(140 / 158) 浦原娘主 (140)

ポタポタ、と恋次の足元から血が滴り落ち、小さな血溜まりを作る。
雨竜はすでに動くこともままならないのか真由美の側でうつ伏せに倒れていた。


「しつこい男だな……これだけ色々潰してるんだ…いい加減意識を失ってもいいころだぞ?」


何度も内臓、骨など潰され、それでも向かってくる恋次に飽きてきたのかザエルアポロはすでに笑みを消していた。
それでも恋次はザエルアポロを倒そうと向かうが、ザエルアポロに溜息をつきかれながら左アキレス腱を折られ立っていられず倒れこんでしまう。


「左アキレス腱を壊した……さて、次はどの辺りにしようか?あまり内臓をやってしまうとそろそろ命に関わるんでね…」

「くそが…ッ!!」

「ほらほら、動かない動かない」

「――――ッあああ"ああ"あ"!!!」

「恋次くん…!!っやめて!!もうやめて!!秋斗の所に戻るから…!貴方達の王のもとに戻るから!お願い!やめてっ!!」


背骨を折られたのか上半身を起き上がらせていた恋次は悲鳴を上げながら垂れてしまう。
それに真由美はザエルアポロへと声を上げるが、ザエルアポロは泣きそうな真由美を横目で見るだけだった。


「勿論、貴女は我が王のもとには戻ってもらいますよ…だが、この者達を生かしておくな、というのも藍染様と我が王のご命令……いくら我が王の姉君である貴女の願いでも叶えることはできない…」

「そんな……ッ」

「ああ、1つだけ抜けていたね……ウティル、お前は勿論僕が始末しそのみすぼらしい死体を我が王とお前の妹の前に捧げてあげるよ」

「…………」

「さぞお前の妹は怒り狂うだろうねえ…」


真由美はザエルアポロの言葉に涙を流す。
自分と織姫を助けに来たばかりに殺されそうになってしまう彼らにどう謝罪していいか分からなかった。
そんな真由美をよそにウティルはザエルアポロの言葉に表情を険しくさせ睨みつけ、ザエルアポロはウティルの微妙な反応に笑みを細めた。
この兄妹は仲がいい、とザエルアポロを含む虚達は知っている。
だからこそザエルアポロの言葉にウティルは不快感をあらわにさせた。
その反応に飽き飽きしいていたザエルアポロを楽しませる。
だが、背後から何かの液体を掛けられザエルアポロはその液体に眉をひそめる。


「なんの真似だ?この……、…!!」


液体は羽にかかり、ザエルアポロの手にもかかる。
その液体は異様にヌルヌルしているため、手の中にあった恋次と雨竜の人形がズルリ、と落ちていってしまった。


「よっしゃとったああああ!!」

「ペッシェ!?」


握り締めることが出来ないほどのヌルヌル感にザエルアポロの手から離れた人形が地面に落ちる前に滑り込んできたペッシェに受け止められ何とか無事に奪い返すことが出来た。
それにはザエルアポロも真由美も目を丸くさせ驚く。


「今だ!!ドンドチャッカ!!バワバワを出せ!」

「おう!でやんすーー!!」

「「「!!」」」


ペッシェの言葉に瓦礫をどかしてドンドチャッカが走ってくる。
そのドンドチャッカの口から砂を食べてないと死ぬと言っていたバワバワが現れ恋次達は驚きを隠せなかった。
バワバワはそのまま立って待っていたペッシェを頭に乗せ進む。


「なんで…ッ…そいつが…ドンドチャッカの口から…!?」

「バワバワはドンドチャッカが体内に飼っている戦闘用霊虫の1つだ!だがそのことはネル様にはお伝えしていない!我々に関する情報からネル様の記憶が戻ることを恐れたからだ!ネル様は戦いを好まれなかった…そのネル様がようやく戦いの輪廻から外れたのだ…我々はネル様に戦いの記憶を思い出させたくなかった…ただ静かにお守りすることこそが使命と考えた…だが!今ネル様は戦いの意思を示されている!ネル様が戦うと仰るならば!そこへ散じるのが我等が使命!!貴様如きにかかずらっている訳にはいかんのだ!ザエルアポロ!いくぞ!!」


バワバワは押しつぶそうとしたのかザエルアポロに襲い掛かるが羽の1つに簡単に止められてしまう。


「フン…お前ごときに、か?……随分な口を利くもんだね…従属官風情が…」

「とう!!」

「……!」


鼻で笑うザエルアポロをよそにバワバワの上から天高く飛び上がったペッシェ。
だが、ペッシェはあろうことかふんどしの中に手を入れてしまう。


「――ッ!、我が君!!見てはなりません!」

「ええ!?なんで!?」

「穢れてしまわれます!」

「見ただけで穢れるの!?なにそれ逆に興味あるんだけど…!!」


皆と同じように見上げていたウティルだったがペッシェがふんどしの中に手を入れた瞬間顔を青ざめ真由美の目元を手で覆って隠す。
突然目を覆われ視界が真っ暗になった真由美は何がなんだか分からず声を上げてしまうが、ウティルの言葉に更に混乱してしまう。
見るだけで穢れるといわれてしまえば興味持たない方が可笑しくて…真由美は見よう見ようとしてウティルに手をどかそうとするがビクともしない。
真由美はついに諦めてしまった。


