幼馴染と兄の戯れを見ていたルフィだったが、不意に気になったことを思い出し、妹を愛でる兄にルフィは持前の天然を発動させ遠慮なくそして戸惑いもなく声をかける。
「ところで、エース、何しに来たんだ?アスカに会いに来たのか?」
ルフィはエースがなぜ、自分達を探していたのかが気になったのだ。
うりうり、とアスカに会えなかった分思いっきり頬ずりしていたエースはルフィの問いに用件を思い出したのか『ああ』と声を零しアスカに頬ずりしたままの状態で答える。
「ちょっとヤボ用でこの辺の海まで来てたんでな…お前達に一目会っとこうと思ってよ…ルフィ、アスカ…お前らウチの"白ひげ海賊団"に来ねェか?もちろん仲間も一緒に。」
「いやだ」
エースは近くに来たからと軽く答え、2人に自分が入っている海賊団に勧誘する。
それは二人が海に出て再会したら一度は聞こうと思っていた事だった。
ルフィはエースの勧誘に考える間もなく断り、アスカも船長のルフィが断ったため何も言わず無言で返す。
エースは2人の答えを分かっていたために、断られたことに対して怒りや諦めや残念さを見せず笑い、『ああ、そういえば』とまたエースは何かを思い出しズボンのポケットからある物を取り出し2人に渡した。
それは二枚の白い紙だった。
「ホラ お前達にこれを渡したかった」
「ん?」
「?」
傍から見れば、それはただの白い紙である。
渡された紙はメモ帳にもならないほどの大きさで切られており、アスカもルフィもそれを渡され首を傾げる。
「そいつを持ってろ、ずっとだ」
「紙?」
「なんだ紙きれじゃんか」
「そうさその紙きれがおれとお前達をまた引き合わせる」
「「へー…」」
渡された紙が何なのかも知らされず、ただエースからは持っていろと言われ、2人はエースの言葉に気の抜けた声を零す。
分かっているのか分かっていないのか不明な声を零す2人にエースは苦笑いを浮かべた。
「いらねェか?」
「いや…いる!!」
「ううん、貰う」
エースから渡せた物が何なのかは分からないが、エースがずっと持ってろと言われれば2人はずっと持っているし、エースがその紙が引き合わすと言えばそうなのだろうと疑いもしない。
そこに自分への信頼が見え、エースは首を振る2人に満足そうに、そして嬉しそうに笑った。
そろそろ時間だとエースは仕方なく腕の中に大人しくいるアスカを解放し、弟と妹の仲間であるナミ達へ顔を向けた。
「できの悪い弟と可愛い妹を持つと兄貴は心配なんだ…おめェらもコイツにゃ手ェ焼くだろうがよろしく頼むよ」
エースは弟達の仲間に改めて声をかけ、コイツ、とエースはルフィに指を差す。
ルフィに対してはアスカのように甘くはないように見えるが、やはり弟も弟で可愛いのかナミ達はルフィも心配でならないと顔に書いてあるように見えた。
頷くナミ達にエースはホッと安堵したように息をつき、名残惜しそうにアスカをもう一度抱きしめ、ルフィの頭をひと撫でした後、自分の小型の船へと降りる。
船を飛び降りるように降りた兄にアスカもエースも手すりに歩み寄り顔を出しエースを見下ろす。
「もう行っちゃうの?」
「ああ」
「もうちょっとゆっくりしてけばいいじゃねェか!!久しぶりに会ったんだし」
ルフィとアスカがまだ別れたがらないのを見て、エースは一瞬残ろうかと考えた。
特にアスカがしょんぼりと見せる姿にはシスコンとして心が揺らいでしまう。
だが、エースは何もどこにいるか分からない妹と弟に会いに来るためにわざわざ東の海に戻ってきたわけではない。
ついでではあるがそれも目的の一つではある。
しかし、エースにはもうひとつ、本来の目的があった。
だから可愛い弟の言葉にエースは首を振る。
