(261 / 274) ラビットガール2 (261)

カカオ島。
この島にはかつてないほどの人数の大臣達や兵士達の戦闘員が集まっていた。
住民達はすでに避難済みだが、ルーキーの海賊団に対する大臣達の警戒に怯えていた。
長男ペロスペロー、カタクリ、スムージーが留守なため、指揮するのはオーブンとなる。


「武器の手入れは済んでるか!出てくるとするなら今から5分以内だ…!」


ブリュレの姿がないことから、ルフィは必ず鏡で移動すると見ている。
そのため、誘い込むための大きな鏡一枚を残し、この島の鏡という鏡は全て処置済み。
どれだけ小さい鏡でも割り、割りたくないというのなら海に沈め後で回収するよう指示を出した。
ホールケーキ城を破壊に導いたあの爆発。
魚人島から贈られた宝箱の中に入っていた爆弾だった。
宝箱に爆弾が入っていたのは、泥棒を警戒した国王であるネプチューンが爆弾を入れて宝物庫に配置したもで、完全に偶然が重なったものだ。
それをモンドールがルフィ達の仕業だと勘違いし、結果、この過剰対応である。
モンドールの指示でこの島には艦隊を配置しており、船にいるナミ達も下手に近づけなかった。
緊迫している者もいれば、ルフィ達を軽く見ている者もいる。
ただ、一般的から見てこれだけの勢力から逃げるのは無理だと思われる光景だった。
チクタクと、大きな鏡に備えついている時計の秒針が進んでいく。
すると…


「キャ〜〜!助けて〜〜!!」


鏡の中から女性の悲鳴が聞こえた。


「声だ!鏡の中から!」

「ブリュレ姉さんの声では!」

「敵に捕まってるんだ!おそらく"麦わら"!来るぞ!狙い撃てェ!!」


鏡の中から聞こえたのは、行方不明だったブリュレの声。
兄弟達が騒めくが、オーブンの声に兄弟達は気を引き締める。
誰もがルフィがブリュレを人質に鏡の中から現れると思っていた。
しかし―――


「え…!」

「ペコムズ!!なぜお前が出てくる!!」


鏡から出てきたのはルフィでもなければカタクリでもなく―――マスクを被ったペコムズだった。
ペコムズは本気でマスクを被っていれば気づかれないと思っているらしく、すぐにペコムズだと気づいたビッグ・マムの子供達に『えっ』と意外そうに声を漏らした。
だが、驚いている時間はない。


「う、動くなビッグ・マム海賊団!下手なマネすりゃお前達の大切な家族!ブリュレの頭が吹き飛ぶぞ!!」

「助けてみんなー!」


着地したペコムズは人質のブリュレの頭に銃口を当てて兄弟達を脅す。
家族を人質にされた兄弟達は誰も動くことはできなかった。
だが、人質取っただけでビッグ・マムの子供達が臆するとは思えない。
ペコムズはサングラスを取り―――その瞳に月を写した。
その意味を気づき、周囲は騒めく。


「スーロンになる気だ!!」

「やめろペコムズ!お前は暴走しちまうだろう!」

「取り押さえろ!!」


ミンク族は雲のない月を直視することで、身体や力を増大し、温厚なミンク族でもたちまち狂暴性も増す特殊体質を持っている。
だが、それを制御できないミンク族は敵味方関係なく襲い、本人は疲労で衰弱死する諸刃の剣である。
ミンク族はこのスーロンを制御するために修業を行い、普段はサングラスやツバの広い帽子などで月を直視しないよう注意している。
つい先程も、船を襲って来たダイフク達をキャロットがスーロン化して艦隊を撃退してくれた。
だた、やはり疲労するためかキャロットはあの後、月が見えない部屋で眠っている。
そのスーロン化をしようとするのだが、ペコムズは制御できず暴走してしまう。
それはビッグ・マムの子供達も知っており、身体を変化させていくペコムズの周囲にいる子供達は後ずさる。


「オイオイ…何の余興だ…出てきたのはカタクリでもねェ…麦わらでもねェ…!可愛い妹に訳も分からず銃を向けやがって!!」


しかし、敵だって黙って見ているわけではない。
身体を肥大化させながらもブリュレに銃を向けるペコムズに、オーブンは怒りと共に熱を燃やせた。
能力でペコムズの持っている銃を燃やし、その熱で持っていられず銃を捨てたペコムズの隙を狙ってオーブンは『熱風拳』でスーロン化しかけているペコムズを殴る。
すると、もこもことなったペコムズの身体からルフィが現れ、ペコムズと共に倒れてしまう。


「"麦わらのルフィ"だ!!」

「隠してやがった!!いたぞー!!」

「"麦わら"だ!討ち取れ!!!」


ブリュレとペコムズの間に隠れていたルフィだったが、スーロン化する際に増えた毛によって体が埋もれていたらしい。
ペコムズが殴られた衝撃で、毛に隠れていたルフィも投げ飛ばされ姿を現してしまった。


