(150 / 158) 浦原娘主 (150)

白と黒しかない風景の中、ある大きな宮殿が聳え立つ。
風景と同じように白と黒の色しかないその宮には王が住んでいた。



「…………」



王は、ディオスは王座に座りじっと動かず肘掛に肘を置き、肘をつきながら瞳を閉じていた。
ベルシダの他にそこには召使いとなる喋る事も考えることもない破面がいるだけで静まり返っていた。


「陛下、十刃達が亡くなりました」

「…………」

「藍染惣右介も封印されたとのことです」


ベルシダは静まり返る王の間の扉を開けながら靴音を響かせながら入ってくる。
静かに目を瞑る王の前に立ち報告を口にし、ベルシダの報告に黙ったままだったディオスはゆっくりとオッドアイの瞳を開き口を開く。


「知っている」


小さい声だが静まり返り音がない部屋には大きく響く。
そしてディオスはゆっくりと立ち上がりベルシダに一言も声をかけることなく、ベルシダの横を素通りし部屋を出て行こうとし、ベルシダはそれに止めようとはせず黙ってディオスの後に続く。



ディオスが向かった先は瓦礫が散乱するある宮だった。
足元が安定しない場所でもしっかりとした足で目的の場所へと進む。
瓦礫を少し歩いていると目的の物がディオスの瞳に映った。


「ザエルアポロ様……」


ディオスの後ろにいたベルシダもその人物を瞳に映し、その人物にベルシダは唖然としてしまう。
その人物はマユリと戦い超人薬で1秒が百年となってしまっているザエルアポロが立っていた。
我が王、と言って絶対服従していたディオスが目の前に立っていてもザエルアポロは動き一つしない。
瞬きもせず腕を上げ、刀を心臓に刺さっているだけだった。
十刃達が死んだ事は知っていたが死に方までは知る事はできないため、ザエルアポロの姿に驚いてしまう。
ディオスは瞬きもせず目を見開くザエルアポロを見つめ手の平と心臓を貫いているマユリの刀に手を伸ばす。
そしてなんの力も入れずその刀を抜いていき、カラン、と音をさせながら刀を瓦礫に捨てた。
刀を捨てたディオスはそのまま黙ってザエルアポロの胸元に手を当て瞳を閉じる。


「!…傷が…」


ディオスはすぐ当てていた手を外すとベルシダは目を見開いた。
ザエルアポロの刀の傷が綺麗に消えていたのだ。
驚きを見せるベルシダをよそにディオスは薬のせいで動けないザエルアポロの顔の前で指を鳴らす。


「―――ッ…!…はっ………、…ッ」


ディオスが指を鳴らした瞬間に1秒が百年だったザエルアポロの時間は元通りになり、動かなかった体が突然動き出した。
ザエルアポロは時間から解放され瓦礫の上で膝をつき急に入って来た空気にむせる。
肩で息をしながらザエルアポロが自分の体が動きあれほどゆっくりだった感覚が元通りになった事に首を傾げながら手の平を見る。
そこには傷1つなく、手を見た後胸に手を当てる。
勿論そこにも傷など最初からなかったように服にも刀の跡などなかった。


「なぜ……」

「ザエルアポロ」

「――!!!」


確かに自分はマユリの薬で動きが遅く、マユリに負けたはずでは…と首をかしげ不思議に思っていた時、頭上からの声に体が強張った。
弾けたように顔を上げればそこには敬愛して止まない王が自分を表情のないオッドアイの猫のような瞳で見下ろしていた。
それにザエルアポロは慌てて跪き顔を下げる。


「わ、我が王…!!な、なぜここに…!?」

「お前が動けないようだったからな…」

「私を助けるためにわざわざお出でくださったのですか…!?」

「ああ…お前にやってもらいたい事があるからな」


1秒が百年だった自分が元通りになったことには検討もつかなかったがディオスが助けてくれた、と聞くと納得してしまう。
自分を助ける為にわざわざ王宮から虚夜宮へと足を運ぶ王に目を丸くさせて驚きつい顔を上げてしまったが、ディオスはそれを咎めることはなく、ザエルアポロはディオスの言葉に再び首を傾げる。


「私に…ですか?」

「ああ…全ての十刃を元通りにさせよ。」

「全て…」

「そうだ…虚圏で死んだ者も現世で死んだ者も全てだ……お前なら可能であろう?」


目を細めて言ったディオスにザエルアポロは力強く頷く。


「…確かに可能ですが……私では数週間…いえ…数ヶ月必要になります……陛下がなされた方がすぐに修復できるのでは…」

「私はこれから死神を全滅してくる」

「…!」

「任せたぞ、ザエルアポロ」

「……は…!」


ザエルアポロは背を向ける王に深々と頭を下げた。
去っていく王の後ろをベルシダが続き、ザエルアポロは2人の姿が消えるまで頭を下げ跪いていた。


「……さて、まずは虚圏で死んだあいつ等から回収といくか…」


王に頼まれたとは言え骨がいる作業になることは確実で、従属官達も瓦礫に埋もれ死んでいるためザエルアポロは1人での作業に重い溜息をついた。


「あ…いや…その前に虚圏の研究室に戻らなければならないな…」


偽者の青空の下で瓦礫に埋もれた器具たちの事を思い出しザエルアポロは重い溜息をつく。



****************



尸魂界の隅にある場所、そこには裏切り者である藍染が封じられていた。
浦原喜助のお陰で自己再生されていた藍染は封じられ、動くことも出来なかった。
しかし、藍染が封印された代わりに崩玉で力を手に入れた藍染を追い詰めた一護の死神としての力が全て失ってしまう事になってしまった。


