(271 / 274) ラビットガール2 (271)

部下達が指示通りに動いたのを見送りながら、怒りが収まらない王族達の対応させられているフカボシの下へと向かう。


「皆様、落ち着いてください」


怒りをあらわにしていた王族達だったが、女帝ハンコックと並ぶと噂されている美女の姿にピリついた雰囲気が少し緩和された。
スモーカーと結婚したという記事は王族にも届いているが、人妻となって更に輝きを増したミコトの前では独身か人妻かは関係なかった。
王子どころか王でさえも頬を染めている姿にミコトはニコリと笑みを浮かべ更に頬を染めさせる。


「姫様は初めての地上でございます…王女として人との接し方を学んでおられる最中でございます…どうか今回はわたくしに免じてお許しいただけないでしょうか…」

「「「許す〜!!」」」

「寛大なご対応痛み入りますわ」


困ったように笑う美女を目の前にすれば、相手が貴族であろうが王族であろうが狭い心を広くさせる。
ミコトにかかれば王族など目をハートにさせ、周囲にハートを散りばめ、語尾にハートを付けさせるくらい簡単な作業だ。
まだ海軍将校の男どもの方が手強い。
いや、彼らはミコトの本性に気づいているから引っかからないのは当然だろうか。
ミコトは嬉しそうな演技をしながら内心『チョロすぎてお遊びにもなりませんね』と辛辣な事を思う。
ミコトの言う面白い男性とは、主に赤犬の事を指すので正反対の王族の男達では面白くもないだろう。


「す、すみません…ミコト殿…この場を収めていただきありがとうございます…」


それをフカボシはポカーンと口を開けて見ていた。
確かにミコトは絶世の美女と呼ばれてもおかしくないほどの美貌を持っているが、魚人と人間の違いなのだろうか…コロッと態度を変える要因とは思えなかった。
いや、フカボシの場合、ただ単純にアスカではないからだろう。
ミコトがもしもアスカなら、フカボシなら1秒も持たない。
恋はまさに罪深き感情である。
フカボシの感謝の言葉にミコトは王族達に向ける仮面を取りフカボシに笑みを浮かべる。


「黒蝶!今度ぜひ我が国に来てくれ!我が息子が貴女をご案内しよう!」

「おい!また抜け駆けを…!黒蝶殿!こんな田舎国なんて行っても面白みもないですぞ!私の国ならば必ず黒蝶殿を楽しませることができますぞ!!」

「なんだと…!?」

「まあ!一介の海兵であるわたくしをご招待していただけるなんて嬉しいですわ!皆様のお話をお聞かせいただいてもよろしいですか?」

「「「ぜひ!!」」」

「あっ…ですが…わたくしは今、リュウグウ王国の王族方の護衛を任されておりますの…それにこの場所は王族の方々が親交を深めるためにあります…わたくしが護衛すべき方を放ってはできませんわ…どうしましょう…」

「「「ではフカボシ王子もご一緒に話をしようではないか!!」」」

「フカボシ王子はそれで構いませんか?」

「え、あ、はい…」


フカボシはもう何がなんだか分からないまま頷いた。
フカボシも一緒にと言ったが、王族達は一切その気はなくあわよくばミコトと恋仲になって嫁としてゲットしてやろうという下心しかない。
とはいえ、ミコトも王族の連れて来た護衛達がいるとはいえ仕事を放棄できない。
それに例え王族であろうが下心しかない男など扱うのは簡単で、王族達はミコトに護衛されるフカボシを妬んで輪の中から弾こうとするもさりげなくミコトに防がれる。


「我が国には他の国にはない絶景がある!黒蝶!ぜひ見に来てほしい!」

「まあ、絶景!どのような風景なのでしょう!楽しみですわ」

「フン!絶景がなんだ!おれの国には舌が溶けるくらい甘くておいしいお菓子があるぞ、黒蝶!」

「お菓子!舌が溶けるなんてどんなお菓子なのでしょう!楽しみですわ」

「私の国には何でも願いが叶うという花が丁度開花時期なのだ!どうだ!共に見に行かないか!?」

「なんでも願いが叶うお花ですの!?見てみたいです!楽しみですわ」


フカボシの背後にはビシャーンと雷が落ちた。
衝撃的だったのだ。
ミコトは1人1人対応しつつ、最後には『楽しみですわ』で終わらせている。
穏やかに見えるが、適当なのだ。
一応1人1人回答を変えているので完全に適当というわけではないが、ここまで男が相手にされていない光景を見たことがない。
目の前の光景は言うならば、工場のライン作業である。
次から次へと流れて来る男を、ミコトは無心で興味も持たずただただ次へと流すだけの作業。
『楽しみですわ』は『はい次』である。
だが、男達は容姿と雰囲気で気づいていない。


(やはりアスカさんは素晴らしい女性だった…!)


