(99 / 293) ラビットガール (99)

「ん…」


アスカは遠くから聞こえる雄たけびで目を覚ます。
自分が気を失う前に戦っていた事を思い出し、アスカはハッと我に返り慌てて起き上がった。
起き上がればあちこち痛みが訴えるが、アスカは目の前で倒れる男を見て目を丸くする。


「……勝った…んだ、よね…」


目の前の男…Mr.00はうつ伏せのまま動かない。
途切れる前の記憶を思い出しているとMr.00とは同時に倒れたような気がしたが、先に目を覚ましたのが自分なため、勝負は自分だろうとアスカは勝手に解釈する。


(意味の分からないこと言うやつだったな…転生とか麦わらの海賊団にいなかったとか…)


倒れているMr.00を見下ろしながらアスカは彼に言われた言葉を思い出す。
今思い出しても理解できない言葉ばかりだった。
そもそも転生なんて考えたことすらない。
転生なんて言葉、生きていく中で不必要な単語だろう。


(お前は麦わら海賊団にいないはずとか言われてもなぁ…ルフィの仲間だし…意味わからん)


ルフィの仲間であることを拒まれたと不快になったが、ルフィの仲間なのは変わらない事実だ。
知りもしない赤の他人にどうこう言われる筋合いはないし、ルフィ達仲間だってアスカを仲間じゃないと言われていい気分ではないだろう。
アスカだってルフィ達仲間を拒まれていい気はしない。
頭のネジが飛んだ人間だったんだと思うことにしてアスカは気にしないことにした。


「みんなを探さなきゃ…」


変な男ではあったが強い人間だった。
どちらが勝って負けたにせよ、まだ生きているのだからそれで良しとしようとアスカは起き上がる。
痛みが能力で和らいでいるとはいえ肩の痛みは強く、肩にある傷を押さえながらアスカは戦闘で傷つけられた足を引きずりながら一番近いであろう南東ゲートへ向かう。







アスカはまだ少しガクガクする足を無理に動かしながら歩くと、サンジ・ウソップ・チョッパーの姿が見え、アスカは三人の姿に無理矢理動かしていた足を早めて三人のもとへ向かった。
仲間の姿を見ればアスカは体が軽くなった気がし、現金な自分に苦笑いを浮かべる。


「サンジ!ウソップ!チョッパー!!」

「ん?――!、アスカちゅわ〜〜ん!!無事だったんだねぇ〜〜っ!!―――ってイヤーーっ!!アスカちゃんのたまのお肌が傷だらけにイイイ!!!?」


三人の姿を確認したアスカは肩を押させていた手を振る。
何とかひきつけた敵をそれぞれ倒したようだが、アスカ同様怪我を負っておりウソップ(らしき男)なんて全身包帯だらけで包帯男と化していた。
アスカの声に気づいたのはサンジだった。
アスカの声にサンジは誰よりも気づきアスカの姿に目をハートにさせくねくねと体をくねらせ体で喜びを表す。
しかし近づいてくるアスカの体が傷だらけでボロボロだと気づきサンジは甲高い悲鳴を上げた。
ムンクのようになっているサンジを余所にアスカは引きずる足でやっと仲間の元に到着した。


「みんな無事だったんだ……良かった…あ、それにマツゲも」

「ヴォ!」


甲高い悲鳴を上げて気を失いかけるサンジを無視しアスカはサンジ、ウソップ、チョッパーを見渡した後何気なくいるマツゲを見た。
アスカの言葉とマツゲの鳴き声でやっとマツゲの存在に気づいたウソップは驚きの声を上げる。
サンジはようやく復活したが、アスカの姿に辺りを見渡す。


「ところでアスカちゃん!なんでここに…ビビちゃんと一緒にいたんじゃ…?」

「それがMr.00に待ち伏せされて…ビビを先に行かせたから大丈夫だと思うんだけど…」

「Mr.00に!?だからアスカちゃんそんな大怪我を…!?」

「うん、まあ、生きてるし何とか…」


足を引きずってるし肩からも血が流れているし体中は傷だらけの砂埃だらけだし…と自分達も同じなのにアスカの方が重症だと言わんばかりにサンジは大げさに心配する。
心配してくれるのは嬉しいが、少し照れくさいのか素っ気なく答えるアスカの詰まった言葉など聞いておらず、アスカの周りを犬のようにぐるぐると周り肩以上の重傷がないか確認していた。
そんなサンジにアスカは恥ずかしがっている自分が馬鹿馬鹿しく思い溜め息をついた。
確認作業を終えた後サンジは船医のチョッパーに治療を頼もうとするが、そうなると肩を露出しなくてはならず下手したら背中を見られるかもしれないとアスカは慌てて話をそらそうとする。


