ミコトの部下達はミコトが呼び出された後、紅茶とお茶菓子を嗜みながら談話していた。
「ミコト様…大丈夫だろうか…」
ポツリと心配そうに呟いたのは、副官の『アルダ』。
青い短髪を後ろに流し、紫色の釣り目に、頬には傷跡が大きく残っている。
真面目な彼女はピシッとしたパンツスーツを身に包んでいるが、その外見はまさに女ヤクザである。
無能力者の彼女は、剣術が得意だった。
アルダはミコトが心配なのか、先ほどから落ち着かない様子を隠さない。
五老星の呼び出しは頻繁ではないが、珍しくはない。
ミコトは五老星から天竜人相手に好き勝手出来る権限を貰っているほど気に入られているのは知っているが、それでも心配にならないわけがない。
アルダが落ち着かないのに対し、3人は比較的冷静を保てていた。
「ちょっとは落ち着きましょうよ、アルダさん」
宥めるようにアルダに声をかけるのは、雑用の『エルシェ』。
彼女は人間ではなく、シャム猫のミンク族だ。
元奴隷という過去を持つ彼女の左耳は欠けており、黒い尻尾の先は折れ曲がっている。
月を見てスーロンにならないために赤い前髪で目を覆っていた。
エルシェはミコトに助けられて以来ミコトの飼い猫を自称しており、その首にはご褒美として強請ったチョーカーを付けている。
エルシェはトリトリの実、幻獣種アエローの実を食べている能力者であり、入隊したばかりの雑用とはいえどその実力は確かであるため護衛として選ばれた。
アルダを宥めるエルシェだが、尻尾は不安げに揺れている。
「そもそもミコト様が失敗をするとでも?いいから落ち着きなさい、アルダ…ミコト様の部下である私達はミコト様の顔でもあるんですから」
ミコトを信じているように答えたのは、『ヘレン』。
緑色の髪を三つ編みにしてまとめており、釣り目の青い瞳を持つ。
彼女はアルダと共にミコトの部下として古株であり、副官の補佐のような役割をしていた。
パズパズの実のパズル人間で、彼女に触れられた全ての物はパズルのパーツに変えられてしまう。
「わ、分かっているが…ヘレン達だって心配だろう?」
「でもぉ、私達がここで心配したってぇ相手が天竜人だったら仕方ないわぁ…天竜人への権限はミコト様にあるのであってぇ私達にはないんですものぉ」
語尾を伸ばすのは、軍医の『オードリー』。
のんびりとした口調と同じく、性格も大らかで俗にいう包容力のあるぽっちゃり系女子である。
彼女の出身国は医療大国として名高い元ドラム王国であり、身内にはDr.くれはという凄腕の医者がいる。
彼女もハリハリの実を食べた能力者であり、針人間である。
血筋と師に恥じず、オードリーの医師の腕は優秀であった。
「それが五老星相手だったらぁ余計にあたし達じゃ手は出せないわよねぇ」
正論を言われ、アルダは言葉を飲み込んだ。
天竜人に対しての不敬罪はミコトには適用されないが、その部隊までもが適用されるわけではない。
ただ、ミコトが不在の際に起こった天竜人への対応にミコトの部下がいた場合、ミコトを通してでならその権限は適用される。
言うならば、アルダ達個人にはその権限は適用されないが、ミコトの名を使えば権限は適用される。
だが、基本天竜人が遊びに来るであろう場所にはアルダ達も近寄らないし、その権限を悪用するような輩はミコトの部下にはいないため、アルダ達が権限を利用したことはない。
ミコト本人はアスカの鬱憤を晴らすように天竜人に対して好き勝手しているようだが。
「今回の会議ぃ、平和に終われるといいどぉ」
「ちょっと!オードリー!フラグみたいなこと言うのやめてくれる!?」
「あらぁ、ごめんなさぁい」
今回、アルダ、ヘレン、オードリー、エルシェの4人が付き添いを許可されている。
