ビビは岩陰から6人がそれぞれ二人一組に別れ待ち構えていた敵を引き付けてくれたのを見てそろりと岩陰から出る。
(ありがとうみんな…!!)
B・Wの幹部達を引き付けてくれたナミ達にビビは心からの感謝と、無事を願った。
「ビビ」
「えぇ、急がなきゃ…反乱軍はすぐそこまで来てる行くわよカルー!!!」
「クエー!」
ビビの傍にいたアスカがビビの名を口にし急かせばビビは分かっていると頷いて見せ、カルーに走る合図を送った。
カルーが走り出し、それに同じカルガモに乗っているアスカも続き走る。
――あの後、ルフィと別れたアスカ達はクロコダイルをルフィに任せ『アルバーナ』へと向かっていた。
途中河を渡ろうと陸専用のカニであるハサミがアスカの色仕掛けで頑張ったのだが、結局泳げないカニは途中で沈み、能力者を除きみんな泳いで渡ることになった。
能力者であるチョッパーとアスカはそれぞれゾロとサンジに担いでもらっていた。
しかしその川には人間を好物にしている生き物がおり、その生き物に襲われかけたが、この国に着いた時に出会ったカンフージュゴンに助けられ難を逃れた。
アスカ達は無事に陸地に着くことができ、その先で今アスカ達が乗っている超カルガモ部隊と合流し、そしてビビの護衛をアスカに付け、全員マントを付け誰がビビか気づかれないように敵を引き付け、その間ビビとアスカはアルバーナに入る…という作戦を実行していた。
やってみれば案外敵はあっさりと騙されてくれてアスカはホッと安堵する。
戦争中なため何があってもいいようにアスカは密かにシュラハテンを発動させる。
「きゃッ!!」
「!――ビビ!!!」
安心はできないが、周りに敵がいない事に少しばかり気を緩んでしまったアスカの耳にビビの悲鳴が聞こえ、アスカはハッと我に返る。
前を走るビビを見れば。乗っていたカルーが転んでおり、ビビも砂の地面に投げ飛ばされていた。
アスカはあるモノを視界に収め慌ててビビに駆け寄る。
「ビビ!!早くカルーに乗って!!」
「え…?」
砂がクッションになったとは言え痛いものは痛い。
倒れた体を起き上がらせているとアスカが駆け寄ってきて叫んだ。
慌てた様子のアスカに呆気に取られているとアスカがある場所へ指さし、そのある場所…前方を見る。
そこには常にクロコダイルの傍にいた細身の男が立っているのが見え、ビビは顔を青ざめる。
「あ、あれは……Mr.00!?なんで此処に…!!」
「なんでもいい!早く乗って!!」
「う、うん!!」
Mr.00がどれほど強いのかアスカは知らない。
だが、他のエージェントと違い常にクロコダイルの傍にいるのだから信頼を得るほどの強さなのだろうとは察する。
アスカは驚くビビの前に立って男から庇いながらビビに早くカルーに乗るよう急かし、その言葉にビビは慌てて起き上がったカルーに乗る。
Mr.00は砂の上をゆっくりと歩きこちらに歩み寄ってきており、それだけでもアスカの緊張感が強くなる。
「ネフェルタリ・ビビ…悪いがここで死んでもらう」
Mr.00は鋭い刀をビビに向け、真っ直ぐ殺気だけを向ける。
他の敵にはない静かな殺気にビビはびくりと肩を揺らした
アスカもクロコダイルとほぼ変わらない賞金首の男の殺気に気後れしそうになったが、男の殺気に怯えるビビに気づき声を上げる。
「ビビ!!ビビは真っ直ぐこのままアルバーナへ進んで!!こいつは私が引き留めるから!!」
「でも…!」
「今ビビがしなくちゃいけないのはこんな男を相手にすること!?違うでしょ!私は大丈夫だから振り返らないで!!前だけを見て!」
「え、えぇ!!!」
アスカの言葉にビビはカルーに乗り真っ直ぐ自分の国を救う事だけを考えて男の横を通ろうとする。
しかしMr.00はそれを阻止しようとビビを見ずに剣を振るが、素早く間に入ったアスカに止められてしまう。
