(66 / 293) ラビットガール (66)

ナミ達はクロッカスがクジラを中から殺す非道な人間だと思っていた。
そうでなければ胃液の海のなか溶けないようにと鉄の島まで作って胃の中を青空にせず、生き物の体内に通路や扉を作る事はしないだろう。
だが、実際はその逆で、クジラを…ラブーンを助けるためにクジラの体の中に入っていたようである。
ラブーンは約50年の間、共に旅をした人間の仲間を待ち続けているという。
まだ当時は子供ったラブーンだが、子供のクジラがグランドラインに入り無事でいられるか分からないし、何よりも自分達の身を護る事で背一杯になるため仲間達は置いていくという選択肢しか残されていなかった。
グランドラインを一周したら戻ってくるという約束をし、仲間達は旅立ったのだが…50年も現れなかった、ということは…仲間はきっと…
それを伝えようにもラブーンはクロッカスの言葉を聞きたくないばかりに雄たけびを上げるばかり。
更にはその巨体をレッドラインにぶつけ壁を壊して自らグランドラインへ向かおうとした。
そして、あのいくつもの傷が生まれたという事である。
2人の怪しいオマケもついてきたがルフィと合流しクロッカスの案内で何とか外に出られたルフィ達は事情を聞き、感動した。
感動…した、矢先にルフィがどういうわけかメインマストをできばかりのラブーンの頭にぶっさし、そして喧嘩を勃発させた。
その行動の訳とは、50年も現れなかった仲間を待ち続け頭をもぶつけ続けるのではなく、今度はこんなにも強い自分達を待ち続けろという事らしい。
ルフィらいしいと言えばルフィらしいその乱暴なやり方にアスカは苦笑いを零す。


「さて…航海の計画でも立てますか」


頭にへたくそなルフィ画伯の絵を描き、頭をぶつけてこれを消すなというルフィにラブーンはすんなりと受け入れた。
ルフィが壊したメインマストを直し休憩してから船を出そうという事になり、ナミは航海の計画を立て、ウソップはルフィが壊したメインマストを直し、サンジは昼食の料理を…とそれぞれ思い思いに過ごしていた。


「あ、アスカは部屋で大人しくしてなさい。まだ微熱が残ってるでしょ?治りかけでも油断できないんだから」

「眠くない」

「だーめ。アスカも早く治りたいでしょ?あとでサンジ君に栄養たっぷりのお粥、出してもらうよう頼んであげるから」

「食べたくない」

「だから駄目だって言ってるでしょ!!薬飲んで食べて寝る!!これが風邪に一番効くんだから!」

「…………」


アスカも疲れてナミの向かえに座ったのだが、アスカが座ったのを見てナミはペンを持ったままアスカに船に戻って寝るよう言う。
アスカは寝すぎて眠くなくなっており食欲もないと不満顔のまま首を振るも騒動が落ち着いた頃にアスカの額に手をやればまだ熱っぽさが治まっていなかったためナミは嫌だろうが何だろうがアスカを寝かせる気満々だった。
まだ治っていないというのが自覚があるのか…アスカは渋々船に向かって歩き出そうとした。
椅子から立ち上がってヨタヨタと歩き出すアスカの背を心配そうにしながらも、寝室に向かったことに安堵しながらナミは止めていた航海の計画を立てようとコンパスを見た。
その瞬間…


「あーーーーっ!!!」


ナミの声が岬に響く。
ナミの大きな声にそれぞれ思い思いに過ごしていた面々は手や作業をやめ、ナミへと振り返る。
アスカも歩いていた足を止め、ナミへ振り返りナミの元に戻る。


「なんだよ。お前うるせーな」

「何事っすかナミさん!お食事の用意ならできました〜!」

「なになに?」


ナミの声にみんなナミに歩み寄ると青い顔をしたナミが俯かせていた顔を上げ、みんなを涙目で見渡す。


「コ、コンパスが壊れちゃった…!!方角を示さない!!」


そう言われ全員机に置かれているコンパスを見れば、確かにコンパスの針がぐるぐると狂ったように回っていた。
騒ぐ面々(と言いつつ危機感を覚えているのはナミとウソップだけ)を見てクロッカスは呆れたようにナミ達を見た。


「お前たちは何も知らずにここへ来たらしいな…呆れたもんだ……命を捨てに来たのか?」

「え?」

「言ったはずだ…この海では一切の常識が通用しない。そのコンパスが壊れているわけでないのだ」

「…じゃあまさか磁場が?」

「そう…"グランドライン"にある島々が鉱物を多く含むために航路全域に磁気異常をきたしている…さらにこの海の海流や風には恒常性がないお前も航海士ならこの恐ろしさが分かるはずだ…何も知らずに海へ出れば確実に死ぬ」

