ビッグ・マムの恩人、マザー・カルメルの写真が入っている写真立ては無事に壊す事が出来た。
ジンベエに気を向けていた隙にルフィの顔に扮して紛れていたブルックがカナヅチで壊したのだ。
だが―――
「あれ…叫ばない…」
「色々続けざまに起こって混乱しているんだろう…でもいずれ気づくだろうね」
ビッグ・マムは呆然と立ち尽くすだけで叫ばない。
ブルックが写真立てを壊したのを見てアスカは耳を塞いだが、一向に叫ばないビッグ・マムに耳から手を離して首を傾げたがアムラスの言葉に納得する。
「船長は抑えた」
「よし!殺せ!!」
ベッジがルフィを捕まえた。
ベッジは同盟を結んだものの、一応まだ裏切ったなど気づかれておらず、警備を担っている立場なためジッとしていると逆に怪しまれるとルフィを捕まえた。
アスカはそこまでは理解できたが、殺すよう命じられたのを見てルフィの下へ行こうと走り出した。
しかし、それをアムラスが手を握る力を強くして阻む。
思わずアスカはアムラスを振り向く。
「放して!」
「駄目だ…まだ安全じゃない」
「ここは敵陣よ!!そんな場所に安全な場所なんてない!!これだけ混乱しているんだからもういいでしょ!!」
「海楼石で封じられている君が混乱の中に入ればすぐに怪我をしてしまう…いいから、君は僕といるんだ」
「私が本当にフレイルならあっちだって攻撃してこないでしょ!!ルフィを庇うくらいできるわ!」
「駄目だ!!君が怪我をすると分かっていて手を離すわけにはいかない!!」
グッと力がまた増した。
その痛みにアスカは眉を顰めたが、何よりもアムラスの言葉に腹を立てた。
腹を立てたアスカは掴まれていない方の手でアムラスの目元を隠すベールをはぎ取って捨てた。
アスカは初めてアムアスの素顔を見た。
まるで彼の整った容姿のために存在しているような美しいエメラルドの瞳をキッと睨む。
「見なさい!!私はヒビキじゃない!!!あんたがその人に対してどういう感情を持っているか知らないけど私を通してその人を見ないで!!!」
「…………」
アムラスの先ほどの言葉。
その言葉はアスカではなく、ヒビキという友人に向けた言葉だとアスカは気づく。
アムラスがヒビキという人間にどういう感情を持ち、どういう別れ方をしたかは興味はないが自分を通して他人を見られるのは気分が悪い。
「なら条件がある」
「は?条件?」
「僕と一緒にシャンクスの船に乗りなさい」
「――!」
「それが手を離す条件だ」
言葉を失うというのはこういう事を言うのだろうか。
アスカはなぜここで父の名が出て来るのか分からなかった。
父とこの男の関係がどこまで親しいのか分からないが、知り合いなのは一方的だがアムラスから聞いている。
だが、なぜここで父の名が出て、そしてアスカもアムラスと共にシャンクスの船に乗らなければならないのか分からなかった。
返す言葉を探しているアスカに、アムラスは緑色に輝く目で真っ直ぐ見つめながら続ける。
「麦わら海賊団は君が乗るのに安全とは到底思えない…シャンクスの方が君を守るのに都合がいい」
「あんた、ふざけてんの?それで『はいそうですか』と言えるわけないでしょ…パパには会うけど…でも、それはあんたと一緒に会いに行くんじゃない!守られに行くんじゃない!ルフィと一緒にパパに会うのよ!!私はそれを目標としてここまで来たしルフィについて来たわ!!私は私の船長を信じてここまで来た!!!例えパパでも私は船を乗り換える気はないわ!!!」
