(138 / 158) 浦原娘主 (138)

ザエルアポロは確かに2人の攻撃に負傷した。
しかしザエルアポロは己の従属官であるミルーナを食べ、回復してしまう。
ザエルアポロに従属官は特殊なため回復薬の役目もあるらしいのだが同属と言える破面を玉状にしているとは言え食べる姿は死神である真由美達は勿論、同じ種族であるペッシェ達は顔色を青くさせていた。
ただ、ウティルだけは無表情でザエルアポロを見つめているだけである。

せっかく弱らせたのに回復し体の傷も完璧に直したザエルアポロは服を着替えると言って部屋を出てしまい、その隙に恋次達はこの部屋から出て行こうとし、真由美に声をかけ走り出した。
声をかけられた真由美は慌てて続こうとしたがウティルに腕を掴まれ、それに気付かず真由美が着いてきているとばかり思っている恋次に置いて行かれてしまった。


「ウティル!!」

「また戻って参ります」

「何を言って…」

「この宮はザエルアポロ様の意のまま…回路を弄られ逃げれなくするのです。」

「………」


ウティルの淡々とした声と言葉に真由美は口を閉ざし、真由美が大人しくなりウティルは腕を放す。
真由美は静まり返り広すぎる部屋の中でずっと疑問に思っていた事をウティルに投げかける。


「……あなたは、なぜ私の味方をするの…」

「私があなたの破面だからです」

「私の…破面……?」


真由美はずっと、ここに来てウティルに出会ってからずっと疑問に思っていた。
何故破面である…虚であるウティルが虚達の王であるディオスの命令だとしてもここまで自分を守るのはどうも腑に落ちず真由美は更に疑問が深まっていく。


「陛下は、貴女様の弟君は虚圏をお作りになるのと同時に2人の側近をお作りになられました……その2人の1人が私でございます…」

「だったら私じゃなくて秋斗の破面じゃ……」

「いいえ…陛下をお守りするのは妹であるベルシダの役目…私は我が君の為だけに作り出された破面なのです」


今一言っている意味が分からない…真由美はそう思い首を傾げ、ウティルを見上げる。


「陛下は貴女様を長い年月をかけお待ちしていました……亡くなられた貴女様がこの世界に来られると陛下は分かっていらっしゃったのです……ですから人間が生まれ最初に堕ちて来た魂である私を虚とし、破面とし、時が来るまで妹と共に側に置いていたのです…ただ、貴女様が死神になられたのは予想外でしたが……」

「秋斗は…私より前にこの世界に来たって言うの……私より…いいえどの誰よりも秋斗は虚になり王となった…?」

「はい…恐らく死神より…」

「でも……私に話してくれたときはバルガンっていう十刃が王だと言ったから王になったって……そう言っていたわ…」

「陛下は無自覚でしたから…ただ自分で虚を作れる能力がある、と思っていただけで虚圏の王とは自覚はありませんでした…自覚なさったのはバルカン様のお言葉でございます…」

「………」


苦笑いを浮かべるウティルに真由美は何も言葉を返さない。
ウティルは自分を守るだけに生まれた、と自分の意思などない言葉を口にし、生まれる前から決まっていた役目に抵抗もないようだった。
そして、自分を作ったディオスでさえ恨みなどなく、逆に敬意を胸に秘めている。
真由美は死神と虚の考えの違いを改めて思い知らされ複雑そうな表情を浮かべウティルから目を逸らして俯いた。


(申し訳ありません…我が君……)


ウティルは俯く真由美を悲しげな瞳で見下ろす。
そんなウティルに気付くこともなく、真由美が俯いた後に恋次達が帰って来て、恋次達は真由美の側にある扉から勢いを付けて入って来た。


