(257 / 274) ラビットガール2 (257)

森は酷い有様だった。
四皇と、四皇にも匹敵する者同士の力がぶつかり合うと地面さえもえぐれる。
しかし、勝利を得たのはアムラスだった。
勝負は一瞬だった。
やっと作ったビッグ・マムの隙に取り入り彼女の身体に触れ巨体を小さな箱に仕舞い―――目にも見えぬ速さで箱を破壊する。
その衝撃にビッグ・マムは口から吐血を吐きだし地面に伏した。
しかし、それにも慢心せず、アムラスは倒れているビッグ・マムに触れてもう一度箱に仕舞う。
コロンと地面に転がる箱を持ち上げ、アムラスは一息つく。
口が切れたのか、口の中は鉄の味がし、唾液と共に吐き出す。


『ラスったら随分と腕が鈍ったんじゃないの?昔ならまだしも今のリンリンに手こずっちゃってさ!』

『僕達がいなかったらラスはもーっと苦戦してたんだから!』


耳元で零れる嫌味にアムラスはクスリと笑う。


「そうかもね…僕も随分鈍ってしまったようだ…」

『大体ラスがでしゃばることかよ!今のリンリンに手こずるような奴らなんざ庇う必要はねェだろ!』

「あの子達の矜持を傷つけてしまったお詫びさ…いくらあの子の事とはいえ言い過ぎてしまったからね」

『ラスは2人のこと気にかけていたものね!でも、皆が死んでもう800年も経っているんだよ?』

『そうそう!いい加減受け入れなきゃ!』

『今の君をララァが見たらプンプンだよ!』

『いや!ララァの事だから爆笑しちゃうかも!』


その声も姿も、アムラスしか聞こえず見えない。
彼ら、そして彼女達はいわば『妖精』と呼ばれる存在。
小人であるトンタッタ族とは異なり、彼らそして彼女達は存在しない。
彼らはエルフ族と共に存在し、彼らはエルフ族以外には認識できない。
周りにいる妖精達の殆どはアムラスやララノアが生まれた時からの付き合いだ。
実は、アスカが耳栓をしなくてもビッグ・マムの奇声や覇気を受けても被害がなかったのは、妖精のおかげだった。
そんな妖精達の会話にアムラスは目を細めて笑い、ビッグ・マムが入っている箱を軽く投げてはキャッチするのを繰り返す。


「さて…今頃ルフィ君はカタクリ君と鏡の中で戦っている頃かな…」


頭の中でルフィ達の行動を"思い出し"ながらアムラスはビッグ・マムの入った箱を『仕舞った』。



◇◇◇◇◇◇◇



ビッグ・マムとアムラスの戦いが決着ついた頃、アスカは固唾を呑んでルフィとカタクリの戦いを見つめていた。
ルフィとアスカは仲間との連絡のため兵士やカタクリの兄弟達から離れたのでこの場はルフィとアスカと、ルフィの様子に気づき追って来たカタクリしかいない。
アスカは能力を封じられているため、できるだけ2人の戦いの邪魔をしないように離れた場所で戦いを見守っていた。
そんなアスカの耳に、聞き慣れた声が届く。


≪主!ご無事ですか!≫

「!――シュラハテン!無事だったんだ!良かった…!」


その声とは、シュラハテンだった。
あの後、シュラハテンは息もできずもがいている内に海に落ちてしまい、水に弱いモチが顔から剥がれた。
基本自死か寿命以外に死ぬことのないシュラハテンは船へと上がり、主人であるアスカが鏡の中に入る光景を見て、身体を小さくし兵士の服に噛みついてここまでついて来た。
やっと主人の下へと戻ることができたシュラハテンは体を戻しながら主人との再会を噛みしめる。


「どうしよう…ルフィが押され気味だ…でも2人の戦いには入れないし……それに早く逃げないといけないのに…」

≪ご安心召されよ…きっとあの者が良くしてくれましょう≫

「…うん」


シュラハテンの身体に抱きつきながらアスカは不安を彼女に伝える。
ルフィが負けるとは思っていないが、それ以上に苦戦している彼に心配の方が勝っていたし、時間も押しているのもある。
能力を封じられているという不安もあり、アスカの声は沈んでいた。


