義兄、エースが引き止めてくれたお陰で誰一人も捕まらずに済んだ。
あのまま逃げ切りルフィ達は船へと避難する。
船へと戻りまず行ったのは先ほどの男への事。
ナミ達はエースが兄だと知り声をあげる。
「兄ちゃん!?」
「さっきの奴は…お前の兄貴なのか!?」
「ああ、おれ達の兄ちゃんだ!」
本当はどちらにも血が繋がってはいないが、ルフィの言い方によってナミ達はルフィの兄で、アスカも兄と慕っていると勘違いしたらしい。
しかしどちらも幼い頃兄と弟、妹として契りを交わしたため間違ってはいないし、アスカはエースと再会が出来て嬉しさから浮かれており否定するつもりはない。
だからか、機嫌のいいアスカの顔には笑みが浮かんでおり、ルフィの問いにニコニコと頷いた。
「まァ別に兄貴がいることに驚きゃしねェがよ…何でこの“偉大なる航路”にいるんだ」
「海賊なんだ。"ひとつなぎの大秘宝"を狙ってる。エースはおれ達より3つ上だから3年早く島を出たんだ!」
「しかし兄弟揃って"悪魔の実"を食っちまってるとは…」
「うんおれもびびった。ははは!」
「ん?」
悪魔の能力者はそれほど珍しくはない。
確かにナミ達は東の海で育って珍しい事には変わらないが、この船にはルフィ、アスカ、チョッパーと能力者が三人もいるのであるため慣れたのだろう。
しかし兄弟で悪魔の実を食べたという事はやはり東の海では珍しいのかウソップはそう漏らすが、ニシシ、と笑うルフィの言葉にウソップは首を傾げる。
「昔はなんも食ってなかったからな!な!アスカ!」
「うん、しかもエース達に勝てなかったよね。」
首をかしげるウソップ達にルフィはエースは別れるときは悪魔の実を食べていないと言った。
更にはさらっとこぼれたアスカの言葉にナミ達はギョッと目を丸くさせ、アスカからルフィを見た。
「あ…あんたが一度も…!?生身の人間に!?」
「やっぱ怪物の兄貴は大怪物か」
「そ〜さ!負け負けだったおれなんか!だっはっはっ!」
アスカからしたらエースに負けていた事は知っていたため驚きはない。
しかし最近知り合い、ルフィの底知れない力などを見て、そして救われてきたナミ達仲間からしたらルフィ以上の強さの人がいるということが驚きだった。
しかも、能力者ですらないという事にも。
負けたと言って大笑いするルフィにアスカは呆れたように目を細めルフィを見る。
「笑って言う事でもないでしょ」
「まァな!!でも今やったらおれが勝つね!」
「それも根拠のねェ話だろ」
幼馴染に呆れながらもルフィは自信満々で大笑いを続ける。
相変わらず根拠もなにもないその自信だけはあるルフィにアスカは肩を竦めかけたその時…
「お前が…誰に勝てるって?」
ルフィが座っていた手すりにエースが飛び乗り、ルフィはコロンと落ちる。
アスカはコロンと転がった幼馴染をよそにエースの姿に目を丸くして笑顔を浮かべ、転がったルフィも起き上がりエースの姿に驚きながらも嬉しそうに笑う。
「エ〜〜スっ!!」
「エース!」
「よう」
久々の再会にルフィもアスカもエースのもとへ駆け寄り、エースは可愛い弟と妹の姿に懐かしく、そして嬉しそうに目を細め笑う。
目をキラキラとさせ再会を喜ぶ2人へ目をやった後、兄としてエースは2人の仲間であるナミ達へ目を向け、頭を下げて挨拶をした。
「あー、こいつァみなさんウチの弟と妹がいつもお世話に」
「や、まったく」
エースの挨拶にナミ達も頭を下げる。
アスカの部分は建前だが、ルフィの突進型の性格を知っていているためナミ達の返しに苦笑いを浮かべる。
そんなエースにルフィは不意に『ん??』と首を傾げ、エースに声をかける。
