ザエルアポロが血を流すことなく心臓を貫かれ立ち尽くしている光景は苦戦し、全く歯が立たなかった雨竜と恋次にとって異様な光景だった。
というかあのドが頭につくサディストなザエルアポロを弄んでいたドを何個付けて超を何個付ければいいか分からないマユリに引いていた。
唖然としていると恋次の頬が紫色に染まっていくのに隣に居た雨竜が気付き声を上げる。
「!、阿散井!君も毒にやられてるぞ!!」
「なに!?――ぐ…ッ!」
雨竜の言葉に自分も毒にやられたと気付いた恋次だったがもう既に遅く、恋次は声を上げた瞬間吐血してしまう。
吐血しながらも丈夫だけが取り得の恋次は顔を青くさせながら毒に侵されている様子のない雨竜に呟く。
「な、なんでテメエは平気なんだ…」
「僕は一度あの毒にやられてる…恐らく抗体ができてるんだ…」
「きったねえ…!そんなのありかよ……う"…ッ」
「汚くないだろ!僕は1回死に掛けているんだぞ!?そんな事より早く解毒剤を!おい!涅マユ…がはッ!!」
「石田ーーーッ!!!」
抗体が出来ている、と言った先から雨竜は恋次と同じく血反吐を吐く。
マユリは血を吐いたぐらいで、と呆れた目で転がる2人を見下ろすが……普通の人は真似してはいけません。助けてあげましょう。
「何を呑気な事を言っているんだネ…毒の配合など1回ごとに変えるのが常識だヨ?」
「こ、この野郎…!」
「抗体ができている?それをさせないのが腕という奴だヨ……しかも、毎回毒は真由美が作っているのだからいくら毒に抗体が出来ている者でも真由美の毒に逃げれる者などいやしないんだヨ。」
「「なにーーーー!!?」」
はあ、と呆れ顔のマユリは頭にくるが、自分達を苦しめ、尚且つあのザエルアポロさえ侵していた毒を作ったのが虫を殺さないような顔を持つ真由美が作ったと知り、二人は驚愕する。
恋次は真由美を雨竜よりは知っているので雨竜の驚きには敵わないが、初耳なためやはり驚いてしまう。
真由美は今だ背を向けているのだが、2人の驚きの声にゆっくりと振り返る。
恋次と雨竜はこの時愛らしい笑み、または申し訳なさそうな笑みを浮かべて謝罪するのかと思ったのだが……
「エヘ☆」
振り返った真由美は恋次達が思っていた反応ではなく、舌を出し背景にはゴメンゴ!とくっきりはっきり示されていた。
謝ったことには謝ったがその謝り方の軽さと晴れ晴れとした笑みに2人は何も言えなかった。
しかし無言のまま見上げる2人に真由美はどこに仕舞ってあったか不明だがメモ帳とペンを取り出し凄い速さで恋次と雨竜の元に向かう。
その速さに流石の2人もビクリと肩を揺らした。
「真由美…さん……?」
「動かないで!恋次くん!!いい?今は動かないままの毒の回り具合を記録してるの!!動いたら記録できないじゃない!!」
「す、すみません……って真由美さん!?何言ってるんすか!?解毒剤を下さいよ!!」
「それは後よ!後!!記録を完璧に残してこの記録を元にこの毒以上の毒を作るんだもの!!」
目をキラキラと輝かせながら真由美はなにやらメモっていたが、動こうとする恋次の体を掴み、動けなくする。
それだけではなく、ウティルに言って恋次の動きを封じ、逃げ出そうとした雨竜をウティルの斬魄刀の能力で拘束してしまう。
すでに優しげな愛らしい瞳をしていた真由美は恋次と雨竜を実験動物を見るかのような眼つきに変わっており、慣れていない者と初めての者には恐怖しかない。
声を上げる恋次をよそに真由美は次々と症状や進行の早さなどを記録していく。
「さて、次は滅却師様です!」
「ええ!?もう記録は終わったんじゃ…」
「次は動いている間の記録なんです!さあ!好きに動いてくださいまし!!」
「無茶、を…ッ言うなあああああ!!!!」
はあはあ、と息が荒くなって変態と化す真由美に雨竜は叫ぶが全く通じることなく虚しく青空に響いて消えた。
****************
「真由美、遊びはそこまでにしてネムを起こし給え。」
「はーい!」
ウティルによって無理矢理動かされていた雨竜はドサッと乱暴に恋次の横に寝かされた…というか落とされた。
記録を書き終えた真由美にマユリは解毒剤と注射を渡し、その解毒剤と注射を2人に打ち、なんとか2人は命を取り留める事はできた。
ゼーハーゼーハ、と疲れたように肩で息する2人をよそにマユリの言葉に真由美は元気よく返事を返し、自分の毒の経過を記録できて上機嫌なのか軽い足取りで目を開けたまま青白い肌に変わったネムへと駆け寄る。
