(269 / 274) ラビットガール2 (269)

ミコトはマリージョアからボンドラへ乗ってわざわざ下まで迎えに来ていた。
ボンドラとは、シャボン玉で飛ぶリストである。
乗り物の下に大きなシャボンを付け、4本のワイヤーロープを伝うように上下して人などを運ぶ乗り物。
ボンドラからミコトが降りると、騒めきは大きくなる。


「大将黒蝶…!?」

「世界会議に大将が表に出るなんて初めてじゃないか!?」

「ほ、本当にリュウグウ王国が参加するのか…!」


リュウグウ王国が参加するのはすでに広まっていたが、ほとんどは半信半疑だった。
リュウグウ王国の王族が参加したのは、過去の会議でたった1度。
今回で2回目となる彼らの参加を疑うのは仕方ないだろう。
だが、ミコトの姿を見て信憑性が増した。
世界会議に大将も護衛の任に当たっているのは誰もが知ることだが、わざわざマリージョアから降りるのは初めてである。


「それにしても…なんて美しさだ…!」

「女帝ハンコックと並ぶ美しさ!まさか本物をこの目で拝めるなんて…!」


記者たちがミコトに向けてシャッターを切る。
ミコトは女帝ハンコックに並ぶ美女と名高いが、その役職柄そう気軽に顔を拝めるわけではない。
海賊であり、七武海でありながらも会議に一切出ないハンコックの方がレア度は高いが、それでも美しいミコトを写真に収めない理由はない。
美女の写真は何枚あったっていい。
ミコトは自分の美貌に自覚している。
それはハンコックも同様だが、ハンコックとの違いはパフォーマンス性だろう。
ミコトはこちらにカメラを向け光と共に写真を収める記者に向けてウィンクをした。
その瞬間気絶する記者が何人か出てしまう。


「モルガンズ社長!駄目だ、化石化してる…」

「分かる!分かるぜ!社長!!」


その中に、新聞王と呼ばれるモルガンズもいた。
ミコトは何もしていないが、ウィンク1つで大勢を気絶させ化石化させていく。
ハンコックとの違いはこれである。
ミコトは自分の行動1つ1つに大げさに反応をするのを見るのが楽しく、ついサービスしてしまう。
ガチ恋されてストーカーされても自分で何とか出来るから余計に質が悪い趣味である。


「見ろ!また船が続々と到着だ!道を空けろ!王族が通るぞ!!」


美女のミコトに心を奪われてはいたが、その間も次々と王族が到着していく。
ミコトも王族の邪魔にならないよう道を空けながら、祖父の船を待つ。
すると…


「ああ!あの船は!」

「ついに来た!!」


その時はきた。
市民の声は更に大きくなり、これまでにない歓声で盛り上がっていた。
それもそのはず。
ミコトは祖父の後ろにいるその人物に心の中で目を丸くした。


(確か…しらほし姫…でしたっけ……まさか姫君も世界会議にご参加なさるとは)


ガープの後ろにはリュウグウ王国の王族であるネプチューン王、その子息であるフカボシ、リュウボシ、マンボシの3人の王子、そして――しらほし姫。
巨体を持つ王に似たのか、兄達よりも倍の体格を持っていながらも、その姿はとても美しく愛らしい。
初めて地上に上がったのだろう、おどおど不安そうな様子が庇護力を掻き立てられる。
ミコトやアスカとは別の美女だ。
ミコトは原作でも魚人島の存在は知っていたし、この世界にいるのなら一度は聞く国の名だ。
原作に出る前にこちらの世界に転生してしまったので、一体どんな人物なのだろうと楽しみにしていた。
差別ではないが地上のことを知らないが故に起こるであろう問題を警戒していたが、兄達やネプチィーンの様子からその心配はないだろう。
問題は妹であるしらほし姫だが…だからこそ自分が駆り出されたのだ。
この5人を守るのがミコトに与えられた任務。
まずは一歩足を踏み出すことにした。