「ね、ねェ!ビビはアルバーナい入ってるんだし早く追わなきゃ!!」

「そ、そうだ!!宮殿へ急ごう!まだビビちゃんの力になれるかも知れねェ!」

「わかった!」

「おいウソップ早く来いっ!!」

「何ィ〜〜!?ちょっと待ってくれっ!!この…見ろホラおれのこの負傷具合が目に入らねェのか!?」


アスカは話が逸れたことにほっとする。
しかし胸を撫で下ろしているとアスカの目の前でサンジが背を向けてしゃがんで見せ、アスカはサンジの行動にキョトンとなった。


「えっと…サンジ?」

「さァ!おれの背中に乗ってくれ!アスカちゃん!」

「え、いや…なんで…」

「なんでって…アスカちゃんは大怪我をしてるじゃないか!放っておけない!もし怪我を負っているアスカちゃんを見て『うへへ怪我をしているがいい女だぜ!』って一目惚れしたらどうするんだ!?そんなのおれァ耐えられねェ!!アスカちゃんに何かあればおれはナミさんに顔向けできねェ!!だから!さァ!おれの背に!!」

「いや…大丈夫なんだけど…っていうかなに、その絶対現実に起こりえない妄想…」

「おい待てサンジ!!おれは!?おれはどうなんだよ!!」

「おめェはラクダで十分だろ」

「んだとてめェ!!おれの傷を舐めんなよーーっ!!」

「舐めてねェよ!!おれの背中はレディ専用だ!!!むしろアスカちゃん専用だ!!誰も乗せる気はねェ!!」


今のサンジは『ドーン!』という効果音を背負っているだろう。
それほどの気迫をアスカは感じた。
戦争が始まった中、南東ゲートだけは平和だった。


「あ、私ウサギに乗ればいいんだ」

「えええええええええ!!?アスカちゃーーん!?」


アスカは終わらない言い合いの中、ふと自分の能力を思い出し長身ウサギを出現させる。
よっこいしょ、と自分の背ではなくウサギの背に乗るアスカにサンジの悲痛な声が砂漠が広がる空に響き渡る。







アスカはウサギに乗り、ウソップは結局ラクダに乗ってアスカ達は戦場を走る。


「うっ…うっ…ッ」

「おいおい…サンジ、いつまで泣いてんだよ…」

「うるへー!泣いてなんかいないわい!!」

「…じゃあその目と鼻から出てる汁はなんだよ」

「これはあれだ!!汗だ!!」

「……ああ、そう…」


サンジはアスカを背負えない事実からあれからずっと泣き続け、いい加減鬱陶しくなったウソップが思わず声をかける。
だが、サンジ曰く目と鼻から出ている者は涙と鼻水ではなく汗だと言い張り、色々と面倒になったウソップは構うのをやめた。
戦場を走り王宮へ向かうと丁度ルフィがビビを救出しているのが見えた。
アスカは大きな鳥から降りるルフィの姿を目で見た途端、ウサギから飛び降り足の痛み何て消えたように真っ直ぐルフィに駆け寄る。


「ルフィ!!!」

「!――アスカ!」


そのままアスカは飛び込むようにルフィに抱き付き、ルフィは砂漠以来のアスカに抱きしめ返す。
ビビはアスカの姿に目を丸くし、続いて駆け寄ってきたウソップ達に振り返る。


「アスカ…!?お前…!その怪我…っ!」

「戦ったのか!?、って言うつもり?言っておくけど私、あんたのクルーなんだからね…皆が戦っているのをただ見ているだけなんてできないんだから……特別扱い、しないで…私もルフィの……仲間のために戦わせて…」