「ちょっと…待てッ!お前……お前なにを…何を出そうとしてるんだ…ッ!!!」


周りの反応と同じくザエルアポロもふんどしの中に手を入れてナニかを取り出そうとしているペッシェに汗が大量に出てしまう。
だがペッシェはふんどしの中から何かを取り出し、ザエルアポロに向ける。
咄嗟に手でガードすると、痛みと同時にじわりと血がにじむ感触がザエルアポロに襲い掛かる。
クルクルと瓦礫の上へ着地するペッシェの手には1つの剣が握られており、ふんどしの中から出したのはナニではなく剣だったらしい。
それにウティルは安全だと思ったのか真由美の目元を隠している手を放した。
手を放された真由美は途中からテレビを見ているような感覚なため何がなんだか分かっていない。


「見たか!これぞ我が刀!その名も"究極(ウルティマ)"!!美しく輝くその刃は溢れ出る霊子によって姿を現す光の刃!どうだ雨竜!親近感を覚えるか!?貴様のナニとよく似ているだろう!!」

「…似てないし…ナニとか言うな…」

「ツッコミが小さいわ!この腑抜け!!」

「臓腑を破壊された僕を腑抜け…すなわち臓腑抜けとかけたつもりか…全然上手くないんだよ…ッ」

「…お前…意外と余裕あるな……」


臓腑と腑抜けをかけたボケに小さい声だが突っ込む雨竜にもう外も中も文字通りボロッボロな恋次はツッコム余裕のある雨竜にポツリと呟いた。


「行け…お前達……」


ペッシェと雨竜の漫才をよそにザエルアポロは俯きながら背後に椅子として控えさせていた従属官2体に声をかける。


「目障りなウナギの化け物を捻り殺せ……その間に僕が下の2匹を潰す!!!」


ザエルアポロの命令に破面が動き出し、バワバワに襲い掛かろうとしていた。
しかしバワバワの前にドンドチャッカが立ち塞がり口から出した己の剣で自分より、そしてバワバワより巨体な2体を簡単に吹き飛び戦闘不能にした。
己の後ろへと簡単に吹き飛ばされた従属官にザエルアポロは唖然とし、目を丸くさせる。


「ザエルアポロ…お前の敗因はただ1つ…」


ペッシェは目の前に立ち屈むドンドチャッカの上へと乗り、剣を構える。


「かつて倒した相手だと侮りを持って我らに対した事だ…我々はネル様をお守りするため常に錬磨を絶やさなかった…今の我々はかつての我々とは次元を異にする存在なのだ!受けるがいい!そして滅びろ!!これが我々の生み出した新たな虚閃!!セロ・クレティコ!!!」


2人の虚閃が重なり合い、その虚閃は大きくなっていく。
その霊圧は2つの虚閃を重ねているのでとても強力で、霊力が感知できない真由美の体でさえビリビリときている。
2人の合体技であるセロ・クレティコは勢いを付けてザエルアポロへと放たれる。


だが…


「何故だ…何故通用しない…!!」


目の前には傷1つ負っていないザエルアポロの姿が…
確かに技は当たっていた。
当たったから爆発が起き、当たったから爆風が吹き荒れる。
だが、目の前にいるザエルアポロは怪我1つなく先ほどまで驚愕して目を丸くさせていた表情を一変させ嘲笑を浮かべていた。


「何故通用しないかだって?融合した力は確かに強大な破壊力を秘める…だが完全に交じり合い変化しきっていなければ容易く2つの力に分裂する……僕はそのポイントに僅かな力を加えただけさ…」

「なぜ…何故なんだ…っ」

「なぜそんなことが可能でやんす!?」

「何故、何故…質問が多いね……だが教えよう、それは君らが僕に時間を与え過ぎたからさ…仮面を変えたくらいで気づかれないと思ったのか?気付いてたさ……最初に見た瞬間から君たちがネリエルの従属官だとね…だから滅却師と死神と戦いながら君たちの動きも霊圧も経験も全てを計算し続けた…セロ・クレティコと言ったかな?全く強力で素晴らしい技だったよ…だが、予測の範囲内だ…ペッシェ・ガティーシュ、ドンドチャッカ・ビルスタン…教えよう……君たち敗因はこの戦いの始まった瞬間に今の技を使わなかったことだ……さて万策尽きた、と見ても良いかな?」

「……ッ」


確認するようなザエルアポロの言葉にペッシェ達は奥歯を噛み締め、悔しがる恋次達にザエルアポロは笑みを深める。


「御苦労様、諸君…愉快で冗長なこの舞台もようやく終演を迎えられそうだ…終わりにしよう、何もかも…」


最後の止めだ、と何か仕掛けようとしていたザエルアポロだったが…背後からの気配に顔をあげ振り返った。
ザエルアポロに釣られ真由美もザエルアポロの後ろへと目をやる。


「ぇ……」


真由美はその視線の先にいる人物に目を丸くし、懐かしいその人物を見て瞳が揺れた。


「誰だい、君は…」

「私が誰か、か?……その質問に答える意味はあるのかね?」

「なに…!?」

「破面…破面…十刃!面白い!実に!虚圏は宝の宝庫だネ!」


ザエルアポロの前に現れたのは、真由美の上司でもある十二番隊隊長、涅マユリだった。

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