目の前の男達が自分、ミコトがアスカの姿で重なって見える。
アスカからしたら、今の王族の男達と同類だっただろう。
なんていったって自分はアスカにとって気のない王族の1人だ。
すでに彼女にはローという男性に想いを寄せていたため、自分なんてただの邪魔な男にすぎない。
なのに、アスカはミコトのように適当な返事はせず考えて言葉を選んで返してくれた。
フカボシは改めてアスカへの想いを強くした。
この男、イチミリともアスカを諦める気はないらしい。
フカボシは国のため、国民のため、他国との繋がりは作っておきたいのだが、目の前にいるのはミコトにしか興味を持っていない男達。
今フカボシが声をかけても無視されるのが落ちである。


「ミコト様!!」


手の平で転がされていると気づかない王族達は今まで見た美女を優に超えるほどの美貌を持つミコトに鼻の下を伸ばしていた。
脳内は当然自分の嫁になってミコトを好き勝手している妄想だろう。
下心があればあるほど操りやすくてミコトは王族の男達は嫌いではない。(関わりたくはないが)
勿論、香りで人を操ることができる誘惑の術(テンプテーション)は使用していない。
いや、使用する必要はない。
中身のない会話を続けながらもミコトはフカボシ達を気にしていた。
大変そうに見えるが、目の前には下心しかない男しかいないのだから適当に返事をしてニコニコ笑っていればいいので仕事の内にも入らない。
『さて、どこで切り上げましょうか』と思っていると…ヘレンがミコトの下へと駆け寄る。
部下の焦った表情に何か問題が起こったことがすぐに分かった。


「どうしたのです…王族の方々の前ですよ」

「はっ!失礼しました!……少々ミコト様のお耳に入れたいことがございまして」


一応形式で軽く叱り、ヘレンの言葉から他国の王族の前で言うべきことではない問題が発生したと気づく。
ミコトはニコリと仮面を被り一言王族達に断りを入れてからフカボシと共に離れた場所に移る。
案内された場所にはすでにアルダ以外の部下達とネプチューンとマンボシもいた。
どうやらヘレンがミコトを呼ぶ間に、エルシェに王と王子を呼んできてもらったらしい。
ネプチューンとマンボシは聞いていないのか交流を切り上げられ困惑していたが、エルシェは髪で見えない険しい表情を表現するようにゆらゆらとかぎしっぽが揺れていた。
もうそれだけでミコトは問題が何か察していた。


「何が起こったのです」

「それが…―――天竜人が来ました…」


予想はできていたが、間違っていた場合もある。
そう思って聞いたが予想は当たってしまった。
天竜人。
世界貴族とも呼ばれる彼らは何をしても許される。
文字通り、彼らは人を殺そうと国を滅ぼそうと、許される立場である。
世界政府を創設し、ここ、聖地マリージョアに移り住んだ20人もの王達の末裔の一族である。
その天竜人の名に、フカボシ達は顔を青ざめ、ミコトは思いきり顔を顰めた。


「た、大変じゃないか!!父上!マンボシ!早くしらほしの下へ急がなければ!!」

「兄上も危険では!?今すぐ2人を助けに行くべきです!」

「勿論じゃもん!!しらほしの身に何かあればオトヒメに顔向けできん!!」


マンボシの明るい調子も忘れてしまうほどの衝撃である。
当然の行動だとミコトは冷静に思う。
ただ、彼らでは天竜人に立ち向かう前に潰されて終わりだ。
ミコトは青い顔のままその場を去ろうとしているネプチィーン達を引き留める。


「お待ちください…こういう時のためにわたくしがいるのです」

「だが!このままではしらほしは…!!」

「はい、分かっております…ですが陛下方が頭に血を上せてしまっては守る者も守れません…わたくしとあなた方はお会いしたばかりで信頼などなくご不安かとお思いでしょうけれど…どうかわたくしを信じていただけないでしょうか」


ミコトは焦りもせず冷静だった。
それが逆にネプチューン達の焦りを生む。
やはり魚人のことなどどうでもいいのか、と怒りに任せてギロリと睨むが、それでもミコトは冷静を保っている。
ジッと冷静に、静かに、落ち着かせるように言われれば激情も落ち着いた。


「…天竜人じゃぞ」

「はい」

「全てが許される世界貴族じゃ」

「はい」

「海兵の貴様に何ができる」


世界貴族は全てが許される。
彼らが黒と言えば、白であろうと赤であろうと黒になる。
そして、目の前にいる女こそ世界貴族を守るために存在している人間だ。
そんな女に何ができるのだとネプチィーン達は問う。
その問いにミコトは―――


「なんでも」


笑った。

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