「エース、何でこの国にいるんだ?」
「ん?何だお前、ドラムで伝言聞いたわけじゃねェのか?」
「ドラムで?」
「あーいいさ。別に大した問題じゃねェから…とにかくまァ会えてよかった…―――で?なんでここにアスカがいる?」
首を傾げるルフィの返しにエースは笑って返した後、帽子のツバに手をやりアスカを見やる。
その表情は先ほどの優しげな笑みではなく、怪訝とし、眉間に皺も寄っておりアスカがこの船にいる事をあまり良しとしていないようであった。
眉を顰め見つめるエースにアスカはムスッと不機嫌な顔してエースを睨み、腰に手を当ててエースに迫った。
「ウープさんがものすっっごく引きとめた原因ってやっぱりエースだったんだ!!」
「あー…まあ、な。海は危険が一杯だからな、村長に連絡しておいたんだ」
「なにそれ!!エースも"海に連れて行く"って約束したのに破る気!?私が一人になるのヤなの知ってるでしょ!?」
「い、いや、アスカ!おれだって連れていきたかったぞ!?海はいいもんだってアスカにも教えてやりたかったんだぞ!?ただなァ…アスカはか弱いんだから海なんか出たら強面男のロリコン変態野郎の餌食になるんじゃないかってお兄ちゃんは心配で心配で…」
「でもエース、私を一人にしないって言った!!エースは嘘つきだ!エースなんて大っ嫌いっ!」
「!!―――な…ッ!?お、おい!アスカ!!?」
フーシャ村を出る前、村長のウープが執拗にアスカを引き留めたのをルフィは思い出す。
あの時はウープがアスカを心配しての行動だと思っていたが、どうやらその裏にはエースがいたらしい。
ウープもエースと同じ心配していたからそれに乗っかった形ではあるが、アスカを心から心配しての事なのだろう。
エースはアスカの攻撃性が高い言葉(エース曰く即死に近い)がグサリと心臓を刺し、その心臓が縮むような感覚に襲われる。
ムスッとさせたまま腕を組みツーンと自分に背中を向けるアスカにエースは焦りを覚え、慌てて手すりから降りアスカの正面に向かう。
しかしエースを視界に入る度に背を向けるため、エースもそれを追いかける。
ナミ達から見たらグルグルとその場で回り続ける2人にしか見えない。
が、身内内のやりとりにナミ達も入る事も出来ず、ただ珍しいアスカのいつもより子供っぽい仕草に呆然と見守るしかできず、とりあえず代表としてナミは同じ身内であろうルフィに耳打ちをした。
「ちょっと、ルフィ…あれ、止めなくていいの?」
「ん?別にいいよ。すぐ終わるから。」
「そ、そう…」
ナミがルフィに"止めなくてもいいのか"と耳打ちすれば何ともあっけない言葉が返ってきた。
そのため全員がキョトンとなっており、あっけらかんとしているルフィに何だか構えるのも考えるのも面倒となり全員これ以上追及はしないでおいた。
その間もエースとアスカのやりとりは続いている。
「お兄ちゃんはな!ただ心配なんだよアスカ!だから機嫌直せって!なっ!?」
背を向ける可愛い妹の機嫌をエースは必死に宥めた。
しかしエースとルフィと共に育ちエース達に溺愛されルフィですら過保護に接していたおかげか、アスカはミコトを除いた兄弟に関しては我儘となっており、エースの言葉にアスカはエースへ振り返りギロリと睨みエースに迫るように歩み寄り腰に手を当てる。
エースは妹の睨みに『うぐッ』と言葉を詰まらせ顎を引く。
「心配っていっても私エースとルフィと一緒に修行したじゃん!たしかに!?2人からしたら!?弱いけど!?だけど!!ちょっとは信用してくれたっていいじゃん!!」