「言っただろ?お前達に会いに来たのはコトのついでなんだ。おれは今"重罪人"を追ってる…最近"黒ひげ"と名乗ってるらしいが元々は"白ひげ海賊団"の二番隊隊員…おれの部下だ。海賊船で最悪の罪…奴は"仲間殺し"をして船から逃げた。隊長のおれが始末をつけなきゃならねェってわけだ…そんなことでもねェ限りおれはこの海を逆走したりしねェよ………次に会う時は…海賊の高みだ」
ついででもなんでも、アスカは兄の立場であるエースが会いに来てくれた事が嬉しかった。
だからこそ、別れが辛くて、寂しくて…寂しそうな瞳で見下ろしてくるアスカに『海は広い…また会えるさ』と優しく慰め、その言葉を信じアスカは頷く。
「病気とか、しないでね…」
「アスカもな…ルフィは……まあ、お前の場合ウイルスが逃げてくから心配いらねェか」
「おう!」
「…いや、そんな元気のいい返事を返されても……まあ、いい…ルフィもアスカも、気を付けて航海しろよ…海は広く強い輩がいるからな…おれと再会する前に死ぬんじゃねェぞ」
アスカが病気をした事はエースは知らない。
知ればエースが心配すると分かりきっていたアスカはエースの言葉に何も返せずただ頷くだけにした。
それに疑問も持たずルフィにも同じことを言おうとしたエースだったが、ルフィはどちらかと言えばウイルスに侵されるというよりはウイルスを跳ね返すタイプだと言いかけた言葉を撤回する。
その言葉に元気よく頷いたルフィに何とも兄として丈夫に育ってくれたことに喜ぶべきか、丈夫すぎたことに苦笑いを浮かべるべきか…若干複雑に思う。
最後に忠告をした後、名残惜しいがエースは二人から去っていった。
「ウソよ…ウソ…!!あんな常識ある人がルフィのお兄さんな訳ないわ!!本当はアスカのお兄さんなんじゃないの!?」
エースが去っていき、ルフィの兄(とナミ達は認識してしまった)があんなにも常識ある人だと思ってもみなかったために驚きが隠せなかった。
エースが去りナミが思わず驚きの声を零したのを皮切りにウソップやゾロ達も驚きの声を零す。
「おれはてっきりルフィに輪をかけた身勝手野郎かと…まぁアスカに関したら常識を超えてたけど…」
「え?アスカのは普通じゃない?」
「ああ、アスカちゃんは可愛いかなら…あれが普通だろ。」
「いや、あれは………あー…もう、いいや…うん…」
「兄弟ってすばらしいんだな」
「弟と妹想いのイイ奴だ…!!」
「わからねェもんだな…海って不思議だ」
ウソップはアスカを終始抱きしめ愛でていたエースの姿を思い出す。
弟の幼馴染はエースにとって妹も同然なのか見事に猫可愛がりをし、一応一味の中で自称一般人のウソップは『あ、こいつもか…』と若干引いた。
だがそれ以外では至って普通の兄であり、全く考えなしで生きている弟を持っているとは思えなかった。
ウソップの言葉に驚いていたナミと、そしてサンジが『アスカを愛でることは普通でしょ?』と返され、ウソップは言い返そうかとも思ったが、面倒になったのでやめて口を閉ざす。
そんな好き放題言う仲間達を余所にアスカとルフィはいつまでも消えたエースを見送り海を見つめていた。
「いっちまったな、エース…」
「うん…行っちゃったね…エース、なんか三年前より強くなったって感じだったね」
手すりから顔を覗かせ海をいつまでも見るアスカの言葉にルフィも同じことを思っていたのか頷いて見せ、アスカとルフィはお互いの顔を見合わせ笑った。
「いつ、エースに会えるんだろう…」
ポツリと零す寂しそうなアスカの呟きにルフィは、
「また近いうちに会えるさ」
と返した。
ルフィの言葉に少しだけ寂しかった気持ちが和らぎアスカはルフィに『そうだね』と笑った。
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