ステリーのちょっとした騒動はあったが、ミコトは祖父と別れリュウグウ王国の王族達と共にボンドラでレッドラインの頂上付近に着港した。
途中、ステリーがビビリを発揮させて騒いでいたが他の王族達は慣れているように静かに優雅にボンドラを乗っていた。
はじめて太陽を見て感激するしらほしにミコトは微笑ましく思うものの―――ある気配に気づくが…気づかないふりをした。
「長旅ご苦労様です!」
ボンドラから降りて王族達は長く広い階段を上り、やっと聖地であるマリージョアにたどり着いた。
地上自体初めてなしらほしはずっと目を輝かせている。
「なんて美しい場所!緑色のあれは『お森』ですか?」
「ええ、人工ですが」
しらほしの問いに答えたのは案内をしてくれた兵士の1人。
マリージョアは流石のミコトも詳しいわけではないので、マリージョア専属の兵隊に任せるのが一番である。
人工とはいえ森を見る事が出来たしらほしは、傍にいるミコトに『ミコト様っ!お森ですよっ!』と教えた。
森はそう珍しくはないミコトは喜ぶしらほしに茶々を入れるなどせず『はい、森ですね』と微笑んだ。
すっかりミコトに懐く妹と娘を、ネプチィーン達も微笑ましそうに見守っていた。
「しらほし様達にはこの連結棒を」
兵士達は身体の大きいリュウグウ王国の王族達に杖のような棒を持たせ、棒を固定させた。
リュウグウ王国の王族達の安全を確認した兵士たちは、"道を動かした"。
逸れに大げさにしたのは、やはりステリーだった。
「お動きになられました!」
「トラベレーターです…地面が動きます」
ここからパンゲア城までは距離がある。
来客は地位のある人間が多いため、歩道ではなく自動で動く道が開発された。
「父上、普通の歩道を行きませんか?しらほし、お前も森を見たいだろう?」
自動で動く地面は確かに便利だが、フカボシは妹が外を怖がるのと同時に憧れも持っているのを思い出し、動く地面ではなく己の足で散策しながらでも向かうことを父達に提案する。
「わあ!賛成ですお兄様っ!ねえお父様…」
「勿論よいが…時間は大丈夫かのう…」
その提案に一番乗り気だったのは、やはり、しらほしだった。
しらほしは父を期待したように見るが、娘に甘い父親は当然首を振ることを知らない。
だが、今は観光で来ているわけではない。
チラリとミコトを見ると、笑顔を向けられた。
「時間はまだありますので構いませんよ…人工ですが、ぜひお楽しみください」
「ありがとうございます!ルフィ様のお姉様!」
護衛をしてくれるというのもあるが、なによりミコトは魚人島を救ったルフィの姉。
どうしてもついミコトに頼ってしまいがちだ。
ミコトはネプチューンの視線に嫌がらず答えてくれた。
始まる時間は決まっているので、歩いて城まで向かっても余裕があるくらいだ。
ミコトの許可を得たということで、ミコト達護衛の海兵とマリージョアの兵士の数人がお供としてトラベレーターから降り、しらほし達に付き添いに歩く。
(嫌な気配がする…)
提案をしたフカボシは、妹の事も思ってはいたが、直感なのか乗ってはいけない気がした。
その直感は正しく…トラベレーターはカラクリで動いているのではなく――奴隷が動かしていた。
今も王族の下では労働を強制され命を削る奴隷達がいる。
「ルフィ様のお姉様…王族の方々はどのような方々なのでしょう?わたくしでもお友達になれる方はいらっしゃるのでしょうか…」
しらほしはミコトに声をかける。
勇気を出したのはいいものの、いざ直前となると怖くなったのか不安げにミコトに縋る。
不安そうにするしらほしに、ミコトは安心させるよう笑みを浮かべた。
「そうですね…今回はアラバスタ王国やドレスローザ王国やサクラ王国が参加なされるとお聞きしておりますので少なくともこの三国とは親交も深めるかと思われます」
「アラバスタ王国とドレスローザ王国とサクラ王国ですか?」
「弟が関わった国になります」
「まあ!」
「アラバスタ王国には姫様とお年がお近い王女がいらっしゃるようですので、親交を結べるかもしれませんね」
ミコトも国に詳しいわけではない。
職業柄、国と関わることもあるが、詳しくなるほどの親交はしない。
仕事ができなくなるので一応国のことは頭に入れてはいるが、王族の性格までは頭には入れていない。
下心で話しかけられるが、ミコトがやんわりと断っている。
とはいえ、純粋なしらほしと仲良くなれる国など限られる。
良くも悪くも、彼らはまさに王族である。
その中でも、今回は偶然か…弟であるルフィが関わった国が多い。
記憶に新しいドレスローザ王国に、アラバスタ王国、サクラ王国(元ドラム王国)に、元ドラム王国の王だったワポルが建国した悪ブラックドラム王国。
悪ふざけかと思う国名だが、ちゃんと天上金を支払っているので世界政府の加盟国として認められている。
アラバスタ王国にはしらほしと同年代の王女がいるのを教えれば、しらほしは『お会いするのが楽しみです!』と不安もあるもののルフィが関わった国の王女がいると知り興味津々にそう告げた。
その純粋無垢なしらほしの笑みに、ミコトは釣られたように笑う。
会話と風景を楽しみながら進んでいると、パンゲア城に到着し、その城内にある社交の広場に案内された。
「…これみんな王族と護衛か…世界中の!」
「明日から会議中の7日間…親族も退屈してる暇はないな…」
そこにはすでに王族達が到着しており、それぞれ親交を深めるために対話などで賑わっていた。
