ルフィ達は急いでサニー号へ向かっていた。
「みんな急いで!すぐに追手が来るわよ!!」
「お前ジンベエに乗ってるだけで偉そうに言うなよ!」
「いいんだナミさんはカワイイんだから!」
ジンベエに乗っているナミの言葉に、ルフィは思わず突っ込んでしまう。
サンジも加わり、キャロットは笑ったが、アムラスもそのコントのようなやり取りに思わずクスリと笑ってしまう。
「賑やかだね」
走りながら賑やかなルフィ達にアムラスは思わずそう呟いた。
脳裏には昔、海賊王となった男の船に乗っていた頃の記憶が過る。
あの船も賑やかで、毎日楽しかった。
妹もあの船に乗っている時はよく笑っていたのを思い出す。
(ああ…駄目だな…あの子に会ってから調子が狂っている…もう彼らはいないっていうのに…)
あの子、とはアスカだ。
ヒビキという古い友人とアスカを重ねてしまってからアムラスは調子が狂っていることに危機感を覚える。
アムラスは、人の生き方に口を挟むことも、守れると思えないなど人を否定する言葉を投げつける性格ではなかったはずだった。
古い友人とアスカを重ねてしまってから、どうも歯止めが効きそうになかった。
(ヒビキ…君がいなくなってからもう800年も経ったよ…いつになったら僕は君を許せるのかな…)
ヒビキがどうしても忘れられない。
そして憎い。
殺したいほどに。
だけど、彼女はすでに亡く、彼女の代わりと言わんばかりにアスカがアムラスの前に現れた。
アムラスの中にあるヒビキへの感情は複雑で、本人さえも触れたくないほど絡まり合っている。
その感情の奥には1人の青年がいた。
アスカはヒビキではないと分かっているけれど、800年経った今でもアムラスは気持ちを切り替えることが出来ていない。
ヒビキはアムラスの特別だったわけではない。
色恋などではなく、大切な友人の1人だったのだ。
感情が激しく動いたのは久々だった。
それは妹と自分以外の『フレイル』に会ったためか、それとも…
(駄目だね…こんなんじゃララノアに腑抜けと怒られてしまう…)
うじうじとしているせいで頭の中にいる妹に怒られてしまった。
あの子がこの場にいたら逃げるのではなく、ビッグ・マムと対面で嬉々として戦っていただろう。
2人の仲は良くはなかった。
アムラスがロジャー海賊団に、ビッグ・マムがロックス海賊団に所属していた頃。
アムラスに一目惚れしてからアタックしまくるビッグ・マムに、ララノアはよく立ち塞がって兄を守っていた。
アムラスも弱くはないが、戦闘面でもララノアの方がアムラスよりも才能があった。
ララノアは兄に対してはブラコンというわけではなく、兄を守る体でビッグ・マムとの戦いを楽しんでいた程度には戦闘狂ではあった。
いわばビッグ・マムはララノアのオモチャの1つだったのだ。
だからビッグ・マムは例えフレイルがララノアだけになったとしても手に入れようとは思わないだろう。
それほどビッグ・マムとララノアの仲は最悪だった。
ララノアは外見は煌びやかな美女だが、その中身は酒とタバコとギャンブルが大好きな戦闘狂なのだ。
「あ!アレ何!?」
アスカ達を見送ったルフィ達は来た道を戻ることにした。
誘惑の森を突っ切った方が速いと判断したのだが、誘惑の森にはビッグ・マムが命を与えたホーミーズがいる。
いわば、近道だが敵に囲まれていると言っていい。
だが、アムラスがいたとしても今の戦力では真正面に戦うのは心もとない。
だから無理してでも森を入る必要があった。
背後にいるであろうビッグ・マムとその血を受け継いだ子供達と、命を吹き込まれた木や花達…どちらを選ぶかなど問う必要はないだろう。
しかし、森へ続く道にある物が見えた。
そのものとは――
「キングバーム!生きてたのね!」
途中まで乗せてもらっていたキングバームがいた。
その傍には女性と思われる木のホーミーズが寄り添っており、恋人同士に見える。
逢引中だったキングバームはルフィ達の顔を見て顔を青ざめた。
彼にとってルフィ達は嫌な思い出しかないため、当たり前ではあるだろう。
あれからビッグ・マムの3女であるアマンドに真っ二つにされたのだから仕方ない。
