ベッジの能力、
大頭目の中に逃げられたビッグ・マムの子供達は箱に仕舞われた戦力となる兄弟達が出てくるのをただただ待っていた。
義父の能力は知っている。
箱の効果は何種類もあり、先ほど破壊しようとしても破壊できないところを見ると、中にいる兄や姉達が自ら壊すしか方法のない頑丈な箱だと分かる。
おかげでアムラスの思惑通り時間は稼げており、中にいるルフィ達は一息ついていた。
「すげーなベッジ!こんなデケェ城になれるなんて!!」
巨大ロボなど男の子が好むものには大喜びするルフィやチョッパーの大喜びの声にベッジは声を荒げる。
「喜んでる場合か!!状況を考えろ!!クソ…!俺達が1年以上かけた『暗殺作戦』は失敗に終わった…!!暗殺にしくじったのは初めての経験だぜ…」
アムラスのおかげで時間は稼げるとはいえ、そうのんびりと構えてられない。
この城はベッジ本人だ。
城が破壊されればそれはベッジの死になり、城は消える。
そうするとルフィ達は外に放りだされ、待ち構えているビッグ・マム達に殺される…ということになる。
逃げるために必要な鏡は粉々になり、ミラミラの実を食べたブリュレは敵の手に戻ってしまった。
結局何も解決していないのだ。
「そうだ!オムライス!」
「アムラスだよ、ルフィ君」
「そうか!オムライス!」
「だから………………もうそれでいいよ…それで、なんだい?」
「アスカを助けてくれてありがとうな!」
ルフィは基本人の名前を覚える気はない。
わざとか天然かは分からないが、音が似ているアムラスという名は突然オムライスという美味しそうな名前に変えられてしまった。
名前にそれほどこだわりはないアムラスは訂正を諦め『アスカを出してくれ』と箱にいるであろうアスカを出してもらうよう求めた。
「僕はね、ルフィ君」
「?」
「この子を守るのに君達は値しないと思っているんだ」
「…………」
アムラスはアスカを出してもらうよう頼むルフィの瞳を見つめながら、本音を告げる。
その本音によって一瞬にしてその場の空気が一変し、ピリついた。
それを肌で感じながらもアムラスは続ける。
「君達はこの子の価値を知らない…君達が強いのは知っているけれど…今のリンリン相手にここまで苦戦していてはこの子を預ける気にも起きない」
「アスカの価値ってなんだ…アスカはアスカだ…例えアスカがどこの誰だろうとおれ達にとってアスカは仲間には変わらない…アスカの価値はアスカが決める…お前じゃねェ」
「………そうだね…そうか………そう…それが君達なんだね」
どこを納得しているのか分からないが、暫くルフィを見つめていたアムラスだったが、手の中にある箱を放り投げる。
すると、独りでに蓋が開けられ箱からアスカが出された。
「アスカ!!」
「アスカ〜〜っ!!」
鏡で合流して以来の仲間の姿に、ナミとチョッパーが飛びつく勢いでアスカを抱きしめる。
その傍でアムラスとルフィは睨み合うようにお互いを見つめていた。
その雰囲気を箱から出たばかりのアスカも察しており、アスカはルフィ達と合流する前に交わしたアムラスとの会話を思い出す。
「ルフィ君…アスカ君…すまなかった…過保護にしすぎてしまったようだ」
一触即発、と言わんばかりにピリついた空気に傍観していたベッジは頭を抱えそうになったが、相手がルフィだと思えば納得するしかない。
やはり噂通りイカれた連中だと思いながら、騒動が終息したと見て取ったベッジはどうするかとルフィ達に話しかけようとしたとき―――体に痛みが走った。
「ぐあァ!!」
「!!?」
ベッジはその痛みに耐えきれず、声を上げ、口からは吐血が飛び散った。
立っていられず床に倒れるとルフィとシフォンが駆け寄る。
「おいベッジ!どうした!急に!!」
「あんた大丈夫!?」
「ッ――外だ!!」
突然吐血を吐き、倒れたベッジは苦しそうに外を指さす。
その言葉に外を見ようとしたとき―――
「全員城から出て来い!!」
「ビッグ・マムが正気に戻りやがった…!!」
錯乱していたビッグ・マムが正気を取り戻してしまった。
恐らく、アムラスが箱に変えた子供達も今頃全員箱から脱出しているだろう。
「顔を出せお前らァ!!」
能力で城になっているベッジを攻撃するビッグ・マム。
その力をもってしても城は破壊されないほど頑丈ではあるが、無傷というわけではない。
城はベッジ自身だ。
城に攻撃すれば、そのダメージは全てベッジ自身に降りかかる。
ビッグ・マムの攻撃にベッジは激痛に叫ぶ。
「待ってママ!!アタシよ!!」
夫の苦しむ姿に見ていられなかったシフォンは思わず窓から顔を出して母を止めようとした。
「ベッジはアタシの夫!子供もいる!どうか許して見逃して!!」