目の前の光景に圧巻されたフカボシ達は唖然としていたが、どこか安堵していた。
差別を心配していたが、何より7日もの間、会議に参加しない自分達はどう過ごすのか考えていたのもある。
だが、地上の国との交流などで退屈と思う暇もなさそうで安堵した。
早速マンボシが気の合う王子と盛り上がっているのが見えた。
父であるネプチューンも他国の王族達と話を弾ませており、そんな2人の姿を見て王子2人は身体の力を抜く。
「では、わたくし達は控えておりますので何かありましたらお声をおかけください」
この場は王族達の交流を目的に開かれている。
特別な護衛と言えど後ろについて回ることはできず、他の護衛と同じく控えることになっている。
部下と共に一礼して下がろうとしたとき、フカボシに引き留められた。
「ミコト殿…その…護衛はどのような形で行うのだ?」
フカボシがミコトにどのように護衛をするのかと問う。
その問いに内心首を傾げたが、自国の護衛ではないのだから不安もあるのだろうと思い答える。
「こちらでは王族の方々が親睦を深めるために開かれているのでわたくし達護衛は離れた場所で控えさせていただきます…王が会議にご参加される際はわたくしが控室にてではございますが護衛につかせていただき、その間の王子方にはわたくしの部下がつかせて頂く予定ではありますが…何か気になされる点でもございましたか?」
ミコトはリュウグウ王国の王族達を護衛するために駆り出されている。
なので、様々な国の王族達よりもリュウグウ王国最優先するのは当然である。
だが、リュウグウ王国の王族達にも優先事項が存在する。
やはりトップである国王のネプチューン王が最も最優先にされる存在で、その次に第一王子であるフカボシ、そして第二、第三、第一王女という順だ。
とはいえ、この場は交流を目的としており、護衛は離れて控えることになっている。
この広場を離れれば、1人につき1人に護衛を付けるつもりではいる。
勿論、最優先事項であるネプチューンはミコトがつき、会議中は流石に王以外は入れないので控室で待機となる。
何か気になる点でもあるのかと問いかけた時、ふと、ミコトの視界に男達に群がれているしらほしの姿が写った。
「いやー!海底の姫君!噂にたがわぬ息を呑む美しさ!どうです?我が息子は独身でして!」
「おい、売り込みが早いぞ!ウチにも一人息子がおりましてな!」
しらほしの美しさに惹かれた王族が息子の嫁に迎えるためにこぞって集まって来た。
息子も息子で乗り気だが、誰一人しらほしを気遣う様子はない。
『この子悪くない!』『この娘好きー!』と上からの会話にミコトは表では微笑みを絶やさないが、裏では『女性の扱いがなっていない』と呆れてジト目で王族の男達を見つめていた。
王族だから恋愛する必要はないため必ずしも口説く必要はないのだろうが、それにしては女を物のように扱いそうな男達に呆れてしまう。
(やっぱりあの人は世界で一番の魅力的で素敵な男性ですわね)
王族達を見てミコトは夫であるスモーカーへの愛が更に深まった。
心の中でポッと頬を染めて乙女のように頬に手を当てる。
スモーカーも口説く男ではないが、そこは恋は盲目と言うものだ。
それに、夜を共にしてみると、案外彼は優しいのだと気づいた。
そこも惚れるポイントである。
「いや!人魚姫様!ぜひウチの倅と!」
「オホホホ!ウチには美しき王子が3人!」
「あ…あの…」
1人声をかけると、我先にと次々と自分の息子を紹介する王族が増えていく。
この場にはいない愛しい旦那様に想いを馳せていたミコトだったが、困っている様子のしらほしを見て助け舟を出すかと動こうとした。
しかし…
「タイプじゃないんです」
しらほしは王族達を目の前にそう断言しキッパリと断りを入れた。
それには流石にミコトは表情が崩れ目を瞬かせた後、クスクスと愉快そうに笑った。
後ろに控えているアルダ達も思わず笑ってしまうほどだった。
ミコトのしらほしの印象は気弱な部分はあるが何事にも好奇心旺盛で優しい子だったが、それを見直さなければならないなと思う。
まさか初対面で、わらわらと迫るような男達にはっきりと好みではないと断ると思っていなかった。
ミコトは他人だから笑っていられるが、身内の兄達はそうではなかった。
「い、いや!妹の今の言葉は方言で…『私も結婚してないんです』という意味で…」
フカボシがすかさずフォローをし、リュウボシが妹に『こういう時はウソでも『嬉しいです』とか『いつかお食事でも』とかやんわりとはぐらかすんだ!』と注意していた。
しらほしは良い子ではあるが、何分素直すぎて幼い頃から命を狙ってきたバンダー・デッケン九世の告白もハッキリと『好みじゃない』と周囲の目関係なく断っていたほど嘘がつけない。
流石に国際問題に発展しかけないので、フカボシが申し出を断るしらほしに対して怒っている王族達を宥めている間に妹を離れた場所に連れ出した。
それを見てミコトはアルダとオードリーにしらほしとリュウボシを追わせる。
しらほしのあの性格では他の護衛達のように注視するよりも、傍に控えた方がいいと判断した。
ヘレンとエルシェはネプチューンとマンボシの護衛のために護衛達に与えられたスペースへと向かわせ、自分はフカボシの下へと向かう。
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