「恋次くん…!!」
巨大な破面に玩具のように遊ばれている恋次に真由美は駆けつけようとしてもウティルに邪魔され駆けつけられなかった。
放して、と言ってもウティルは無言で恋次を見つめるばかりで、真由美の腕を掴んで放すことはない。
恋次は掴まれそのまま勢いよく地面に叩きつけられてしまう。
「お前達は手を出すな…もちろん僕も手は出さない…せいぜいエピローグを盛り上げてくれ。」
後ろで飛び跳ねて恋次のやられているのを楽しんでいるルミーナとペローナ達従属官にザエルアポロは手を出すなと命じ、血を吐き苦しむ恋次へと目線を戻し愉快そうに目を細める。
真由美は助け出したくても助け出せず、自分でも助けようと向かったとして恋次を助け出せれないと知っているのだが…やはり仲間が傷つくところは見ていてとても辛かった。
心配そうに真由美が見守るなか、恋次に手を伸ばしていた破面は突然ピタリと動きを止め、叫び声を上げて手を押さえて痛みに体を大きく揺らす。
どうやら捕まえようと手を伸ばしていた破面の手の平を恋次が斬魄刀で刺し、そのまま横へと斬ったらしい。
「ほう…少しだけ君の数値を情報修正するよ…ここまで粘るとは………だが困った事になった…こうなったら容易な事では止まらない。」
全く困っているようには見えないザエルアポロの言葉を理解するのはすぐだった。
手の平を切りつけられただけでも破面は大袈裟に痛がり床に転がって叫び声を上げる。
だが次の瞬間怒りに任せているのか、混乱しているのか…破面は立ち上がり雄たけびを上げながら恋次に拳を向けたり、壁を殴りかかったりと暴れ回る。
瓦礫が恋次や真由美の所にまで降って来ており、恋次は避けれるが人になっている真由美は避けれる訳もなく、ウティルが真由美を横抱きにして瓦礫から守ってくれていた。
「残念だな…君の体は完品では回収できないかもしれないな……」
粉々になている床に足元を取られた恋次はその崩れた床に嵌ってしまい動けなくなる。
動けなくなった恋次を見てザエルアポロは心底残念だと言わんばかりに溜息をつき、破面は腕を高く上げ、恋次に拳を叩きつけようとしたその瞬間…
「…!!」
恋次を殺そうとしていた破面はわき腹に霊圧の矢が貫き倒れてしまう。
それにザエルアポロ、恋次、真由美は何が起こったか分からず、恋次が壁側へと顔を上げているのに釣られ真由美もそちらの方へ目を移すと真由美も恋次同様目を丸くする。
「ここの建物が殺気石で出来ていないのは君達にとって不幸だったね…壁3枚を隔てた先まで霊圧が響いてる……どうした?随分なやられ様じゃないか…阿散井恋次」
「てめえ…石田……!」
「滅却師様…!」
3人の目線の先にはバラバラになって進んでいたはずの雨竜がいた。
どうやら霊圧を感じ来てくれたようだが、雨竜の登場に恋次はその棘のある言葉に顔を歪ませ、真由美は嬉しそうに顔を綻ばす。
仲間を倒されザエルアポロの従属官達はその破面へと駆け寄る。
そして、わき腹に穴を開けて倒れる仲間を見て騒ぎ壁に穴を開けこちらを見下ろす雨竜へと一斉に指差した。
何を言っているか分からないが怨めしい事を言っているのは確かで、醜い破面達が襲い掛からんばかりに自分を見て騒いでいる姿に雨竜は眉間にシワを寄せる。
「煩いぞ!!!」
「…!」
破面が雨竜を睨みつけ騒いでいると主であるザエルアポロのお叱りを受けてしまい、一瞬にして煩かった声が止み、静まり返る。
破面達はザエルアポロへ恐る恐る振り返るが、ザエルアポロは自分の従属官ではなく雨竜を見つめていた。
「お客様が何か喋りたそうだ……お聞きしようではないか…」
「お気遣いどうも…」
ザエルアポロに雨竜は表情を崩さずお礼を呟き、ザエルアポロはまるで役者のように肩に手をやり頭を下げる。
「じゃあ、早速で悪いけど確認するよ?……君が、十刃か…」