そして、嫌な予感は当然のごとく当たる。
ナミは自然な動きで"ある紙"を見せた。
「覚えてろジュ!!貴様らァ!!イデデ…!」
キングバームは恋人を置いてルフィ達を乗せ森へ急ぐ。
キングバームの恨み言など彼らは耳から耳へ抛り捨てていた。
後ろには恋人の声が聞こえるが、涙を呑んで無視するしかない。
「あれ、ナミお前ローラのビブルカード取られなかったか?」
「1枚ね…2枚に切っといたの」
ナミの手にある"ある紙"、それはビッグ・マムのビブルカードだった。
ビッグ・マムから魂を与えられた彼らはビッグ・マムのビブルカードには逆らえない。
だからキングバームは泣く泣く恋人を置いて乗り物となるしか選択肢がなかった。
気づかれないよう残しておいて良かったと思ったその時――
「ウエ〜〜ディ〜〜ング…ケ〜〜キ!!!」
ビッグ・マムがすぐそこまで来ていた。
ゼウスに乗っているためビッグ・マムも走るよりも早くルフィ達に追いついてしまった。
「よこせ!!ケーキ!!!」
ルフィ達が焦る中、アムラスは冷静だった。
そして、アムラスは『やっぱり食いわずらいを発症してるね』と呑気に思う。
アムラスの予想通りビッグ・マムは食いわずらいで我を忘れ、ケーキだけを求めてルフィ達の所まで追いついた。
切っ掛けは長男のペロスペローの嘘だ。
ケーキを作るまでの時間稼ぎのつもりで言ったが、彼はその代償として自身の命を懸けることになってしまった。
「くらえよ…!"エルバフの槍"…―――"威国"!!」
ビッグ・マムが大剣を振ると、その力と勢いで衝撃波を生み出し、対象をえぐる。
その威力はまるで巨人族の覇国そのものだ。
本来ならキングバームなど半分えぐれるほどの威力だが―――
「"ブラック・ボックス"」
その衝撃波をアムラスが"仕舞った"。
攻撃が当たる寸前でさえ圧を感じたが、アムラスがキングバームから飛び出し、ビッグ・マムが放った威国を箱に仕舞いこんだ。
威力のある技でさえ箱に変えるアムラスに、ルフィ達は唖然とさせた。
驚きのあまり誰も言葉を交わせない中、アムラスはパッと瞬間移動のようにルフィ達のいるキングバームの上へと戻った。
「あ、ありがとう!助かった…!」
「どういたしまして…まあ助かったってわけじゃないけどね」
ナミとキャロットが涙目でアムアスにお礼を言うが、アムラスの言葉に顔を青ざめお互い抱き合う。
錯乱していても息子の『ケーキはルフィ達が持っている』という言葉は覚えているのか、威国をアムラスに箱に仕舞われたのに執拗に追いかけるビッグ・マムにアムラスは『ふむ』と顎に手を当て考えた。
その視線はビッグ・マムではなく、ゼウスに向けられていた。
「えっと…ナミ君、だっけ?」
「えっ!は、はい!」
「君さ、雷…出せたよね」
「出せるけど…」
「リンリンの足をちょっとだけ止めようか」
「えっ?」
戦った時に、自分に雷を向けたのを思い出しアムラスはビッグ・マムの足になっているゼウスを指さす。
言っている意味が分かっていなかったナミは、ゼウスを見て『あっ』とアムラスが何を考えているのか気づいた。
そうしている内にビッグ・マムは再び威国を放とうと構える。
「また来るぞ!!」
「おれが…!!」
「待ってルフィ!作戦がある!!」
直接食らっていないが、食らう前に肌で感じた圧に威国がどれだけ強力か分かる。
四皇の技なのだから弱いはずはなく、またその技を繰り出そうとするビッグ・マムに、ルフィが応戦しようとした。
それをナミが止める。
「どうすんだよ!」
「雷は雷が好き!」
作戦と言っても相手はビッグ・マムである。
ルフィを下がらせたナミはクリマ・タクトで『ブラックボール』を作り出し、ゼウスの方へと向けた。
「"威国"――」
剣を振り上げたその時――ゼウスは美味しそうな雷に釣られ、進路を変えた。
足場を失ったビッグ・マムは威国が空振りとなりそのまま落ちてしまう。
「何やってんだ!ゼウス!!」
「んまいんまい」
「ダメだ!夢中だ!!」
ナミがポンポンと雷をいくつも作って進路から逸らしてくれたおかげで、ゼウスはナミの作った雷を食べるのに夢中になりビッグ・マムの足場としての機能を失った。