それを横目で見送りながらマユリは動かなくなったザエルアポロへと歩み寄る。
何をするかと雨竜と恋次が見つめるなか、マユリはポキリ、と己の斬魄刀を簡単に折ってしまった。
「お、おい…大丈夫なのか…斬魄刀折れたぞ…」
「フン…折れたんじゃない…折ったんだヨ。」
「折った…!?」
マユリの言葉に雨竜は目を丸くする。
目を丸くして見つめる雨竜にマユリは横目で見つめ目を細めた。
「柄さえあればまた作れる…逆らった奴には一度折るぐらいが丁度いい仕置きだヨ」
フン、と鼻を鳴らしながら斬魄刀を鞘に戻すと、何かを捜しているのかマユリはキョロキョロと辺りを見渡すとある場所に近寄った。
その瓦礫に何があるかは分からないが、マユリは1つの瓦礫をどかし、ネムと真由美へと振り返る。
「真由美、ネムはどうだネ?」
「大丈夫です、実験室に入れなくてもこの場で起こせます。」
死んでいるネムを診ていた真由美に声をかけ、真由美は親指と人差し指でオッケーサインを作り笑みを浮かべてネムの死覇装に手をかけた。
その行動に恋次達が首をかしげたその時…
「あぁッ……あ、…ッ……あ、んぅ……ぁ、ああああッ!!!」
色っぽくあの行為の時に出る声がネムから聞こえ、男である恋次と雨竜は顔を真っ赤にさせながら見ないように目を隠すが…指を少し開けて見ていた。
ウティルは平然と顔を赤くさせることも表情を浮かべることもなく無表情で真由美のする行為を見つめていた。
この3人の格の差はどこにあるのだろうか……
「おはよう、ネム」
「おはようございます、真由美様…」
「「なッ…治ったーーーーー!!」」
男2人がハラハラドキドキさせていた間に死んでいたネムは息を吹き返し、しかも肌がつるつると美しくなって起き上がる。
その頬が少し赤い気がするが恋次と雨竜はそれどれころではない。
「な…なんでだ!?今の動きのどこで治した!!」
「何だネ、この程度の事も見てわからんのかネ…
屑が」
「わかるわけないだろ!!今テレビにも少年雑誌にも映せないことしてただけじゃないか…!!!」
こちらが悪いような言い方をするマユリに雨竜は突っかかるが解毒剤で毒は消えたがザエルアポロとの戦いで傷は治せていないためすぐに咳き込みマユリを言い負かすことはできなかった。
「ネム、ここを掘り返せ」
「はい、マユリ様」
生き返ったネムは早速命じられたとおりの場所を掘り返す。
どういう構造になっているかは不明だが手をドリルのように回転させガガガ、と瓦礫を削る音をさせながら確実に掘っていった。
掘っていくのだが、その途中に戦闘で埋まっていたペッシェ達が現れるもマユリに一刀両断され、何かに気付いたネムがペッシェ達の足元の瓦礫を空高く飛ばして退けたのでペッシェ達は雨竜や恋次達と絡むことなく空の星となり消えていく。
消えていくペッシェ達を見送りながらウティルは『ネリエル様の従属官も随分と変わられたな…』と、心の中で呟いた。
ザエルアポロの言ったネリエル、という言葉に思い出したウティルは随分と垢抜けてギャグ専門になったネリエルの従属官になんて反応したらいいか分からなかった。
ペッシェ達をどかして現れたのは一つの扉。
あれほどの戦闘でも傷1つなく、扉の奥は長く細く後ろに続いていた。
「なんだ?あの扉は…」
「あの崩落の中で、どうしてここだけ無傷で残っているんだ?」
「フン、決まっているよそんなこと。」
飛び降り扉へと歩み寄るマユリに続き、真由美もウティルに抱きかかえられながら下に飛び降りた。
マユリは雨竜の言葉に当たり前だと鼻で笑う。
「科学者が自らの研究室を作るとき、他の何処よりも堅牢強固に作る場所…それは高価な実験機器の部屋でもなければ、夜通し書いた論文の書庫でも無い…我々が最も壊されたくないのは世界の縁まで這いまわって集めた研究材料の保管庫だヨ!」
扉を開けるとそこには破面の遺体が吊るされていた。
色々と弄られた痕も残っており、恋次と雨竜はつい口を覆い目を逸らしてしまう。
しかし研究者でもあるマユリと真由美だけは違った。
「ふむ……弄っているのは少々いただけないが、中々な実験材料だネ…これなら標本にもできる。」
「まだ死んで一日も経っていないですね!これなら今日中に尸魂界に持って帰って凍結させれば数日は持ちますよ!!」