「くそ!避けた方に確実に攻撃が来る!倍疲れる!」

「おれも同じだ…――こんなに攻撃を避けられることはない…ストレスだ」


カタクリは最強と兄弟達に自慢されるほどの実力者。
それはルフィと戦っているのを見て十分に分かる。
だが、カタクリは多くの敵と対峙したが、自身の攻撃をこうも避けられたことはない。
義父に手合わせをしてもらったことがあるが、本気を出していなかった義父にこてんぱんにされ彼との実力の差を見せつけられた。
だが、負けて悔しいと思わなかったのは相手が母と幾度も渡り合った強者である義父だからだ。
悔しいと全く思わないと言ったら嘘にはなるが、まだまだ自分にも伸びしろがあるのだと知った良い機会だった。
とはいえ、ルフィ相手に劣らないのも事実。


「筋肉風船!」


覚醒済みの能力でカタクリはルフィを翻弄していく。
同じ弾力を持つ能力ではあるが、覚醒している分、有利なのはカタクリだった。
物さえもモチにしてしまうカタクリの能力に、技を使おうとしたルフィは防がれてしまう。


「やると分かっている明らかなパワーアップをなぜ黙って見てなきゃならない」


先読みができるからこそルフィが何をしようとしたのか気づき、それに対処した。
それは見聞色であり、カタクリは三色の覇気使いであった。
ルフィ相手にここまで苦戦するとは思っていなかった。
だが、初めてではない。
覇気が使えない義父にも通用しなかった。
ルフィ相手にカタクリは義父の強さを再確認し、ルフィを倒した後あの義父をも相手にしなければならないと思うと気が重い。


「おい"麦わらのルフィ"…言っておくがおれはお前を見くびっちゃいない」


そう言って、腕を天高く上げ拳を握る。
それに反応するように天井がぐにゃりとモチへ変化し――ルフィの上に落ちてきた。


「ルフィ!!」


逃げ出そうにも、地面はモチとなりルフィの足を奪う。
逃げられずルフィはあっという間に鏡餅に埋もれてしまった。
アスカは巨大な鏡餅に潰されたルフィに居ても立っても居られず駆け寄る。
そんなアスカをカタクリは止めるでもなく好きにさせた。


「やめて!こんなことしたらルフィが窒息しちゃう!」

「そうなるようにしているんだから当たり前だ…悪かったとは思っている…こんな決着で…少しイラ立っていたんだ」


アスカの睨みなど向けられても痛くもかゆくもない。
カタクリの苛立ちは何も女絡みだけではない。


「こいつに手間取ったせいで今日の"おやつの時間(メリエンダ)"を40分も過ぎてしまったからな」


カタクリは好物のドーナツを食べる時間をいつもの習慣に取り入れており、その時間がルフィを相手にしているだけで40分も過ぎてしまった。
ルーティーンを崩れたこともそうだが、好物を味わえない不満も溜まっていた。
無駄なのを分かっていながらもモチに潰されているルフィを助けようとするアスカを見つめながら、カタクリはパティシエ達を呼ぶ。
待っていたパティシエ達は慌てて大量のドーナツと共に現れるが、その顔には冷や汗が流れている。


「本日のおやつはどうなる事かと…!」

「実はお紅茶の方40分経ちすっかり冷めてしまい…!」

「………」


パティシエ達は時間通りに出来立ての美味しいドーナツと紅茶を用意してはいたが、ルフィとの戦いで割って入れずずっと待っていた。
そのせいで紅茶が冷めてしまい、自分達の失態ではないもののホットティーが冷めてしまったミスに顔を青ざめた。


「アイスティで構わない」


カタクリに怒られると思い、最悪殺されると思っていたパティシエ達は優しいカタクリの言葉に安堵する。


「糖分こそ力の源!摂取する…何人たりとも社に入れるな」

「勿論です!お邪魔など一体誰が!ごゆっくり!」


カタクリはチラリとアスカを見るも、アスカはもがくルフィに声をかけて必死に助けようとしていた。
すぐにアスカから視線を逸らし、自身の能力で作った餅の社へ入って行く。
カタクリの姿が見えなくなったのを見て、アスカはアスカで非力ながらもう何度目かのモチを持ち上げようとしたその時―――


「ぶはーーっ!」


鏡餅の天辺からルフィが出てきた。
その姿は太っており、窒息する前にモチを食べて上がってきたことが伺える。


「ル、ルフィ!?あんた食べたの!?」

「ああ!モチなんか食ってやった!!どうなってんだ!この海賊との戦いは!!物食わなきゃ勝てねェのか!?」


餅を食べて出てきたルフィにパティシエ達は驚くが、アスカは別の意味で驚く。
勿論、食べて脱出という考えても行動に移さないことを平気で行い太ったが無事に脱出できた幼馴染兼恋人に驚いたのもある。
だが、クラッカー戦でも食べて解決したのを思い出しアスカは分かってはいたがルフィの食欲に驚かされた。