今回の世界会議にはあのリュウグウ王国が参加するということで、天竜人を警戒しミコトが駆り出されたのだ。
「リュウグウ王国ってぇたしかぁ、世界会議には1度しか参加していなかったのでしょぉ?…急にぃ参加するなんて言い出してぇ何を考えているのかしらぁ?」
「さあな…魚人族の者達も参加できる世の中になったということじゃないか?」
「世の中がそんな簡単に変わりますかねぇ」
当然、世界会議に参加するのは4人は初めてだ。
世界中から加盟国の王族がマリージョアに集結するので大将は緊急のために必ず1人はマリージョアで待機となっている。
それは回り持ちであるため、ミコトの時もあれば、当時大将だった赤犬や、青雉だった時もある。
今回はミコトはリュウグウ王国の護衛に駆り出されているので緑牛が受け持っている。
今回リュウグウ王国が参加するということで、つい話題にあがり、ヘレンはふと脳裏にある海賊の姿を思い浮かべる。
「リュウグウ王国といえば…麦わらのルフィが大暴れしたと聞いたけれど……それが関係あるのかしら」
「……ミコト様の弟か…」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
リュウグウ王国といえば。
内戦が起き、それに麦わら海賊団が関わっていると聞く。
情報は全て正しいわけではないというのは分かっているが、恐らく麦わら関係は嘘ではないのだろう。
麦わらのルフィは、ミコトの実弟。
それは2年前に公開される前からヘレン達は知っていた。
全員の脳内に麦わらのルフィの顔が浮かんだ。
そして―――
「「「「クッッッソ羨ましい!!!!!」」」」
ドン、と4人が同時にテーブルを叩く。
おっとりとしているオードリーでさえもそのキャラを殴り捨てていた。
「世の中不公平ですよ!なんであんな破天荒がミコト様の弟になれて溺愛されるんですか!?」
「ミコト様の弟とかあの男どれだけ前世で徳を積んだんだ!!!」
「変われ!!お前そこ変われ!!!」
「あたしもミコト様の妹になって可愛がられたいわぁ!」
エースやサボだって弟だが、彼は血が繋がっていない。
血が繋がっていなければというわけではなく、彼らだって妬みの対象である。
信仰のごとく慕っているミコトの身体と同じ血が流れており、生まれた瞬間からミコトに溺愛されるという勝ち組のルフィがミコトの
信者は妬みどころか恨みを向けていた。
だが、それ以上に妬ましい…いや、憎らしい存在がいる。
オードリーの『妹になりたい』という言葉に、3人はハッと思い出す。
「妹……"冷酷ウサギのアスカ"」
それが、冷酷ウサギと異名を名付けられたアスカ。
彼女は四皇の父を持ち、ミコトの弟に取り入って(違う)ミコト様という女神の妹の座に着いた忌まわしい女海賊である。(色々と着色済み)
アルダの呟きにヘレンもオードリーもエルシェも顔を顰めた。
3人の思い描くルフィとアスカの顔はこれでもかと醜悪に描かれていたが、この場にツッコむ者はいない。
「麦わらも弟…冷酷ウサギも妹…革命軍のNO2も弟…火拳も弟……今更妹1人増えてもいいですよね…」
「いい、いい…全然増えても不自然じゃない」
「4人増えてもぉ、ぜぇんぜん不自然じゃないわぁ」
「というか…冷酷ウサギこそ前世にどんな徳を積んだのかしら…私も今からでも間に合うかしら…」
「今から徳を積み来世で生まれ変わったミコト様の家族にってか?」
「前世とか気ぃ長すぎじゃないですか?」
「あたしはぁ今すぐ妹になりたいわぁ」
「いや…妹もいいけど…私はミコト様のお子になりたい…」
「うわぁ…ないですわぁ…」
「え?」
「発言する時はちゃんと考えてから発言しろ」
「え?」
「気持ちは分かるけどぉ…ちょぉ〜〜っと気持ち悪いわぁその考え方ぁ」