「なんだと…!?」

「これは…!!」


恋次達は元の部屋へと帰ってきたことに唖然とし、真由美が振り返って恋次達を見つめていたことでここは別の部屋ではないと確信した。


「真由美さん!?…ついて来てなかったんすか!?」

「え、ええ…だってウティルが戻ってくるからって止められて…」

「ここはザエルアポロ様の宮……ザエルアポロ様の思いのままだからな…それにこの部屋をはじめとするザエルアポロ様の宮にはお前達の卍解や霊圧を封じる仕組みが施されているから何をやっても無駄に終わる。今も宮の全ての壁に埋め込まれているカメラからザエルアポロ様は我らを監視しておられるのだろう…」

「てめえ!分かってたんなら言えよ!!」

「何故死神ごときに言わねばならない、普通は気付くだろ」

「普通は気付かねえよ!!」

「それはお前が馬鹿なだけではないのか」

「はあ!?んだとてめえ!!!」

「阿散井!いくら本当のこと言わたからって今は争ってる場合じゃないだろ!!」

「よおーし!!石田!!お前もこいつの隣に立て!2人いっぺんに息の根を止めてやらあ!!!」


ツーンとするウティルと本音が隠すことがない雨竜に恋次は青筋をたてるが2人は全く相手にしていなかった。
真由美もどうしたらこの騒ぎが治まるか、分からずオロオロしているだけである。



「お帰り」

「「…!!」」

「さて、そろそろ第二幕といこうか…」



姿を現したのは着替え終わったザエルアポロだった。
ザエルアポロの登場に3人は騒ぐのをやめ、恋次達に緊張が走る。
そんな恋次達にザエルアポロは笑みを深めた。


「どうだった?僕の宮の中は……説明はそこの裏切り者がしてくれたから説明はいらないね?」


目を細めて笑うザエルアポロは己の腰に差している斬魄刀を手にかけゆっくりと抜いていく。
斬魄刀を抜いていくザエルアポロに恋次達は警戒心を高め、次の攻撃に備える。


「≪啜れ、邪淫妃≫」


ザエルアポロの静かな声に斬魄刀は帰刃する。
帰刃したザエルアポロは風船のようにふくらみ、次第に萎んでいき、無数のヒダのようなもので包まれていく。
姿を変えていくザエルアポロに恋次は蛇尾丸を抜きいつでも反撃できるよう構える。


「お待たせしてすまなかったねえ……いよいよお待ちかねの第二幕の開演だよ……ああ、いや…すまない、訂正しよう…正しくはいよいよ第二幕の、終演だ」


そうザエルアポロが言った瞬間ザエルアポロの背中から大量の紫色の液体が噴出し、真由美達は目を丸くさせる。
その液体は辺りに散らばり恋次達に向かって落下してくる。


「なんだ!?」

「知らないよ!!なんだか知らないが全部交わすんだ…!!」

「そ、そう言われても…!!」

「そんなの無理でやんすーーッ!!」


人型のペッシェや恋次と雨竜はなんとか避ける事はできるが無駄に図体がでかいドンドチャッカは避けることが出来なくて仮面に液体がついてしまう。
するとその仮面についた液体が独りでに浮き上がりもう1人のドンドチャッカが現れる。


「何アレ!?」

「我が君…!」


真由美も逃げ回っていたが、ドンドチャッカ、そして雨竜達も液体に触れてしまい2人となったのを見てつい足を止めて唖然とする。
すると動きが止まっていた為液体の標的となり真由美の上に数滴の液体が落ちてくる。
真由美は気づいていないのか慌てるようすもないが、液体に気付いたウティルが素早く真由美の背後に回り白龍寐を真由美の前に突き刺す。


「"一の章水竜!""水守!!"」


ウティルが白龍寐を床に串刺したその瞬間薄い水の膜のようなものがウティルと真由美を囲むように張り巡らせドームのように丸く包み込んだ。
真由美へ降っていた液体はその水に引っ付き増えることなく普通の液体のように床に落ちていく。
真由美はやっと液体が自分に向かってきていたと気付き、そしてそれをウティルが防いでくれた事に胸をなでおろす。
真由美とウティル以外の面々が自分をもう1人増やし対峙しているとザエルアポロの笑い声が響き、全員ザエルアポロへと顔を向ける。


