(90 / 293) ラビットガール (90)

一方、シャンクスと別れたミコトは自分の船へと帰ってきていた。
ミコトは能力を使い甲板に一瞬にして姿を現し、甲板で作業をしていたミコトの部下達はミコトの姿に慌てて作業の手を止め綺麗な敬礼を見せる。
ミコトは敬礼を見せる部下…彼女たちに軽く手を上げて返礼し仕事を続けるよう命じればそこでようやく部下達は手を動かし始める。
部下の忠誠心が高いのはいいことだが、皆真面目すぎるとミコトは苦笑いを浮かべ、しかしそんな部下達を愛しく思う。
ミコトの部下は全て女性で編成されている。
しかしだからと言って男性の部下がいないわけではない。
女性だけになったのはミコトが大将になってからだし、今は女性だけだが、過去に一人、男性の部下がいた。
今その男は海賊なってしまっていないが、女性の部下達とも上手くやっていけていた分、少々海賊になったのは勿体ないとも思っていた。


「ミコト様、お帰りなさいませ」


コツコツとヒールを鳴らしながら甲板から部屋へと戻ろうと船内に繋がる扉へ向かって真っすぐ歩いていたミコトの視界に、甲板から船内へ繋ぐ扉が映り、そしてその傍に2人の女性が立っているのが見えた。
2人はミコトが近づくと先ほどの部下同様綺麗な敬礼をミコトに見せ、ミコトは他の部下達と同じく真面目な彼女たちに目を細めて笑った。


「お留守番、ご苦労様でした…何か変わった事、ありまして?」

「いえ、何も…ミコト様の方はどうでしたか?赤髪は病気かなんかで死んでませんでした?」

「いいえ?相変わらず二日酔いで苦しんでいたけれど元気でしたわ」

「(チッ、しぶとい男だ)……そうでしたか、それは何よりです」


アルダが敬礼を下げミコトのために船内につなぐ扉を開ける。
それにお礼を言いながらミコトは船内に入り、その後ろをアルダともう1人の部下であるヘレンが続く。
アルダの小さい舌打ちと言葉はミコトにも届いていたのだが、それを咎めるでもなくミコトは愉快そうに笑みを深めるだけだった。


「一度本部へ戻ります」

「「ハッ!」」


ミコトは自分の部屋へ戻り、豪華なソファへと座る。
このソファは柔らかすぎず固すぎず…ミコトのお気に入りの家具の一つである。
ミコトがそのお気に入りのソファに身を沈ませ疲れを癒している間、そのソファの傍をヘレンが立って仕え、アルダがミコトのために紅茶を煎れに部屋に備え付けてある小さなキッチンへと姿を消す。
ミコトの軍艦は、同じ大将達や他の軍艦と違ってお金をかけている。
勿論、市民から見える部分である外装ではなく、内装にである。
食堂とは別にミコトの部屋には小さなキッチンが付いており、冷蔵庫もある。
水回りも他の軍艦と違って立派だ。
ミコトの自室はさながらホテルのようだが、部下達の部屋も整っている。
立場がある者以外が相部屋なのは変わらないが、ストレスにならないよう気を付けており、女性というのもあって清潔感は特に注意している。
ミコトが好き勝手できるのは、センゴクのコネではなく…五老星のおかげだ。
天竜人の彼らが後ろ盾になっているため、ミコトは腹いせも兼ねて彼らの金で好き勝手やるのも考えたが…そもそも彼らのお金は加盟国の市民が課せられている血税から出ているのを思い出し、コツコツと貯金して改装せずどう改善するかを楽しんでいる。
いわば部下を巻き込んだ大掛かりなDIYである。
幸いなのは、全員賛同してくれたことだろう。
部下達も少ない給料からお金を出してくれることもあるが、流石にそれは断っている。
アルダが煎れてくれた紅茶を手にミコトは相変わらず美味しい紅茶を堪能していた。
ミコトの命令に従い航海士に本部へ戻るよう伝えようとしたヘレンの背をミコトは横目で見送っていたが、不意に思い出しヘレンを引き留める。