母にとって孫であるペッツを出して見逃してもらおうとした。
それを見たアムラスが『あ、駄目だ』と呟きシフォンの下へと向かう。
顔を出した娘にビッグ・マムは表情を和らげるのではなく…顔を険しくさせる。
「シフォン…!相変わらず『ローラ』にそっくり…そのツラ見せんなって…!言っただろうがァ!!!」
シフォンの行動は裏目に出てしまった。
ローラは巨人との和解の切っ掛けを奪った。
それは例え腹を痛めて産んだ娘とはいえ、殺しても殺し足りないくらい怒りの対象となる。
その顔がそっくりな双子の片割れも例外ではなく、シフォンはあれ以来ビッグ・マムから虐待ともいえる暴力を受けて来た。
それでもシフォンは家族という想いを賭けて顔を出した。
しかし、結果はビッグ・マムの怒りを更に買うという最悪な結果となり、シフォンは涙があふれる。
ビッグ・マムは怒りを拳に乗せるように城を殴ろうとした。
それを阻むものがいた。
ビッグ・マムの拳は海水の壁によって吸収されてしまう。
「てめェ…!アムラス!!!」
城を守る様に周囲に海水の膜が張られた。
そんな芸当ができるのはビッグ・マムが知る中でも2人。
しかし1人は現在行方が分からない。(探す気も起きない)
ならば、1人しか思い浮かない。
窓を見れば、シフォンを庇うように夫であるアムラスが立っていた。
怒りの声で叫べば、アムラスは表情一つ変えずただ妻だった女を見下ろしていた。
「感情に任せて手を上げるのは君の悪い癖だよ、リンリン」
「アムラス…てめェ…おれから逃げる気か!?逃げられるとでも思ってんのか!!!お前はもうおれのモンだろうが!!!アスカ共々戻ってきやがれ!!」
アムラスは度々シフォンや子供達に手を上げるビッグ・マムを諫めてきた。
ビッグ・マムは夫の言葉を聞き昔ほど子供に手を上げることはなくなった。
それは全て夫の言葉だからだ。
だが、その夫は今、裏切ってルーキーと共に自分から逃げようとしている。
それはビッグ・マムにとって腸が煮え返る思いだった。
殴ってベッジの城を破壊し、アスカとアムラスを奪還したいが、そのアムラスが張った海水の膜が邪魔をして100%の力が出ない。
それもまた腹立たしい。
「――――」
「そうだね、もうここには用はなくなったし…いいよ、適当に遊んであげなさい」
ビッグ・マムの言葉に返さず、アムラスは誰にでも言うでもなくそう呟く。
するとその言葉に反応したように海水の膜から水鉄砲のようなものが放たれたり、頭上から氷の刃が降ってきたりとビッグ・マム達を攻撃していく。
勿論、味方は全員ベッジの城の中だ。
「大丈夫かい、ベッジ君…」
「くそ…!あのババア!!大砲くらいならビクともしねェ『大頭目』の暴力が全く通じねェ!!」
床に倒れるベッジにシフォンと共に駆け寄り、声をかける。
顔を上げた彼の頭からはビッグ・マムの攻撃で受けた傷から血が垂れていた。
痛々しい夫の姿と、母から完全に敵視されたシフォンは顔がぐちゃぐちゃになるほど泣いていた。
そんなシフォンを慰めながらアムラスはルフィ達を見る。
「さて、どうする?」
アムラスは焦りを見せていない。
それは自分の身が安全だからではなく、ルフィ達との経験の差だろう。
応戦するのならそれなりの動きがある。
それを彼ら若い者達に任せるつもりだった。
見た目は青年ではあるが、実年齢は巨人族よりも長い。
ならば、年寄が出張っては若い者の成長を促すことはできないと身を引くつもりだった。
「やっぱ外出てぶっ飛ばしてくる!!」
「ダメよルフィ!チョッパー止めて!!」
アムラスの言葉に、ルフィが真っ先に城から出てビッグ・マムと対峙しようと走り出した。
それをナミがチョッパーに捕まえてもらい、ルフィの暴走を止めた。
アスカはナミにシュラハテンを返してもらいながらただ傍観するしかない。
「私達はサンジ君を連れ戻すためにここへ来たんでしょ!応戦するヒマがあったら脱出する策を考えるの!戦うつもりならゾロ達も連れて全員で来てた!そうでしょ!?」
当初の目的は達成された。
サンジを連れ戻し、サンジの家族も救い、ポーネグリフの写しもブルックが手に入れてくれた。
正直もうここにいる理由がない。
ビッグ・マムの本拠地には少人数だからこそ侵入できたのもあり、戦力としては心もとない。
それに、はっきりアスカを守るのに値しないと面と向かって言った敵か味方か分からないアムラスという不安要素をこちらは抱えているのだ。
ビッグ・マムを相手に戦うには色々と欠け過ぎている。
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