(43 / 274) 原作沿い (43)

管理人はアメリカが嫌いなわけではありません。

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ダンが去った後、水城はフルフルと体を震わせていた。
白石がそれに気づき『す、杉元…?』と声をかけると水城はバッと弾かれたように勢いよく白石に振り返る。
その顔は鬼のように険しさを見せており冷たく怒りで燃え上がる目に白石は『ひえ』と零した。


「あんのクソアメリカ人ンン!!白石見た!?あんのクソアメリカ人のあの目!!!不死身のヒグマだとか抜かした時のあの目!!!腹立つわァ!!」

「お、落ち着いてぇ??ゴリラ落ち着いてぇ??」


声を上げる水城に白石は身を引かせる。
しかし安堵もしていた。
水城に『不死身の杉元』という鬼が降りてきていない事に安堵した。
流石に最近やっと水城の恐ろしさに慣れたとはいえ、不死身の杉元と呼ばれる鬼神を相手にする勇気はない。
『誰がゴリラだ!』と叫びながら地団駄を踏む水城にキロランケが声を掛けてきた。


「どうした?今日は随分と機嫌が悪いな」

「どうしたもこうしたもないよ!!キロランケも見たでしょあのクソアメリカ人のあの目ェ!!人を馬鹿にしたようなあの目ェ!!!初めて会った時からずっと睨んできやがって…!!てめえの国とは戦争してねえだろうが!!軍人=敵かよ!!!流石自由の国クソアメリカだよなァ!!発想が自由だわ!!くっそ!今に見てろよクソアメリカ人が!!お前がバケモノと呼んでガタブル震えてチビってたヒグマを素手だろうと何だろうと必ずブチ殺して私の方が恐ろしいって事を教えてやんよおお!!!」


よほど頭に来ていたのか、水城は女だという事を忘れまるで三下のチンピラのように荒々しく叫ぶ。
ふははは!!、と壊れたように高々に笑う水城に白石は『発想が自由ってなに…』と思いながら水城の怒り様にキロランケの背中に隠れる。
ダンの牧場の従業員も水城の怒りに顔を青ざめ引いていた。


「ね、ねえキロちゃん…あの暴走ゴリラどうにかしてぇ?このままじゃヒグマに会う前にあのゴリラに全滅させられちゃう…」


平然とするキロランケに白石は声を抑えて水城を宥めてくれと頼む。
今アシリパが宥めてくれているが、大切な存在だと自他共に認めるアシリパでも水城の怒りは中々収まらない。
そんなまるで駄々っ子のように地団駄を踏む水城をキロランケは顎鬚を撫でながら見つめる。


「なあ白石」

「な、なに?」

「あいつ…鈍いのか?」

「え?あっ……あー…うん…あの子、鈍いよ…」


白石はキロランケの言わんとする事がよく分からなかったが、すぐに何を指しているのか気づき頷いた。
『そうか』とだけ呟きキロランケは面白そうに地団駄を踏む水城を見つめた。
『俺が独り身であいつがもうちょっと肉付きが良かったら口説いていたんだけどなぁ』と愉快そうに呟くキロランケの声を唯一聞いた白石はギョッと信じられないような目でキロランケを見た。
白石は『ひぇぇ、キロちゃん勇者かよぉ』という目をしていた。


「そ、それで…どうやってあのヒグマを斃すんだ?ふじ…」

あ"?

「ひいっ!し、しぶといんだろ?」


『不死身』というワードは今危険らしく、ダンのお陰で怒りモードになっている水城にギロリと睨まれ、キロランケを盾に隠れる。
必然的にキロランケが殺意の籠った目を向けられるが、当の本人は当事者じゃない事からニタニタと水城を見つめていた。


「白石はついてくるな…ドジだし邪魔なだけだ…銃もないのにワイワイついてこられても足手まといだ」

「クーン…」


銃も持たず飴ちゃん(それと脱出道具)のみしか持っていない白石は役立たず認定を受けた。
まあ、白石自身戦闘員ではないので熊と戦えと言われても困るが。


「水城も次は頑張ろうな?」

「……あ…はい…」


ポンと腕を叩くアシリパの言葉に怒りを露わにしていた水城はその怒りが萎んでいく。
次は外すなよ??、と言っているのだ。


「この森を南へ出ると誰も使っていない農家がある…勝手に休んでも構わんだろう」

「キロちゃん…一緒に行ってくれる??」


従業員の言葉に白石はキロランケと共に避難するためその農家へ向かい、一時二手に別れることになった。
――水城は白石とキロランケを見送った後、熊を探しに森の中に入った。


