(134 / 158) 浦原娘主 (134)

真由美は唖然としていた。
先ほどまでオレンジ色の板に守られ恋次が助け出そうとしているのをただ見ていただけだったのに板が割れた音をして粉々になったと思った瞬間何かに掴まれ瞬歩の時のような感覚に襲われ気付くと近くに居た恋次とザエルアポロが遠くにいた。
唖然とし、『どうして』と思う疑問はすぐに答えが出た。


「ご無事ですか、我が君」

「ウ、ティル……」


目の前には自分を我が君と呼ぶ超美形がいた。
ウティルは真由美に跪き頭を上げて唖然とする真由美の体に怪我がないことに安堵しているのか優しげに微笑み、普通の女子なら簡単に頬を染めトキメクだろう。
真由美も少し頬を染めていたがそれ以上に驚きが大きくてトキメクどころではない。


「ウティル…ッ!!」

「…!」


なぜここに来て、何故虚側であるウティルが自分を助けるのか分からなくて、でも聞くこともできないほど真由美の頭は混乱していた。
そんな真由美はザエルアポロの憎憎しい声に我に返る。
ザエルアポロはよほど板を壊されたのが腹が立ったのか、または同じ虚に関わらず真由美を奪うような真似をするウティルに腹が立ったのか……ザエルアポロは怒りの表情を見せ、ウティルを睨みつける。
既に目の前にいる恋次さえ目に映していなかった。
先ほど恋次を睨みつけていたよりも恐ろしい眼つきのザエルアポロに怯える様子なく、ウティルはゆっくりと立ち上がりビクリと肩を揺らす真由美を背中に隠すように前に出る。


「貴様…ウティル!我が王を裏切り死神へと寝返るつもりか!!」

「…私は我が君を守るために生まれた虚……元より陛下を裏切っているつもりはありませんよ、ザエルアポロ様」

「戯言を…!!守るのならなぜ結界を壊したんだ!僕が死神から守り王にお渡ししようとしていたことぐらいその節穴の瞳と役に立たない小さな脳でも分かるはずだろ!!お前には僕が王の姉君を傷つけるとでも思ったのか!!」

「勿論、ザエルアポロ様が我が君に傷をつけるなどとは考えておりません…ですが、私は常に我が君の味方……我が君が死神どものところへと望むのなら…私は命を掛けてでも我が君の願いを叶えるのが使命…………それはザエルアポロ様も同じでありましょう?…ザエルアポロ様も陛下が望んでおられるから藍染様の駒としてここにいる…陛下が望んでおられるから藍染様に力をお貸ししている……私の主はこのお方でザエルアポロ様の主は陛下…ただ主が違うだけで想いは同じ………分かっていただけましたでしょうか?」


淡々と答えるウティルにザエルアポロは霊圧を高める。
それにウティルは自身の斬魄刀、白龍寐(パイ・ロン・メイ)を構える。


「君を殺し我が王の膝元に転がしてやるよ…!!」

「……"一の章・水竜"」


恋次が目に入っていないのか怒りに任せてザエルアポロは声をあげ、先に仕掛けたのはウティルだった。
ウティルは白龍寐は技を素早く出し何もない部屋から突然水が溢れ、その水が龍となり室内を埋め尽くすような大きさへと変化させる
水竜はザエルアポロの頭上から降ってくるように襲い掛かるのだが、水竜は難なくザエルアポロに避けられてしまう。


「"三の章・氷竜""絶対氷結"」


ザザッと音を立てて竜が崩れたその瞬間水だったもの全て氷と変わり触れたものを凍らせていく。


「く…ッ!」


水しぶきも例外ではなくザエルアポロの腕、足、体全てが少しずつ凍りつき始め、ザエルアポロは動き難くなっていく体に舌打ちをしながら着地し、降ってくる氷の塊を斬魄刀で斬った。


「まだまだですよ、ザエルアポロ様……"三の章・氷竜"」


水竜が水に戻り、その水が凍り、氷の塊になったその塊から氷の竜が雄たけびを上げながら現れ再びザエルアポロへと襲いかかろうとしていた。
だが…


「――!!」


その氷の竜は首から真っ二つに切られウティル達は目を丸くし驚いた表情を見せる。


「………なんの真似だ…死神…」

「てめえがなんの真似だ、破虚野郎!」


氷の竜を切ったのは恋次だった。
不意打ちとは言え己の竜を切ったことに驚きが隠せないウティルだったがすぐに冷静になり恋次を感情のない瞳で見つめ、感情のない声で呟いた。
ザエルアポロとウティルの間に降り立った恋次は蛇尾丸を元に戻し負けじとウティルを睨みつけ、ウティルの後ろにいた真由美がハラハラしていたが、3人とも気付いていない。
恋次は手に持っている蛇尾丸をヒュッと音を鳴らしながら指差すようにウティルに向ける。


「てめえは今んとこ味方と考えていいんだよな?」

「…勘違いするな…私は我が君の味方だ…お前達死神の味方ではい…」

「我が君っつーのは真由美さんか?」

「そのお方以外誰がいる」

「……お前隊長に似てんな…会話のキャッチボールができやしねえ……」

「死神と言葉を交わすことなど無意味だ」

「…………あーもー!どっちでもいいけどよ!てめえは手を出すな!!」

「なぜ」

「あいつは俺の獲物だ!!横取りすんじゃねえよ!!てめえは真由美さんを守る事だけを専念しろ!!ここで暴れたら人間になってる真由美さんが巻き添え食らうだろうが!!」

「………」


命令する死神にウティルは目を細めるが、恋次が引く事はないと思ったのか呆れたように溜息を1つこぼし瞳を閉じる。
すると部屋中にあった氷が全て消えていき、冷たかった空気も暖かくなっていく。


「命令は聞かぬ…だが、お前の言い分は正しい……よって私は引こう。」

「おう!引け引け!」

「せいぜい肉の塊になってくれるなよ?」

「…お、おう……」


真由美の側へと戻っていくウティルの不吉な言葉に恋次は顔を引きつらせる。
どうやら途中で止められたことを根に持っているようだった。


「恋次くん!」

「真由美さん、絶対に手を出さないでくださいよ……もし真由美さんに何かあれば隊長に殺されるんで」

「でも…」

「大丈夫っすよ…破虚の力なんて借りずとも俺は勝てますって」

「……気を付けて…」

「はい!」


心配で声をかける真由美だったが恋次の笑みを見て止めれないと分かったのか仕方ない、とあきらめる。


「……今度は君が相手かい?……どっちでもいいが…ウティル…この死神を殺した後はお前だ…覚悟しておけよ…」

「お好きに。」


相手が恋次に戻り、そして体中にあった氷が消え、ザエルアポロは苛立ちを隠しきれず声が低くなる。
ウティルはザエルアポロの睨みをもろともせず涼しい顔で見つめた。


「覚悟すんのはてめえだ!カス野郎!!」


蛇尾丸の刃がザエルアポロへと向けられる。

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