ!?この変態!スケベ!!」


アスカがお風呂に入りたいというから一緒に入るだけなのにみんなして止めに入りナミからは変態呼ばわりされ、ルフィはむすっとさせる。


「なんでおれが怒られるんだ?アスカが一緒に入ろうって言ってきたんじゃねェか!」

「だからってそれを受け入れるお前もお前だろ…ルフィ、いいか?こう見えてもアスカは女なんだぞ?おれも流石に女とは入らねェぞ」

「こう見えては余計だけどゾロの言う通りよ!」

「だからそれがなにがいけねェんだって言ってんだ!大体風呂なんか昔から一緒に入ってたぞ!!」

「それって小さい頃って事だろ?」

「いや、今もだけど?」

「「「…………何ィィ!?」」」


ゾロから見て、アスカは女として見ていなかった。
むしろナミもである。
この船に乗っている女性陣はゾロから見ても男前すぎて女には見えなかった。
女らしくはないというわけではないが、そんなゾロでもアスカの性別が女であるのは知っており、いくらルフィの次に鈍感王であるゾロでも女と一緒にお風呂に入るという常識は非常識だと知っている。
しかし幼い頃から山賊と共に暮らしエースも含め平気で三人で入っていたルフィとアスカからしたらどうしてここまで反対されなければならないのかが分からずルフィは首を傾げるばかりだった。
ただエースはルフィよりかは常識があるため、もしもここにいれば『確かになァ』と頷くだろう。
だがルフィはルフィである。
ウソップの言葉に真の鈍感王であらせられるルフィは首を傾げて爆弾発言をかました。
その王の言葉にまたしても全員が声を上げ驚いた。


「今もって…もしかしてここに来る間も!?」

「おう!おれ、別に毎日洗わなくても平気なんだけどよ、アスカに無理矢理入れられるんだ!」

「えっ…ちょっと、待て……ルフィ…お前…もしかしてアスカちゃんの玉のお肌に触れてたりしたりするのか…?」

「おう!洗いっこするぞ!」

「おう!じゃねェ!!てめェ…ルフィ!!なに羨ましい事してんだ!!そんときはおれも呼べよ!!おれもアスカちゃんの水をも弾く麗しいお肌が傷つかないよう優しく手で洗ってさしあげたい!!そして泡だらけのその可愛らしい小さな体でおれの体を…―――」

「さーんーじーくーーん?」

「―――ハッ!い、いや!あの…ナミさん!!これは違うんだ!!これは―――ヒギャアアア!!!」


今も…というのはやっと手に入れたメリー号のお風呂ででも、という意味だろう。
先ほども言ったがルフィは一週間に一度のお風呂で十分だが、あまりにもサボりすぎるとアスカに強制的に入れられてしまうのだ。
その際洗いっこは昔からしてるためそれを恥ずかしげもなく暴露するルフィにサンジは本気で悔しんだ。
某風俗嬢のようなものまで妄想しはじめるサンジの目の前に鬼が現れ、サンジは殺気に我に返ったが、もう時すでに遅かった。
サンジはボッコボコにされ倒れ、そして…


「アスカ!?」


アスカもサンジの支えがなくなり気を失うように倒れてしまった。

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