「乗り換えるのではない…君は宝箱だ…宝箱が船から船に渡るだけで乗り換えるわけではない」
「同じだわ!勝手に物として扱わないで!!私は人間よ!!!物じゃない!!」
「違う!君は気づいていないけど君という存在は君自身思っているほど軽くないんだ!!」
「軽い重いなんて関係ないわよ!!!私は私だわ!!!それ以外でもそれ以上でもない!!!勝手に他人と重ねて見ないで!!!」
「違うんだ!!確かにヒビキと君を重ねてしまっている部分はあるけど君は!!……君は…」
何度言っても、どんな言い訳をされてもアスカはヒビキという人間を重ねて見ているようにしか見えないし聞こえない。
だが、アムラスはそれを否定する。
確かに、ヒビキとアスカを重ねてしまってはいる。
だが、そうではないのだ。
そう伝えたいのに上手く言葉が出ない。
どう伝えるべきか考えていると―――2人は強い衝撃に襲われる。
「ッ―――な、なに…!?」
「写真を壊されたとリンリンが気づいたようだね」
会場の混乱とは別にヒートアップしていたアスカは肌に何かを叩きつけられるような衝撃に我に返り辺りを見渡す。
周りにいる敵味方全員がその衝撃に気を失っているか、耳を塞ぎ衝撃に耐えているかのどちらかの反応を見せていた。
アスカは突然のことに困惑し、耳を塞いで倒れているルフィへ駆け寄ろうとした。
しかし、やはりそれをアムラスが手を離さず許してはくれなかった。
先程口論していたのもあり、アスカはアムラスの手を振り払おうとするが、男性にしては華奢な体でどこから出ているのか分からない強い力でそれを拒まれる。
「いい加減にして!!」
「…………」
力はアムラスの方が上。
いくら振り払おうがアムラスがその気でないのなら振り払うのは不可能だ。
だが、ルフィが苦しそうに転がる姿を見てただ傍観者でいるのは嫌だった。
「もうすぐシーザー君が来る…それまで待ちなさい」
アスカ達がゴタゴタしている内に、暗殺は失敗に終わってしまった。
膝をついたビッグ・マムは膝にかすり傷を負い、少量ではあるが血を流した。
暗殺するならば今が好機と思い部下と共にベッジがミサイルを放ったが、覇気によって向けられたミサイルを全て爆発させる。
「作戦失敗だァ!!!」
ベッジは全てのミサイルが爆発したのを見た瞬間、叫ぶ。
隠れていたシーザーが作戦失敗の光景を見て慌てて飛んで現れ、ベッジは耳栓をして聞こえていないルフィ達に手で『全員鏡へ!』と指示をした。
「アスカ!!逃げるぞ!!」
「!――ルフィ!!」
ベッジの指示に全員が一斉にブリュレを背負っている変装している(と思っている)シーザーの持つ鏡へ向かって走った。
そしてルフィはアスカへ手を伸ばし―――アスカはその手を取るために駆ける。
「……………」
アムラスはその手を離し、アスカの背中を見送った。
一瞬、その背中が誰かの……ヒビキの背中と重なり、アムラスは湧き上がる感情に耐えるように強く目を瞑る。
アスカはルフィの下へ行きたい一心でアムラスが手を離した事に気づかず、ルフィの手を取る。
アスカの手を強く握ったルフィはそのまま鏡へ向かうが…―――鏡が"風圧"によって割れた。
(((え〜〜〜〜!!?マ、マズイ!ここは屋上!!他に…逃げ場はない!!)))
