(77 / 293) ラビットガール (77)

キッチンに戻り、ナミ達は落ち着くためサンジの入れた飲み物を飲んで一息ついていた。
一息ついていてもやはりアスカは心配だが、ルフィがあの状態では休むしか他にないのだ。
怒鳴って喉も乾いたのか貰った飲み物を一気に飲み干し後、ナミはポツリと呟く。


「ねェ、さっきのルフィ…おかしくなかった?」


ナミの言葉に全員が頷く。
全員、思い浮かべるのはあの過剰反応のようなルフィの様子である。


「ああ…いくら幼馴染だって言っても男と女が一緒に風呂なんて入るか?」

「おれもカヤがいるけど流石にそこまではしねェぞ」

「おれもだ…それっぽいヤツがいたがあそこまではしねェ」


幼馴染がいるのはウソップとゾロだけ。
ビビも一応いるらしいが、反応は2人と同じである。
男女だけではなく、同性でもいくら幼馴染で仲がいいからと言ってお風呂まで一緒はないだろう。
三人の言葉にまた沈黙が落ちる。


「ルフィさん…ちょっとアスカさんに対して過保護すぎよね…」

「あー…それに関しては私達ルフィのこと言えないわ…」

「え?」

「特にナミとサンジは言えねェよな…ルフィの次に過保護だしよ…」

「そ、そうなの…?」


ビビはこの船に乗ってからアスカが寝込んでいる姿しか見たことがない。
それを差し引いてもルフィはアスカに過保護だと思っていた。
何か見つけるたびにアスカを呼びつけ、熱で寝込んでいる間はずっと特等席の船首ではなく風邪で寝込んでいるアスカの部屋の扉の前に座り込んでいた。
その姿を見て仲間想いだと思う反面、過保護だとも思った。
ビビの言葉に納得はするが、ウソップはチラリとナミとサンジを見る。
ビビも2人を見れば、ウソップの言葉にナミとサンジは目を逸らした。
どうやら自覚があるらしい。


「し、仕方ないわ!アスカって妹みたいだし…」

「そ、そうそう!アスカちゃんの微笑みを見たくてつい……」

「……………」

「……………」

「「ご…ごめんなさい……」」


いい訳を零す2人に3人と一匹の目線が刺さる。
その目線にナミとサンジは思わず謝ってしまい、項垂れる2人を横目にゾロが鼻を鳴らす。


「大体あいつが裸を見られて嫌がるたまかよ」

「んだとクソマリモ!!もういっぺん言ってみろ!!」

「あいつが嫌がるんだったら何度もおれらの前で脱ぐわけねぇだろって話しだアホコック!!!」


確かにゾロの言い方は棘があったが、一々突っかかるサンジにゾロは苛立ちながら声を荒げる。
ゾロの言葉にウソップとナミとビビは『確かに…』と頷いて見せた。


「それは一理あるわね…」

「リトルガーデンでも脱いでたけど平気そうだったわね…」

「アーロンパークに行くときだっておれとゾロとジョニーの前で平然と全裸になってたしな。」


ゾロの言葉にナミ・ビビ・ウソップはそれぞれ真っ裸になる(またはなりかけた)アスカを思い出す。
あの時のアスカの顔は顔を赤らめて恥じらうこともなく平然と普通に服を脱いでいた。
そんな3人の言葉にサンジは『えっ』と零しショックを受けた顔を浮かべる。


「お、おれだけ…おれだけなのか…」

「おい、アホコック何落ち込んでんだ…見てぇのか、アスカの身体。」

「見たいにきま……ってません…ごめんなさい」


ショックを受ける自分に向けたゾロの言葉にサンジは危うく本音を言いそうになるが、ナミとビビの後ろに鬼が見えて思いとどまった。
さすがに彼もまだ命は惜しいのだ。

――結局、いくら考えても謎が謎を呼ぶばかりで答えが出ずこのゴールのない話題は取りやめとなった。







その頃、ルフィはアスカが着ていたパジャマを脱がして汗を拭いていた。
アスカの肌は太陽の下にいたためか、健康的な褐色の肌をしていた。
ルフィはよく言う美肌美人よりも一緒に遊んだり修行をしたりと焼けたこの肌が好きだった。
触れれば少女らしく自分にはない肌の弾力もあり肌の触り心地も滑らかでつい触れだすといつまでも触ってしまい、よく『いい加減にしろ』とアスカに怒られていた。


「アスカは嘘つきだ…」


アスカの肌の汗を拭いながらルフィは誰に言うでもなくぽつりと呟いた。
ルフィは少し前にアスカと約束したのだ。
それは一方的な約束だし、アスカから頷きも承諾した言葉も貰っていないが、ルフィとしては約束したのも同じだった。
その約束をアスカは破った。
そもそも見えない敵をどう防げばいいのか責められる謂れはないが、ルフィは具合が悪そうに魘されるアスカを見て心臓がキュッと締め付けられるような感覚に襲われる。
ルフィは不安を感じていたのだ。
病気一つしなかったはずのアスカが風邪をひいて寝込み、その姿は何度もアスカと出会った時の彼女と重ね…ルフィは不安で一杯だった。
起きたら文句ひとつじゃ言い足りない!、と思いながら仰向けからうつ伏せにさせ今度は後ろの汗を拭おうとした。
するとルフィの目に天竜人の紋章が映った。


「これのせいで…アスカは…」


何度も見てきたこの紋章はすでに見慣れたものだが、ルフィはこれが何なのか、分かっていない。
何を意味し、何なのか…ルフィは誰かに聞こうとも思っていない。
聞いてはいけない気がしたし、今更聞いてもアスカが自分の幼馴染で、自分の仲間だという事には変わりないのだから聞かなくても何も変わらないと思っていたから聞く気にもならなかった。
ただ、分かるのは、この紋章のせいでアスカは死んでもいいと…死のうと思うほどの想いをしてきたということだけ。
それだけで、ルフィには十分だった。
それだけでも、ルフィはアスカをどう守るべきかを理解していた。
だけど、だとしても…ルフィはこの紋章の意味に興味がなくても…この紋章が嫌いだった。


「傷、治っちまったなァ…」


背中の汗を拭っているとふと呟く。
ナミの家で傷ついた傷が綺麗に治っていたのだ。
風呂場の時もそれに気づきいていたが、ルフィは出来れば傷が残ってほしいと思う。
しかしアスカはウサウサの実の能力者。
動物系ゆえなのか、治癒能力は人より強く早い。
でもルフィは出来たらアスカの能力でも治りきらないほど酷い傷を負ってそのまま紋章が隠れればいいと思った。
ナミのイレズミのように腕などで小さかったら上書きは出来ただろうが、紋章のこの大きさでは流石に無理だし、何よりアスカが人に見せるのを嫌がるだろう。
天竜人の奴隷から解放されてもまだアスカを蝕むこの紋章が憎らしくて仕方なかった。

ルフィはグッとタオルを握りしめ、アスカが傷つかないよう優しく汗を拭きとっていく。

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