「アスカ…」


まだ別れて半日も経っていないのにお互い長い年月会っていないように感じた。
ルフィは抱き付くアスカの腰に腕を回し、アスカは抱きしめるルフィの首に腕を回し密着し、顔を見合う。
チョッパーのお蔭で出血は大分止まったがアスカの肩には大量に血の色に染まっており、ルフィは戦闘をしたアスカに目を丸くした。
続けられるであろう言葉をアスカが遮りムスッとした顔をルフィに見せた。
ルフィは出来る事ならアスカに戦いに巻き込みたくはなかった。
それは姉のミコトに恨まれるからというのもあるし、アスカが怪我をするのが嫌だというのもある。
だが、自分達は海賊である。
村人ではなく、争い事を引き起こす側の人間となった。
海に出てからアスカも戦う事になるという覚悟はできていたが、やはり目の前で大切な幼馴染が怪我を負っているというのを目にしてしまうと不安でたまらなかった。
アスカの泣きそうな声、そしてその言葉にルフィは何も言えなくなり思いっきり抱きしめることで返答した。
力いっぱい抱きしめられたアスカもまた抱き付き返し、相変わらずな2人にビビも含めた麦わらの一味は見守っていた。
命の取り合いの最中、抱きしめ合う2人を肩を竦めて見ていたゾロだったが、不意に肩に手を置かれ、振り返ればそこには生暖かい目をしていたウソップがいた。
その目はまるで自分を憐れんでいるように見え、ゾロはいきなり肩に手を置かれ生暖かい目で見られる謂れはなく思わず一歩引いてしまう。


「…何だよ」

「まァまァ…そう落ち込むなって」

「は?なんのことだ」

「確かにさ、ルフィとアスカの仲は誰も入り込めないほどラブラブだけどよ…何も女はアスカだけじゃないんだぞ?きっとゾロのいいところを見てくれる女はいるって…な?」

「何が『な?』なんだよ!!いつまでその設定を引きずってんだおめェは!!第一お前立てないほどの怪我じゃねェのかよ!!」

「あら、それまだ続いてるの?私認めないわよ?絶対認めないから!アスカは一般人と結婚させて私と末永く幸せに暮らすんだから!」

「認めないも何もおれはそんな気はねェよ!!そもそもそれはお前の幸せだろうが!!」

「おいちょっと待てよ…おい、クソマリモ…おい…おま…おまえ…え?お前…アスカちゃんに恋慕を…!?おれの可愛いアスカちゃんに恋慕を!?え!?マジで!?」

「お前に至ってはキャラ崩壊するほどショックなのかよ!!いや、そうじゃなくてだな!おれはアスカにそんな感情ねェ!!っていうかアスカを女ともしても見てねェよ!!!」

「「(んだと)(なんですって)!?アスカ(ちゃん)は可愛い(だろうが)(でしょうが)!!!」」

「あーもーーッ!!うっぜェなァ!!こいつら!!」


まだカジノの前のやり取りが続いていたようで、ゾロは仲間達の間ではアスカに恋慕していたがルフィとのラブラブさに失恋した男…という設定を付けられてしまった。
船長同様話を聞かない仲間達にゾロは大声で突っ込み、サンジ同様初めて聞いたチョッパーは『えっ!ゾロってアスカの事が好きなのか!?』と真に受けてしまう。
真に受けたチョッパーに『お前もか…!』と頭を抱え、騒ぐ仲間達をアスカとルフィは『何してんだ?あいつら』『さあ?』と2人が話題の中心だというのに全く気にも留めていない。
大きな鳥が人に戻り戦争真っ只中だというのに呑気なアスカ達に呆気に取られていた。
だがそんな鳥…ペルの隣でビビは戦いなんて微塵も感じさせないルフィ達に安心感を感じていた。


「…っ」


あんなにも絶望感を感じていたのに、今では安心している自分がなんだかおかしくて、ビビは涙を浮かべながらも笑ってしまう。
とりあえずアスカに片想い中と設定をゾロに押し付けてこの場は収まり、アスカを抱きしめていたルフィはアスカから離れる。


「ルフィ…?」


抱きしめてくれていたルフィの体温が離れていくのにアスカが寂しそうに見つめ、ルフィはアスカを見つめた後、後ろにいるナミ達を見渡す。


「悪ィみんな…おれあいつにいっぺん負けちまったんだ」


あの後、別れたルフィはクロコダイルに負けた。
それは情報不足もあったが、実力差もあっただろう。
素直に負けたことを告げればアスカ達の表情は真剣みを戻す。
先ほどまでの空気を一遍させる仲間達にルフィは続ける。


「だからもう負けねェ!あとよろしく!!」


ルフィの言葉に仲間であるアスカ達は強く頷いた。


「さっさと行って来い…」

「お前が勝てなきゃ誰が勝てるってんだ!!!」

「終わりにするぞ!!!全部!!!」

「「「おォし!!!!」」」


これで最後…ルフィはそう決め、アスカ達もその言葉を信じて動く。
戦場の叫びに負けないほどの声を上げたアスカ達にビビは改めて自分には仲間がいるのだと溜まっていた涙が溢れた。


(そうだ…!!!私にはまだこんなに仲間がいる…!!!)


忘れていたわけではないが、何もかも1人で背負ってきたビビにとって、仲間達の存在はすごく大きく感じていた。

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