(149 / 158) 浦原娘主 (149)

ウティルはどこからか取り出した手袋をし、立つ真由美の胸へと当てる。
するとどういう原理なのか、真由美の胸にウティルの腕が沈むように入っていき、ルキアたちは目を見張った。


「――っ…」


手を突っ込まれる感触に言葉を呑んでいると終わったのかウティルの腕は真由美の胸からゆっくりとひき出される。
その手には小さな、本当に小さな殺気石が握られていた。


「真由美様…大丈夫ですか?」

「大丈夫、だよ…ルキア…」


殺気石を手に握りながら辛そうにしている真由美をウティルは黙ったまま見下ろし、ふらふらな真由美をルキアが支えてやる。
意外と殺気石を直接体に入れたり抜いたりする行為は体力がいるらしく、中に入れている分にはなんて事はないが真由美はだるくて仕方なかった。
真由美は久々の自分の霊力の感覚に瞳を閉じ、胸に手を当てる。


(桜ちゃん…椿ちゃん…)

≪……さ……ご……ぶじ……≫

<ど…う………服……ま……お…ぎ…さい…>


殺気石を排除し、自分の斬魄刀と会話しようと試みる。
しかし2人の声はラジオのように途切れ途切れでノイズが入ってしまう。
それに真由美は服も霊力を封じる効果があると思い出し、どうしようかと頭を悩ます。


「どうだ、真由美…斬魄刀とは会話できたか」

「いいえ…それがこの服にも殺気石のような効果があるらしくて途切れて桜ちゃんの声が聞こえるんです…」

「……そうか…困った事になったな…」

「………少々、失礼いたします…我が君…」

「え?」


白哉の問いに首を振り、うーん。と悩んでいた真由美だったがウティルが近寄ってきて首筋に手を伸ばす。
すると


<帝!!帝!ご無事でございますか!?>

「うえ!?椿ちゃん!?」

<ああ!帝…!!よかった…!妾の声が聞こえるんですね!!!桜!帝に妾の声が届いたぞ!!>

≪まあ!お姉様の声が…!よかったですわ!≫

「桜ちゃんの声も聞こえる!どうして…」


ウティルが何かしたのかとウティルに振り返り見上げるとウティルは無表情ながら悲しげな顔を見せており、真っ直ぐ真由美を見つめていた。
真由美に見上げられウティルはゆっくりと口を開く。


「この服の首筋のところに霊力を封じるバリアが入るスイッチのようなものがあるのです……今そのスイッチをオフにしました…」

「そ、そんなに簡単だったのね……」


意外と簡単だった解除方法に真由美は顔を引きつらせる。


「真由美、どうする気でいる………と、聞いてもいいか…」

「私は秋斗と……虚達の王と戦います」

「「「!!」」」

「…………」


真由美の言葉に恋次達が目を丸くし、白哉は静かに真由美を見つめていた。
ウティルも黙ったままだが、その表情はどこか曇っている。


「そんな……駄目っすよ!真由美さん!!」

「そうです!真由美様が叶う相手ではございません!!」

「実力も分からない相手に無謀すぎるよ!!もう少し相手を知ってからでも遅くはない!」


王を倒すという真由美の言葉に白哉や剣八以外が一斉に止める。
だが真由美は首を縦ではなく横に降り笑みを浮かべた。


「弟の不始末は姉がすべき事……秋斗を止めるのは誰でもなく、私しかいないんです…」

「それが死んだとしても、か?」

「……はい…」

「…、………馬鹿者…」


白哉の言葉に真由美は苦笑いを浮かべる。
苦笑いを浮かべる真由美に白哉は真由美の髪を撫で目を細めた。


「…私は止めたい……」

「白哉様…」

「だが、真由美に望みをかけるしか今の手立てはあるまい………必ず…必ず生きて帰ってまいれ…私にまたそなたの笑みを見せてくれ…」

「はい、白哉様…必ず……」


愛しげに髪を撫でる白哉の言葉に真由美は泣きそうになるがグッと堪え無理矢理笑顔を作る。
その無理矢理な笑顔に白哉は瞳を閉じ、真由美を力強く抱きしめる。
白哉が許した事をさかえにルキア、恋次、と皆真由美に声をかけた。
それが最後だと言わんばかりに…
みんなそう思いたくないがそう思わざるを得ない。
決して当たって欲しくない予感であるが、それだけはどうにもならず、皆不安な気持ちで黒腔の前に立つ真由美の背中を見つめる。
そして真由美は一護と卯ノ花のように黒腔の中へと身を投げた。


「我が君…どうかお許しください…」

「なぜ謝る必要があるの?これは私の意思なのに…」

「………」


黒腔の中を走っていた真由美の後ろにウティルが続き、ウティルは走りながら謝罪を口にする。
真由美は戦うことを謝っていると思ったがウティルはその真由美の言葉に首を振った。


「違うのです…違うのです……」

「なにが違うの?」

「……陛下は1つ、嘘を仰いました…」

「嘘?」


ウティルの言葉に真由美は怪訝そうに眉をひそめ立ち止まりウティルへ振り返る。
真由美が立ち止まったことでウティルも立ち止まり、ウティルは素早く跪いた。


「…陛下と貴女様のご両親は…ご健在でございます……」

「え…」

「陛下はご両親を殺してはいないのです……」

「それはどういう…」


父も母も生首となってゆらゆらと液体に揺られていたのをこの目で見ていた真由美は信じられないと目を見張る。
ウティルは言い難そうに口をゆっくりと開ける。


「陛下は…自殺を謀りになられこの虚圏に参られました……元からご両親も貴女様を死に追いやった人間達を殺してはいないのです…あの生首はレプリカです……陛下が貴女様のために、とザエルアポロ様に作らせた人形でございます……」

「…………」

「…そうすることで…貴女様が傷つき、憎悪で一杯にさせると陛下は思われ、そしてそれを望んでいたのです…」

「な、んで…」

「…………」


ウティルは今度こそ口を閉じた。
言えるはずがなかった。
だが、言わねば真由美は本人を目の前に更に傷つくことになる。
だからウティルは言いたくない言葉を無理矢理搾り出した。


「憎いのです……」

「……ッ」


ウティルの搾り出すような声に真由美はビクリと肩を揺らし息を呑んだ。
その反応を気配で察したウティルは辛そうに眉をひそめ目を伏せた。
今、真由美の顔は悲しみと衝撃で青ざめていると、ウティルは見なくても手に取るように分かった。


「……憎いのです……死神が…」


だからウティルはせめての言い訳として真由美ではなく死神だと言った。
それが真由美がどう受け止めたまではウティルが察する事はできなかった。

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