Mr.00はここで初めて目線を動かしアスカを見る。
その瞳はやはり何の感情もなかった。
それでもアスカはビビを逃がそうとMr.00を正面から向き合い、睨む。
「ビビをここで殺されたらルフィに顔向けできないのよ…だから邪魔しないで」
「そうか…だがおれには関係あるまい?」
「―――ッ!」
Mr.00からしたらアスカはヒヨッコどころか雑魚である。
それでもアスカが怯まず自分に向かって牙をむくことに呆れ、溜め息をつき…アスカを無視しビビへ剣を向けた。
ビビは殺気にこちらを見たが、一瞬Mr.00の姿を見たが、剣を向けられていると認識した瞬間―――岩がビビとMr.00の間に振って落ちてきた。
落ちてきた岩から出る振動や砂煙にカルーの足がもつれかけたが、カルーもまたアスカの言葉通りビビを守り真っ直ぐ前だけを見ていたためすぐに体制を整えアルバーナに続く道へと走る。
「…………」
Mr.00は突然降ってきた大岩に若干目を丸くしていたがすぐに冷静さを取り戻しこの大岩を落とした張本人―――アスカへ目を向ける。
アスカは既にカルガモから降りており、アスカが乗っていたカルガモはアスカの指示でビビの後を追っていなくなる。
アスカの腕の服は破れており、ウサギの腕が生えていた。
先ほどは細い少女らしい人間の腕だったはずが、今はウサギの腕と変わりMr.00は怪訝とさせる。
しかし気づいたように怪訝さを消した。
「お前…能力者か」
「ええ…ウサギ人間よ」
「…………」
アスカはビビへ向けられた剣を防ごうと咄嗟に傍にあった岩を能力で持ち上げ投げたが、簡単に避けられてしまう。
ウサギの力を使えば人では持ち上がらない岩も簡単に持ち上げることができ、アスカの小さな体に不似合いな腕とその力を見てMr.00は目を細める。
「一つ、お前に聞きたいことがある」
剣先を降ろし、Mr.00はアスカに静かに声をかけた。
殺意も変わらないMr.00にアスカは警戒しながらも問われてもそれに答えるかは別として頷く。
「お前は何者だ」
その問いにアスカは怪訝な顔を見せる。
当たり前だ。
敵からどんな質問が来るのかと構えていたのに、その質問は初歩もいいところの質問だった。
これで怪訝な顔を見せるなと言う方が無理だ。
「…何者って言われても…海賊だけど…」
何者かと問われて正しい答えを返せる人間はどれくらいいるだろうか。
何者かと聞かれれば、自分は海賊だと答えるしかない。
敵である相手の質問に答えてやったというのに、相手はそれに納得していないようだった。
「違う…そうではない…本来は麦わら海賊団にお前はいないはずなんだ…なのになぜお前がここにいる?お前は誰でどこから湧いて出た」
アスカは我慢できず『はあ?』とつい声を零してしまう。
怪訝さを強くしてしまうのは許してほしい。
なぜ海賊団にいるのか、どこから湧いて出たのか、と失礼極まりない質問をされて気持ちよく笑えるわけがない。
睨みを強くするアスカなど気にも留めず、Mr.00は続ける。
「お前もこの世界に転生したのか?」
今度は目の前の男は転生したのかと意味の分からない質問を投げかける。
アスカはいい加減答えるのが面倒臭くなる。
「意味が分からない…付き合ってられないわ」
アスカは両手をウサギに変える。
能力を使用する際に現れる体の変化だ。
Mr.00はアスカの言葉に納得いかない表情を浮かべながらも、アスカとはこれ以上相互理解が得られないと思ったのか降ろしていた剣をアスカに向ける。
「そうか…ならばこれ以上慣れ合う必要はないな…ならば、おれは仕事に戻るとしよう!」
そう言ってMr.00は砂を蹴りあっという間にアスカとの距離を縮ませる。
