(264 / 274) ラビットガール2 (264)

ある新世界の海。
穏やかな海にある船が停まっており、デッキには1人の女性がデッキチェアで眠っていた。
その船に、1羽のカモメが止まる。
目を瞑っていた女はカモメの羽音と、耳元で知らせる『声』にゆっくりと閉じていた瞼を開ける。
カモメの頭には水兵帽が被られており、首からは新聞の束を入れた赤いカバンをぶら下げている。
ニュース・クーという新聞配達である。
定期便もあるが、こうして船を見つけては売り込むこともしている。


「クー!」

「そうだな…じゃあ1部、貰おうか」


定期便は利用していないため、積極的に購入しないが久々に情勢がどう動いているのか知るのもいいかもしれないと思い購入した。
お金を入れる場所にお金を入れて新聞を1部抜く。
お金を受け取ったカモメはひと鳴きして青く広い空へと飛び去って行く。
羽音が遠くなるのを聞きながら、女は新しいタバコを咥えると――勝手に火が付いた。


「ん、あんがと」


独り言を呟きながら、火がついたばかりの煙草を思いっきり吸い込み肺を煙で満たす。
ふ、と煙を吐き出すと風と共に散ってなくなっていく。
その手首にはリーフを模したブレスレットが光に反射していた。
煙草を咥えながら、女は買ったばかりの新聞を開いた。
すると、更新された手配書が落ちる。


「おっと…」


床に散った数枚の手配書を拾い集め、チェアに座りながら更新された手配書を見る。
別に興味があったわけではない。
手配書を見たって女や兄の手配書はもう長い間更新されていないし、知り合いの大多数はこの世を去っている。
生き残っていてもここまで話題がないのなら、シャボンディ諸島にいる知り合いのようにそれぞれ静かに余生を過ごしているのだろう。
そんな彼も2年前暴れたらしいが、それ以降は大人しかったためか、比較的動きのある現役の海賊や他の情勢に飲まれていった。
まあ、引退したと言っていたので本人は興味もないのだろう。
弟のように可愛がっていたあの子の手配書も長い間更新されていない。
しかし、ここ最近、もう1人の弟のように可愛がっていた子の手配書が更新され続けているため、その楽しみはあった。
ただ、今回はその子の手配書はないが、女の目に留まった手配書があった。


「モンキー・D・ルフィ…………ああ、2年前の殻付きか」


聞いた名ではなかったが、どうしてか引っかかってしまう。
記憶を探ると、ふと2年前に騒ぎになっていた海賊の1人だと思い出す。


「っていうことは…こいつガープの子供か」

『―――』

「ん?ああ…孫か……孫………………孫ォ!?」


モンキーという家名は知っている。
長い人生の中で忘れられない船に乗っていた頃に、船長をしつこく追いかけて来た海兵の名だ。
なるほど、あの男の子供か…そう呟いた女の耳に声が届いた。
誰にもいないのに声が囁かれた女は恐怖よりもその声の内容に驚いた。
思わずタバコが口からこぼれたが、燃え広がるよりも前に何もない場所から水が集まりタバコの火を消した。
それに気づかず、女は手配書を目を剥いたままその顔を見る。


「確かに小僧に似てるが…待て…孫?本当に?」

『―――』

「どうりでレイリーの顔が老けたと思った…そうか…人間はもうそんな年齢なのか………え、本当にこいつ孫?」


納得したが、納得しきれないのか何度も聞く。
そのたびに耳元で同意の声が届く。
『はー』と感心したような声を零しながら、もう興味を失ったのか新聞へと手を伸ばす。
すると、また衝撃的な記事が女の目に飛び込んできた。
驚きながらも文字を目で追っていくと女は…声を上げて笑い出す。


「なんだあの小娘!ガープの孫に負けたのか!!」


その記事は、四皇ビッグ・マムがモンキー・D・ルフィに敗れたという記事だった。
見出しには『ビッグ・マム暗殺未遂』とデカデカと書かれており、ビッグ・マムにルフィが挑み、そして勝利したと書かれていた。
新聞を全て信じるわけではないが、四皇を怒らせるデマは流石に書かないだろうと判断し、女は思いっきり笑う。


「麦わらのルフィか……まさか小僧の孫が海賊になるとはねェ…ついこの間まで洟垂れていたあの子達も肩書きのある立場になっちゃって…世の中分からないな…」


女も名を知らないルーキーだが、その血筋を聞いて納得する。
ガープの血筋を引いているのなら、ビッグ・マムを倒してもおかしくはない。
そう思うほど、女は現役時代のガープの実力を認めていた。
小粒ほどだったあの2人も今や四皇と七武海という肩書を持っている。
女が気づかないだけで時間は過ぎ去っていた。
ギ、と軋む音を聞きながらチェアに身を任せ、後でしっかり読もうと別の記事へ視線を向ける。


「『世界会議(レヴェリー)』ねェ……よく飽きずにやれる…」


世界会議の事は名前だけ知っている。
だが、興味はないので普段は忘れている。
世界会議の意味は勿論、各国にはある事なのだろう。
しかし、女からしたら無意味にしか思えなかった。
『ふーんへーほー』とどうでも良さそうに文字を追っていると、ふと、視界の端で床に落ちている紙が写る。


「ん?1枚取り残してたのか」


それが手配書なのは分かるが、裏になって落ちているので誰の手配書かは分からない。
面倒臭い。
だが、この船は自分しかいないので今放置してもどうせ拾うことになるのは自分だ。
面倒くさいが落ちている手配書を拾い、何となく表を見た。
その顔を見た瞬間、女は嫌悪に顔を顰める。


「"冷酷ウサギのアスカ"…」


落ちていたのはアスカの手配書だった。
見覚えのない顔に、見覚えのない名前。
だが、良く知っている気がした。
紙越しでも理解してしまう"結び付き"に女は嫌悪する。


「燃やせ」


女はアスカの手配書をグシャリと乱暴に丸め、そう呟きながら適当な場所に放り捨てる。
その紙は女の言葉に従うように燃え尽きて消えた。


「こいつの傍にゴムゴムの実関係なく…絶対アムラスには会わせたら駄目だな…アムラスがもっと狂う…」

『――――――』


何者かの意外そうな言葉に女は新しいタバコを咥え、勝手に火が付いたタバコから煙を吸う。


「私とあいつは兄妹だぞ…あいつが狂う姿…見たいわけないだろ…」


そう言って女―――ララノアは煙草の煙を吐き出しながら呟いた。
しかし、その声は誰にも届かず風によって消えていく。

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