「…あのひと、だれ」
アスカはビビがいなくなってからナミに先ほどの女性の事を聞く。
アスカが眠る前まであの女性もあの不思議な生き物もこの船に乗っていなかったはずで、アスカは不思議でならなかったが、聞くタイミングを外してしまったのだ。
ナミはアスカを横にした後、ベットサイドチェストに置いてある水が張ってある洗面器に寝相などでアスカの額から落ちた生ぬるいタオルを取り、冷たい水に浸して絞って形を整えてからアスカの額に乗せ直す。
アスカは熱っぽい体に冷たいタオルを置かれビクッと小さな反応を見せたが熱い体に冷たいタオルは気持ちいいのか目を細める。
そんなアスカに笑みを浮かべながらナミはアスカの疑問に答えた。
――あの女性はナミも先ほど言っていたが、『ビビ』という。
正しく言えば『ネフェルタリ・ビビ』である。
元々彼女は敵としてルフィ達の前に現れたのだが、アスカが熱にうなされている間に色々あり彼女は実は国を救うために敵の組織に入り込んだ王女だった事が発覚する。
ルフィ達は彼女をアラバスタという王国に帰すために今、アラバスタを目指しているらしい。
グランドラインを入ってすぐに王下七武海に狙われる事になった自分達にナミは嘆いていたが、アスカとしては驚きはなかった。
その理由は『ルフィだから』で片づけられる。
ルフィがいるんだから平和に航海が出来るはずがないとアスカは分かっていた。
「ルフィは?」
「あいつは隔離中。」
「かくり?なんで?」
ビビの謎はあらかた知り、アスカはルフィが決めたことに従う事にした。
そもそもルフィが言って意見を変えるような性格ではないのを一番理解しているから反論もする気は一切ない。
アスカはそう思い、ルフィの事を思い出しナミにルフィの事を聞くと予想外の言葉が返ってきた。
隔離と聞かれアスカは当然首を傾げているとナミは呆れたようにため息をつきながら答えてくれる。
「あいつ熱で苦しんでるあんたを見て暴れるだけ暴れて何もしないから放り出したのよ…反省したって言って一回は入れてあげたけど眠ってるあんたの周りをうろうろするだけで役にも立たないし動けば絶対何かしら壊したりひっくり返したりして被害が拡大するから立ち入り禁止にしたのよ」
「……それは…また…すみません…」
「あんたが謝ってどうするの。」
ナミが言うには、アスカがローグタウンで熱で倒れた時もだが、熱にうなされているアスカにルフィが一番テンパっていた。
テンパって『お、おれが死ぬって言ったからかな!?アスカを置いて死ぬって言ったからアスカ怒ったのか!?』と訳の分からない事を言ってアワアワとさせていた。
一応落ち着かせてみてたが、長くは効かずアスカの傍にいておろおろするだけで看病という看病をしない。
それは今までアスカも病気になる事もなかったし、自分や山賊やエースも病気とは遠い存在だったためどうしたらいいのか分からなかったのだろう。
そして一番大きい原因は、フーシャ村に来たばかりのアスカと重なっていたからだろう。
ナミ達はアスカとルフィが幼馴染と知っていたからよっぽど心配なのだろうと最初こそあのルフィが大慌てする姿を見てほんわかと見守っていた。
しかし奴は騒ぐだけ騒ぎナミ達の真似をするようにタオルを水につけ直して額に当てなおそうとすれば、水を零し、タオルの水気を切ろうとすれば力いっぱい絞って千切り、おろおろしすぎて大げさな動きをし女部屋の物を落としたり壊したりと破壊活動を開始した。
ルフィが大暴れしたおかげで綺麗に整頓されていた女部屋は見事に汚くなり、ついにルフィはナミに追い出されてしまう。
治る物も治らない!と叱られ追い出されてしまったルフィは物凄く反省し、一度許してもらえた。
だがしかし…やはり心配が行動となりまたルフィは締め出しをくらい立ち入り禁止を食らう。
それを聞いてアスカはすぐに想像ができ、ナミに思わず謝ってしまう。
申し訳なさそうに謝るアスカにナミはルフィに対してため息をつきながらアスカの頭を撫でてやる。
「ねェ、ナミ」
「ん?」
「お粥、まだだよね…お風呂、入ったら駄目?」
ナミの手に気持ちよさそうに目を瞑っていたアスカだったが、ふと自分の体臭が鼻をかすめ、アスカはナミにお風呂に入りたいと言い出す。
二三日入っていないのはアスカ的に平気でもあった。
この船が手に入るまではずっとお風呂もないボートで航海していたのだからお風呂に入らない状態は別に苦ではない。
苦ではないが、好んでもいない。
アスカも女の子だから毎日お風呂に入れるなら入りたい。
状況からお風呂に入れないのなら致し方ないと思える程度であるが、ウイルスを追い払おうと体が熱を上げ汗を出していたおかげでこの体は見事に汗臭く、アスカは流石にお風呂に入ってすっきりしたいと思ってしまう。
ナミはアスカの言葉に悩んだ素振りを見せたが、どこかで風邪の時でもお風呂に入ってもいいというのを聞いた事を思い出したのかそれを了承する。
