(27 / 158) 浦原娘主 (027)

「ケホッ ハァ…ぐっ!!」

「真由美サン!!!大丈夫ですからね!」


喜助は苦しそうな娘に慌てる。
異常なほど吐血し、今もなお血は止まらない。
吐血だけではなく、時々痛みを絶えるように顔を歪める。
真由美は立て続けに吐血と激痛の為体力も無くなりつつある。

医者に見せても原因不明だった。
喜助は娘を案じるが何も出来ない。
そんな自分に嫌悪するが何も始まらない。
治るまで真由美の側にいることで少しでも真由美の痛みと苦しみが和らぐ事を祈るだけである。

数時間血を吐き続けやっと血は止まる。
布団も寝巻きも血で真っ赤になっていた。
真由美はずっと父の手を握り締めていて、うつろな目で喜助を見る。


「真由美サン!!」

「お、とう…さま」


長時間吐血していたせいで声は擦れていた。
意識も朦朧としていたが父の声と手のぬくもりだけは覚えていた。


「おとう、さま…」

「此処にいますよ、だから大丈夫ッス」

「…はい…」


自分に微笑みを向ける娘にホッと胸を撫で下ろす。
真由美は『寝てください』と言われ頭を撫でられる。
その手がとても気持ちよくてウトウトとし始める。


****************


真っ赤だ。

真っ赤。

全てが真っ赤に染まっている。

真由美は気付いたら倒れていた。

そこは血のように赤い海が広がり空も赤い。
無音で真由美が動いても物音一つしない。
体が重く、起き上がれなかった。


<帝…>


声がした方へと目を向けると姫椿と姫桜が土下座をしていた。


「椿ちゃん…桜ちゃん…?」

<妾はそのような名前で呼ばれる資格はございませぬ…>


顔は見えないが声は震えていた。


<妾が、妾が帝を苦しめてしまった…どうかお許しください…!>

「どういう…こと…?」

<……妾の力が強すぎたのです。そのせいで帝の身体は拒否反応をなさったのです。>

「きょ、ひ…」

<今の帝では妾の力に絶えられないのです。ですから触れた瞬間血を……>


真由美はただ姫椿を見つめることしか出来なかった。
体が動かず、手を伸ばす事も出来ずただ黙って見つめていた。


≪真由美様…どうか、どうか!お姉さまをお許しください!≫

「桜ちゃん…」

≪罰するというのならお姉さまを呼ぶよう頼んだ私が受けます!ですからどうか…!≫


二人は多分泣いているんだろうなぁと真由美はぼうっとする頭で考えていた。
そんな二人を見ていると心が痛む。


「許すも、なにも……椿ちゃんは…何もしてないよ…」

<帝…>

「桜ちゃんだって…罰を、受けることなんて…してないじゃない…違う?」

≪真由美様≫


姫椿と姫桜は顔を上げて主である真由美を見つめる。
二人の目に映る主は仰向けで動けない真由美を見て眉を顰める。


「私が、もっと力があればよかったのに…なにも…出来ないくせに…椿ちゃんに触れたのが…いけなかったの…」

<何を申されます!帝!!>

≪真由美様!それは違います!!≫

「……だから、頑張る。」


姫椿と姫桜はキョトンとした顔で真由美を見つめる。
真由美はそんな二人の表情が面白くてクスクスと笑ってしまう。


「私、椿ちゃんに…触っても…平気になるように…頑張る。」

<帝、それはまさか…>

≪修行をなさるというのですか?≫


姫桜の言葉に真由美は頷く。
そんな真由美に二人は顔を青くする。


<なりませぬ!もし帝のお体に傷が残ってしまわれたら…!!>

≪どうか、ご無理はおやめください!!≫

<妾の事は気にしないでくださりませ!!触れなければ大事はありませぬ!>


必死に二人は真由美を説得する。
しかし真由美は微笑み、二人を見つめるだけで頷くこはなかった。


「だって、寂しいじゃない…」

<み、かど…>

「桜ちゃんだけ触れて、椿ちゃんには触れないだなんて……椿ちゃんが可哀想だよ…」

<…………>

「大丈夫、だよ。一人で修行は…しないから…お父様と、するから…ね?」


子供に諭すかのように二人に言う真由美。
二人は暫らく沈黙し、頷く。
それを見て真由美は笑みを深め、眠りにつく。
精神世界から消えていく主に二人は頭を下げる。

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