「いやいや!!大丈夫!!そこは信用してるから!!でもさ!ほんと!!本当に村から出たら野蛮な最低クソ野郎がウジャウジャいるんだって!!アスカの力はおれも認めるけどさ!お兄ちゃんほっんと!ほんとーーーに!!心配なんだってば!!だってアスカ、可愛いだろ!?アスカのウサギも可愛いけどそれ以上に可愛いだろ!?さっきも言ったけどこの海にはそんな可愛いアスカを食べちゃいたいと思うロリコンクズ野郎がウジャウジャいるんだって!!」
「そんなのコルボ山にもいっぱいいた!あの山の連中は女少ないから女だったら赤ん坊にだって発情するじゃん!!」
「た、確かに…あいつとかあいつとかあいつとかいたが…だかなァ…あんときはおれとルフィがいたからだろ!?あとあいつらが弱いからアスカの一撃で沈んだし…」
「…………やっぱり…エースは私を弱いとか思ってるんだ…」
「へ!?ち、違うって!!そんなこと思ってないって!!」
「ふーん…」
「本当だって!!兄ちゃんが信じられないのか!?」
「だってエース、ウープさんに私を引き留めさせてたじゃん」
「うッ…そ、それはだなァ〜」
「……………」
「アスカ〜!」
ナミ達はアスカがああも大声を出して言い合いしているのをあまり見たことがない。
これまでにルフィと喧嘩したことはあり、大声を出していたりはしているが、自分達が止めればすぐに喧嘩がなかったようにいつものようにベタベタとし仲のいい2人に戻るが、ああもあからさまに拗ねた様子を見せるのは初めてだった。
普段も子供っぽさがまだ抜ききれず拗ねる場面を見せてはいたが、エースのようにむくれてそっぽを向くアスカは見たことはない。
アスカがまた背を向けそっぽも向いてしまい、エースは情けない声で何度もアスカの名を呼んだり『兄ちゃんが悪かったってばァ〜!』とアスカに謝る。
そんな兄の情けない声にアスカはそっぽを向いたままチラリと横目でエースを見た。
エースの目には涙がちょちょぎれており、その姿を見てアスカは少し拗ねすぎたと自分のやりすぎに気づき反省し、気まずげにポツリと呟く。
「…本当に、反省してる?」
「ああ!勿論だ!!兄ちゃんはアスカに嫌われたら生きていられん!!」
ポツリと小さい声で呟いたが、当然妹命、姉命のエースには聞こえており、アスカの呟きに表情を引き締め、真剣な表情を浮かべる。
エースの言葉にアスカは反省をしエースが怒り呆れていないと知りほっとしながらも素直ではないため『…なにそれ』とぶっきらぼうに返すしかできなかった。
しかしそっぽを向いていた顔も、そして背を向けていた体もエースへ向け気まずいまま照れくさそうに謝った。
「ごめん…エース…私、言いすぎたね」
「〜〜〜〜馬鹿野郎!!アスカが謝る事なんてひとつもないんだぞ〜!!全部お兄ちゃんが悪いんだから!!おれこそごめんな〜!アスカに辛くも悲しい思いをさせてしまって…!!不甲斐無いお兄ちゃんですまん!!アスカ!!」
照れくささがあり、うつむき加減で謝ったアスカだったが、エース視点から見れば上目遣いで照れから頬を赤く染め目をそらしては目線をエースへ戻すのを繰り返す可愛い妹でしかなく…エースはその可愛らしさから体を震わせたかと思えば突然アスカを抱きしめ頬ずりしはじめる。
『い、息が…』、と零すアスカの声など聞こえないのかエースは久々の妹の温もりに浸っていた。
ルフィはそれを見ながら『あれから大分立ってるからな〜、エース、壊れたんだな!』と呑気に笑って兄と妹の抱擁を微笑ましく?見ていた。
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