「さて…登場人物も出揃った……さっそく始めてもらおうか………見て分かるだろうが、自分と同じ能力を持った敵だ…半端な戦いは死を誘うぞ?」


笑みを浮かべるザエルアポロは『君達に嬉しい知らせだ…』、と呟き後ろにいつの間にか用意されていた椅子に腰を下ろす。
その椅子はどこか…気のせいだと嬉しいのだが破面に似ているようだと、真由美は緊張感もなくそう思う。


「君達の能力を封じていたこの部屋の仕掛けを解除しておいた」

「「…!!」」

「さあ、思う存分自分自身と全力闘士で殺しあってくれたまえ…!」


部屋にザエルアポロの笑い声が響き、分身のような自分達が動き出す。
恋次と雨竜は己の武器を持ち相手、自分自身の攻撃から身を守る。
雨竜が霊力の矢を打つと自分自身も霊力の矢を打つ。
2人の矢が中間でぶつかり合い両者共に当たる事はない。
恋次も同じく始解すれば自分自身も始解する。
ドンドチャッカとペッシェは相変わらず逃げているが、真由美は2人の戦いを固唾を呑んで見守っていた。


「あわわわ…!!怖いでやんすー!助けて雨竜ーーー!!」

「うわああっ!!」


自分自身と戦っていた雨竜だったが横から自分自身に追われていたドンドチャッカが助けを求めて突進し、抱きつこうとしたがその迫力につい雨竜は避けてしまう。


「酷いでやんす!!避けるだんなんて!!怖がって抱きついているでやんす!!受け止めて欲しいっすーー!!」

「無茶言うな!!君の抱きつきは僕には攻撃にしか見えないんだよ!!!」


涙を大量に流すドンドチャッカだったが背後から大量のドンドチャッカが迫り、本物と同じように飛び上がって2人に抱きつくという攻撃をしかける。
咄嗟に避けるが、雨竜と本物のドンドチャッカがいた場所は床が粉々に壊れていた。


「おのれー!ドンドチャッカ・プレスを交わすとは!!」

「ほらみろ!攻撃じゃないか!!!」


バシバシ、と何度もドンドチャッカの仮面を殴る雨竜だったがドンドチャッカの仮面の硬さに雨竜の方がダメージは大きいらしく、白い手が赤く腫れてしまった。


「もうイヤでやんす!!オラたちこんなことしてる場合じゃないでやんすーー!!」

「何が…!」

「オラたちネルを捜さなきゃいけないんでやんすー!」

「分かってる!ネルちゃんも捜すさ!!ここを脱出できたらすぐに!!」

「駄目なんでやんす!すぐ捜さなきゃ駄目なんでやんす!!」


痛みなのか、心配だからなのか、何かを恐れているのか…ドンドチャッカは大泣きし、雨竜はドンドチャッカの言葉に首をかしげる。


「感じるんでやんす…!さっきから…さっきからネルが怖がってるんでやんす…ッ!!駄目なんでやんす!これ以上…!これ以上ネルを虚夜宮の置くに近づけちゃ…ッ!!!」


「ネル…?」


ドンドチャッカの悲痛な言葉を偶然耳にしたウティルは戦場から涙を流し体を震わせるドンドチャッカへと目線を向ける。


「ウティル?どうしたの?」

「…いえ……何でもございません、我が君…」

「そう…」


何もないような表情ではないウティルに真由美はそれ以上何も聞けず恋次の戦いへと意識を戻していく。


(ネル……ネル…どこかで聞いたような名だな……)


ウティルは思い出せそうなのに思い出せず無意識に眉をひそめる。
ドンドチャッカの言葉によく出る"ネル"という破面らしき名前に胸が引っかかる感触にウティルは己の斬魄刀を強く握り締めた。

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