まさかビッグ・マムの圧で鏡が粉々になって割れるとは思わず、全員絶句する。
結婚式場はホールケーキ城の屋上。
脱出するための鏡は割れてしまう。
逃げ場はなく―――勝ち目もない。
脱出するために全員鏡に向かっていたせいか、敵としては一つに固まってくれて狙いやすくなった。
敵もルフィ達のようにカタクリの能力で作った餅で耳栓をしたため、母親の奇声は効かない。
それぞれ得意の武器を持ちカタクリ達がこちらに向かってきていた。
「―――」
アスカは振り向くと、こちらを鋭い視線で見つめるカタクリと目が合う。
アスカはカタクリの事はそれほど嫌いではなかった。
例えそれが秘密を利用してアスカを懐柔させるための彼の作戦だとしても、情を持ってしまった。
だが、だからと言ってアスカはカタクリの手にはもう戻る気はない。
思わずルフィと繋ぐ手を強くすると、ベッジが能力を発動させた。
「
城 イン・フォラ・グレーセ!!」
能力を発動させたベッジ自身が城へと姿を変えた。
ビッグ・マムよりも大きな城へ姿を変えたベッジは入り口を開ける。
「ひとまず城の中へ入れーー!!」
逃げる事はすぐには無理だと判断したベッジは自身を能力で城に変え、籠城をし時間を稼ごうとした。
まだ耳栓をしているルフィ達には声は届かないが、ベッジのしようとしていることは伝わった。
ルフィ達は開けられたベッジの城の中へ駆け寄ろうとした。
しかし―――
「わっ!」
「!―――アスカ!!!」
ルフィに手を引かれる形で城に入ろうとしたアスカの腰にモチの手が掴みかかり、強く後ろへ引き寄せられる。
その強さにアスカは思わずルフィの手を放してしまった。
ルフィが振り返るとカタクリが妹であるブリュレと共にアスカを奪還しているのが見えた。
カバンに入っていたブリュレはすぐに放したものの、逃亡を図ったせいかアスカはカタクリに腕を掴まれたまま。
「ルフィ!!」
「アスカ!!」
アスカはまだ海楼石がはめられている。
とはいえ、アスカとカタクリの実力では、海楼石がはめられていなくても抵抗らしい抵抗はできなかっただろう。
カタクリは空いた手でジェリービーンズをまるで銃弾のように弾き、ベッジの部下へと向けた。
カタクリのジェリービーンズを受け、ベッジの部下達は血を出しながら倒れる。
そして、1つのジェリービーンズがある人物へと向けられた。
「………」
「………」
それはルフィだった。
ベッジの部下へ向けたジェリービーンズの一粒が"偶然"ルフィへ向かって撃たれ、ルフィは頬をかすめた。
ルフィとカタクリはお互い睨み合うが、そうしている間にもダイフクやオーブンやスムージーがルフィ達の後ろに続いていたナミ達を捕まえていく。
「こいつはママが望んだ子供が産めるフレイルだ…逃げ出さないよう部屋に閉じ込め見張っておけ」
「は、はい!」
ルフィを睨みながらカタクリは傍にいた配下にアスカを渡す。
アムラスの方を見れば、アムラスは動いておらずルフィ達と結託しているわけではないと判断した。
報告では、ルフィ達は拷問の末死んだと聞いていたのでルフィがケーキから現れたのはカタクリを含めて兄弟達も驚いた。
気を使ってアスカにはルフィ達の死を伝えなかったが、アスカの様子から元々この作戦を知っていると見ていいだろう。
仲間が来たのだからアスカが逃げ出さない理由はない。
だが、アスカは義父と異なり子供を産むことができるフレイルだ。
そのフレイルは母であるビッグ・マムが長年追い続けてきた夢でもある。
ここで逃がすわけにはいかないとカタクリは判断した。
だが、そこに私情があることは見て見ぬふりをする。
アスカを配下に渡そうとしたとき―――アスカが箱に変わった。
「な――――」
コロンと落ちる寸前にテレポートのように現れた義父であるアムラスがアスカの入った箱を受け取る。
呆気にとられたが、カタクリが『何をする』と言いかけた時――アムラスの手がカタクリに触れた。
その瞬間、巨体を持つカタクリが箱に仕舞われ、地面にコロンと落ちた。
「と、義父さん!?」
「何をしているんだ!!義父さん!!!」
解放されたジェルマによってスムージー達は捕まえていたナミ達を逃がしてしまった。
そして、続けてアムラスの行動。
アムラスを信用していたのもあるのかビッグ・マム達の子供達はアムラスがカタクリを能力を使って箱に仕舞いこんだ行動に驚きが隠せない。
だが、それを利用するようにアムラスはスムージー、ダイフク、オーブンなどの主戦力になるであろう子供達を箱に仕舞い始める。
地面には兄や姉達が箱に変わり地面に転がるのを見て兄弟達は動揺が走った。
「悪いね、少し時間を稼がせてもらうよ――――今のうちに城へ!!彼らの実力ではすぐに箱を自ら壊して出てくる!!」
そう言ってアムラスは箱を放置し、城へ向かう。
アムラスの声掛けに呆気に取られていたナミ達も我に返りベッジの中へ急いだ。
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