ちゃぽん、と水音が響く。
アスカはあの後お粥を食べ、お腹も満足し今まで流した汗を綺麗に流そうとお風呂にいる。
勿論一人で入れてくれるナミではなく、渋々だがルフィと一緒に入る。
ルフィに長い間入れない事と何かあれば誰かを呼ぶかすぐに出ることを何度も何度も口を酸っぱくさせて言い、ルフィはアスカとともにちょっと早いお風呂に浸かっていた。
風邪という事で熱いお湯ではなく、温すぎず熱すぎない丁度いいお湯につかり、アスカは久々のお風呂に満足げに息をつき、後ろから抱きかかえるように入っているルフィの体を背もたれのように自分の体を預ける。
別にアスカが逆上せないようにルフィは湯に入らず服を着たまま見張ればいいのだが、ルフィが三日以上入っていないのを知ったアスカがルフィも入れと強制的に入れたのだ。
強制と言っても弱っている今、ルフィの服を脱がし無理矢理お風呂場へ入れる事はできず、アスカはルフィの服を摘まみじっと凝視するだけだった。
しかし幼馴染に滅法弱いルフィはそれだけでも効果があったのか、今、ルフィはアスカと一緒に湯船に浸かっていた。
「しっかし…なんでナミはあんなにも怒ってんだ?」
「さあ?」
「サンジもずっと睨んでくるしよー…ゾロはなんか呆れてたみたいだし、ウソップも苦笑い浮かべてたし、ビビはよくわかんねェって顔してたし……あいつらそんなに風呂に入りたかったら先に入ればよかったのに…」
ルフィもアスカも能力者である。
海は当然だが、能力者というものは水という水に嫌われているのか…お風呂のお湯さえ海ほどではないが力が出ずらくなってしまう。
と、言ってももしお風呂で襲われても反撃できる程度の力の抜け具合ではあるのだが。
自分に寄りかかるアスカを見下ろした後、ルフィは天井を見た。
それは照れや女性の体を見ないようにというものではなく、天井を見てナミとサンジの渋々な顔を思い浮かべているからである。
アスカはルフィの言葉に久々のお風呂に機嫌を良くしながら首を傾げた後、指を組んだまま腕を前に伸ばし、そのまま上へと背筋と共に伸ばし今まで寝たきりだった分固まった筋肉を解す。
そのためルフィに預けていた体を少し放す事になり、ルフィは背筋を伸ばすアスカに目をやれば自然とアスカの背中が視界に映ってしまう。
風邪のため頭は洗えず、括ってあるためルフィから見れば背中の紋章がはっきりと見えてしまい、ルフィはその紋章を見つめていたが、そっとアスカの背中に焼き入れられている紋章へ手を伸ばした。
誰にも見せたくはない背中の紋章を触れられているはずのアスカだったが、ルフィやエースは別のため触れられることに嫌悪感はなくそっと紋章の縁をなぞるルフィに横目で振り返り『なに?』と聞けばルフィからは『別にー』という答えが返ってきた。
それから何も言わないルフィにアスカは好きにさせ、ルフィが背中に触れているため若干前かがみになっているアスカの紋章の縁を全てなぞり終えると今度は撫ではじめ、何度か撫でた後ルフィは前かがみになっているアスカの腰に腕を回し自ら抱き付くように引き寄せた。
その動きに波立つ水音が大きくなり、アスカは抱き寄せ自分の首筋に顔を埋めるルフィに不思議そうに見つめた。
「さっきからどうしたの」
「べつにー」
「そればっかなんだけど…」
「………」
「ね、どうしたの?」
「…お前さ……もう風邪なんてひくなよな」
「は?」
「…もうあんなお前見たくねェ……"あの時"のお前みたいでおれイヤだ。」
「…………」
抱きしめる事自体珍しくはない。
男女を超えた友情と片づけられるほど2人の関係は純粋やロマン性があるわけではなく、もっと重くて絡み合っている物である。
だからと言って2人の間に恋愛が絡むのは今のところはない。
ルフィはどうかは知らないがアスカは村や山にいたころは、ルフィもアスカもお互いいつか運命の人を見つけていずれそれぞれの家庭を持つのだろうと思っており、海に出た今では恋人や配偶者を見つけても見つけなくてもお互いが離れ離れになる想像が浮かばない。
それでもアスカはルフィの船を下りるつもりもないし、きっとアスカが恋人を見つけて結婚しようとも船から降ろすのも許しはしないだろう。
それはアスカだけではなく、ナミ達仲間や、これからなるであろう仲間達もまた同じことが言えるだろう。
ルフィの独占欲はみんなが思っている以上に強いのだ。
ずっと抱きしめて同じことばかり言うルフィにアスカは怪訝とさせた。
何度かの質問でやっと答えたルフィの言葉にアスカは思わず口を閉じる。
ルフィの"あの時"とは、アスカがフーシャ村に来たときの事を指すのだとアスカは察したのだ。
あの頃は今以上に痩せ細っており、髪だってくすんで触れるとゴワゴワと汚かった。
目も濁っていて声も喘ぎすぎて掠れ、医者には潰れる寸前だったという。
まだ完全に体が出来ていない幼児に性行為は暴力でしかなかったのだ。
大人達は当然アスカにした男達の愚行に怒り、そしてアスカに同情した。
大人だからこそ、幼児に性行為をすることがどれだけ非道なのかも分かっていた。
だがまだ子供のルフィにそれは理解はできなかったのだろう。
アスカは病気だからこんなにも酷い姿なのだと思っていただろう。
だが、それでも、あの時のアスカの姿は幼いルフィの目に焼き付いており、それは今でも影響があるらしい。
ルフィからしたら睡眠以外でアスカがベッドに縛り付けられていると幼い頃のアスカを思い出し怖いのだという。
それを言われてしまえばアスカは何も言えなかった。
「……まあ…善処は、する」
「それじゃダメだ!はっきりしろ!」
「無茶言わないでよ…相手ウイルスなんだけど…」
「関係ねェ!絶対もう風邪になんなよ!?風邪だけじゃねェ!病気はもうダメだ!!」
「………」
「あっ!!無視もダメだぞ!!無視は!!」
相手はウイルスで、規則正しい生活をしていてもかかる人はかかる。
アスカはとりあえず、善処はすると答えた。
だがそれはルフィの満足いく答えではないようで、食い下がるルフィにアスカは面倒くさいなァと思いながら口を閉ざす攻撃に出た。
無視されたルフィは更にヒートアップしていった。
結局、その攻防戦はいつまで経っても上がってこない事に苛立ったナミからのお叱りを受けるまで続いたという。
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