アスカは完全に風邪を引いていた。
あんな大雨を露出した服装で浴びていたのだから当たり前と言えば当たり前である。
気を失うように眠っていたようで、気づいたら女部屋にベッドで寝かされていた。
「ぱじゃま…」
起き上がるとまだ体がダルくてポトリと膝の上に額に乗せられていたタオルが落ちる。
そのタオルを持ち上げるとタオルはアスカから細菌を追い払おうとして体内の体温を上げる熱で暖かくなっており、ちょっと気もち悪さを感じる。
タオルを持ち上げる手も重りのように重い。
だが重さに違和感を感じるより、タオルの生暖かさに気持ち悪がるよりも何よりも…アスカはいつもの服ではなくパジャマに着替えさせられているのに気付きぞっと背筋を凍らせた。
(…もしかして…背中、見られた…?ッ、どう、しよう…どうしよう…っ本当に見られてたら…私が奴隷だって気づかれたら…どうしよう…っ)
アスカには秘密がある。
それも誰にも…仲間にも知られたくない秘密が。
天竜人の奴隷の証を、アスカはナミ達には死んでも見られたくはなかった。
しかしまだ熱があるそのぼんやりした働かない頭でアスカは不意にルフィの顔を思い浮かべた。
(だ、大丈夫…そう…大丈夫…だってあの時ルフィがいたんだもの…ルフィが着替えさせたに違いない…だから……だから…大丈夫…落ち着け…)
この船にはアスカの秘密を知っているルフィがいる。
ルフィはアスカがどうしてもこの背中の紋章を見られたくないと知っているから何とかナミ達を説得してルフィが着替えさせてくれたのだと言い聞かせた。
まだ不安は収まらないが、ルフィが着替えさせたと思えば多少はマシになる。
アスカは何とか落ち着き、誰もいない事に疑問を持ち夜なのかと思ってカーテンへ目を向けた。
しかしカーテンから零れる光で夜ではないと知り、アスカは人の気配がない事に首を傾げ、ベッドから降りて椅子に掛けてあったナミの上着を拝借し外へと出た。
足も鉛のように重くゆっくりで壁に沿ってでしかしっかり歩けないが、甲板に続く扉を開ければ手すりに全員が集まっていた。
「な、なにしてるの…?」
全員アスカに背を向けてどこかを見ており、アスカは扉に手を置いたままナミ達に声をかけた。
アスカの声に目を覚ましたことに気づき、みんなアスカに振り返る。
「アスカ!?目が覚めたのね…!」
「アスカちゃん!?起きて大丈夫なのか!?」
「うん…まだダルいけど…大丈夫…」
アスカが起きたことに驚いたナミは誰よりも駆けつけ、サンジもその後を追う。
内心背中を見られたのではないかと怖かったアスカは気まずい空気が流れるでもなく、いつも通りの彼らに多少安堵した。
大丈夫と言いつつも足元がふらついているアスカにナミもサンジも部屋に戻そうとした。
しかし、そんなアスカ達の前に大きなイカが海から出てきた。
「「大王イカだーーっ!!!」」
そのイカの登場に一般人と断言しているナミとウソップが顔を青ざめ逃げるように飛び退いた。
大王イカの襲撃にサンジとゾロが構え、アスカも逃げることなくいつでも能力を出せるよう構える。
だが、今にも襲い掛かろうとしている大王イカの背後から銛が貫き、大王イカは絶命した。
ゾロとサンジとアスカは警戒心を解くことなく構えをそのままに目の前にある、"島"を睨む。
ここで初めてアスカは島がある事に気づいた。
「人はいるみてェだな…」
「"人"だといいな…」
熱でぼやける意識を必死に保ちながらアスカは2人の会話をただ聞いていた。
島の家らしきものから人影が現れ、人影に気づいたアスカ達はじっと目を凝らして家を見る。
「!――花だ!」
「花!?」
人影だと思ったその正体は、花だった。
…というのもまた見間違いで、本当は花のような髪を持った人だった。
その人は若くはなく、おじいちゃんと括られる年齢だろう。
しかし腕力はあるようで、仕留めた大王イカに刺さっている銛の縄を引っ張り、大王イカを引き寄せていた。
ある程度島に引き寄せたらその人はギロリとアスカ達のいる船を睨みながら言えの傍にあるビーチチェアに向かって歩き出し、そして…結局何も言わずビーチチェアに座り何故か新聞を読み始めた。
こちらを睨んでいたため何か言うのではとアスカ達は何も言わずにいたのに、何も言わず新聞を読み始め、サンジが思わず『何か言えよてめェ!』と怒鳴ってしまう。
「や、戦るなら戦るぞコノ野郎!こ、こっちには大砲があるんだからな!」
