(154 / 158) 浦原娘主 (154)

ちょいグロ注意!


ディオスは動かなくなった真由美を見つめ体が金縛りになったように動かなかった。
ふと頬が何かが乾いた感触に気付き手を頬に当てると少し乾ききっていなかった真由美の血がディオスの手につく。
ディオスはそれに目を小さく見開く。


「ね、え…さんの………血……」


手が震えるのに気付きもう片手で震えを止めようとするがもう片手も震えているためあまり変わらない。
困惑し混乱する頭を静ませようとするが震えも混乱も静まることはなかった。


(なぜ……なぜこんな死神の動かなくなった姿を見ただけで…こんな気持ちになる…なぜ…!)


震える手を見つめていたディオスだったが混乱した頭が更に困惑しキッと動かず項垂れる真由美を睨みつけ己の斬魄刀である無を手に真由美の首へと振り下ろそうとした。
だが…


「…ッなぜ…なぜ斬れない…!!」


斬ろうと、殺そうと力を入れるのだが寸前で手が止まってしまった。
自分の意思なのか、それとも違うのか…ディオスは更に分からなくなり苛立ちだけが残ってしまう。
ディオスは瞳を閉じ、無の始解を解いた。
その瞬間周りが真っ暗闇だったが無の始解が解除していくにつれ下から光がもれ更に真由美の様子がはっきりと見える。
暗闇では分からなかった胸の動きにディオスは無意識に安堵の息をついた。
だがそれに気付き舌打ちをし真由美から目線を逸らす。
始解が解除され無の刃も消えていき支える物がなくなった真由美は重力に従って落ちていく。


「真由美…!!!」


真由美の父親だと言う男の声を聞きながらディオスはゆっくりと地面に降り立っていった。



****************



最初に落ちてきたのは赤い液体…血だった。
その次に小さく細い片腕と片足。
血は覚悟していたが腕と足が地面にボトボトと落ちていくのを見て喜助は悪い予感しかしなかった。
落ちて来た切断された1本の腕と足を食い入るように喜助は見つめ、その悪い予感が外れる事を祈りながらゆっくりと顔を上げる。


「真由美…!!!」


喜助とウティルの目の先には喜助が予感した以上の出来事が起きていた。
薄暗く見えにくいが消えていく黒い物の中で娘はいくつもの刃に串刺しに刺され貫通し、切断された足と腕からは骨と肉が丸見える。
切断された足と腕、そして串刺しに刺された傷口から血が大量に流れ、垂れて地面に血溜まりを作っていた。
動く様子もない娘に喜助は絶句し言葉さえ出ない。
次第に黒いモノが半分ほど消えると、娘を刺している刃物が黒い物と同じく消えていき支えていたものがなくなり娘はそのまま下へと落下していく。


「真由美…!」


それに我に返った喜助が慌てて瞬歩で真由美を受け止め、横抱きに抱えながら地面に降り立った。


「真由美!!真由美!!」


血が止め処なく流れている為喜助の服も手も体全て血に染まっていくが喜助はそれを気にする余裕などなかった。
血を気にする余裕があるのなら、少しでも娘が生きている事を願うことに専念するのだろう。
娘の名前を何度も呼ぶが真由美は起きる気配も表情を動かす気配もない。
血で汚れている手で真由美の口元に当てると微かに息をしているのが分かり喜助は少しだが安堵する。
生きているのだと分かった喜助は同じく真由美に駆け寄ったウティルに真由美を預け着ていた羽織りを真ん中から2つに裂く。
その裂いた羽織を切断された腕と足へと巻いていく。
そして甚平の上着を脱ぎ細く裂いて無数の傷がある腹へと巻きつける。
両方とも濃い色なので分かりづらいが羽織りと甚平は早いスピードで血に染まっていった。
真由美をウティルから返してもらい、止まらない真由美の血は何も羽織っていない喜助の体でさえ赤く染めていく。