美味しい雷に夢中になっているゼウスに仲間のプロメテウスやナポレオンが声をかけるが、夢中すぎて耳にすら入っていない。
その隙にルフィ達は誘惑の森へと入ることができた。
「キングバーム様だ!!道を開けろー!」
誘惑の森の主であるキングバームの姿に、森はルフィ達に道を譲る。
その先には我家であるサニー号が見えた。
「海岸まで一直線か!」
「ビッグ・マムがゼウスに乗らねば振り切れるな」
「そうだね…まあ多少の時間稼ぎでしかないと思うけど…ゼウスがいるいないで速さは違うから」
予想通り、ゼウスは美味しい雷に夢中になってくれた。
ナミは成功したことにホッと胸を撫でおろし、ジンベエとアムラスの『ゼウス』という名に首を傾げる。
「あの雲、ゼウスって言うの?」
「ああ…あの雲はママの魂で作られ…」
ナミが首を傾げているとジンベエが説明しようとした。
その時――
「うん!おいらゼウス!」
大きな雲、ゼウスが追い付いてきた。
呑気な声や性格に反してゼウスは手強く、その実力はジンベエも警戒するほど。
だが、ゼウスは一向に攻撃をする素振りを見せない。
「なーなー!今のちっちゃい雷雲もっとおくれよ!」
どうやらゼウスはナミの誘導で与えた『ブラックボール』がお気に召したようで、もっとないのかという催促でナミ達のところまで飛んできたようだった。
「そんなに美味しかった?」
「あんなに濃厚でノド越しのいい雷雲初めて食べた〜!ある?もっとある?」
雷は人間にとって命を奪われるほど危険なものではあるが、雷雲であるゼウスにとったら美味しい食べ物でしかなかった。
温厚そうなゼウスに面白い生き物が好きなルフィが乗せてくれと頼んでみるも、ビッグマムしか乗れないと断られてしまった。
危険とは思えないゼウスとルフィの会話にナミは『じゃあ』と零し…
「私のしもべになる?」
そう言った。
その突然のしもべ発言に周囲は困惑したが、1人。
そう、1人だけ…
「なるーーっ!」
「お前じゃなかろう」
サンジだけは即答で頷いた。
ジンベエのツッコミなど目をハートにしたサンジには無効である。
ゼウスもビッグ・マムへの忠誠は見当たらず、ゼウスは食べ物に釣られそうになった。
その時。
「誘惑の森〜〜!!そいつらを止めな〜〜!!」
ビッグ・マムの声が森中に響き渡る。
誘惑の森のホーミーズ達はもビッグ・マムの能力で生命を入れられた。
キングバームは誘惑の森の主に命じられたが、その上がビッグ・マムだ。
当然、命令の優先はビッグ・マムにある。
道を譲っていたホーミーズ達が表情を変えルフィ達の前に立ちはだかる。
「女王の号令にはワシも敵わんジュ!!だが…!!ここで死ぬわけにはいかんのジュ〜〜!!」
森を知らないサンジからは蹴散らして真っ直ぐ進めばいいという当然の問いが向けられたが、文字通り生きた森なため、戦っている最中にその真っ直ぐな道を分からなくするのだ。
そのせいでサンジに会う前のルフィ達は翻弄された苦い記憶がある。
ただ、キングバームもタダで死ぬわけにはいかない。
恋人…いや、婚約者が脳裏に浮かんだキングバームはビッグ・マムに抗いホーミーズ達を蹴散らしていく。
全ては婚約者のため。
男気である。
だが…
「おいキングバーム」
「―――!」
「ママを裏切ったな」
「プ、プロメテウス様!!」
巨大化した太陽のホーミーズ、プロメテウスが追い付いてしまった。
近くに来ただけでも猛暑のように暑さが肌を刺す。
辺り一面一点に照らされたように光に照らされる。
ルフィ達も、キングバームも、避けれないと思ったその時―――プロメテウスが真っ二つに裂けた。
「な、なんだ!?」
「勝手に真っ二つになったぞ!!?」
綺麗に、真っ直ぐ、線を引くように、プロメテウスが裂けた。
それに驚いているとルフィ達の耳に『キン』と甲高い音が届いた。
そちらの方へ視線を向けると…
「全員、怪我はないね?」
――アムラスがいた。
「ア、アムラス…!いや!アムラスさーーんっ!!」
思わずナミとキャロットが叫んだ。
