「アシリパさん!これって…」
水城、アシリパ、従業員の男は森を進み、ある物を発見する。
それは熊が獲物を保存する土饅頭だった。
その周りには赤い毛がちりばめられるように落ちていた。
被せきれなかった獲物は馬で、恐らく先週襲われたダンの馬だろう。
するとアシリパはその土饅頭の上にトンと乗って見せる。
「何してるの?」
「土饅頭に乗ってる私が見えたら持ち主は怒ってすっ飛んでくるはずだ」
アシリパは怒り狂って襲ってくる熊を想定し矢を抜いて弓にかける。
辺りを見渡しながらアシリパは水城に『見ろ』と土饅頭に埋まっている馬を見せる。
「この土饅頭の馬は食われている…でもさっき見た止め糞はこの土饅頭よりも新しかった」
「え…ヒグマは止め糞が出ないと肉は食べられないんじゃ…」
初めてアシリパと会った時そう言っていたのを水城は思い出す。
水城の言葉に頷き、アシリパは弓を握る力を強くする。
「水城、気を付けろ…熊と私の間に入るなよ…この矢毒は銃と違って急所じゃなくても当たれば即死する…不死身でもただじゃ済まないぞ」
そうアシリパが言った瞬間、ガサガサと草が音を立てた。
そちらに売りかえれば赤毛の熊が顔を覗かせる。
「片目が無い!」
顔を覗かせる熊は右目がなかった。
ということはこの熊がダンが言っていたモンスターなのだろう。
アシリパはギリギリと熊に向かって弓を構える。
水城も銃を持つ手の力を入れたその時、後ろにいた従業人が悲鳴を上げ、振り返れば赤毛の熊に襲われていた。
(もう一頭!?)
目の前には片目の熊がいるが、後ろにも熊がいる。
ということは熊は二頭いることになる。
アシリパはまず目の前にいる片目の熊を倒そうと思い、思いっきり弓を引いた。
しかしその瞬間、弓がベキッと折れて壊れてしまい、毒矢が落ちる。
「折れたッ!?なんで…―――、あッ!あの役立たず!!」
突然折れた弓に驚いていたアシリパだったが、最初に赤毛の熊に遭遇した時の事を思い出す。
白石に文字通り尻に敷かれた時、咄嗟に白石がアシリパの弓を握ったため弓はくの字に曲がった。
それが原因で折れたのだろう。
「ブオオオッ!!」
雄たけびのような声を上げ、熊が突進してきた。
それを避けたアシリパだったが、ギリギリだったためイカヨプ(弓筒)が熊に当たり蓋を開けていたため転がった際弓が全部落ちてしまった。
咄嗟に水城が銃を撃ち、怯んだその隙にアシリパの狼の毛皮を引っ張ってその場から離す。
「一度に二頭相手は無理だ!!一旦引くぞ!!」
従業員の男へそう声をかけるが、男はもう一頭の熊に押し倒され身動きが出来なかった。
水城はそれを見てもう一度銃を撃とうとした時、熊は自ら銃に指をひっかけて発泡したその音に驚き男から離れる。
それを見て水城はアシリパを立たせた後その男へと駆け寄った。
「おい!立てるか!?逃げるぞ!!」
駆け寄った水城は銃を構えながら従業員へ声をかける。
従業員は痛みでそう早く動けないが生きてはいるようで上半身を起こした。
「アイツ…指が一本なかった……去年の秋に指を銃で吹き飛ばされた奴だ…!」
その言葉に水城は固唾を呑み、熊が逃げ込んだ方へ目をやる。
「何の事はない…赤毛のヒグマは不死身なんかじゃなくて…二頭いたんだ…」
片目がない熊に、指がない熊。
全員複数の熊がいると思わなかったため予想外の展開だった。
しかし更にそれをアシリパが付け足す。
「いや…あのアメリカ人の言っていることが正しいなら目も指も全部ある赤毛がいるはずだ…」
「っていうことは…」
「赤毛は三頭いる!」
水城は頷くアシリパの言葉に思わず天を仰いだ。
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