振り下ろされた剣をアスカは咄嗟にシュラハテンを剣にして防ぎ、シュラハテンを見ても男は驚くどころか面白そうだと目を細めて笑う。
目の前の男は戦闘を楽しむタイプなのか戦う前は何の感情も感じなかった瞳が、まるでおもちゃを与えられた子供のようにキラキラと光り楽し気だった。
『この…っ!戦闘狂が!!』と力で押されながらアスカはそう心の中で愚痴り完全に押され倒れる前に力を入れてMr.00の剣を跳ね返す。
跳ね返されたMr.00は飛び上がって埋めていたアスカとの距離を離れクッと口角を上げる。
「お前はおれに邪魔をするなと言ったな?ならば、おれもその言葉をお前に返そう…お前を殺しネフェルタリ・ビビをも殺す!」
Mr.00は楽しんでいるがまだ任務を忘れるほど理性を失っているわけではないようでアスカを殺した後ビビを殺すつもりだった。
本気になったのか今までの殺気とは比べ物にならないほど強く、アスカはビリビリくる殺気にグッとシュラハテンを握る力を強める。
そしてMr.00は再びアスカとの距離を詰める。
「!―――あ、ぐッ!!!」
今度は避けきれずMr.00の剣がアスカの肩に刺さりアスカは痛さに声を上げた。
激痛とまではいかないまでも決して浅い痛みではないその痛みに顔を歪ませ肩に刺さった剣を掴んでMr.00の動きを止めようとした。
だがそれを読んだMr.00が素早く剣を肩から抜き、その際アスカは手の平にも傷を負う事になる。
「…ッ」
ズキズキといた重い痛みにアスカは息がつまりそうだった。
剣が刺さった肩の傷口から血が垂れ、砂の上に落ち赤い点がいくつもできており、それは反対側の手の平からも同じように血が垂れて素直を赤くしていた。
アスカは一本線の傷を負っている手の平を見下ろしグッと拳を握る。
(ここで痛いからって力を抜いてたら駄目だ…これじゃビビの護衛なんてできやしない…ビビは私を信用して後を任せてくれたんだから…私はそれにこたえなきゃ…)
肩の傷も、手の平の傷も、痛い。
その痛みをアスカは耳としっぽを出して和らげた。
それで痛みが消えたわけでも痛みが大きく和らいだわけではない。
和らいだと言っても僅かな変化だけだが、それでもアスカは助かった。
マントを破って包帯代わりにして手の平の傷に撒き終えるとアスカは被っていたマントを脱いで放り捨てた。
バサリ、と風に乗ってマントは靡き砂に落ち、アスカは怪我を負っているにも関わらず両手でシュラハテンを構え―――…
アスカとMr.00はほぼ互角だった。
若干経験からしてアスカの方が押されていたがお互い引けを取らない戦いをしており、それをある人物―――ミコトが傍観していた。
「流石アスカね…あの男を相手でも押されていないなんて…」
ミコトがぽつりとつぶやくもそれを聞く者はいない。
ミコトは今、
傾世元禳の能力を使い宙を浮いて空にいた。
2人はミコトに気づかないままお互い戦いに集中していた。
アスカの戦いぶりを見てミコトは内心ハラハラと心配していたが、武器を使い、そして自分の能力も駆使し何とか自分より上の賞金首の男と互角に戦う。
その姿を見てミコトは心からではないがすぐに死ぬことはないと安心して傍観を決めつける。
「あら、終わったのね」
傍観して数十分。
アスカと男が同時に倒れ勝負がつく。
それを見てミコトはふわりと地上に降り立ち、砂の上をヒールで歩いているとは思えないようなしっかりとした足取りでアスカに近づく。
「頑張ったわね、アスカ…」
妹のように可愛がっているアスカが戦っている姿を見ている間、ミコトの胸が張り裂けそうに辛かった。
しかし手を出してはアスカの成長にならないし、それをアスカが望まないと知っていたからミコトはただ傍観するしかなかった。
やっと奴隷から解放され痛みや屈辱には無縁に生きていられると思ったアスカは海賊となる道を選んだ。