「ダンさんの牧場に妙な客?」


森の中に入り水城はニリンソウを見つけたのでアシリパが調べている間そのニリンソウを摘む。
その間にダンの牧場に妙な客が来なかったか従業員に聞いた。
白石の情報が正しければ一ヶ月前に中年の男が訪ねているはずで、それを従業員は見ていないかと聞く。
しかし色よい返事は返ってこなかった。


「いやぁ〜どうだろうな…俺もついひと月前からこの牧場で働き始めたばっかりでね…」

「へえ…ここへ来る前は?」

「俺は流れ者さ…ひと月前は札幌にいたよ…ススキノに行ったことはあるかい?いいところだったぜ」


従業員は熊を警戒しながら話をする。
二手に別れる前に荒ぶっていた水城に引いていたが、味方であれば頼もしいと思ったのか気軽に話すようになった。
しかし従業員は気づいていない。
警戒すべきは熊よりも傍にいる軍人だということを。
水城は従業員を囚人と怪しみ静かに肩に掛けていた銃を手に持つ。
その目はとても冷たく、凍えるようだった。
しかし…


「水城!!ちょっと来い!すごいものがある!!」


従業員が水城の殺意に気付く前に熊の手がかりを探していたアシリパが水城に声を掛けてきた。
手招きをして呼ぶアシリパに水城は立ち上がってそちらに向かう。


「どうしたの?」


問いながらも水城は『またウンコかなぁ』とウンコに対してテンションを上げるアシリパにそう思う。


「いいから早く見てみろこれ!」

(あのはしゃぎ方は絶対ウンコだわ)

「こんなの私も初めて見たぞ!」

(おや?ウンコじゃない…?)


いつもウンコを見つけると真っ先に水城に知らせるアシリパだったが、何やらいつもの様子とは異なっていると気づく。
妙に興奮しており、ウンコを発見したわけではないのかと見てみると…


「ヒグマの止め糞だ!肛門に詰まっていたオソマの栓が飛んで抜けたんだ!!」

「ん、やっぱりウンコかぁ〜〜」


結局ウンコだった。
アシリパ曰くウンコが長い距離まで飛んでいるのを見るのは初めてなのだとか。
確かに少し離れた場所から発射され、木まで飛んでおり、更にはアシリパと同じ目線までウンコが飛んでいた。
これはアシリパさんも興奮するよねぇ、と水城は納得してしまう。
ひと通りヒグマのウンコを弄ったらアシリパはその辺を見て回る。
すると赤い毛が沢山落ちている場所を見つけた。


「アイヌのウパシクマ(言い伝え)では鮭のすじこを潰して塗ったような赤毛のヒグマは性格が悪いと言われている」

「嬢ちゃんヒグマに詳しいね…指がまた生えてくるヒグマなんているのか?」

「聞いた事がない…でも、ヒグマは山刀で顔を半分に割られても反撃してくるし撃たれても時間が経つと弾が体の中で粉になる…ヒグマには不思議なところがまだ沢山ある」


落ちている熊の赤毛を手に取りながら説明するアシリパの博識さに従業員は感心した声を零す。
詳しいアシリパにモンスターと呼ぶ熊のような怪我を追っても復活する熊もいるのかと聞くが、アシリパが知っている中でそんな化け物じみた熊は会った事も聞いたこともなく首を振った。


「不死身のヒグマか…出来ることなら会いたくないな…」


ダンの挑発に乗ってはみたが、熊を相手にするのは流石の水城も肝が冷えるであろう案件だ。
だが、今、水城がここにいるのはアシリパの家に受け継がれる宝物を返してもらうという使命感だ。
それにダンという男が気に入らないのもある。
会った時からじっとこちらを睨みつけてきた男に水城は何度『何見てんだゴラ』と言ってやりたかったか…
何か言いたい事があれば言えばいい物を…水城はそう思いながら苛立ちをそのままに銃を肩に抱き直し森を進む。

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