(145 / 158) 浦原娘主 (145)

雨竜の治療を終えたあとマユリは恋次の治療へ取り掛かる…と言っても毒は真由美が解毒し、マユリは注射を打つだけである。
真由美も王の姉だからと怪我1つ負うことなくピンピンとマユリと自分の実験材料となる破面を一体一体運ぶ。
力のない真由美は一体ずつが限界だが、ウティルは同族のはずの破面を一度に何体も持ち上げながら真由美が1往復する間で3往復はしていた。


≪聞こえるかい、侵入者諸君≫


真由美がウティルと一緒に破面を荷台に乗せようと瓦礫の山を越えていたその時、空から聞こえるような声、そしてその人物に真由美は顔を上げる。


「…!、この声……」

「藍染惣右介、ですね…」


ウティルも顔をあげ、その人物の名を呟いた。
上を見上げているのは真由美だけではなく、側にいるマユリもネムも雨竜も恋次も同じく顔を上げていた。


≪ここまで十刃を陥落させた君達に敬意を表し先んじて伝えよう…これより我々は現世へと侵攻を開始する≫

「バカな!?井上さんの能力で崩玉を覚醒させるまで侵攻は無いんじゃなかったのか…!!」


藍染側には聞こえていないのか、雨竜の言葉に返す声は聞こえなかった。


≪井上織姫は第5の塔に置いておく…助けたければ奪い返しに来るが良い…彼女はもはや用済みだ…≫

「用済み、だと…!?」

≪彼女の能力は素晴らしい…"事象の拒絶"は人間に許された能力の領域を遥かに凌駕する力だ…尸魂界上層部はその能力の重要性を理解していた……だからこそ彼女の拉致は尸魂界に危機感を抱かせ現世ではなく尸魂界の守りを固めさせる手段たりえた…そして彼女の存在は尸魂界の新規戦力となるであろう死神代行を含む旅禍を虚圏へとおびき寄せる餌となり、更にはそれに加勢した4人もの隊長をこの虚圏に幽閉する事にも成功した≫

「―――!、我が君!死神達が通ってきた4つの黒腔がたった今全て閉じられ封鎖されました…!」

「え…!?そんな…」


藍染の言葉に眉をひそめていた恋次。
だがウティルがマユリ達が通ってきた黒腔が閉じられた事を察し、空を見上げていた主へと報告する。
そのウティルの報告に雨竜がマユリへと声をかける。


「こっちからもう一回開くことはできないのか!?」

「無理だヨ…黒腔の構造を解析できているのは現時点では浦原喜助一人だけなんだヨ。こちらから奴に通信する手段が無い限り再び開くのは不可能だ………癪な話だがネ」


本気でそう思っているのか眉間のシワを寄せるマユリの言葉に真由美はやはり父と言う名前に反応する。


≪護廷十三隊の素晴らしきは13人の隊長全てが主要戦力たり得る力を有しているという事だ…だが今はその中から3人が離反し4人が幽閉……尸魂界の戦力は文字通り半減したと言って良い。容易い…我々は空座町を滅し去り王鍵を創生し尸魂界を攻め落とす…………君達は全てが終わった後でゆっくりとお相手しよう…≫

「空座町が…消える……!?」


そこで藍染からの一方的な言葉が切れ、雨竜は重い体を起こそうとする。
だが、それはネムによって防がれてしまった。


「どこ行く?今君が動いて何かできるのかネ。」

「じゃあどうしろって言うんだ!!空座町が危ないんだぞ!?このままここで待ってろっていうのか!?」


グググ、と何故か重くなったネムに押されながら横目で見下ろすマユリを睨みつける。
そんな雨竜にマユリは呆れたように溜息をつく。


「…言ったろう?決戦が冬と決まった時点で総隊長から浦原喜助に幾つかの指令が出されたと。1つ目の指令は隊長格を虚圏へ送ること…2つ目の指令は空座町で護廷十三隊全隊長格を戦闘可能にすることだヨ。」

「そ、それじゃあ…今護廷十三隊は…」

「既に転界を終えた頃だろうネ」

「無茶だ…!空座町で戦闘!?隊長格の力でそんな事をしたら空座町はどうなる!それこそ形も残らない廃墟になってしまう!!」


淡々となんでもないように答えるマユリに雨竜は戦闘が現世である事に声を荒げる。
現世では自分達以外の何百という人間がいるのだから当たり前だろう。
だが、そんな雨竜の訴えにマユリは煩そうに眉をひそめる。


「言った筈だヨ"戦闘可能にする"こと、それが指令だとネ…ただ現世に隊長格を展開させることを戦闘可能にするとは言わないヨ」

「それはどういう……」

「"転界結柱"だヨ…それは空座町を戦闘可能に作り変えるということ。その為に浦原喜助は4点のポイントを結ぶことで半径一霊里に及ぶ巨大な穿界門となる転界結柱という装置を作り上げそれを空座町の四方に設置した…それと同時に私の技術開発局に空座町の精巧な複製を流魂街の外れに作ってほしいと依頼してきた………苦労したヨ…だがやり遂げた……転界結柱が穿界門と異なるのは包囲したものを尸魂界にある別のものと移し替えることができるということ…つまりこれを使って我々は流魂街の外れに空座町を全てそのまま転送したんだヨ」