「待ってちょうだい、ヘレン」

「はい…如何致しました?」


コトリ、とお菓子が乗っている器をアルダがテーブルに置いた時、呼び止められたヘレンは扉のドアノブを握っていた手を放し無駄のない動きでミコトに振り返り、ミコトに歩み寄った。
歩み寄るヘレンを見つめながらミコトは持っていた紅茶を片方の手で持っていた受け皿に戻し、考えるように目線をヘレンから外し少し上へ向ける。


「何度もごめんなさい…本部ではなくアラバスタに向かってちょうだい」


ミコトの言葉にヘレンは一瞬目を丸くしたが、すぐに怪訝とした目線に変える。


「アラバスタ…ですか?」

「ええ、アラバスタへ行きます。」

「……理由を尋ねてもよろしいでしょうか」

「久々にクロちゃんに会いに行こうかと思いまして」

「…………」


『クロちゃん』という言葉が出た瞬間、ヘレン、そしてミコトの傍に控えているアルダの顔が嫌そうに歪んだ。
機嫌よく笑うミコトに隠す事なく2人の眉間にはくっきりと皺が刻まれており不満ですと言わんばかりだった。
だが、上司…それも敬愛するミコトの命令だからと表情を若干やわらげヘレンは『了解しました。では、アラバスタへ向かうよう指示してきます』と復唱した後敬礼をした後部屋から出ていった。
後ろに控えるアルダ、そして先ほど出ていったヘレンの表情の変化や彼女たちが何に不満を持っているのか…ミコトは知っていた。
だが、それはあえて何も言わずミコトは受け皿に置いていた紅茶をまた口に含み、自分の船に帰ってきたことを実感させる。







その後、ミコトはアラバスタに着き、アルダやヘレン達を連れて行かず一人また能力を使って一瞬にしてアラバスタの国内に入り目的の人物がいるであろう部屋へ姿を現す。
勿論、戦争中の国に海軍…それも大将の船があっては上から何を言われるのか分かったものではないため、ミコトの能力で上手く隠しミコトは部下に待機を命じている。
ミコトは早速執務をしている目的の人物…クロコダイルの後ろに音なく近づき、思いっきり後ろから抱き付いた。


「クーローちゃん!だ〜れだ!」

「……………」


悪戯心に手で目を覆われたクロコダイルだが、突然の訪問に関わらず慣れているのかミコトに驚きもなく至って冷静だった。
普通の男なら、絶世の美女・女帝ハンコックに並ぶ美貌を持つ、とも言われているミコトに抱きつかれた瞬間から対象となった人間はメロメロになり骨抜きになるのだが、どうやら彼は違うらしい。
メロメロの骨抜きにされてる代表はどっかの鳥二匹、そして今も二日酔いで苦しんでいるであろう赤髪である。
だがクロコダイルは骨抜きになるどころかミコトという存在を確認した瞬間に眉間にしわを寄せ泣くこも黙らせるであろう眼力で後ろにいるミコトをギロリと睨んで見せた。


「黒蝶…何しに来やがった」

「随分なご挨拶ですのねェ…"クロちゃん"?」

「その名は止めろと言ったはずだが?」

「なら、わたくしもミコトと呼んでくださいな。"黒蝶"など堅苦しい名などクロちゃんに呼ばれたくありませんの」

「……で、何しに来たんだ。てめェは…」


クロコダイルに睨まれれば誰だって怖がるだろう。
どちらかと言えばクロコダイルは強面の類に入るのだから。
しかし肝心のミコトはケロっとしており、まるで友人のように会話を続ける。
クロコダイルは相手するのが面倒になり話を変える。


「んもー!クロちゃんってば相変わらずせっかちさんねェ!そんなんじゃ社長は務まりませんわよ!」

「…で?何しに来たって聞いてんだが?」

「クロちゃんのいけず!……この国の王女様、もうすぐここにいらっしゃるのでしょ?」

「そうらしいな」


あえて話をすり替えようとするクロコダイルにミコトは頬を膨らませて拗ねて見せた。
クロコダイルはこの目の前の女が海軍大将であるのは知っており、どういう性格かも多少なりとも知っているため、ミコトが拗ねた顔を見せても可愛くも感じない。
素っ気ないクロコダイルにミコトもいつもの事だと慣れており、ミコトは後ろから抱きしめていたクロコダイルから離れ、机に座り、机に手を突きクロコダイルを覗き込む。
クロコダイルもミコトの言葉に手を止めた。
海軍であるミコトがどうしてその情報を知っているかという疑問はこの女と付き合ってから思わなくなった。
全てはミコトだからで終わるからである。
手を止め鋭い目線をそのままに自分に向けるクロコダイルにミコトはコテンと小首をかしげながら問いかけた。