「真由美……お願いだ…目を開けてくれ…ッ!」


息は微かにしているがいつ止まるか分からない状態にあり、喜助は百年経ちやっと再会できたのに、と焦りを覚える。
すると喜助達の前にディオスが降り立ち、近づいてくるディオスを喜助は濡れた目で睨みつけた。


「へ、陛下…!!陛下お待ちを…!!」


黒い斬魄刀を片手に冷たく無感情な表情を浮かべ喜助の腕の中にいる真由美を冷たく見下ろしていた。
だが、ディオスの目の前にウティルが立ちはだかり、ディオスの足を止める。


「お待ちを陛下!どうか…どうか姉君にご慈悲を!!」

「…………」

「ご慈悲を!!陛下!!!」


ウティルは主を守ろうとディオスに跪き悲願するがディオスは黙ったままウティルを見下ろすだけだった。
妹であるベルシダは兄の必死の様子に心が痛みベルシダも願うように主であるディオスを見つめる。
どうかご慈悲を、と何度も呟くウティルにディオスはやっと口を開く。


「では、お前が代わりに死ぬか」


ディオスの言葉にウティルは顔を上げる。
喜助もディオスの言葉に血だらけの娘を抱く力を強めた。
顔を上げたウティルをディオスは感情のない瞳で見下ろす。



「陛下が姉君のお命を奪わないとお約束していただけるのなら…この命、陛下にお返しいたします」



ウティルはディオスの提案に悩むことなく頷き恐怖も迷いもない美しい微笑みを浮かべた。
それに喜助は目を丸くしディオスからウティルへ目を移す。
破面だからと、命を捨てることなく王に従うと思ってたからその驚きは大きいのだろう。
しかし妹も兄の言葉に目を丸くするなかディオスだけは片眉を上げるだけの反応を見せる。


「だ、そうだ……ベルシダ、お前が首を取れ」

「え…」


ベルシダは何を言われたか理解できなかった。
ディオスの言葉にウティルも喜助も目を見張りベルシダへ目線を送る。
ベルシダは唖然と立ち尽くし主であるディオスを見つめ、ディオスもベルシダを見つめる。


「どうした?お前はウティルの始末を望んでいただろう?」

「そ、れは……」

「ウティルは私が与えた使命に従ったとしても私を裏切り私が最も憎む相手を許せと言っている…その代わり自分を殺せと……ベルシダ、お前の兄だ…お前が殺せ」


ディオスの言葉にベルシダは体を震わせる。
あの時は裏切られたショックもありああ言ってしまい、あの時だったらディオスの許可があれば兄を殺せただろう。
だが、今ではそんな気持ちが揺らぎつつあり、ディオスの命令に戸惑いが生まれている。
体を震わせ動く気配のない破面にディオスは溜息をつき、その溜息を聞きベルシダは肩を揺らす。


「どいつもこいつも姉だ兄だと………鬱陶しい!!!」

「…!!」


ディオスが声を荒げたその瞬間ウティルの首が飛んだ。


「兄さ…ッ」


ウティルの首がなくなった体は切断面から血を噴水のように噴出し倒れ、体から離れた首はコロコロと虚の王の足元へと転がっていく。
喜助は血越しにディオスを見つめ、言葉を失っていた。
ウティルの血を浴びながらディオスはその足元に転がってきたウティルの首を冷たく見下ろし髪を掴み喜助と同じ…否、喜助以上に唖然としていたベルシダに投げつける。


「ベルシダ、その首を持ち帰りザエルアポロに修復させろ」

「え…で、ですが…」

「もうウティルの役目は果たされた……私は疲れた…下がりいつもの静かな王宮に戻ろう…」

「陛下…」


ベルシダは投げられた兄の首を落とさないように受け止め、血で汚れるのを気にせず兄の首を抱きしめる。
しかしディオスの言葉に唖然とし目を丸くした。
今、ディオスは、虚達の王は終戦を告げた。
斬魄刀を鞘にしまい疲れたように呟くその言葉に唖然としていたが名を呼ばれ我に返り跪き兄を修復させる為にディオスより先に帰っていく。
姿を消すベルシダを見送ったディオスは静かに首を斬られ血だけを流し続けるウティルの体を見下ろし指を鳴らす。
するとウティルの体は突然炎に包まれ灰となっていく。
喜助は急展開にもう何がなんだか分からなかった。
目を丸くし見つめてくる喜助を無視し、ディオスは藍染の封印の前に歩み寄る。