『いい拾い物をしましたね!!』と満面の笑みを浮かべる真由美に恋次はともかく尸魂界でも会わなかった雨竜は優しいと思っていた印象が一気に怖い、と変わった。
「さて、私はあそこの屑どもを治療するとしよう……その間真由美は材料達を荷台に積んでおいてくれ給え」
「はい!」
「ああ、あと重いものは全部そこの破面にまかせておけばいいヨ」
「はい!」
元気よく返事をする真由美にマユリは目を細め頭を撫でる。
「じゃあウティル、お願いできる?」
「なんなりと」
「最初はあそこにぶら下がってる女の子と変なゴツイおじさんの破面を下ろしておいて、その後奥にある材料を扉の近くに集めておいてね…私はその間マユリさんが持ってきた荷台を近くに持ってくるから!」
「畏まりました…ですがお1人で大丈夫ですか?」
「荷台だし、大丈夫よ…じゃあ頼んだわね!」
「は…」
荷台の方が重いのでは…と心の中で呟きながらウティルは手を降って崖のような壁を登っていく主を見送った。
この辺りには十刃も破面も虚達の気配もないのでついて行かなくていいか、と同族の遺体を見上げながら思う。
****************
「やめろーーーッ!!!」
真由美が元ザエルアポロの宮の外に置いてあった空の荷台を保管庫の近くの瓦礫がない宮の外へと置いて軽い足取りで瓦礫を越えていくと、雨竜の叫び声に足を止める。
声の方へ目をやるとネムに抑えられる雨竜の姿が目に映った。
屑ども(マユリ曰く)の恋次と雨竜は毒は消えたがザエルアポロの人形劇によって足の健やら内臓やらのダメージが大きくて逃げるに逃げれなかった。
「放せ!何をするんだ…!!」
「何って…そんなの決まっているだろう?直すんだよ。」
「ちがあああう!!!それは治療じゃなくて改造だろ!?そもそも"なおす"の漢字が違うだろおおお!!!」
"なおす"、と言ったマユリの背景にはデカデカと『改造』と書かれていた。
雨竜はセリフの漢字違いも分かったらしく激しくマユリの治療を拒絶する。
「チッ…」
「やっぱりか!!くそッ!放せ!!治療なら真由美さんにお願いするから放っておいてくれ…!!」
「なぜ?」
「何故って…当たり前だろ!?誰が好き好んで人の人権無視して改造するお前みたいな奴に治療される奴がいるんだよ!!!真由美さんは四番隊に入っていたんだろ!?だったら僕は真由美さんを所望する…!!」
「馬鹿が…今真由美は霊力を最大限に押さえ込まれて今や新入隊員より雑用より鬼道が使えないヨ。多少の傷なら治療はできるが命に関わるような大怪我は今の真由美には無理だ…諦め給え。」
以前恋次に聞いた事がある話を思い出し雨竜は小さな望みをかけるがそんな小さな望みはマユリによって一刀両断されてしまう。
本気でがっくりきて『僕生きて帰れないかもしれない…』と現在反抗期中の彼は父親にごめん、と謝ったらしい。
そんな暗い空気を身に纏う雨竜に申し訳ないと思いながら真由美はルンルン気分でウティルが集めた破面と言う名の実験材料を荷台に乗せる為止めていた足を進めた。
「涅隊長…ッ」
「…何だネ。」
大人しくなった雨竜に早速注射を打とうと注射を用意したその時、背後に倒れている恋次が掠れた声でマユリに声をかける。
マユリは振り返ることなく恋次の声かけに応じた。
「俺から治してください…!」
「なぜ」
「俺は早く戦いたいんです!他の連中のところにも十刃がいるはずだ…!はやくそこに行って加戦してやらねえと…!」
「必要ないよ。」
「―――!」
痛みに耐え苦しげな声を上げる恋次にマユリはキッパリと言いきった。
それにはさすがに恋次も目を見張るが、マユリは注射を雨竜に打ちながら続ける。
「まだダラダラ戦っているのは黒崎一護の所に向かった更木だけだよ…あんな下衆に手助けは必要ない」
雨竜に謎の液体を注入しながらマユリは忌々しい、と嫌悪した様子で呟いた。
「それに知らん訳じゃあるまい?戦場に踏み入ったあいつは生肉を放られた獣だヨ!割って入れば諸共に喰われる…獣に喰われて死ぬなんて如何にも馬鹿げた死に様だと思わんかネ?」
マユリはふと遠くで戦っている剣八の喜ぶ顔を浮かべ、不快そうに顔をゆがめる。
どこまで行ってもマユリは真由美以外気が合うものはいなかった。
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