(80 / 293) ラビットガール (80)

チョッパーを追いかけていったルフィとサンジはどうやら見失ったようで、アスカのいる部屋に戻ってきた。
部屋に戻ってきたルフィとサンジの姿にアスカはずっと眠っていたこともあり長い間見なかったような気がして、懐かしさを覚える。
サンジは休憩とアスカのいるベットの傍に置かれていたテーブルに座り、ルフィはアスカのベットに座ってサンジの入れた暖かな飲み物を飲んでいた。
まだ熱が下がらないアスカは医師であるドクトリーヌの指示のもと体のいい飲み物を飲み、時折欲しがるルフィにちょっとだけ飲ませたりもする。
アスカは美味しいがそれほど体調が戻っておらず一口二口飲んでルフィに渡してもいいのだが、それをすればサンジに怒られるのはルフィだし、アスカもドクトリーヌに怒られるためちょびっとだけあげる。


「さて…あんた、いい加減に寝てな。まだ体は完治していないんだ…長い間起き上がってちゃ駄目さね…安静にしなきゃ治るもんも治らないよ」


気晴らしも必要だったからドクトリーヌは病人だとしても起き上がってルフィとサンジとの時間を許してやった。
しかし、それも限度というのもありアスカの体力も心配だったためそろそろお開きしようとした。
ドクトリーヌの言葉にルフィは慌ててアスカを寝かせるのだが…アスカをベットに押し倒したルフィはそのまま顔まで布団を被せる。


「よし!」

「よし、じゃねェ!アスカちゃんが窒息するだろ!!クソゴム!!!」

「あでッ!!!」


ルフィはアスカを寝かせ顔まで布団を被せた後、一仕事したと言わんばかりに額を拭う仕草を見せ、アスカを寝かせたことへの安堵に息をつく。
しかしこのままではアスカが病気よりも窒息してしまうとサンジが胸を張るルフィの頭にかかと落としを決め、被ったままの布団を捲り、首元まで下げてやる。
その後、ルフィがドクトリーヌを船医として勧誘するがその際、"ばあさん"と言ってしまったため殴られ、サンジも"ババア"と言ったためルフィの二の舞である。
そして覗き込んでいたチョッパーを見つけ追いかけるが二人はまだ話が終わっていないと音の形相のドクトリーヌに追いかけられる。
その時サンジがトナカイ料理を作るから待っててと言っていたがアスカは期待していなかった。
すると三人と一匹が出ていき閉める人もいなくて開けっ放しのドアから雪と冷たい風が入り込んでいるのに気付く。


「城の中のはずなのに…雪?」


アスカは室内のはずなのに雪が入ってくるのに首を傾げながら、誰も居ないため自分で閉めようとベットから降りようとした。
しかし、ルフィ達に逃げ切れたチョッパーが戻ってきてベットから降りようとするアスカに気づき止められる。
チョッパーはルフィとサンジを警戒してかキョロキョロと外を見ながらドアを閉める。


「寝てろよちゃんと!!お前まだ熱があるんだぞ!!」

「ないよ、もうほとんど…引いたみたい」

「でもだめだ!ドクトリーヌの薬は良く効くから熱はすぐひくんだ!だけど"ケスチア"の細菌は体に残ってる!ちゃんと抗生剤打って安静にしてなきゃまた…」

「ありがとう」

「…ん?」

「あんたが看病してくれたんでしょ?」


チョッパーも医療の知識があるのか、アスカを布団に戻し布団を被せ直した。
お礼を言われチョッパーは目を丸くして恐る恐るゆっくりアスカを振り向く。
その表情はこわばっていたが、次第に緩み始め…


「う…!うるせェなっ!!に…人間なんかにお礼をいわれる筋合いはねェ!!ふざけんな!!コノヤローが!!」


減らず口を叩くも態度が真逆で嬉しそうだった。


「感情が隠せないタイプなのね…」


アスカは冷静にそう分析する。
褒められてうれしい顔をニヤつかせていたチョッパーだったが、ふとルフィとドクトリーヌの会話を思い出したのか『お、お前ら海賊なのか?』と聞いてきた。
事実アスカは海賊のため、否定する要素が見つからず素直に頷くとチョッパーは目を丸くしチョンチョンとアスカを突っつく。
どうやら興味はあるが、怖いのだろう。


