(33 / 158) 浦原娘主 (033)

喜助は目眩がしたが次の瞬間音が消えた。
閉じていた目を開けるとそこは真っ赤だった。


視界全てが赤に染まっているとでも言っても過言ではない。

海も赤。

空も赤。

その赤はまるで血のようだった。


動いているというのに衣擦れの音も心臓の音もない。

"無"がこの世界を支配するような感覚になる。

この場所は長く居たら狂ってしまう。


喜助はとりあえず周りを見渡す。
すると一人の女性が立っていた。
桜色の髪、赤い瞳。
とても美人だ。
この女性が姫椿なのか、と思っていたらその女性はお辞儀をする。


≪お久しゅうございます、浦原喜助。姫桜でございます。≫

「姫桜…アナタが……では姫椿サンは…」


姫桜に姉である姫椿の居場所を聞き出そうとしたら姫桜は苦笑いを浮かべ、喜助の後ろを指差す。
訳分からず首を傾げながら後ろに振り向くと絶世の美人が見ていた。
…いや、睨んでいた。


「アナタが姫椿、サン…」

<そなたなんかに"さん"付けされても嬉しゅうない。呼び捨てにせよ>

「…そうっすか」


喜助はふてくされた顔の姫椿に毒舌を食らわせられるがもう反抗する気も失せていた。
姫桜は姉の隣に移動し、≪私も呼び捨てて構いませんよ≫と言う。
その顔はまだ苦笑は消えていない。


「それで、毒とはどういう事っすか。」


喜助は先の言葉の意味を姫椿に聞く。
此処に居たら本当に頭が可笑しくなりそうなので早く終わらせたいのだ。


<……妾の力は今の帝には毒にしかならぬのじゃ。>

≪私の力程度ならどんな方でも毒にはなりません。…しかしお姉さまの力は強すぎるのです。強すぎるがゆえに真由美様に害を及ぼしてしまわれる。≫

「……では、どの道力をつけなければ真由美サンは毒に侵され続け死に至る、ということッスか?」


喜助は二人の顔を見比べ、結論を述べる。
姫桜は目を伏せたが姫椿は首を振る。
その事に喜助は再び首を傾げる。


<確かに、そうなるであろうな。…だが、妾に認められていない主に限るのじゃ。>

「認められていない…?」

<そうじゃ。妾が認められなければ毒で死ぬ。あの三人のようにな。>

「ちょ、ちょっと待ってください!アナタは過去三人を主と認めたから使われる事を選んだんでしょ!?」

<表面上は、な。>

「表面上?」


姫椿は少し間をあけ、口を開く。


≪私たちはそれが義務だから主と認めただけです。≫

<妾たちはそなた達の斬魄刀とは違うのじゃ。>

「違うとは…?」


目を伏せていた姫椿は喜助を見つめる。
姫桜も姉同様に喜助を真っ直ぐ見つめる。


≪貴方達の斬魄刀は所持者自身の魂を元として形作られている。そうですよね?≫

「はい。」

<じゃが妾達は元は人なのじゃ。>

「…は? 人…ですか…?」

≪はい。私達は元は死神でした。≫


二人の言葉が信じられない喜助は姫椿と姫桜を見比べるだけしかできなかった。
そんな喜助に姫椿は無表情になり、姫桜は悲しい顔を浮かべる。


≪元々私達は最強の名を持つ姉妹でした。…ですがある日斬魄刀の実験をしていた死神の犠牲となり、私とお姉さまは斬魄刀そのものになってしまったのです。≫

「それは、知っています…とても有名な話しだ…だが…その実験は失敗したと…」

<表向きはな。じゃが本当は成功しておる。そして妾達は最強の斬魄刀となりその者に使われたのじゃ。>

≪私達は斬魄刀です。しかも主を拒めないのです。そう仕組まれているから。≫

「…………」


二人が嘘を言っているように見えず、喜助は絶句する。


≪私達は主を選びその者の前に現れる、という事が出来ます。それは多分他の斬魄刀も一緒でしょう。ですが私達は主を決められないのです。≫

「ですが、今選べると…」

<選べる事は選べる。じゃがそれは妾の、桜の意思ではないのじゃ。選ぶのは姫桜という斬魄刀の意思なのじゃ…>


妾はそれに従うだけじゃ。という姫椿に喜助は一つ疑問に思う。


「大体分かりました…ですが姫桜が言うにはアナタ達は二刀一対と聞きます。しかし記録には姫桜を持っている人はいても姫椿を持っている人は三人だけ。…コレはどういうことッスか?」