「終わった…んだよな……」

「はい…全て……」

「…………」


一護は藍染が封じらた十字架のように見える封印の前に立ち呟く。
その呟きに喜助が頷き、その場は静まり返った。
するとその静まり返っていた中に1つの拍手が響き渡る。


「「!!」」


一護でも浦原でもないその拍手に2人は周りを見渡すが見渡しても誰もいなかった。
だが、その拍手が突然背後から、しかもすぐ後ろで聞こえ、2人は弾かれたように振り返る。



「て、てめえ!誰だ…!」

「彼はよく戦った…君もそう思わないか、死神代行よ」

「誰だと聞いているんだ…!!」



振り返るとそこには1人の男と女が立っていた。
女は見たところ破面だが、男は見た目は人間そのものだった。
藍染の封印の前に立つ男はその封印を見上げ、一護達へ振り返る。
一護達は気配もなくいつの間にか自分達の後ろを取っていた2人組みと間合いを取る。
そんな死神2人にその人物は目を細めて微笑んだ。
オッドアイの猫の目の男に見つめられ2人はどっと汗を流し指一本動くことが出来なかった。
男は一護の問いに答える素振りを見せず2人から目を放し藍染の封印へと顔を向ける。


「な、なにを…!?」


男は封印へ手をあて、その瞬間一瞬封印の白が赤く光ったような気がして喜助は焦った声を出す。
喜助の問いに男はゆっくりと喜助達へ振り返り笑みを深める。


「慈悲を与えた」

「慈悲…?」

「崩玉が完全に彼を主と認めるまでの間……彼は眠りについてもらったのだ…」

「!!」

「崩玉が…完全に…主と認めるまで…だと…?そんなこと…」

「崩玉に私の霊力を入れた…彼が崩玉に認められ完全に融合するのはそう遅くはない」


男の言葉に喜助は目を丸くさせる。
そんなことできるはずがない、そう言いたかったが男を見ているかぎり嘘を言っているようにも見えず喜助は珍しく冷や汗をかき目の前の男に恐怖していた。



「さあ、一方的な虐殺といこうか…死神よ」

「な…」



『何?』と呟こうとした一護だったが瞬きしたその瞬間男が目の前に現れ頭を掴まれてしまう。
一護は頭を掴まれたまま遠く距離のある崖へ一瞬にして叩きつけられてしまった。


「黒崎サン…!!」


喜助は男のスピードに反応できず一護が叩きつけられその男の力で崖が崩れる大きな音で気付き慌てて振り返り一護のところへと駆け寄ろうとしていた。


(黒崎サンは今人間だ…!!あのままでは死んで……)


一護は藍染との戦いで死神としての全ての力を使い果たした一護が男の攻撃に耐えれるはずがない。
だが一護の元へ行こうと1歩踏み出したその時首が何かに締め付けられる感覚がして苦しいと思った瞬間、喜助の体は何かに持ち上げられ中に浮く。


「…ぐ…ッ…ぁ…!」

「元十二番隊隊長であり元技術開発局局長…浦原喜助……だな?」

「…っ…、…ぜ…」

「なぜ知っているか。か?…………さあな…なぜだろうな…」


喜助の首を絞め、そして喜助を持ち上げているのは先ほどまで一護を崖に叩きつけていた男だった。
男は首を絞められ苦しそうに眉をひそめる喜助を見上げ、喜助の経歴を口にした。
男がなぜ自分の経歴を知っていたのか、と言いたくても首を人以上の力で締め付けられ言葉に出来なかった。
その喜助の疑問を言葉にしたのは男であり、そしてその疑問に答えたのもその男だった。
しかし男は曖昧な答えになっていない答えを呟き、喜助を捨てるように思いっきり地面に叩きつける。
思いっきり地面に叩きつけられた喜助はその激痛に息を呑み、起き上がれない喜助を男は冷たく見下ろす。


「ベルシダ」

「はい」


体を震わせる喜助を見つめたまま男はベルシダと呼ばれた破面の女に声をかけ、彼女を見ないまま手を横に伸ばす。
ベルシダは指示を待たず手に持っていた黒い刀を男に渡し、男はゆっくりと刀を抜く。


「どうしてだろうな…お前の首を取ってしまわなければ私の気が治まらない気がするのだ」

「……ッ」


男が鞘から刀を抜くとその刀も真っ黒でとても日本刀には見えない。
男は痛みで動けずにいる喜助の首筋に刀を当て…


「さらばだ、死神…」


思いっきり振り下ろそうとしていた。
だが、


「≪咲き乱れろ!姫桜!!≫…――っ霞の風盾!!!」


男の振り下ろした刀はガキン、と鈍い音を立て喜助の首すれすれで止まった。
力を入れて震える刀を見つめていると頭上から殺気を感じ男は素早く後ろへと下がる。


「…………」


ベルシダは突然現れた人物に目を丸くする。
しかし男はその人物を見ても冷静に目を細め、喜助は目を丸くする。
喜助が自分の前に立ち唖然と見上げているその先には…


「真由美…サ、ン……」


百年前、置いていってしまった娘だった。

男の口端が上がった気配がした。

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