その人はサンジの怒鳴りに新聞から目を放しこちらを見た。
相変わらずその鋭い睨みはそのままに、ウソップは威嚇売るように声を張り上げるも、腰が引けてラウンジまで後退させていう物だから恰好がつかなかった。
アスカはウソップを振り返った後その男へ体を戻し、手すりに歩み寄ってダルい体を支える。
「…やめておけ……死人が出るぞ」
「!、へェ…誰が死ぬって?」
やっと喋ったかと思えば、その言葉にサンジ達の空気は更に緊迫となり、売り言葉に買い言葉とサンジが気を許さんばかりに笑って見せる。
何だかあの男から放たれる空気が気を許せば即やられる気がしたのだ。
サンジの言葉に男は…
「
私だ」
「
お前かよ!!」
男の言葉にサンジは突っ込んでしまう。
思いっきり間を置きながらのボケ(?)に怒り心頭なサンジは今にも男に襲い掛かろうとしていた。
そんなサンジに幾分か冷静なゾロが『まあ熱くなるな』と肩を叩いて冷静にさせようとし、そしてついでにサンジを押しのけ前に出て今度はゾロが質問した。
「おい、じいさん…教えてくれあんたは一体誰でここはどこだ?」
「……人に質問する時はまず自分から名乗るのが礼儀ってもんじゃないのか?」
鋭い睨みをサンジに向けていた男だったが、その睨みをそのままゾロに向ける。
ゾロは男の言葉にもっともだと肩を竦める。
「あぁ?まァ、そりゃそうだった…おれの名はロロノ…」
「私の名はクロッカス。双子岬の灯台守をやっている。歳は71才。ふたご座のAB型だ」
「〜〜ッあいつ斬っていいか!?」
「まァ落ち着け」
言われたから名乗ろうとしたゾロなのに、そんなゾロの自己紹介を遮り男が名乗り始めた。
しかも名前だけでなく歳や星座・血液型まで細々とした紹介を。
それには冷静さを保っていたゾロもキレかかり、腰に差している刀を抜こうとする。
そんなゾロに今度はサンジが宥めた。
男はコントのようなやりとりをした後、小さなため息をした後新聞を捲る。
「ここがどこかだと?お前らよくも私のワンマンリゾートに入り込んでそんなでかい口がたたけるもんだな…ここがネズミの腹の中に見えるか?」
「や、やっぱりクジラに食われたんだ…!!ここはクジラの胃の中かァ!?」
「ちょっと待ってよ!私達!消化されるなんていやよ!」
傍観を始めてアスカはここが生き物の中だと知る。
どうやらアスカが熱にうなされ寝ていた時、リヴァースマウンテンという山を登りグランドラインへ入ろうとしたのだが、それを阻むようにこの胃の持ち主である大きなクジラと一悶着ありルフィを除いた全員が船ごと食べられたようである。
周りは空を描かれよく見れば色が違えど海のようなものありアスカは勘違いしていたらしい。
しかしここが胃の中だと知ったアスカだったが、何とか逃げ出したいと思い今度はアスカがクロッカスと名乗った男に手を上げて質問した。
「すみませーん、出口とかないんですかー?」
「おいおい!アスカ!!お前何言ってんだよ!ここはクジラの腹ん中だぞ!!」
「そうよ!あんたは寝てて知らないだろうけど私達クジラに食べられたの!腹の中に出口なんてあるわけ…」
「
出口ならあそこだ」
「「
出られんのかよ!!」」
質問内容にウソップとナミは出口なんてあるわけがないと言い張る。
しかし言ってみるもので、クロッカスは睨みつけるのが飽きたのか案外あっさりと出口を教えてくれた。
生き物に出口がある事自体おかしなことだが、そんな事突っ込む事で一瞬忘れてしまう。
すると突然大きな揺れを感じた。
「アスカちゃん!大丈夫かい!?」
「うん、痛いけどなんとか…」
大きな揺れでもナミやウソップは手すりにつかまったり力を入れれば踏みとどまる事が出来る程度の強さだったが、風邪で体力がない今のアスカは尻もちをついてしまう。
サンジとゾロは言わずとも立って居られており、女に甘いサンジは尻もちをついてしまったアスカに慌てて駆け寄り手を差し出して立たせてやる。
もう倒れないようアスカの薄い肩を抱いてやりながらウソップにこの揺れの原因を問われたクロッカスを見た。
クロッカスは揺れを感じながらいつもの事だと言わんばかりに立っていられており、ウソップの問いにこちらを見る。
「このクジラが"レッドライン"に頭をぶつけ始めたのだ」
クロッカスの言葉にアスカ以外の全員が、あのクジラの頭の傷を思い出した。
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