「フレイルの娘の姿は!?」

「大方カタクリ兄さんから奪えず諦めたか?」

「何にせよカタクリの兄貴を出し抜いて出て来るとは…褒めるに値する」


零れ落ちたのがルフィだけで、フレイルであるアスカの姿がなかった。
流石に毛が増え、少年少女とはいえ、2人も隠れるほどの毛量ではない。
ルフィだけが零れ落ちたのを見て、カタクリが倒されたと知らない兄弟達はカタクリからアスカを奪うのを諦めルフィだけ逃げ出したと勘違いした。
逃げ出したとはいえ、最強を誇る兄から逃げる事が出来たことは敵ながらも賞賛に値するだろう。


「やっほーー!!」


同時に2人がルフィへと襲い掛かり武器を振り下ろしたが、ルフィには逃げられてしまう。
ルフィは彼らからの攻撃を避け、飛び上がって屋根の上へと飛んだ。
しかしやはりビッグ・マムの子供といえど、彼女の血を受け継ぐ人間である。
屋根よりも高く飛んだルフィに簡単に追いついた。


「飛ぶのはマズかろう…恰好の標的だぞ」

「!」


追いついたのは、33男レザン。
剣士である彼は愛刀を抜き空中で身動きが出来ないルフィに斬りかかろうとした。
その時―――何者かに蹴られ落下した。
ルフィは抱きしめられた感覚に驚いたが、甘い香りとその腕の主を見て目を丸くする。


「サンジ!!」


レザンを蹴り飛ばしたのは、サンジだった。
アムラスからの依頼でビッグ・マムのケーキをプリンとシフォンの助けもあって完成し、ルフィとアスカを迎えに来たのだ。


「勝ったのか!」

「おう!」


ルフィの返事に『流石だ』というが、負けるとは疑っていない。
勝って当然ではないが、クルー達は全員船長を信じている。


「それで、アスカちゃんは」


プリンの兄弟達はルフィがカタクリから逃げアスカを諦めたと思っているらしいが、サンジはそう思っていない。
そもそも付き合う前から依存しあっているアスカを、ルフィが負けたから、形勢が不利だからと、簡単に置いて行くわけがない。
追ってくるビッグ・マムの子供達に聞かれないように、ルフィはサンジにだけアスカの居場所を知らせる。
アムラスの名にサンジは顔を顰めた。


「あの男か…本当に信じていいのか?おれ達じゃアスカちゃんを守れないと言われたんだぞ」

「それは分からねェ…だけど約束は絶対に守る男だ」

「……まァ、お前がそう言うならそうなんだろうな」


女のような美しさを持つが、男だ。
女ではない以上、サンジの紳士道は発動しない。
それに、彼には隠さずアスカを守る資格はないとはっきりと言われた。
アスカを妹のように可愛がっているサンジにとって、アムラスにどんな事情があれど彼の言動に腹を立てるのは仕方ない。
サンジからしたらアムラスはぽっと出の男でしかないのだから余計に。
だが、ルフィが…船長が彼を信じるならサンジはもう何も言うまいと言葉を飲み込んだ。


「"月歩"くらい――何人も使えるゆ!!」


サンジは"月歩"で宙を歩いていた。
新世界に入る前はCP9や政府が使う事が多かったが、ここ新世界ではサンジが使えるように珍しくはない。
ビッグ・マムの子供達が月歩でサンジとルフィの前を阻む。
ルフィを守りながらだが、サンジならば簡単に目の前を阻むビッグ・マムの子供達を抜く事は可能だっただろう。


「目を潰せ!二度と満月を見られねェように!」

「やめてくれー!ガオ!」


だが、気がそれてしまった。
完全に暴走する前にペコムズをビッグ・マムの子供達が抑え込み、更にはスーロン化できないようペコムズの目を潰そうとしていた。
それに一瞬だが気が逸れてしまい、目の前にいる35男のユーエンに武器で叩き落とされてしまった。
サンジは咄嗟にルフィを庇い、背中を思いっきり打ち付ける。


「くそ…!しまった…!!」


ルフィはサンジに身を任せ、眠りについている。
相変わらず敵に狙われても眠る図太さを見せていた。
サンジはそんな船長の眠りと身体を守るため覆い被る様に守る。
そんなサンジに向けて待ち構えていたビッグ・マムの子供達が銃口をサンジとルフィに向ける。


「多勢に無勢!頑張ってもどうにかなる数じゃねェだろ!ギャハハ!!」


サンジがルフィを庇おうが、数えきれないほどの銃弾の前では無意味。
普通の人間ならば、ハチの巣にされて死ぬだろう。
一斉に銃声が響いたその瞬間―――サンジの前に何かが遮ったように感じた。
その正体を確かめようとするよりも前に…銃声をかき消すような爆発音が辺りに轟いた。


「なんだ!!?」


オーブンがその音の方へと振り向くと、海が燃えていた。
正確に言えば、海岸にいる自分達の艦隊が広範囲で燃えていたのだ。
爆発は大きく、街にいるサンジ達からも分かるほど。
自分達が戦っている相手を考えれば爆発の原因は誰だって気づくだろう。
だが、オーブンたちの前に現れた犯人は誰もが想像もしていない人物だった。


「貴様ら…!―――ジェルマ66!!」


目の前には…サンジとルフィを守るよう立つのは、始末したはずのイチジ達だった。

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