「えっ…だ、だってせっかくご結婚されたわけだし…次の人生に賭けるより今死んでミコト様のお子に生まれた方が早くない?」
「すまない…その考えは理解してやれそうにない…」
「えっ」
「ヘレンさんってちょいちょい言動がやばいって前から思ってたんですけど…ガチだったんですね…」
「えっ」
「そぉいえばぁ…ヘレン、任務続きだったものねぇ…ちゃんと休まないと駄目よぉ?良いマッサージ屋さんとアロマ屋さんを知っているからぁ後で教えてあげるわねぇ」
「えっ」
ヘレンは同僚にドン引きされた。
気持ち物理的に彼女達と距離が離れている気もする。
ヘレンはなぜ引かれるのか分からないが、とりあえず落ち込んだ。
「結婚と言えばぁ…お2人のお子はどんなお子になるのかしらねぇ」
肩を落とすヘレンを慰めるでもなく、2人は将来生まれるであろうミコトとスモーカーの子供を想像する。
「まあ、相手は腐っても中将だしな…ミコト様のお子というだけで将来は有望だろう…なんせミコト様ご自身大将であるしミコト様の祖父は英雄のガープ中将だ」
「旦那さん、叩き上げだからぁお心も強いお子が生まれるといいのだけれどぉ…ミコト様、血筋は良いのだけれどお心がちょぉーっとだけ弱い方だからぁ…」
「ミコト様の支えが増えるのはいいことですけどね」
エルシェの『支えが増えるのは』という言葉に、2人は頷いて同意した。
ミコトの実力は3人も良く知っているが、心が弱いのも知っている。
だからアルダやヘレンは最初ミコトが結婚すると知って絶望を味わったが、オードリーとエルシェは逆に安心した。
相手がスモーカーだからだ。
オードリーもエルシェもスモーカーを知っているわけではないが、彼は有名だから知っている。
所謂叩き上げの彼を夫として傍に置いていれば、ミコトの支えになってくれるのを2人は期待したのだ。
それに、彼だったらミコトに対してイエスマンにはならないのも評価が良い点でもある。
それに、彼は確かにミコトの事を気に入らないし苦手だったため態度も刺々しかったが、そこに悪意がないのを2人は気づいていた。
久々にミコトと再会した時、ミコトの魅力が以前よりも増していた。
上官の幸せそうな表情や雰囲気を見て、スモーカーと本当の意味で結ばれたと分かりオードリーとエルシェは安心した。
「あら、盛り上がっているのね」
すると、扉が開けられ、話題になっていたミコトが入って来た。
推しの登場に、4人は内心『うひゃあ!』と喜びと共に驚いていたが、そこは鍛え上げられた海兵…表には出さず立ち上がりミコトを出迎える。
「お疲れ様です、ミコト様」
「五老星とのお話どぉでしたぁ?」
「どうもこうもないわ…相も変わらず実のないお話ばかり……とっとと隠居してくださらないかしら」
オードリーの問いに答えるミコトだが、『あら、ごめんなさい…お口が悪かったわね』と悪びれる様子もなくコロコロと笑う。
その笑みに癒されながら、4人は同意と言う意味でコクリと頷いた。
アルダがミコトのために紅茶を淹れようとしたが、それをミコトが止めた。
「先ほどお爺様から時間通りに着港するとのご報告がありました…出迎えに向かいましょう」
予定的には、五老星の後にクロコダイルの元部下だったあの男と会うことになっていたが、時間的に無理だと思い、五老星の許可を貰い会議の後に回すことにした。
そしてアルダ達の下へと向かおうとした丁度そのタイミングで祖父から予定通りの時間に着港すると連絡を貰った。
今出ても時間的に待つことになるが、ギリギリや遅刻するよりはいいだろう。
それに待機は慣れている。
ミコトの言葉に、アルダ達はすぐに身支度を済ませミコトと共に部屋を出て行った。
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