「お嬢様、白哉様がいらっしゃっています」
その知らせを聞いたのは真由美が喜助の部屋を出たときだった。
トキが父の部屋に近づけさせないようにしてる上にトキにすら地下のことは喋っていない。
だからトキも部屋に入らないようにさせてるために真由美が出てこないと用件を伝えられないのだ。
今回もそうだったために白哉を大分待たせているらしい。
真由美は早足で白哉の元へ向かう。
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「申し訳ありません!!白哉様!!!」
真由美は白哉のいる部屋に駆け込むように入る。
白哉は座っていた。
「…………」
黙る白哉に真由美は冷や汗をかきながら白哉の前に座る。
「えっと…それで白哉様はどのようなご用件で?」
「婚約の話しなのだが…何故受けてはくれぬのかと思ってな…」
「……それは…一時でも私なんかの婚約者になってしまったら白哉様の名が傷つくのは嫌なのです…」
「真由美、私は気にしてなど…」
「例え白哉様がそう言って下さっても私が気になってしまうのです…白哉様に素晴らしい方が現れた時その方は必ず傷つく…」
それは言い訳にしかならない、それは真由美も分かってる。
「真由美は、私と婚約するのがイヤか」
「そんな…違います!!」
俯いていた真由美が白哉の言葉で顔を上げる。
白哉はいつの間にか真由美の前にいた。
急な接近に真由美は後ろに下がる。
「白哉…様?」
「私はお前を愛している。」
突然の事に真由美は目を丸くして固まる。
そんな真由美に白哉は抱き締める。
「私も今まで妹だったお前を一人の女として愛することに戸惑っていた。この思いを伝えず見守る事を選んだが…じい様から婚約の話しが出たとき…心からの喜びを感じた…」
白哉の言葉を真由美は抱き締められながら聞いている。
どう言えばいいか分からないのだ。
急に抱き締められることにも慣れていない真由美は固まり、ぎこちない。
そんな事すら白哉は愛おしく感じる。
「わ、たしは……白哉様をそのように見ては…」
「わかっている。私を兄として慕ってくれているという事は…」
そう言いつつ白哉は真由美を抱く力を強める。
力を強めた為に真由美は白哉の胸に顔を埋める。
「…確かにお前の他に恋焦がれる女性が私の前に出てくるだろう…だがお前を想う気持ちは変わらない」
「それは…今だけでございます…」
「いや、この気持ちは変わらぬ」
「白哉様…」
なんて言ったらいいのか分からず真由美は白哉の名前を言うのが精一杯だった。
白哉は見上げる真由美の頬に手をやり、見つめる。
「だから…少しの間だけでいい…私に夢を見させてくれ…」
切なそうに見つめる白哉に真由美は目を逸らせなかった。
「私は…白哉様がそれで構わないというのなら…婚約のお話し、お受けいたします…」
真由美は白哉に体を預けるように寄り添う。
****************
「真由美…」
「は…」
暫らく黙って抱き合っていたが白哉に声をかけられる。
真由美は顔を上げ返事をする前に、白哉に唇を奪われる。
「ん……」
真由美は突然のキスに白哉の腕の中で暴れる。
だが白哉は力を緩ませるどころか強くする。
真由美は抵抗することを諦める。
暴れなくなった真由美に白哉は何度も唇を重ねる。
前世でもキスしたことなどなかった為に真由美はどうしたらいいのか分からない。
そのため息が苦しくなり白哉の胸を叩く。
白哉は名残惜しそうに唇を放す。
「真由美…」
「…苦しゅうございました…」
「ふふ、キスしたことはないか」
白哉は息を荒くしぐったりして自分の胸に寄りかかる真由美の頬を撫で愛おしそうな目で見つめる。
「あ、たりまえです…殿方と会う事すらお父様がお許しになられませんでしたもの…」
「……そうだな」
父の名を出したとき白哉は少し眉を顰める。
そして真由美の顎に指をやり、上を向けて目を合わせる。
「真由美、私を忘れるな。お前の中に刻め。お前を愛した男を…」
「白哉様…」
真由美は何も言えず白哉と見詰め合う。
頬を撫でる手の上に自分の手を重ね擦り寄るようにして目をつぶる。
「忘れません…例え愛する方が現れても白哉様は忘れません」
白哉はその言葉を聞き真由美を抱き締める。
今度は緊張で身体を固めることもなく、真由美も白哉の背中に腕を回す。
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