「ほ…本物か?」

「うん」

「ド…ドクロの旗を持ってるのか…!?」

「船についてるけど…なに、海賊に興味あるの?」


その様子は怖いという感情よりも好奇心の方が勝っているようで、チョッパーの様子にアスカは首を傾げた。
アスカの言葉にチョッパーは後ろに下がり本棚にぶつかり、その際に本がチョッパーに落ちていった。
しかしそれに気を取られるより、アスカの言葉を否定する方が優先なのか必死に声を上げる。


「ね、ェよ!バカ!!!バカ!!」

「あー、はいはい。わかった、わった。」


大げさに否定をするチョッパーにアスカは苦笑いを隠せずにいた。
どこか怒っているような様子だが、アスカには驚いているようにしか見えず『そうだなぁ』と零し、チョッパーは落ちた本を広い元に戻そうとし下げていた目線をアスカに向き直す。


「でも…じゃぁ…あんたも来る?」

「―――お!?」


アスカのまさかの言葉にチョッパーはこれでもかと絶句する。
そんなチョッパーをよそにアスカは構わずさらに勧誘していく。


「そしたら私も助かるし!船に医者がいればここに3日もいなくていいしね!!それに今ウチの船には…」

「バ……バ…バカいえ!!!オレはトナカイだぞ!!人間なんかと一緒にいられるか!!!……だいたいお前…オレを見て恐くないのか………!?オレは…トナカイなのに2本足で立ってるし喋るし…」

「何?私を恐がらせたいの?それなら私もウサギ人間だけど…あんたとどう違うの」

「…ッ!……そ、それに……おれは…青っ鼻だ…」


確かにトナカイなのに二本足で立って話も出来ることには驚いたが、悪魔の実だと知ればそれほど驚きはない。
ありえない事を平然と起こすのが悪魔の実なのをアスカは実感していた。
トナカイなのに人間のようにふるまい恐れられるのなら、アスカも同じである。
アスカは人間でチョッパーはトナカイと真逆だが、動物になれる人間だっていわば化け物であり、そんな事で化け物になれるのなら、能力者全てが化け物に当たるだろう。
それにアスカは幼い頃、本物の化け物の傍にいたのだ…たかが人間のようにふるまえるトナカイがいたからと化け物だと罵ることはない。
しかしチョッパーは違うのか、段々と落ち込むように声のトーンを落としていく。
それに何か言いかけたその時…


「そこにいたか!トナカイ〜〜!!」

「ギャーーー!!!」


タイミング悪くサンジとルフィがこの部屋に駆け込んできた。
チョッパーは捕まって食べられたくはないと慌てて別の扉から出ていき、それを2人が追いかけ、その後を追っていたドクトリーヌが追うのをやめ椅子に座る。


「関心しないねェ小娘…あたしの居ない間に許可なくトナカイを誘惑かい?」

「仲間になりたそうな子を誘うのに許可がいるの?」

「ヒーーッヒッヒッヒッヒッ!!…いーやいらないさ!!持っていきたきゃ持ってきな!………だがね、一筋縄じゃいかないよ!あいつは心に傷を持ってる……医者でも治せない大きな傷さ…」


ドクトリーヌの言っている意味が分からず、首を傾げるアスカにドクトリーヌは言うのを戸惑ったが、アスカが本当に仲間に誘う気でいるのを分かっているのか…そしてアスカも同じ傷を負っているのを知っているからか…チョッパーの過去を語りだした。
チョッパーは最初から悪魔の実を食べていたわけではなかった。
しかし青い鼻は生まれつきで、そのせいで仲間にも親にも見捨てられ群れの最後尾にいつもいた。
そしてひょんの事からヒトヒトの実を食べてしまい、今まで無視していた仲間達はチョッパーを化け物扱いし追い出した。
それでも仲間がほしかったチョッパーはヒトヒトの実で人に化けようとした。
だが、それでも完璧な人間になれず、青っ鼻のチョッパーはまたしても化け物だと石を投げられ人間にも追い出され拒絶されてしまったのだ。
アスカはその話を黙って聞く。