「ミコト!待たせたの!」

「大丈夫ですわお爺様…わたくしも来たばかりです」


最初に気づいたのは祖父だった。
可愛い孫の姿に、ガープは嬉しそうに声を弾ませ笑顔を孫娘に向ける。
そんな祖父に釣られるように、ミコトも嬉しそうな笑みを祖父に向けた。
そしてガープが声をかけ、自分達の前に立つミコトに、リュウグウ王国の王族達も気づく。
5人の視線を受けながら、ミコトと部下のアルダ達は頭を下げる。


「お初にお目にかかりますリュウグウ王国の王族の方々…慣れない船旅お疲れ様でした…ここからはガープ中将に代わりわたくしがあなた方の護衛をさせていただきます…海軍大将黒蝶、モンキー・D・ミコトと申します」

「大将…!?」

「なんと…大将が護衛してくれるのか…」


大将という役職は海底にいたネプチィーン達も知っている。
その大将が護衛してくれるというのは彼らにとって心強い。
しかし、心強いと思ったのは役職だけではなく…


「あ、あの…もしかしてルフィ様とご関係がおありなのですか?」


話しかけたのはおどおどとしていたしらほしだった。
人見知りがある妹が知らない人に自分から話しかける姿に兄達は驚く。
その問いにミコトは頷いて返した。


「はい、ルフィは弟です」

「まあ!ルフィ様のお姉様だったのですね!」

「姫様はルフィとお知り合いなのですか?」


ルフィの姉と聞いたしらほしは破顔し、フカボシ達はルフィの姉であるミコトを驚いたように見つめた。
ルフィの祖父であるガープに次いで、姉であるミコト。
その奇跡のような縁に驚く他にあるだろうか。


「まあ…弟が姫様にそんなご無礼を?」

「い、いえ!無礼だなんて思っていません!わたくし、ルフィ様のおかげでこのように地上へ行くことが出来るようになったのです!それまで泣いてばかりでしたから…」


しらほしはルフィの姉というだけでミコトにすぐに懐いた。
ミコトはルフィの関係者というだけで警戒心のないしらほしに、内心苦笑いを浮かべながら、しらほしとの会話を広げる。
どうやら弟は魚人島を救ったらしい。
更には引きこもっていた…いや、引きこもるしかなかったしらほしに外に出る勇気を弟は与えたらしい。
相変わらず無茶をする弟に、ミコトは思わず笑みがこぼれる。


「おお!美女が並んでいる!」

「なんて美しいんだろうか!」

「まさに絵画!」


しらほしとミコトのツーショットに、周囲の記者が沸いた。
ミコトは気づいているが、記者は許可を得て仕事をしているので何も言わない。
勿論、度を超えたら注意くらいはする。
むしろ魚人への印象を変えるチャンスだと、ミコトの方からシャッターチャンスを与えていた。
しらほしは気づかずミコトとの会話に花を咲かせていた。
2人の周囲にはキラキラと輝いているように見えた。
美女と美女が並んだ効果だろう。
その効果は抜群でパシャパシャとカメラのシャッターを切る音が止まない。


「モルガンス社長!?駄目だ!見惚れちまってる!」

「あんた結局何しに来たんだよ!!」


今度はモルガンズは2人に見惚れて固まってしまう。
仕事に来た上司に、部下は思わずツッコんだ。


「ガープ!しらほしはすごい人気じゃもん!!」

「魚人島の人魚姫と言やぁ、海賊女帝ハンコックとわしの孫にも引けを取らん美しさじゃと地上でも噂だけは駆け回っとる!あれだけべっぴんなら期待など超えとろう!」


地上の人間達に何をされるか恐々としながらも参加した会議だが、娘が意外にも人間達に人気だったのには驚いた。
それをガープに聞けば、しらほしは地上では噂になっていると言う。
それも人魚姫という文字だけで美化されまくった噂だ。
勝手に噂されたしらほしにとったらいい迷惑だが、しらほしほどの美しさなら何も言われないだろうとガープは太鼓判を押す。