その質問に姫桜は姫椿を見やる。
姫椿はちらりと妹を見てすぐ喜助に目線を向ける。


<妾が強すぎるせいでの、桜を一人にさせてしまうのじゃ…>

≪お姉さま…≫

<妾と桜、この二つの斬魄刀を同時に出してしまうと世界が壊れるゆえ…>

「随分と…大げさっすね…」


引きつった顔の喜助に姫椿はフイっと顔をそむける。


<一度それをやったことがあるからの。…まぁその時は妾を引かせて壊れなくてすんだのじゃが…アレ以来持ち主には警告するようにしておる。>

≪そして私を扱える死神はいますがお姉さまを扱える死神はいませんでした。ですから私達は姉妹刀、そして二刀一対と知られる事はなかったのです。≫

「へ、へぇ…」


とんでもない事を聞かされ喜助の笑みは引きつりすぎた笑いになっていた。


<じゃからの、お父上殿。帝の願いをどうか叶えてやってくださらぬか…>

≪私からもお願いいたします。怪我があれば私が治療いたしますから…≫


姫椿と姫桜は喜助の前で頭をさげる。
喜助は真顔に戻り頭を下げる二人を見つめる。


「もう一度、聞きます。アナタは真由美サンを裏切り殺さないと悲しませないと約束してくれますか?」

<あぁ。もし破ればこの命、そちにやろう。>

「…真由美サンは毒で死ぬ事はないんすね?」

<……死ぬ事は、ない。じゃが…>

「……だが、何です」


下げていた頭を挙げ、姫椿は喜助を見つめる。
その顔は喜助同様真剣だった。


<体力は普通の人間より弱まり、吐血は止まらぬ。…もう、前の体力はなくなっておる。>

「…………」

<じゃがあれ以上酷くなる事はない。>

「どうにか出来ないんすか?アナタを完全に使いこなせると治るとか…」

<それは、ないとは言えない。じゃが妾を使いこなせるのは何千年、何万年じゃろうな…>

「何千って…何万って……絶対真由美サン生きてないじゃないですか!!」


姫椿は何もいえない。
喜助は姫椿に詰め寄る。


「もしアナタを使っている途中に吐血でもしたらどうするんスか!!アナタが守るとでも言うんですか!?」

≪それは私が…≫

<無理だ、桜。お前の治癒能力を持ってしても無理であろう。>

「やはり賛成しかねます!!出来ればアナタ方に真由美サンの斬魄刀を辞めていただきたいのだが…無理な話しですね…」

<確かに、妾を使いこなせるのは帝には難しい。だがこのまま血を吐き続けても良いのかえ?>

「……………」

<修行をし、妾に触れ合えるほどになったら止めさせればよいではないか。>

「………………」

<何も妾を使えとは言っておらぬ。>

「…………………」


喜助は姫椿の言うことに黙ってしまう。
暫らく沈黙が続く。

そして…


「……わかりました。真由美サンが初めて我が侭を言ってくれたんスからその願い、叶えましょう。」


喜助の言葉に二人は笑みを浮かべる。


「ただし、夜一サン、そして銀嶺殿にも協力をしてもらいます。よろしいですね?」


姫桜は姉を見つめる。
姫椿はすこし間を置き、力強く頷く。
頷いてくれた姫椿に喜助はいつもの表情に戻る。


「無事和解したということで、そろそろ帰してくれませんかね?そろそろ頭が可笑しくなりそうなんスよ…」

<おぉそうであったな。父上殿には此処は重過ぎる。>


姫椿は来たとき同様指を鳴らした。
すると赤色一色だった世界が元に戻る。


ホッと胸を撫で下ろし、横で眠っていた真由美を見つめる。
『明日夜一サンと銀嶺殿に言って協力を仰がなきゃ駄目ッスね』と思い娘の手を取り眠りについた。

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