(32 / 158) 浦原娘主 (032)

その夜、喜助は隣で眠る真由美の頭を撫でながら見つめていた。
愛娘の寝顔に自然と笑顔になる。


<もし、そなたが帝の養父かえ?>


バッっと声がした方へ顔向ける。
するとぼんやりと赤い煙のようなのが浮かんでいた。
辛うじて人型だと分かる。
声からすると女性だ。
しかもかなりの美声。


「誰っすかね?こんな夜更けに。」


警戒し、その煙に向かう。
煙は不機嫌な声で言うが殺気は感じられない。


<妾の質問に答えておらぬ。妾は二度は言わぬぞ>

「………もし、そうだと言ったら、どうします?」

<妾は姫椿と申す>


喜助はその名前にぎょっとし凝視してしまう。
そして姫椿は煙を保ったまま喜助に頭を下げる。


<お父上様、帝をあのような思いさせたことをどうかお許しください>

「……………」

<お怒りもごもっともでございます。しかし妾も帝と触れ合いとうございます>


喜助は黙ったままだった。
それでも姫椿は頭を下げたままの状態で相手の言葉を待つ。


「アナタは過去三人の主全てを操り、殺したと聞きます。」


それは本当ですか、という喜助に姫椿は一瞬だが反応する。
それを見逃す喜助ではなく、本当なのかと確信してしまう。
しかし本人が言うまで黙って待つことにした。


<本当でございます。妾が主の精神を侵し操り大勢の人間を殺めました。>

「それが本当なら、真由美をアナタに任せることは出来ません。」


その言葉に姫椿は顔を上げる。
表情は見えないがどこか絶望的な顔にも見える。


<妾は…確かに主を乗っ取り酷いことをしてきました…ですが帝を…真由美を乗っ取る気はございませぬ…信じてくださりませ…>

「その証拠はありますか?真由美を裏切らないという証拠が。」

<………………>


姫椿に証拠などない。
これまで三人しか主を持たなかったがこんなにも屈服されて嬉しい人間にあったことがなかったのだ。
こういうときどう言えばいいかわからないのだ。
だから黙っているしかなかった。
喜助は真由美を見つめ、再び真由美の頭を撫でる。


「アタシは正直姫桜が真由美の斬魄刀だと知った時姫桜を壊したくて仕方なかった。」

<………………>

「今日はお引取りを。」

<嫌じゃ。>


喜助は真由美の頭を撫でていた手がとまり、姫椿を真っ直ぐ見つめる。


<貴様になんの権利があって妾の主に命令をする。帝にご命令出来るものは誰もいない…例えそれが霊王だとしてもじゃ。>

「…父親だから、とでも言っておきましょうか」

<父親?義理の上にそなた嫌がってたではないか!そなたはただ妾と帝を監視するために>

「それ以上言うとアナタを折りますよ?」


騒ぎ出した姫椿に紅姫をチラつかせる。
姫椿は鼻で笑い、喜助を見下す。


<そなたの斬魄刀如きで妾を倒せるとでも思うておるのか?>

「思ってなきゃこんな脅しはしませんよ。……ただ、アタシは真由美サンを本当の娘だと思っているからその言い方が癪に障っただけです。」

<そなたこそ、真の親だと思うておる証拠はあるのかえ?>

「無いですね。…ですが彼女がアナタを持っていると分かってしまうと死神にならければならないん…父として、それは避けたい。」

<…なぜじゃ>

「親心ッスかね?いつ死んでも可笑しくない職業ッスから」

<………………>


その言葉の重みは姫椿には分からなかった。
主は三人しかいなかったが皆優秀で自分を使いこなせてはなかったが最強の名を欲しいままにしていた死神達だったからだ。
しかし、そんな姫椿にも分かるほど真由美は強いとは言えないのだ。
あえて言うならばひ弱だ。
ひ弱で姫椿を持っているとは思えない。
いや、姫桜ですら持っていることが理解できないぐらい死神の素質がないのだ。


<妾も帝が死神になったら生き残れるかわからぬ。>


ボソっと呟く姫椿に喜助は苦笑を向ける。
姫椿は真由美を見つめていた目を喜助に向ける。


<しかし…帝がなりたいと言ったら止めはせぬ。>

「…………」


今度は喜助が黙ってします。
それでも姫椿は続ける。


<だが、帝は死神になりたいとは思っていない>

「……知っています。死神になるために修行をしたいと思っていないでしょうね。」

<そうだ。妾は帝がしたいと、やりたいと言ったのなら止めはせぬ。それが妾の愛だからの。>


姫椿はまるで喜助に<それなのにお前は違うのか>と攻めているようだった。


「全てを許すのが愛ではありませんよ、姫椿サン。」

<妾が帝の斬魄刀の限り帝は妾の毒に侵され続けるぞ>

「毒とは…どういうことですか!?」


今までどんなに挑発や姫椿が失礼な事を言っても動じなかった喜助だが"毒"という言葉に反応し立ち上がる。
その音で真由美は身じろぐ。
二人は一斉に真由美を見つめるが起きる気配はない。
それにホッと息をつく。


<ここでは帝が起きてしまわれる。おぬし、妾の世界にこぬか?>

「アナタの世界?真由美サンの精神世界ですか?」

<まぁ、そうとも言えるがそうとも言えぬ。>


曖昧な回答に喜助は首を傾げる。
姫椿はそんな喜助を無視し、少しふてくされた顔で<来るのか来ぬのかハッキリさせよ!>と言われ頷く。
姫椿は喜助が頷いたのを見て指を鳴らす。

その瞬間喜助の体はゆっくり倒れた

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