「確かにルフィ君の姉君も輝かんばかりの美しい女性ですね…」


ガープの言葉に、賛同するようにフカボシが頷く。
魚人であるフカボシ達から見てもミコトの美しさには抗える気がしない。
コクリと頷く兄に、弟2人はお互い顔を見合わせた。


「兄上、やっとアスカさんを忘れられたのかラシド〜♪」


魚人族にとって人間の容姿の良し悪しの基準は人間と異なるが、兄が美人と言うのだからミコトという女性は美しいのだろう。
生真面目な兄が女性を褒めるのは珍しく、やっと片想いしていたアスカを忘れられて他所を向く余裕が出来たのか思った。
弟の呟きにフカボシは、ふと、笑う。


「私のアスカさんへの想いを侮ってもらっては困るぞ、お前達……あんな別れ方をされてアスカさんを忘れられるとでも思っているのか?」

「「でしょうね」」


実の兄にどや顔を向けられた。
振られてまだ1年も経っていない。
あんな別れ方を…振られ方をされては、忘れたくても忘れられない。
きっとアスカはそれに気づいていないだろう。
まだアスカに熱を上げているフカボシにとったらそれでも『なんて小悪魔で愛らしいんだ』と言うだけだろう。
とりあえず、どや顔でいう事ではないのは確かである。


「ルフィ様のお姉様!もしかしてあれば地上の…"お森"というものでしょうか!?」

「あれは木ですね…森はあの木がもっと沢山茂って薄暗くなっているものを指します」

「まあ…もっと沢山の"お木"がおありなのですね…」


地上は初めてのしらほしは、一本の木を森と勘違いしていた。
それを訂正する可愛い孫をガープが見守っていると…


「おい!英雄ガープ!海軍大将黒蝶!!」


割って入ってくる者がいた。
名を呼ばれ2人がそちらへ視線を向けると―――見…慣れない顔が立っていた。


「私が誰だか分かるな?」


その者は、ガープとミコトにそう問う。
ミコトとガープは顔を見合わせる。
祖父が『ミコト、コイツ知っとるか?』と視線で問いてきたので、ミコトは首を振って答える。


「誰じゃクソガキ…そこをどけ!」


当然、見覚えのない者などに構っている暇はない。
和やかな雰囲気ではあったが、ミコトもガープも任務でここにいるのだ。
姿からして王族なのは分かるが、ガープがだからと敬意を払うわけがない。
祖父の態度から、ミコトは『この方クズなのね』と思う。
弟と祖父の直感は侮ってはいけない。
クソガキと言われたその者はガーンとショックを受けた表情を浮かべた。


「私は貴様らの故郷ゴア王国の王!ステリーであるぞ!よってその国民である貴様らは私の部下の様なものだ!覚えておくがいい!!」


その者は、現ゴア王国の国王だった。
その国はガープとミコトだけではなくルフィとアスカとサボの生まれ故郷であり、エースの育った国でもある。
そして、ステリーはミコトの義弟であるサボの義理の弟でもある。
ゴア王国の王が登場し、固まっていたモルガンズは復活し、頭の中にあるゴア王国という国を思い出す。
その国は特に特筆するものがない平和な国ではないが…


「ゴア王国は平和な田舎の国にして極悪人共を輩出している!ガープと黒蝶は例外…ドラゴン、サボ、火拳、麦わら、冷酷ウサギ…興味深い!」


ゴア王国は特に特質すべきものはないが、その国には多くの有名人を輩出している。
悪も善も関係なく、名を轟かせている人間を生んでいる興味深い国だと、モルガンズは興味を持っていた。
ミコトとガープはその国の出身者。
2人は海軍所属なため、ゴア王国の下と言うわけではない。
さあ、どう対応するのか皆固唾を呑んで見守っていた。
だが、やはり伝説の男はどこまでも伝説であった。