「ご明察だね…確かに僕は第8十刃、ザエルアポロ・グランツさ」
「8番目か…」
高みから見下ろす雨竜のその問いにザエルアポロは正解だと数回手を叩き笑みを浮かべる。
ザエルアポロの返答に雨竜は口端を上げ笑った。
「安心したよ…対して強い数じゃなくて」
「そうだね、安心してくれ…それでも君よりは上だ……ところで君は何者だ?」
「…石田雨竜……滅却師だ。」
「――!!、滅却師…!馬鹿女と戦った希少種か!!」
滅却師と聞いた瞬間ザエルアポロは目を見張り嬉しそうに笑みを浮かべる。
その笑みは世間で言う満面の笑みではあるが、常識人が浮かべるようないい笑顔ではなく、ザエルアポロの瞳は実験動物を見ているかのような瞳だった。
その瞳は以前尸魂界で戦った事のある、恋次の後ろで知らない破面に抱きかかえられている人物の上司でもある…そう、涅マユリと同じ瞳をしていた。
ザエルアポロの瞳と口調がイヤな思い出しかないあの戦い、あの人物と重なり雨竜は不快そうに眉をひそめる。
ザエルアポロは滅却師の登場に笑いをもらす。
「卍解の使い手に滅却師!!僕は運がいい…!ヤミーの奴ならスエルテと喚くとこだろうなあ!!」
「…………」
高笑いを上げるザエルアポロに雨竜は黙ったままその場から飛び降り、ザエルアポロの背後へと降り立つ。
ザエルアポロは上機嫌に笑っていたが背後を取られ目を丸くする。
「そうだね…ヤミーってのがどうだが知らないが…君みたいに隙だらけの奴と戦えて僕はスエルテ、と喚きたい気分さ…」
「――ッ!!」
振り返れば雨竜はゼーレシュナイダーを弓にしザエルアポロへと向け、そして避ける隙も与えない速さで矢を放つ。
その矢はザエルアポロの腹部に貫通し、膝を突いてしまう。
従属官がザエルアポロの名を呼びながらオロオロしていると、そのゼーレシュナイダーに纏っている滅却師の霊力が弾かれるように完全に消えた。
「!、なに…!?」
消えた己の霊力に雨竜は目を見張る。
驚いているのは雨竜だけではなく見ていた真由美も同じく目を丸くして唖然とし、立ち上がったザエルアポロの笑い声が部屋に響く。
「馬鹿が!!お前ごときの矢がこの僕に貫通したと思ったか!!刺さって貫いたとそう思ったか!!」
「………」
「お前と戦った相手を僕が知っている時点で何故可笑しいと思わない!!お前の力は既に全て解説済みなんだよ!!滅却師!!!」
ザエルアポロは雨竜を指差し、心底可笑しいと言った笑いを上げる。
そのザエルアポロの言葉に雨竜は眉をひそめた。
ザエルアポロは自分から攻撃をすることはなく、従属官に雨竜を仕留めるよう命ずる。
高いところにはいないが高みの見物を決めるザエルアポロの命令に従い従属官の破面達は次々と雨竜へと襲い掛かる。
ウティルは弓を打ちながら逃げ惑う雨竜を見つめていると腕から降ろした真由美が突然走りだした。
「我が君…!?」
生まれて初めて見た滅却師に気を取られていたウティルは走り出した主に気付き手を伸ばそうとするが届かず慌てて追いかける。
真由美は雨竜ではなく傷だらけの恋次へと駆け寄る。
「恋次くん…!」
「真由美、さん…なぜ…」
「すごい傷…!!動かないで!!」
「離れてください…」
「離れるわ、絶対戦わない……でもそれは恋次くんの治療をしてからよ…ちょっとでも治させてちょうだい」
「真由美さん…」
にこりと笑う真由美に恋次も釣られて笑った。
治療するため真由美は限りある小さな霊力を全て治療の為の鬼道に注ぐ。
元とは言え四番隊三席だからかすぐとは言わないが確実に傷は治って来ており霊力も戻ってきている。
「…………」
死神の怪我を治療する主の背をウティルは複雑そうに見つめていた。
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