「目を覚ましたとき…1人きりだったなら私の元においで…お前を歓迎しよう……」


封印に手を置きディオスは呟いた。
それに返事をするように封印が一瞬光る。
封印が光ったのを見て目を細め、ディオスは虚圏へ帰ろうとした。


「ま…待ってください!!」


虚圏へ帰ろうとしたがそれを喜助が止める。
ディオスは足を止め、喜助へ目をやると自然と喜助の腕に抱かれる青白い肌をする姉にも目を映してしまう。
それにディオスは眉をひそめ喜助と姉から目を逸らす。


「…なんだ……」

「なぜ…引くんですか…なぜ…」

「………」


喜助の問いにディオスは答えようとはしない。
それでも喜助は待ち、暫くディオスと喜助の間に沈黙が続くが沈黙を破ったのは意外にもディオスだった。


「私は我が子との約束は守る主義なのでな…ウティルの願いを無碍にはできん…」

「それだけですか…」

「…、……お前は…私に何を期待している……姉だから、と言ってほしいのか…」

「はい。」

「!」


即答の喜助にディオスは驚き目を見張り喜助へと目線を戻した。
喜助は憎しみはなく、涙で濡れた瞳をディオスへと真っ直ぐ向ける。


「アタシは真由美サンの父親です…だから…分かります……子供の気持ちは…」

「子供の気持ち、だと……お前が私の親だとでも言うのか…」

「だってあなたは真由美サンの弟だ…真由美サンの家族はアタシの家族でもある…」

「…………」


ディオスは言い切った喜助に言葉を失った。
驚きすぎて言葉が出ないのだ。


「姉さんのお節介は…お前に感化されたのかもしれないな……」


目を丸くして喜助を見ていたディオスだったがふと苦笑いを浮かべた。
それに次に目を丸くしたのは喜助だった。
喜助はまさか苦笑いだが笑みを浮かべるとは思っておらず、睨んで帰っていくと思っていた。
しかも真由美を『お前』ではなく『姉さん』と呼んだことにも驚きである。
するとディオスは笑みを消し、真剣な表情を作り、喜助も驚く表情を引き締める。


「……死神を許せても霊王までは許す事はできない」

「…はい…」

「だが……もう私は憎むことに疲れた……死神に倒された破面は全て修復させる…そうしなければ虚圏は力のない者で溢れじきに消滅していくだろう……力あるものが上に立ち力のないものを従えさせる…それこそが虚圏が保てる力関係であるからな…だが、今回のような事はない…もうこのような疲れるだけの事はしないことを誓おう…」

「ありがとうございます…その言葉を聞けば真由美サンもさぞ喜びますよ」


笑みを浮かべる喜助の言葉にディオスはまた苦笑いを浮かべた。
しかし喜助はある事を疑問に思い、思い切ってディオスに聞こうと口を開く。


「あの…藍染の封印に何をしたんスか?」


喜助の言葉にディオスは少し間をあけ、藍染の封印へと目をやる。
その表情は柔らかく愛しげに藍染の封印を見つめていた。


「…藍染は多分何千か何万もの間眠らされるだろう……その刑が終わり、藍染が友もなく1人になっていたのなら…我が虚圏で暮らすことを許可したのだ…」

「…!?」

「虚の寿命はあっても私は死ぬという事がない…私なら藍染を受け入れられる…」

「なぜ…」


喜助の問いにディオスは藍染の封印から喜助へと目を戻し、微笑を浮かべる。


「藍染もまた、私の愛し子の1人だからだ」


優しく美しいその言葉に、喜助は何も言えなかった。

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