「住民達はどうしたんだ…」

「眠らせて街と一緒に尸魂界へ送ったヨ…今あの地にあるのは人一人居ない空座町のレプリカ……隊長格の戦いで破壊されようと何の問題も無いのだヨ」


マユリの説明に真由美は目を丸くさせた。
そこまで考えていてマユリ達4人の隊長を送った事もそうだが、この短時間でレプリカを用意し町丸ごと移転する装置まで作ったマユリと喜助達に驚いていた。
それと同時に自分も研究に関わるからか少し羨ましく思う。


「さて…真由美、実験材料はどのくらい集まったかネ?」

「もう少しです」

「そうか…なら後は私がやるからこの死に底ない達を回復させておいてくれ給え」

「はい」

「「え!?」」


藍染は既に偽の空座町についているのか、あれから連絡もなく、マユリの言葉にぼーっとしていた真由美にマユリが声をかけ、我に返った真由美は慌てて答える。
真由美は上司からの命令に今持っている破面もどきをマユリに渡し近くにいた恋次へと歩み寄った。
マユリから治療をという言葉に雨竜と恋次は目を丸くして驚く。


「……なんだね、その顔は…」

「だって涅隊長…真由美さんは霊力を抑えられてあまり鬼道は出来ないって…」

「何を聞いていたのかネ?私は確かに真由美は霊力を封じられて鬼道は使えないといったが、それは大きい怪我の事をさしていただろ。さっき注射をして真由美でも治せるほどの傷になったから治せと言ったんだ…全く、ちゃんと人の話を聞いていたのかネ?」

「「う"…」」


責め立てるようなマユリの言葉に2人は言葉を詰まらせる。
そんな彼らに真由美は苦笑いを浮かべ恋次と雨竜の傷を癒していき、2人は傷ひとつない体へと戻っていった。


「おお!痛くねえ!さすが真由美さん!」

「ゴホン!」

「さ、さすが涅隊長だぜ!!」

「必死だな…阿散井……」


飛び跳ねても痛みがない体に恋次と雨竜は感激する。
恋次は『良かった』と微笑む真由美を褒め称えるが、わざとらしく大きな咳払いをするマユリにハッとなり慌ててマユリを真由美以上に褒め称える。
そんな必死な恋次に雨竜は小さく呟くが、気持ちは分からんでもなかった。
…というかむしろ分かってしまうのがいやで仕方なかった。


「真由美さん、ありがとう…これで井上さんのところに行けるよ」

「どうかご無理はなさらないでくださいね……それともしルキアに会ったら私は平気だから気にする事はない、とお伝えください」

「わかった……本当にありがとう。」


こうして立って動けるのはマユリは勿論だが真由美のお陰で、雨竜は本当に感謝していた。
マユリにも感謝したくないが渋々心の中でお礼を1回だけ小さな声で呟き、恋次と共に放置されているであろう織姫の所へと向かう。
2人が消えその場はマユリとネムと真由美とウティルしかおらず、マユリは真由美の下僕(違)は私の下僕、と言った具合にウティルを有効活用し、大きい破面達を運ばせる。
真由美は人間に近い為見学となった。


「これで最後かネ」

「はい」

「お疲れ様です、マユリさん」


ネムが最後の一体を荷台に積み、マユリは空になった保管庫に目をやる。
終わったと気付いた真由美はマユリへと駆け寄り、久々の真由美にマユリも頬がほころぶ。


「真由美、私達が来るまで破面達に何もされてないネ?」

「はい、大丈夫です」


真由美が藍染に連れていかれたと聞いた時、マユリはその場に居たという夜一を罵った。
砕蜂が庇ってもマユリは砕蜂も一緒に罵る。
だが、夜一はマユリに罵られても言い訳1つもらさず聞いていた。
それがマユリの苛立ちをさらに大きくさせる原因のひとつだが、マユリは夜一を通して浦原を罵る。
あの時突然消えた浦原に言えなかった百余年の罵り言葉を夜一に浴びせた。
完全に八つ当たりだというのはマユリにも分かっていたが、大事な副官を奪われた怒りは止めようとしても止めれなかった。
そして一護達が虚圏に行き真由美と織姫を救出しに行き、剣八達が虚圏に行くと聞きマユリは自ら立候補した。
確かに破面達には興味があった。
だが、それよりも幼い頃から自分の技術の全てを叩き込んできた真由美を取り返す事ばかり頭に浮かんでいた。
そして、真由美との再会を得てマユリはようやく副官を取り戻した。
役2名邪魔だったがその2名は既に居ない。
マユリは久々の真由美に、そして真由美は久々のマユリに、心が満たされた気がした。


「マユリ様、全て荷台に乗せ終わりました」


再会をお互いに噛み締めあっていると、全ての破面もどきを回収し終えたネムが声をかけ2人のひと時は終わる。


「そうかネ…じゃ、どっかの馬鹿どもを回収しに行くとするか…」

「馬鹿ども?」


真由美はマユリの言う馬鹿どもという人物に首をかしげる。
馬鹿ども=剣八かと思ったが先ほどの話しからあと2名の隊長格がいるはずだ。
だが、霊圧が感じられない真由美は首をかしげるばかりでマユリに聞こうとするも卯ノ花しか教えてもらえずあと1人を教えてくれなかった。
更に首をかしげながら真由美は荷車をネムに任せウティルと共に先に進んだマユリへと続く。

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