「その王女、どうなさるおつもりで?」

「殺す。…おれの正体を知ったんだ、当然だろ?」

「そう…では海賊は?」

「あ?」


ミコトの問いにクロコダイルは隠さず答える。
この目の前の女には自分の目的を知られているから隠す必要もないと判断したのだろう。
しかし次にミコトから出た問いにクロコダイルは怪訝とした目を向けた。


「王女の手助けを海賊がなさっているのでしょう?その海賊はどうなさるの?」

「分かってて聞いてんのか?んなもん殺すに決まってるだろ」


クロコダイルの言葉にミコトは目を細める。
今のクロコダイルは英雄ではなく、彼本来の…海賊の顔をしていた。
ミコトは英雄などという作り物の彼より今の本性を出した彼の方がたまらないほど好きだ。
ミコトは笑みを浮かべクロコダイルの頬を撫で、甘えたような声を零す。


「彼らだけでも見逃すのは出来ませんの?」

「…何言ってやがる…出来ると思ってんのか?おれの邪魔する奴らは全て砂に変える…知ってんだろ?お前も」

「そう、無理なの…残念ね…」


女王ビビと一緒に行動している海賊の事は先ほど会議で知った。
リトルガーデンでの報告が偽りだったことに腹立たしいものがあるが、所詮若造…所詮名のない海賊…である。
この計画を止める理由にはならないし、身の程を知らせるのも先輩の役目でもある。
クロコダイルの言葉にミコトは声のトーンを落とし、少し悲しい表情を浮かべるミコトにクロコダイルはピクリと反応し片眉を上げる。


「なんだ、そのカス共はお前のお気に入りだったのか?」

「えぇ、彼らはわたくしの一番のお気に入りですの」

「ほう、それは残念だったな」


クロコダイルはミコトの落ち込む様を見て大声で笑う。
内心ざまあみやがれ、とも思っているのだろう。
それを察しながらクツクツと笑い上機嫌なクロコダイルにミコトは何も言い返さず目を細めて微笑み『もう!クロちゃんったら意地悪ですのね!』とわざと拗ねたように零しながらそのままクロコダイルの膝の上に移動し首に腕を回して抱き付く。
そんなミコトにクロコダイルは先ほどまでの上機嫌が降下していき、鬱陶しそうにミコトを睨む。


「引っ付くな、暑苦しい」

「あら、ではコレでどうですか?」

「…………」


暑苦しいと言われたミコトはヒエヒエの実で身体を少し凍らせる。
クロコダイルが砂人間であるのをミコトは知っているからこそ、わざと氷人間になったのだろう。
ミコトの顔がとても楽しそうだ。
本気で自分に気があるかは分からないが、決して嫌われてはいないであろうミコトの態度にクロコダイルは脳裏に2人の同僚を思い浮かべ面倒くさいと言わんばかりに重い溜息をつく。


「…そういうのはあのアホ鳥か剣士にやってやれ…喜ぶぞ」

「あら、ドフラミンゴも鷹の目もいいけれどワンちゃんか貴方の方が楽しいですもの、無理ですわ」

「…だったら赤犬の方へ行けばいいだろ……」

「残念だけどワンちゃんは明日まで本部に帰ってこないの。」

「……お守り役はどうした…」

「クザンさんはサボってたのバレて今執務中ですの…邪魔したらおじ様に怒られてしまいます」

「……黄猿」

「お猿さんもワンちゃんと同じで何処かに行って帰ってきてませんの」

「……………」


もう何も言う気になれないクロコダイルは無視を決め付けた。
それもいつもの事なので一人で喋り続けるミコトだった。

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