「トキ、お父様は今いずこに?」
お嬢様のお言葉に着替えの為作業していた手が止まった。
私だけじゃない。
侍女も止まったのだろう。
中には手が振るえカタカタいわせている者もいた。
素早く我に帰る。
「お嬢様何を仰って…っ!!」
私はお嬢様を見つめ笑顔が固まる。
お嬢様は普段の可愛らしい微笑みや悲しみの顔ではなく恐ろしく氷のような眼差しで私を見下ろしていた。
今まで見たことのないお嬢様の表情に凍りつく
「トキ」
いつもの可愛らしく鈴を転がしたような声で私の名前を呼んでいるというのに今の私には恐ろしく冷たく凍ってしまった方がどんなにいいかと思わせる声に聞こえた。
私はお嬢様に頭を下げる。
「も、申し訳ありません」
「謝罪が聞きたいから聞いているのではないわ。」
多分まだ私を冷たく見下ろしているのだろう。
お嬢様の目線が痛く感じてしまう。
周りの侍女達もそれを感じているのだろう。
見えなくとも衣擦れの音で私と同じようにしていると分かる
「だ、旦那様は追放され、その後行方知らずになられたようでございます」
「追放…行方不明……?どういうこと?」
「わかりません…私も使いの者に聞きましたが教えては下さらなかったのです…」
いつものお嬢様の声色に戻りホッとしてしまう。
まだ顔は上げれないが少しずつ視線は和らいでいく。
「……夜一様のところへ向かいます。準備を。」
「はっ!」
お嬢様に言われやっと動いた身体。
私が動いたことによって侍女達も動けるようになり、お嬢様の身の回りのお世話を再開する。
このときのお嬢様は先のような冷たい表情ではなかったが表情はなかった。
****************
準備も終わりお嬢様が籠に乗り込もうとしたときの事です。
死神がお嬢様の目の前に跪きました。
「貴様!何用で…」
「よい」
「真由美様…しかし…」
「よいと言っている」
「は…」
お嬢様は護衛の者を止め先のような冷たい目で死神を見るめる。
「なんの御用でしょうか」
「…浦原家二十四代目当主、浦原喜助の御息女様でおられる浦原真由美様でございますか」
「えぇ」
「御足労を願いたい」
「いずこに」
「中央四十六室へ…」
「なっ…」
私達は絶句する。
たかが司法機関が上級貴族を呼びつけるとは聞いた事がないからだ。
「貴様!!上級貴族であらせられる真由美様を血生臭い中央四十六室へ自ら足を運べと申すのか!!」
「……はい」
「断る。」
「な…何故に…」
「私は何も知らないからだ。どうせ父のことを聞き出そうとでも企んでおるのだろう?聞いたところによると父は失踪したと言うではないか。あれ程愛していた娘である私を置いていったのだ。私など必要ない、という事だと考えられないのか、貴様達は」
「………っ」
お嬢様は普段では考えられない態度、口調に周りの者は固まる。
私と侍女は先の事で冷たい眼差しは見ていたがやはりなれない。
死神はお嬢様に怯え、言葉も出ない。
「私は用事があるのだ。邪魔を…」
「用途は四楓院夜一にでございますか?」
「……そうだが、それが何だ」
「昨夜から四楓院夜一が行方知れずなのでございます。」
「…………」
死神の言葉に私達は言葉をなくす。
お嬢様だけは表情を変えず死神を見下ろす。
「……トキ」
「は、はい!」
お嬢様はそのまま私を振り向く。
その表情は無表情だが死神に向けるような氷のような眼差しはなかった。
「朽木家へ変更する」
「え…あ、はい!」
そう言ってお嬢様は籠にお乗りになられる。
「真由美様!!お待ちください!!」
死神は籠にお乗りになられた真由美様を必死に止める。
しかしお嬢様は死神を見もせず前だけを見つめる。
「真由美様!どうかお話しを…!!」
「話すことなどないわ。こんな事をしている暇があったなら犯人を見つけ出す事に専念しろ。」
「犯人…といいますと…あなた様は浦原喜助を犯人と思っておられないのですか」
「笑止な事をいう…子が親を信じなくてどうするのだ」
「………しかし」
「とにかく、お前は中央四十六室に一歩でも浦原家の敷地に入れば容赦せぬ、とでも伝えてくれればよい」
そういい残しお嬢様は駕籠かきに声をかけ出発する。
私はそれに続き、歩く。
死神はただ呆然とお嬢様を乗せている籠を見送っていた。
****************
「トキ…」
「ここに」
私はしばらくしてお嬢様に呼ばれ、素早く籠に近づく。
「……私は……いや、なんでもないわ。ごめんなさい」
「お嬢様…?」
お嬢様は朽木家に着くまで一言も喋らなかった…
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