(151 / 158) 浦原娘主 (151)

喜助は目の前の娘に言葉をなくす。
夜一から虚圏に攫われたと聞いていたので白い服を纏っているのはさほど驚きではなかった。
しかし、自分を庇い男…虚圏の王と対峙する娘に驚きが隠せなかった。
何故ここにこの子がいるのか、なぜここに来たのか…


なぜ…

そのように悲しい瞳をしているのか…



「真由美さ…」

「ウティル、お父様と一護様を…」

「は…」


喜助が娘の名を百年ぶりに口にしようとしたその時、それを遮るように真由美はウティルに喜助と一護を守るよう命令し、喜助は一言も娘と言葉を交わすことなくウティルに連れて行かれ娘と離れてしまう。


「な、なにを…!」

「お静かに…我が君にお任せください…」

「我が君…?」


声を上げても暴れてもウティルという破面の方が力があるのか腕を解くことが出来ず一護が気絶している崖へと避難させられた。
喜助は我が君と娘を呼ぶ破面に首をかしげ、抵抗がなくなった喜助にウティルはゆっくりと腕を放し、瓦礫に埋もれている一護を救出するために片手で自分より重い瓦礫を持ち上げ、投げ捨てながら喜助の疑問に答える。
ドスン、ドスンと大きな音を聞きながら喜助はウティルの言葉に目を見張る。


「あの男が虚達の王…?では…あの子は…その王の姉……」

「…正確には元、です……今の陛下と我が君は血の繋がりはございません……心もまた……陛下は人間であることを"あの時"にお捨てになられましたので…」

「あの時…?」

「………」


今まで喜助の疑問に答えていたウティルだったが、"あの時"、という疑問には口を閉ざした。
一護を瓦礫から救い出し、気絶している一護を横にさせながらウティルは俯き、喜助を見ようとはしない。
その様子に喜助は問いただそうとしようとしたがやめた。
ウティルの瞳があまりにも悲しく揺らいでいたからである。
そのウティルの様子に喜助は何も言えず今にも斬り合いが、殺し合いが始まりそうな2人へ目を移し、喜助に釣られウティルも2人へと目をやる。

喜助は例え今は血の繋がりなく心も繋がってはいないとは言え姉弟で殺しあうであろうこの現在の状況に娘を想い心を痛める。


****************


最初に動いたのは意外にも真由美だった。
キン、と刃と刃がぶつかる音とギリギリと刃が擦れる音が荒野に響く。
力は当然少女より成人男性の方が強く、真由美の押しにディオスは涼しい顔で受け止める。


「お前は弟を平気で殺せるのだな」

「平気なわけないじゃないッ!!」


ディオスの言葉に真由美はディオスの斬魄刀を弾き、その衝撃を利用し一気に距離を置く。
ディオスは無表情で姉だった死神を見つめ、最初に会った時とは違う弟の言葉遣い、表情、雰囲気に真由美は少し戸惑いが生まれる。


「姉が弟を殺す事を決意する事がどれほどか!平気なわけないじゃない!!私とあなたは姉弟だもの!!」

「姉弟…?お前と私がか?」


ディオスは真由美の言葉に目を見張り、大声で笑い出した。
真由美は突然笑い出す弟に怪訝そうに見つめる。
笑っていたディオスだったが次第にその笑い声は小さくなり、キッと目の前にいる死神を睨みつける。
弟の睨みに真由美はビクリと肩を揺らす。


「私が死神の弟!?冗談ではない!!!私が裏切り者の死神の弟など笑えない冗談だ!!」

「あき…」

「お前達死神が我らに…私の愛し子達に何をしたか知っているか!!お前達死神のした事に虚達がどれほど傷つきどれほど悲しみどれほど憎んでいるかお前に分かるか…!!!!」


秋斗、と呼ぼうとしたがディオスに遮られ憎憎しい声に言葉が出なかった。
完全に人が変わった弟に親の敵のような目で見つめられ真由美は困惑してしまう。
何も言わない…否、言えない真由美にディオスは目を細める。


「知らない、か……なるほど…霊王はお前達死神に教えてはいないようだな……あいつの子孫ならやりそうな事だ…」


舌打ちをしながらディオスは真由美から顔逸らし、その場に霊王がいるように憎しみの込めた瞳を地面に向けた。
霊王、と王族の名前を出され真由美も喜助も何故、という表情を浮かべていた。
その表情を見てディオスは何も知らない無知な死神を鼻で笑う。


