ふ、と目を覚ませば見慣れた天井が映った。
その天井は女部屋の天井で、窓を見ればカーテンから零れる光はなく、どうやら時間的には夜中らしい。
風邪という事でナミは別の部屋で寝ておりここには一人しかいない。
アスカはぼうっとしていても仕方なく起きるにもまだ早すぎるという事で、何やら外から人の悲鳴や騒がしい音が聞こえるが気にするよりも寝すぎて眠たい本能に従い、重い瞼をそっと閉じてまた夢の中へと入っていった。
夢は見ていない。
睡眠が深すぎて夢を見ていないのだ。
しかし、アスカの意識は浮上してきているのか、物音と話し声でふと目を開けた。
「クエー!」
「しっ!カルー、駄目よ…アスカさんが起きてしまうわ」
「くえ…」
その声は聞き覚えがなく、アスカは薄らと開けられている瞼を開け、そちらへ向ける。
そこにいたのはナミでもサンジでもルフィでもなく…見知らぬ女性と、見たことのない動物だった。
その謎の人物は水を変えているようで、目を覚ましたアスカに気づいていない。
「だれ…」
「…!!」
気を使って静かに作業をしていたのだが、アスカの声でやっとアスカが目を覚ましたことに気づく。
ハッとさせ思わず口を手で覆う女性はアスカを見下ろした。
「ご、ごめんなさい…起こしちゃったかしら…」
「ううん…起きた。」
「そう……喉乾いてないかしら?さっき飲み水も新しいのにしたからちょっとだけ冷たいと思うけど……あ、そうだ…食欲はある?」
「食欲はないけど喉乾いた」
自分の声で起きたわけではないと知った女性はホッと胸を撫で下ろし、アスカに喉が渇いたか、そして食欲はあるのかと聞く。
アスカは喉は乾いたが食欲はないと伝えれば女性は承諾したように頷き『ちょっと待っててね』と少し離れたところに置かれている水差しへと向かう。
女性が水差しから水をコップに注ぐのを横目で見送っていると、自然と動物を目に捉える。
動物はカルガモのような生き物で、しかしアスカが知っている鴨はこんなにも大きくはない。
人が乗れそうなほど大きい鴨もどきとアスカは目と目が合い、鴨もどきはアスカと目が合って動物故か…目を反らせず冷や汗をかきまくっていた。
それでもアスカは動物から目をそらさずじっと見つめる。
それは女性が水の入ったコップを持ってくるまで続き、アスカは上半身を起こそうとするもまだ熱が下がらないのかダルさが強く体がいつも以上に重い。
それを察したらしい女性はコップをベッドサイドチェストに置きアスカの体を支えて起き上がるのを手伝う。
その際アスカの体の熱がパジャマ越しに伝わり、女性はその熱に心配そうにアスカを見た。
しかし喉が渇いているというアスカに水をやらないというわけにはいかず、女性はベッドサイドチェストに置いてあったコップを取ってアスカに渡した。
「はい、水よ」
「…ありがとう」
渡されたコップを手に取るとわざと常温にしているのか、それほど冷たさは感じられない。
しかし熱い喉にはそれでも丁度よく、アスカは今まで汗で出た分を取り戻そうと水を一気に飲み込んだ。
女性から『もっと飲む?』と問われそれに頷いて答える。
頷いたアスカを見て女性は水差しをこちらに持ってきて注いでやる。
「ビビ、アスカの様子はどう?」
二杯、そして三杯目の時、女部屋の扉が開かれ、アスカはやっと見知った人の顔に内心ほっと安堵した。
ビビ、と呼ばれた女性はナミに『今起きたところなの…喉が渇いたらしいから水を飲んでるわ』と報告し、ビビの言葉と起き上がっているアスカの姿にナミもほっと安堵の表情を見せる。
胸を撫で下ろしながらナミはアスカのベッドに歩み寄り、ベッドに座ってアスカの額に手を当てた。
「まだ熱があるわね…食欲は?」
「ない」
「そう…でも駄目よ。あんた昨日から何も食べてないんだから今日はお粥を食べなさい」
「…食べたくない」
「だーめ。せめて一口だけでもいいから食べて何か胃に入れなさい」
「………」
アスカの額はまだ熱が籠っており、最初に比べれば引いたのだが中々熱が引かない状態が続いている。
ナミは最初ほど苦しそうに眠る事はなくなったとは言え、移るといけないからという理由で隔離のように女部屋に押し込めベッドに一人で寝かせる事に罪悪感が否めなかった。
「ビビ、サンジくんにアスカが目を覚ましたからお粥を作ってもらえるよう頼んでくれない?」
「ええ、分かったわ」
罪悪感に苛まれるだけではアスカの風邪は良くはならず、とりあえずナミはビビにアスカのお粥を作ってもらうよう頼む。
サンジもまた心配していたためきっと張り切って作ってしまうだろう。
しかし一気に空っぽの胃に食べ物を入れるのは逆に体に悪い、と思い『作っても少量で』、とビビを通してサンジに釘を刺した。
ビビはナミの頼みに頷き女部屋から出ていき、ビビが出ていったため不思議な生き物もビビを追いかけて部屋を出ていった。
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