虚圏の中にあるという王宮。
それは藍染達が住まう場所ではなく、虚達の王が住まうと言う王宮がある。
何処にあるかは誰も知らない。
遠くから見たこともない。
ただ、王宮は望めば誰でも見れる場所にある。
そう、ただ望めば目の前に王宮が現れる。
王は虚圏の全てを愛し、虚圏に住む全ての生き物に慈悲を与える。
****************
「陛下…」
ここはその王宮。
静かな時を永遠と繰り返すとても人間には耐えられない空間だった。
本当に静かで身動き1つするだけで王宮に響き渡り、息すら聞こえる静けさの中、女性の破面がある部屋へと入る。
その女性は刀を腰に差し、ミニの白いチャイナを着て整った顔をしていた。
「ベルシダか…」
ベルシダと呼ばれた女性の破面は自分に背を向け大きな窓を開けバルコニーから夜の明けない夜空を見上げていた男へと頭を下げる。
その男は漆黒の闇の髪に毛先が血のような鮮やかな赤の髪を持つ男だった。
振り返ったその顔は恐ろしく整っており、無感情のその表情は凍えそうなほど冷たい。
頭を下げるベルシダに男は目を細める。
「ご報告がございます…実は……」
「よい、用件は分かっている……放っておけ…」
「し、しかし…」
「ベルシダ」
「――ッ!!」
「放っておけと、私は言ったはずだが…?」
「ぁ…、……ッ」
振り返った男の静かな声にベルシダは恐怖し、体を震わせる。
霊圧はまったく分からず、だから余計怖くて恐怖を仰ぎベルシダの体を、心を恐怖で支配する。
ベルシダは男に弁解しようとするも中々上手く口が開いてくれない。
「も、申し訳…あ、あり、ません…、…ディオス様…ッ」
男、ディオスは脂汗をかき謝罪を呟くベルシダに目を細めて小さく笑い、再び外へと目を移す。
ディオスの目線から逃れた事にベルシダは隠すことなく安堵の息をつく。
「……お前は…兄が心配なのだろう?」
「…!」
安堵していたベルシダにディオスは静かに問い、王の問いにベルシダは目を見張った。
ベルシダの反応を振り返って見ずとも分かっているのかディオスは笑みを深める。
「陛下…私は…」
「よい…兄妹仲がいいのはいい事だ…それに関して咎める気はない」
「………」
「まあ、そう作ったのは私だがな……」
「は…」
怒っている声色ではない事にホッとしながらベルシダは小さく頭を下げ、ディオスは美しいオッドアイの瞳を閉じる。
「…姉さんが私の元から逃げ出しザエルアポロがそれを見逃し……そしてお前の兄であるウティルが姉さんを追いかけた事…全て分かっている…」
「兄の処分はこのベルシダにお任せください」
「妹が兄の命を取るものではないよ、ベルシダ」
「ですが!…ですが…兄は陛下に生み出してもらったというのに陛下ではなく姉君を取りザエルアポロ様に刃を向けました!!これは立派な裏切りです!!どうか兄の処分は妹である私に…!!」
「ベルシダ…」
「――!」
ベルシダは兄であるウティルの裏切りが相当ショックだったのか、自分に兄を処分する役割が欲しいと興奮するが、ディオスの小さく静かな声にハッと我に返り口を閉ざす。
ディオスはベルシダに振り返り、今までその場から一歩も動かさなかった足をベルシダへと向け、ベルシダは恐怖に再び体を震わせ硬直し、動けなくなる。
そんなベルシダに気付いていながらもディオスは何も言わず美しい笑みを浮かべるばかりでゆっくりとベルシダに近づいていく。
「ベルシダ」
「…ッ!」
そしてディオスは恐怖に支配される瞳で見上げてくるベルシダに笑みを深め、ゆっくりと優しくベルシダの体を抱きしめた。
ディオスに抱きしめられる瞬間ベルシダはビクリと大きく体を揺らし、戸惑いの表情を浮かべる。
「ベルシダ、いいんだ…」
「な、にがよいのですか…兄は貴方様を…」
「ウティルは本能に従ったまでのこと…お前が傷つく事はない」
「ほん、のう…?」
ベルシダの恐怖を和らげようとしているのか、ディオスはベルシダの耳元で子供をあやすような優しい声で呟く。
その声にベルシダの硬直する体の力は少しずつ抜かれるがディオスの言葉に首をかしげる。
「そう、本能……ウティルは誰の為の破面か覚えているか?」
「あ、兄は…真由美様の…」
「そう、姉さんの為だけに作った破面…姉さんを主とし、姉さんの世話をし、姉さんの護衛をする為だけに作った破面だ…姉さんを追い、姉さんが死神達を求めているのなら…ウティルの行動は何処も可笑しくはない」
「………」
ゆっくりと離れる自分に名残惜しそうな表情を隠すことないベルシダにディオスは目を細め、1歩、また1歩と来たとき同様ゆっくりとした足並みでバルコニーへ戻っていく。
「ウティルは姉さんの破面…私を裏切り刃を向ける事など造作もない……そう作ったのは私だからな…別段驚くことではあるまい?」
「…………」
分かっていることだとベルシダは頭で思うが、やはり納得がいかない。
眉をひそめるベルシダにディオスは笑みを深め『おいで』、とベルシダへと手を伸ばす。
ベルシダは戸惑いながらゆっくりとディオスへ歩み寄り差し出されている手に己の手を載せる。
「ベルシダ、お前が命を落としても私を守るのと同じように…ウティルは姉さんを命に代えても守るために生きているのだ…そう責めてやるな」
「…………」
「私のベルシダ……お前にその表情は似合わない…どうか笑ってくれ」
「陛下…」
ディオスはベルシダの両頬を包み込むように伸ばす。
ベルシダは愛しい王の言葉に頬を染め、はにかむように笑った。
****************
王は死神を恨んでいる。
姉が奪われたからではない。
王は虚達を消し去る死神を恨んでいる。
王にとって虚達は兵士でもあり、我が子でもあり、愛すべき存在でもある。
王は、死神を恨んでいる。
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