プロメテウスは裂けたのではなく、アムラスが目にも見えぬ速さで切ったのだ。
キングバームは助かったと号泣した。
「斬ったのか!?あの大きさの太陽を!?」
「ゾロみてェだな!オムライスは剣士だったのか!」
「まあ、カテゴリー的にはそうかな」
剣士と言えど、プロメテウスは一度で斬れる範囲を超えた大きさをしていた。
そもそも、物体ではない太陽を切れる剣士はどれほどいるのだろうか。
少なくとも片手しかいないはず。
ルフィの問いにアムラスは曖昧に答えた。
アムラス自身、剣が使いやすいから愛用しているだけで誇りをもって剣士だとは思ったことはない。
「ナミ君、ゼウスをリンリンの下へ戻したら駄目だ…ずっと雷を食べさせることは可能だね?」
「う、うん!大丈夫!」
「じゃあ、君達は一亥も早く船へと戻った方がいい」
「え?」
「今頃鏡を使ってカタクリ君達が君達の船を占拠して待ち構えているだろうからね…ルフィ君達を逃がさないため…なのもあるが、主にアスカ君の確保だ…彼女は僕と違って子供を産むことのできる身体だから彼らからしたら絶対に逃したくはないはず」
「!」
ゼウスをビッグ・マムへ戻したら移動手段を与えてしまうことになる。
そうなると、海に出てもビッグ・マムは船の準備を待つまでもなくそのまま追いかけて来る。
アムラスは『まあどの道、意味ないだろうけど…今後に関わるからね』と口にはせずそう思い、ナミにゼウスを懐柔させるよう言った。
ルフィ達はアムラスの船が占拠されているという言葉に全員表情を険しくさせた。
アムラスはルフィ達麦わら海賊団の全員の顔を見る。
「僕はまだ君達があの子を守るのに値すると認めていない…ただ、君達が思っている以上にあの子の価値は高いのは分かってほしい」
アムラスの言葉にナミ達は言い返したい言葉を飲み込む。
新世界に入る前に2年の修行をしたとはいえ、新世界というだけあって敵の強さはそれ以上だということを今、彼らは実体験している。
最後にルフィを見つめ、アムラスは続ける。
「だが、僕はだからと言って君達を否定すべきではなかった…君達はまだ発展途上であるだけで弱いわけではないからね」
そう言ってアムラスは1つの箱をナミに投げる。
その箱を反射的に受け取ったナミは首を傾げながらアムラスを見るも、アムラスはナミではなくルフィを見つめていた。
ルフィもまた、彼を強い視線で見つめ返し、ビッグ・マムに追われて緊迫しているというのにここだけ静かだった。
「その箱を肌身離さないか船のどこかに置いておいてほしい…僕の能力で出した箱は全て繋がっているからその箱を伝って僕は君たちの所に戻ることができる」
「え…」
「君達を侮辱してしまったお詫びをさせてくれ」
アムラスは光さえも吸収するような漆黒の剣を抜き、ルフィ達を向いたままキングバームを降りてしまった。
「アムラス!!」
「おい待てよ!」
「1人でビッグ・マムを相手にするのは危険じゃ…!!」
アムラスの実力は未知数だ。
プロメテウスを真っ二つにしたのだからそれなりに強者なのだろう。
だが、それでも化け物のようなビッグ・マムを1人で対峙するのは無謀以外にない。
戻ってくるように叫ぶナミ達に、遠ざかるアムラスは背を向けながら手を振るだけだった。
「前を見ろ!!!」
ジンベエやサンジ、ペドロが降りようかと思ったその時、ルフィが遮る様に叫ぶ。
ジンベエ達がルフィの方へ振り向くと、彼はアムラス…後ろではなく前を見つめていた。
「アムラスを信じるしかねェ…おれ達はサニー号へ…アスカを守るために進むんだ!」
ルフィの言葉に誰もが口をつぐむ。
ルフィの言う通り、今はもう逃げる事を考えなければならない。
イヌアラシとネコマムシから聞けば、アムラスはロジャー海賊団のクルーだった男だ。
それも彼らに手練れと言われた男でもある。
それが本当ならば、自分達は足手まといだろう。
そう思うことにして後ろ髪を引かれる思いを無視をすることにした。
問題は目の前にあるのだ。
アムラスの言葉が正しければ、ビッグ・マム達にアスカを奪われるかもしれないのだ。
254 / 274
← | top | back | →
しおりを挟む