「確かに…方角を確認する術がなきゃ絶望的だわ・・・し、知らなかった」


航海士と言ってもナミは元々アーロンから村を買い戻そうとしていたためグランドラインへの知識はない。
ここにいる全員がそうで、グランドラインを経験してるサンジとアスカは小さすぎて覚えてないため役には立たなかった。
ナミは顔を青くさせたが、そんなナミにクロッカスが『グランドラインを航海するには"記録指針(ログポース)"が必要だ』と助言してやる。


「おい!アスカ!!これうめェぞ!!」

「へェ」

「お前も食べてみろよ!!うめェから!!」

「いや、私食欲ないからいい」

「な、なにィ!?死ぬのか!?食欲ないとかアスカ死ぬのか!?」

「……………」


小難しい事はナミに任せアスカはここにいても邪魔だし人に風邪を移すだけだと思い席を立とうとした。
風邪になって気づいた事は人恋しくなるということ。
これまで船旅をしたのは初めてで色々負担がかかっていたらしい体からウィルスがまだ残っており、それは人に移せば楽になれるというが、いくらアスカでもその辺の人ならいざ知らず、仲間に移す気はさらさらないためとっとと寝室に戻ってとっとと風邪を治そうとした。
そんなアスカにタイミング悪くルフィがローグタウンでサンジが手に入れたエレファントホンマグロという大きな魚の料理を食べ、それがえらく美味しかったらしくアスカに勧めはじめる。
アスカは本当に食欲がないため断れば、ルフィからしたら食欲がない=異常という認識なため騒ぎ始める。
大切な幼馴染が死ぬかもしれないと大騒ぎするルフィにアスカはダルさも熱もぶり返してきたのかもう突っ込む気にも訂正する気にもならなかった。
そんな暴走するルフィにサンジが後ろから、ゴン、と殴って止める。


「食欲がないだけで死ぬか!アスカちゃんは風邪をひいてんだよ!てめェみてェに鉄の胃袋なんてもってねェんだ!!少しは気を回せ!」


『ったく!』、と零しながらサンジは新しい料理を机に置く。
ルフィは頭にタンコブを作りながら新しい料理に手を伸ばした。
まだ胃に食べ物を収めようとするルフィに呆れながらもサンジはラブーンの腹の中にいた時より少し顔が赤くなっているアスカの額に手を当てて熱を測る。
熱を測るとまた少し熱が上がったような気がして、サンジはアスカの手を取って立たせた。


「アスカちゃん、また熱が上がってるじゃないか…大丈夫かい?」

「ダルい」

「そうだろうね…後でお粥持ってきてあげるからもう寝た方がいい…歩くの辛そうだから連れてってあげるからさ…安静にしててほしいな」

「ん。」

「あ、そうだ…汗かいただろうし、汗も拭かなきゃね…………アスカちゃん!お、お…おれが…」

「ルフィ」

「……デスヨネー…」


アスカの小さく平均より肉がついていない手を握っても少し熱っぽく、また風邪がぶり返したのだとサンジは思った。
やはり騒動があったとは言え無理矢理にも寝室に押し返した方がよかったのかもしれないと後悔しても遅く、サンジはアスカを横抱きに抱き上げ船へと向かおうとした。
パジャマからも熱っぽさを感じることができ、サンジは自然と足を速めるが、それよりもまず熱から出る汗を拭こうとする。
だが、当然ながらアスカから拒絶され、ルフィを指名されてしまった。
アスカは人に裸を見せるのが嫌なように見え、サンジはまだ自分達に心を許しておらず、幼馴染のルフィだけに心を許しているように見えた。
あのルフィの次に船の中で仲がいいナミですら嫌がり、そしてアスカが服をどこでも平然と脱げる性格だと知らないサンジがそう思うのも無理はなかった。
ダルさは本当にあるのか、サンジの腕にアスカは大人しく抱かれており、ぐったりとサンジの胸元に顔を預ける。
服越しでも熱が伝わり、サンジは早足で船内へ入りアスカを女部屋へ運んでベッドに寝かせた。


「ルフィを呼んでくるからちょっと待っててね」

「ん。」

「あ、そうだ…寂しくないようにクマさんも置いておくから」

「………」


アスカをベッドに寝かせ掛け布団を肩までかけてやった後サンジはルフィを呼びに行こうとした。
しかし何かを思い出したようにアスカのもとへ戻り、ナミとの買い物で何故かナミがアスカにと買った大きなクマのヌイグルミを飾られている棚から降ろしアスカのところまでもっていき何故か布団に入れて一緒に寝かせる。
『うん、可愛い!超可愛い!』とはしゃぐサンジをアスカは白い眼で見ていた。


(ナミもサンジも…私の事いくつに見えるんだろう…)


アスカの年齢は正確には分からない。
だがアスカ的にはルフィと同い年でいるつもりではいる。
こんな小柄な体だって栄養失調だった時の影響だと本人は思っていた。
だから子供扱いをするサンジとナミにそう疑問に思っても無理はなかった。
アスカはベッドに横になっているという安心からか、今まで無理していた分どっと眠気が襲い重い瞼を閉じていく。

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