「あんたの胃はどうなってんの…ゴムの性質だからって言葉、通用しないわよ…」

「そんなことよりあいつどこ行った!?」

「カ、カタクリ様ならもう鏡世界の外へ出られた!大切な用事で…」


窒息せず脱出できたのは安心したが、相変わらずバグってる胃と食欲にアスカも呆れてしまいそうになる。
ルフィも流石に2戦連続で食べて危機を脱する戦闘は初めてで、特にクラッカー戦では自分の限界を知った。
パティシエ達がカタクリの大切な時間を守るため、ここにはいないと偽の情報を与えようとしたが、ルフィには通用しなかった。


「"そこ"から強ェ奴の"声"を感じるぞ」

(((しまった!『見聞色』!)))

「ドーナツ食ってんだな!?」

(((『見聞色』???)))

(『食い意地』ね…)


ルフィはカタクリほど見聞色をまだ使い慣れていないが、覇気使いだ。
アスカはどれだけ修業しても武装色しか使えなかった。
特に戦闘において強さを求めてはいないので、武装色が使えただけラッキーと思っている。
パティシエ達が勘違いしているが、アスカだけは何を食べているのかを当てたのは『見聞色』ではなく、ただの『食い意地』だと見抜く。
というか、麦わらの一味全員見抜くだろう。


「勝った気でくつろいでやがるんだな!?」

「バカ言え!!カタクリ様は今、あの社にて戦いの神とそして己と対話しておられる!」

「神聖な時間なのだ!誰もこれを邪魔立てしてはならぬ!!」


アスカはパティシエ達の言葉を聞き、どうして食べ方や裂けた口を隠すのか少しだけ理解した。
あれだけ神格化されてしまってはあんな気の抜けた姿は見せられないのも無理はないだろう。


「アスカ!!ちょっと待ってろ!!」

「え、あ、うん…いってらっしゃい…」


ルフィは突然、社とは反対の方向へ走り出した。
しっかりとアスカに置いて行くわけではないのを伝えて走ったルフィに、パティシエ達は笑う。


「バカめ!所詮弱小海賊団の船長!」

(いや、あれ消化するためのものだから)


逃げたと勘違いしているパティシエ達にアスカは心の中でツッコミをいれた。
アスカのツッコミ通り、戻って来た時、ルフィは元の体型に戻っていた。
先程まで大きな腹を抱えていたルフィの体型が戻っていることにパティシエ達はギョッとさせる。


「人体ってそうだっけ!?」

(分かる)


パティシエ達の当然の疑問に、アスカも心の中で同意する。
長年幼馴染をしているが、ルフィという人間の生態は謎に包まれているとつくづく思う。
コクリと強く頷くアスカだったが、『おっしゃあ!こっちも万全だァ!』と真っ直ぐカタクリのいる社に駆け寄るルフィを見てそれどころではないと気づき、社とルフィの間に入って止める。


「ま、待って!ルフィ!!ちょっと止まって!!」

「なんだよ!アスカ!!そこをどけ!!今度こそあいつに勝つ!!」

「う、うん!そうだね!ルフィが勝つよね!!でもちょっと落ち着こう!一旦冷静になろう!!」

「落ち着くも冷静もないだろ!戦ってんだぞ!」

「そうなんだけどね!!!ルフィも戦ってて疲れたでしょ!!いい休憩時間だって思ってさ!!!とにかく出てくるまで待ってようよ!!!」


あの社は身に覚えがある。
アスカのコンプレックスを見てしまったお詫びとして自分のコンプレックスを晒してくれた。
アスカは確かにカタクリとは敵対関係にあるが、敵だからと恩を仇で返したくない。
今ウサウサの実を封じられている生身の自分にどこまでルフィを止めることができるか分からないが、アスカは必死にルフィを止める。


「…………」

(止まった…?)


アスカに止められて止まる気配がなかったルフィだったが、必死なアスカを見てピタリと動きを止めた。
アスカは分かってくれたのかと思ったのだがその次の瞬間、顔どころか体中に冷や汗と脂汗がドバッと流れることになった。


「……怪しいな…」

「えっ」


ポツリとルフィはアスカをジト目で見つめながら呟いた。
その呟きに、アスカは思わず汗が流れる。


「…アスカ…お前…あいつを庇ってねェか?」

「えっ」

「さっきからあいつのいる社を守ってるだろ」

「えっ」


ルフィにジト目で見られたのは初めてである。
珍しいルフィのジト目だが、アスカは今『おっ!珍しい!』と言ってはいられない立場である。


「……なァ、アスカ…」

「ハ、ハイ…」

「お前…あの男に―――」


アスカはルフィが何を言うのか分かった。
まさか自分に武装色だけではなく見聞色の才能もあったとは思わなかったが、アスカはルフィが『あの男に惚れているんじゃねェだろうな』と言おうとしているのを見聞色(笑)で見た。
こういう時は否定しても疑われて酷い目(R18)に合うのが(二次創作での)お約束なので、それを防ぐために遮ることにした。