いくら風邪と言っても医者ではないナミ達では手探りで看病をするしかなかった。
「食べた後一緒に入りましょう」
「やだ…ルフィがいい」
「は?ルフィって…ルフィは男よ!?」
「うん…でも、ルフィがいい…ルフィじゃないと体も拭きたくない」
アスカの言葉にナミは目を丸くした。
アスカとルフィは幼馴染だというのはナミ達も知っている事である。
だから2人が仲がいいのもお互い近くにいることにも違和感もないし納得している。
だが、流石に幼馴染だろうと何だろうとお風呂まで一緒というのは納得できるものではない。
そもそもアスカとルフィがたまに今でも一緒にお風呂に入るのはアスカが熱で倒れた時に聞いていたため、最初程驚きはないが、やはり何度考えても兄妹でもない2人が一緒にお風呂にはいるのは可笑しいし、兄妹でも可笑しい。
「……ねェ…アスカとルフィって…付き合ってたりする?」
「?―――修行とか付き合ってたし、一緒に食べに町に行ったりはしてたよ?」
「あ、ああ、そう…」
そう、可笑しいのはだたの幼馴染の男女が一緒のお風呂に入る、という事である。
しかし恋人同士なら話は別で、ナミは彼らと出会ってからの事を思い出す。
思い出せば思い返すほど2人の距離感が近い事に気づき、改まった質問を投げかけた。
ナミの問いにアスカはキョトンとさせた後よくその質問の意が分からないと言わんばかりに小首を傾げた。
アスカの言葉にナミは『あ、これ付き合ってないわ』と思った。
だからこそ2人の近すぎる距離が不思議でならなかった。
ナミがアスカとルフィとの関係に頭を悩ませていると、ドタドタという物音とビビとサンジ達の慌てた声がナミの耳に届き、ナミはすぐさま"ある人物"を思い浮かべ、次は頭を抱えた。
「アスカ…ッ!!」
バン、と扉を壊さんばかりに入ってきたのは、ルフィだった。
アスカが目を覚ましたとビビから聞き、ルフィは慌てて来たのだろう。
遅かったのはゾロとウソップが立ち入り禁止にしていたため引き留めていたからで、サンジがお粥を作り終え運ぶ際2人の隙をついてアスカのもとへ駆け込んできた…というところだろう。
その証拠に後ろにはサンジやビビ、ゾロ、ウソップがおり、一直線にアスカに向かうルフィを呆れたような疲れたような表情で見送っていた。
アスカはルフィの姿にあからさまにほっと安堵した顔を見せる。
「アスカ!痛いか!?痛いのか!?」
「なんで風邪で痛いのよ!熱で苦しんでるの!騒がない!!っていうかあんた立ち入り禁止って言ったばかりでしょう!」
「いいじゃんか!アスカが心配なんだよ!!鬼かお前!!鬼ババァかお前!!」
「誰が鬼ババアだ!!あんたと歳変わんないわよ!!大体アスカが心配なのはあんただけじゃないわよ!!心配なら心配で別に心配してもいいけどあんたの場合周りを破壊するでしょうが!!大人しくしてたら私も立ち入り禁止にしないわよ!!!」
「じゃあ大人しくする!!」
「そうしなさい!!」
「っていうか…お前らが一番煩くしてんだけど…」
「「あ…」」
ルフィは真っ先にアスカに駆け寄り何故か痛いのかと聞いてくる。
痛くはなく苦しいだけだとナミに突っ込まれ頭を叩かれたルフィはそのままの勢いで声を張り上げ、ナミも釣られたように叱った勢いのまま対抗する。
言い合い話をつけた2人にウソップがポツリと突っ込みを入れれば2人はハッと我に返る。
ルフィは我関せずだが、ナミはウソップの突っ込みに肩を落とししょんぼりとさせ反省していた。
アスカは彼らのやり取りを見て、懐かしく感じた。
目を覚ませば必ず一人だったからアスカは寂しく感じていたのだろう。
しかし、アスカはずっと体が治そうと睡眠を取らせ寝てばかりだったから、彼らが代わる代わる様子を見に来ていることを知らないのだろう。
ナミとの言い合いでとりあえず大人しくすれば追い出されないと頭に叩き込んだのか(しかしまたすぐに忘れるだろうが)大人しくアスカの傍に着いていた。
そんなルフィとナミに苦笑いを浮かべ、サンジが土鍋で作ったお粥を持ってルフィの隣に立つ。
「はい、アスカちゃん、これお粥だよ」
「ありがとう」
お盆には美味しそうな匂いのお粥があり、そのお盆の上には土鍋のほかにも蓮華と茶碗一つが乗っていた。
ナミからの指示通りにちゃんと量は少なめである。
アスカはサンジから茶碗一杯に盛られたお粥を受け取り少しずつ口に入れる。
本当に食欲がなかったアスカだったが、一度食べ物を胃に入れてしまえば空っぽだった胃がもっと欲しいと強請るように空腹の反応を示し、アスカはあっという間に茶碗一杯のお粥を平らげた。
それにナミとサンジは安堵し嬉しそうにまた一杯、また一杯とお粥をよそった。
その横でルフィは『それ美味そうだな』と零してはナミに頬を抓られていた。
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