「知らないなら教えてやろう……数千年前、死神と虚は協定関係にあった。」

「なに…!?」

「死神と…虚が…協定関係に…?」


信じられないとディオスの言葉を聞いた2人は唖然としてしまう。
死神と虚は最初から相容れない関係だと思っていたので驚くのは当然だろう。
だが、ディオスは千年前は共に共存していたという。
ディオスの話しにベルシダ、ウティルは驚く事なく知っているようで目を悲しげに伏せる。


「そうだ…数千年前死神は王と貴族だけで成り立っていた…流魂街などは空に等しく誰一人いない村も珍しくない……だが、逆に現世は体を持たない魂がひきめき合っていた………虚圏は私がたまに気まぐれに魂を攫い虚へとさせたからそれなりの人口はあったが……それでも現世の魂の発生には追いつかず次々と人間は死んでいき魂だけが残されていく……このままでは数に耐え切れず現世が消滅してしまうと思った死神が動き出し、今の死神としての組織が出来上がったのだ…流魂街の者も当時は強制に死神として働かされ貴族達も総出だった……だがそれでも魂は増えていく一方で数を減らしていくことはなかった…それはそうだ…死神や虚の寿命は長いが人間はせいぜい生きて100年…減っていくのは体だけで魂は増えていく……そこで、死神が何をしたか…知っているか…」

「虚達との協定…」


語りだしたディオスと目が合い、真由美は先ほどの言葉を呟く。
それにディオスは小さく頷いた。


「そうだ…死神は我ら虚達の存在を知り霊王直々に虚圏に姿を現したのだ」

「!、霊王が…」

「初代霊王は私に協力を仰ぎ、現世の現状に危機感を覚えていた私も霊王の提案にのった…死神が魂魄を尸魂界に送り、我々虚達は虚圏に送り私直々に虚へと姿を変えさせそしてその虚がまた現世へと向かい魂魄を虚圏へと送る…その繰り返しだった…死神達とも良好な関係を築いていたはずだった……なのに……なのに…!!」


静かに語っていたディオスだったが突然怒りを湧き上がらせ拳を握る。
突然声を荒げるディオスに真由美は驚き目を見張る。


「なのに霊王は…!あいつは何をしたと思う!!あいつは私を尸魂界に閉じ込め私の愛する兵士達を皆殺しにした!!!」

「…ッ!!」


皆殺しにしたと聞き真由美も喜助も目を丸くさせ驚愕する。
そんな反応を見せる真由美たちをよそにディオスの怒りは大きくなるばかりで激情し声を更に荒げた。


「私の兵士達の叫びが…断末魔が今でも私の耳に残っている!!!助けて…助けて、と!!今でも聞こえる!!!私はあいつから逃げ出し兵士たちのもとへと向かったが……全て…全て死滅した…私の子供達が…全て動かぬ骸となったのだ……」

「秋斗…」


怒りに満ちていた瞳は次第に悲しみに変わり、ディオスの表情は今にも泣き出しそうに顔を歪めていた。
ウティルとベルシダは思い出したのかベルシダは体を震わせウティルは悲しみに瞳を閉じ何かに耐えていた。
知られざる過去に真由美と喜助は言葉を失う。


「なんで…霊王はそんな事を…」

「私も過去霊王に聞いた…何故この様なことをするのか、と…我々は協定の関係ではなかったのか、と………あいつは……霊王はこう言った…『お前達が邪魔になったから』、と……」

「そ、んな…!霊王がそんな事を……っ」

「……虚達は死滅したが私は新たに虚を作り出した……次から容赦のない自分の身は自分で守れる兵士として…魂を食らう事などなかった虚達を私は主食を魂と変えさせた…そして、死神を食らうことも許可した……そうして今の死神と虚達の関係が生まれたのだ……理解したか、死神よ…」

「秋斗…」

「その名で私を呼ぶな…!!!」

「!」


沈んだ声で呟いていたディオスを真由美は何て声を掛けていいか分からず人間の名前で声をかけた。
だがそれは秋斗本人に拒絶され真由美は肩を揺らす。
先ほどまで悲しみにくれ瞳が揺れていたのだが真由美に名前を呟かれた瞬間怒りに満ちた瞳で真由美を見つめてきた。


「その名前は弱い時の私だ!!!その名前に…人間の心があったから私は兵士達を殺された!!死神を信用してしまった為に我が子を失った!!!人であったがために…!人間の弱く脆い心があったがために私は虚達を殺したのだ!!その名はもう捨てた!!人間の心は既にない!!その名で呼ぶのは許さんぞ!!死神…!!!」

「…………」


指を差され拒絶をされ真由美の瞳は揺れる。
黒腔では全て聞く事はなく、ただ死神が自分が憎いとは聞いているだけだった真由美は揺れる瞳を閉じた。

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