正直に言ってミコトはアスカには村娘として平凡に生きていてほしかった。
それが駄目でも海兵になってほしかった。
海兵になればミコトの部下にしてやりフォローしてやれたのに。
しかしアスカが選んだのは海賊。
ミコトとガープの敵となる事を選んだのだ。
だが、アスカがルフィについて行ったとは言え海賊になったのは納得できることではある。
父や幼馴染、そしてエースの影響もあるが…何よりも…アスカの生い立ちからして海兵なんて選ぶはずがないと思っていたのだ。
太陽に焼かれている健康的な肌にあちこち傷がついているのを見てミコトは悲し気に見つめていたが、自分の賞金首以上を相手によくやったとミコトはアスカの髪を労わるように撫でてやろうと手を伸ばした。
しかしその時…背後に動く気配を感じ、ミコトは後ろをゆっくりと振り向いた。
「あら、まあ…なんてしぶとい方なんでしょうか…」
振り向いた先には気を失っていたはずの男が体を起こそうとしていた。
目を覚ましたらしいMr.00だが、アスカから受けた傷のダメージは大きいのか立っていられるほどではなく、ミコトの声に気づき顔を上げるMr.00の顔は痛みに歪んでいた。
「てめェ…誰だ…ッ!この女の仲間か…!」
Mr.00はミコトと面識はない。
と、言うよりはクロコダイル以外に面識のある幹部達はいない。
剣を杖代わりに膝を立てて起き上がるMr.00の言葉にミコトは立てた指を口元に持っていき考えるそぶりを見せる。
「そうですねェ…わたくしはこの子のお姉ちゃんでしょうか?」
「あ、ね…だと…」
「ええ…って言っても血は繋がっていないですけどね」
「…ふざけてんのか…!てめェは…!!」
「あら酷いですわ…本当の事なのに…」
Mr.00はミコトも仲間だと思ったのだが、ミコトから返ってきた言葉に一瞬、呆気に取られた。
だがすぐに我に返りふざけているとしか言いようのない返答に馬鹿にされたと思いギロッとミコトを睨む。
ミコトはMr.00の睨みなど何とも思っていないのか怯えるそぶりなど見せず、それがまたMr.00を腹立たせた。
ギリっと奥歯を噛み締め今にも襲い掛かりそうな男にミコトはわざとらしく溜め息をついて見せた。
「…あなた、もういいのではなくって?」
「あ゙?何がだ」
「もう退場してもいいのでは?」
「はあ!?ふざけてんのかてめェ!!そう簡単に逃げれるかよ!!おれには―――」
「クロコダイルは敗れます」
「―――ッ!?」
溜め息を聞いたMr.00は苛立ちを更に強くする。
グッと杖代わりにしていた剣の柄を掴む力を強くし後は砂を蹴りミコトとの距離を詰めるだけとなった…―――が、ミコトの落とした言葉に入れていた力が一気に抜かれるのを感じる。
Mr.00は突然のミコトの言葉に目を見張った。
言葉を失った男をミコトは笑みを浮かべたまま見つめたが、その誰もが見惚れるほどの笑みに反しその瞳は何の感情もなかった。
それはまるで自分が数々の人に向けた目に似ており、しかしそれ以上に何の感情も見れないからこその冷たい瞳に男はぞっと背筋を凍らせる。
一歩も動かなくなった男にミコトは目を細めて続ける。
「クロコダイルはルーキーである麦わらのルフィに倒され……クロコダイルの計画は敗れる……それは予想ではなく…―――覆すことのできない事実です」
ミコトの声は柔らかく、優しい。
だが、それが逆に恐怖を煽った。
息を呑む気配を感じながらミコトは笑みを深め…
「だから、あなたはもうお眠りなさい」
その言葉を聞いた瞬間、Mr.00の視界は一転し暗転する。
最後に見たのはミコトが自分に背を向ける光景だった。
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