「そこをどけ、顔がムカつく」

「無礼すぎて言葉がでない…!!」


ミコトとガープの態度(特にガープ)に、護衛達や王妃は無礼だと騒ぎ立てていた。
だが余計な騒ぎは騒動の元なので、アルダに対応させ落ち着かせる。
無礼な態度を取られている本人は気を取り戻し、ガープとミコトを呼ぶ。
しかし、ミコトには断られてしまう。


「わたくしはリュウグウ王国の王族の方々を護衛する任についておりますのでリュウグウ王国の王族の方々から離れることはできかねます」

「なんだと!?私は貴様達が生まれ育った国の王だぞ!そんな私が言っている!」

「海兵は世界政府に属しておりますので、国の所有物でも一個人の所有物でもございません」

「ミコトは今忙しい!わしが聞いてやるから早う言え!」

「んなーー!ことごとく無礼な奴らだな…!!」


国王だというのに命令を聞かない2人にステリーはもう怒りさえ湧いてこない。
しらほしが気を使って『わたくし達はよろしいので』と言ってくれたが、ミコトはやんわりと断りを入れた。
ミコトの任務の最優先事項はゴア王国ではなく、リュウグウ王国の安全だ。
少しでも離れた隙を狙われては大将の名が泣く。
孫は仕事しなければならないので、ミコトと合流した時点で仕事は半分終わっているガープが聞くことになった。
しかし…


「…あんなゴミクズにか」


その言葉でミコトは何となく察した。
ガープは厳しい面はあるものの、それでもおおらかで懐の広く若い海兵だけではなく中将や大将までの実力のある海兵達からも慕われている。
ミコトもその1人だ。
そんなガープが『ゴミクズ』と呼ぶのはたった1人しかいない。


「く…!こうなったら…黒蝶!耳を貸せ!」


恐ろしさのあまりに後ろへ派手に倒れたが、諦めきれないのかステリーはしらほしの傍にいるミコトに駆け寄り耳を貸す気配のないミコトの耳を勝手に借りた。
そして、その返事は…


「…あなた正気でして?考え直した方がよろしくてよ」

「えーーっ!?」


ガープとほぼ同じだった。
ステリーは2度、後ろへ倒れた。
後ずさり青い顔を浮かべガープとミコトを交互に見る。
テスリーはミコトとガープのコネを使ってゆくゆくは天竜人になりたいと頼んだ。
しかし、返ってきたのは無礼千万な回答。
衝撃的すぎてミコトから敬語が消えているのに気づいていない。


「あ!駄目なんじゃった!今のナシ!」


孫も似た反応をしているのを見て、ガープは思い出す。
前の元帥からも今の元帥からも口酸っぱく天竜人関連での暴言は控えろと言われていたが、そこはモンキー家ということで片づけるしかない。
モンキー家に気遣いという文字は息子と孫娘しか存在しない。(その孫娘はあえて気遣いなんてしていないが)
今のを無かったことにする祖父にミコトはクスリを笑う。


「構いませんわおじい様…上から何か言われればわたくしの権限を使えばよろしいんですもの」

「ああ、そういえばそうじゃな」

「せっかく頂いた権限ですもの…使わず埃が被るよりもすり減るほど使った方がお得でしょう?」

「そりゃそうか!わっはは!!」


わはは、うふふ、と笑う2人に、ステリーはこれでもかと青ざめる。
ミコトとガープの行動や言動は、聞かれれば死罪にもなる。
幸い2人とも『天竜人』と呼んでおらず、政府関係者も少ない。
ステリーは自分も処罰の対象となると思い恐れていたが、処罰されないと分かれば安堵した。


(こいつらコワッ!!!)


英雄の老兵、大将の女海兵。
2人は世界が誇る有能な人間だ。
自分の国から輩出されたのだから、その者達は自分の物だと思い込んでいたテスリーは、2人の怖い者知らずな言動に恐怖を感じた。

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