「何を恨めばいいかもわからない。ただ仲間が欲しかっただけなのにバケモノと呼ばれる。もうトナカイでもない…人間でもない…あいつはね、そうやって………たった一人で生きてきたんだ…お前達に…あいつの心を癒せるかい?」


黙って聞いていたアスカにドクトリーヌは問いかけた。
アスカはドクトリーヌの言葉に自分を見つめるドクトリーヌから目線を外し三人が出て行ったドアを見つめながらぽつりとつぶやく。


「心の傷は人より分かっていると思ってる…」


ナミもあんなに気丈にしているのに暗い過去があった。
ゾロも、ウソップも、サンジも…色々な人生を送ってきたのだろう。
しかし恐らく…チョッパーと似た過去は今のところアスカだけだろう。
アスカはチョッパーと自分を重ねた。
人から物に変わった自分。
トナカイから化け物に変わったチョッパー。
人という仲間から、トナカイという仲間から追い出されたアスカとチョッパーは似ていた。
だからこそ、アスカは自分がチョッパーの傷の深さを十分に理解できた。
でも…


「だけど…きっと、ルフィ達なら…あの子の傷を癒せる…あの子はきっと私達の仲間になってくれる……そんな気がするの」

「………お前は癒せないのかい?」


アスカは脳裏にルフィやゾロ…仲間を思い浮かべる。
ただそれだけなのにアスカの表情は和らぎ笑みを浮かべた。
それはルフィ達がアスカを本当に仲間だと受けいれている証拠で、アスカもまたルフィ達を仲間だと受けいれている証拠だった。
だからこそ、アスカはチョッパーも仲間として受け入れられ、そしてチョッパー自身ルフィ達を受け入れるのだと分かっていた。
しかし笑みを浮かべるアスカを見つめるドクトリーヌの言葉にアスカは子に座りこちらを見るドクトリーヌへ顔を上げた。
すでにアスカの顔からは笑みは消えており、アスカは首を振って否定した。


「何故だい?」


アスカはドクトリーヌに問われ、俯いてしまう。


「…チョッパーほど私は純粋じゃないから…チョッパーは人間を憎んではいない…違う?」

「そうさね…あいつが心を開いたただ一人の男が昔いたね…そいつの名前はDr.ヒルルク…チョッパーに名を与え息子と呼んだ…ヤブ医者だ」

「…そう」


ドクトリーヌの言葉にアスカは眩しそうに目を細め笑った。
しかしアスカはすぐまた俯き嘲笑めいた笑みへと変える。


「やっぱり、私には無理だ…」

「そうかねェ…私からしたらあんたでも十分癒せると思うんだがね」

「…私はさ…まだ人間を憎んでいるの……人ってね、自分の立場が危ぶまれれば誰も助けてはくれないんだよ?あの時も首輪をつけてる私達奴隷を見てもみんな何もしてくれなかった…それどころか人によっては汚い物を見るような目で見てくる人だっていた…そんなの…そんな目を見て…どうやって人を許せるっていうの?」

「…………」

「私、この世界…大っ嫌いなの」


思い返せば多くの人は怯えていた目をしていた。
だが、その中でもアスカ達奴隷の存在を毛嫌いしている人もいたのも確かだ。
立場の弱い奴隷達を憂さ晴らしにしていた人だっている。
それを幼くして知ってしまったアスカの頭は簡単に覆す事できない。
昔と違うのは父やフーシャ村の人達のように暖かな心を持った人もいると知ったことだろう。
だからこの世界を嫌っていても、ルフィがいる世界だけは嫌いに離れなかった。
ルフィが傍にいればアスカは落ち着くことも出来た。
ドクトリーヌはグッと拳を握り何かを睨みつけているようなアスカに何も言えなかった。
しかし、その時サンジ達に追われていたチョッパーが血相を変え部屋に駆け込んできた。


「大変だよドクトリーヌ!!ワポルが…帰って来た!!!」

「…そうかい」


懐かしい名前にドクトリーヌ重い腰を上げる。

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