「私は!!ルフィとローの彼女です!!!ルフィは私の彼氏じゃないんですか!!!違うんですか!!」

「は!?いや、そうだけど…でもお前あいつに――」

「私に!!ルフィとロー以外と付き合う根性はありません!!!2人を相手にするのに手いっっっぱいです!!!っていうか!!!2人からの愛でお腹いっっっっぱいですが!!??それがなにか!!!???」

「そ、そうか…だがよ、アスカお前さっきから――」

「疑うんですか!!??まさか私の浮気を疑うんですか!!!??」

「疑ってねェよ!!っていうかなんで敬語なんだよ!!!」

「は?????敬語じゃないが????」

「おっ…お、おう…そうか…」


もうこうなりゃ自棄である。
ローならまだしも野生児であるルフィなら押したら行けそうな気がした。
その読みは当たり、アスカの気迫にルフィは押され、ぐっと口を閉ざした。
昔からルフィはこの幼馴染に弱い。
まだ恋を自覚していなかった頃からアスカを無自覚に溺愛していたくらいアスカには海よりも深いほど甘くて弱い。
アスカはナミやロビンのように頭も良くはないし、恋愛においては新雪かと思うぐらいローとルフィが初めての恋なため、ルフィを納得させる言葉は知らないがとりあえず叫んで圧をかけとけばいいかと思った。
本当に自棄である。


「なんだ、痴話喧嘩か?」

「――!」


アスカのミッションは完遂できたようだった。
言い合い(と言えるレベルかは不明)に、パティシエ達も口を挟めず昼ドラを見る奥様のように2人のやり取りをゴクリと喉を鳴らしていた。
すると、カタクリの声が全員の耳に届く。
振り向くと社からカタクリが降りてきているのが見え、アスカは何とかカタクリの秘密を守れたと…恩を返せたと、安堵していたが―――


「まあ、アスカに惚れている身としてはそちらの方が気兼ねなくアスカを奪えるからそのまま喧嘩別れしてくれても構わないがな」


グイっと自分とルフィの間に立っていたアスカを自分の方へ引き寄せ、爆弾発言をしてくれた。


「ほれて…えっ??」


聞いてないが???状態である。
肩を抱かれたアスカは目を瞬かせてカタクリを見上げた。
カタクリはアスカの視線に気づき、ルフィからアスカを見る。
ルフィには挑戦的な笑みを向けていたのに、アスカには優しく微笑んでいる(ように見えるのは勘違いだろうか)。
その視線は熱く、その表情からは先ほどまで社で口を大きく開けて寝そべってドーナツをご機嫌に平らげた人間と同一人物とは思えない。
そのギャップを見れば、きっと世の女性達は即落ちだっただろう。
信じられないと言わんばかりのアスカに、カタクリは熱の籠った目を細める。


「最初はママが望む子供さえ作ればどうでもいいと思っていたんだがな…世の中、分からないものだ」


『これは…口説かれているのだろうか…』とアスカはカタクリに熱烈な視線を送られ、頬を撫でられながら思うが、如何せんカタクリの発言に静かに混乱していて分からない。
カタクリからそんな素振り見なかったため突然の告白に驚いていた。
離れた場所でパティシエ達が『はわわ…三角関係…』『敵との禁断の恋…素敵…』と乙女になっているが、アスカはガン無視である。
あんなのに構っている余裕はアスカにはない。
何と言ったって今カタクリに口説かれている場所には彼氏その1がいるからだ。
案の定、寝取り宣言にルフィはギロリとカタクリを睨む。


「アスカはおれとトラ男の女だぞ!!」

「そうらしいな…だが、それがどうした…海賊が欲しいと思った物を他人の物だからと諦めるとでも思ったのか?」

「アスカはお前じゃなくおれ達を選んだ!!おれ達も絶対にアスカは渡さねェ!!奪いたいなら奪ってみせろ!!」

「いいだろう…この勝負、勝った者がアスカを手に入れることができる」


アスカは2人の間で『えっえっ』と狼狽えていた。
そして、アスカは知らない内に賞品となってしまい―――アスカだけを置いて戦いの火ぶたが再び切られた。

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