熊は獲物を狩るため家をグルグルと徘徊するように動いていた。
ふと匂いがしそちらにいけば遺体が壁にもたれて置かれていた。
それに何の疑問も思わず熊はその遺体の足を咥えたその時―――体に痛みが走った。
それは槍だった。
遺体を置いた傍には水城が待ち構えており、唯一開いている窓から水城が槍を投げて熊に刺したのだ。
「毒が弱いからすぐには死なない!もう一本打ち込め!!」
アシリパの言う通りもう一本槍を指してやろうと構えた時、クマが窓に顔を入れて侵入しようとする。
前足も入れているためまた引っ掻かれてはたまらないと水城は身を引かせた。
すると上からミシミシという音がし、もう一頭が侵入してきた。
「嘘だろ!?二階に侵入されたぞッ!!」
一先ず、外にいる熊は一応毒を入れため、後回しにし今は侵入してきた熊を先に倒す事にした。
「私とキロランケが熊を引き付けておくから三人は先に外に出てて!!」
「シライシ!馬を連れて行け!!」
水城とキロランケの言葉に三人は塞いでいた物を退かせる。
その間に水城はキロランケと協力して熊を突く。
男二人の手で塞いでいた重い物を全て退かせ、白石はキロランケの頼みに馬を連れてアシリパと出る。
「あ…親分の長ドス…」
仲沢も出ようとした時、若山の長ドスを見つけ大事そうにギュッと抱きしめた。
「何やってるの!早く立って!!脱出するよ!!」
キロランケから先に行くよう言われ水城は出ていこうとしたが、仲沢が長ドスを抱きしめているのを見て慌てて駆け寄りマフラーを掴んで立たせた。
仲沢が素直についてくるのを確認した後水城は外へ脱出する。
「姫〜〜〜ッ!!」
その時、熊に追われて以来姿がなかった若山が自動車に乗って向かってきているのが見えた。
水城は若山の言葉に『姫!?』とチラッと仲沢を見ながら必死に逃げる。
アシリパと白石もチラリと仲沢を見たので同じことを思ったのだろう。
「赤毛が出て来るぞ!!」
キロランケも同じことを思いながら赤毛に追われ家から出てきた。
水城は若山の持っているそれを見てキロランケに声を上げた。
「伏せて!!キロランケ!!」
水城の言葉にキロランケはどうしてと考えるよりも早く地面に伏せる。
その瞬間、自動車に乗せていた機関銃がキロランケを追いかけていた熊をハチの巣にした。
「チッ!弾切れだぜ…!」
全ての弾を撃ちこみやっと一頭が倒れた。
しかしまだ一頭残っており、槍が刺さったまま熊はこちらに近づいてきていた。
「まだ一頭いるぞ!!乗れ!!」
熊の姿に全員が自動車に乗り込む。
はっきり言って定員オーバーだが、この際構っていられなかった。
「お前の国は馬のいらない馬車があるのか!?」
「友達のフォード君に試作品を貰ったんだ」
この時代、まだ自動車は珍しくそれにアシリパは驚いていた。
その間にも熊は端って追いかけてきていた。
しかしその足はヒグマにしては遅く、恐らく毒が効いて走れなくなってきたのだろう。
その時、石を踏んだのかガクッと大きく車体が揺れた。
しかし乗っている分にはそれほど揺れたわけではなく走れなくなったわけではない。
ただ置いていた若山の長ドスがその振動によって落ちてしまった。
「あ…っ!」
仲沢は恋人である若山の長ドスが落ちてしまい、それを咄嗟に拾おうと手を伸ばした。
しかし体が傾きそのまま仲沢も自動車から落ちてしまった。
「姫!!」
「親分!」
恋人が落ちてしまい、若山は戸惑うことなく自ら車から飛び降り恋人の元へ駆けつける。
だが後ろから追いかけてきた熊の方が早く、倒れていた仲沢は熊につかまって首筋に噛みつかれた。
バリっと嫌な音を立てながら深く噛みつかれ、その傷口から大量の血が溢れ出る。
「姫!!」
若山は愛する男を助けるため、落ちていた自分の長ドスを拾い素早く鞘を抜き熊に斬りかかった。
若山のドスは熊の手を斬り落とし、熊はその痛みに声を上げ、標的を若山へ変える。
押し倒した若山の腹に爪を食いこませ引き裂こうとした。
しかし若山は持っていたドスを顔に刺し、その痛みに熊は力を抜きその隙に若山は転がって熊の下から脱出する。
うつ伏せのまま起き上がると裂かれた傷口からドバドバと血が落ちる。
その血で手を赤く染めながら若山はドスを構いなおし、熊の鼻と口を斬り落とした。
鼻を口ごと斬り落とされた熊は逃げ出そうと背を向ける。
だがそれを若山は許さなかった。
「今更逃げんのかよ!!オイ!!」
若山は背を向ける熊にそう怒号を浴びせ、尻にドスを突き刺した。
その一撃に耐えきれず熊は悲鳴のような声を上げ、力なく数歩歩いた後…力尽き息絶えた。
「勝ちやがったよあの親分…」
一部始終見ていた白石が信じられないように言った。
若山はふらつく足で恋人の元へ向かう。
「姫…」
出血多量で意識がもうろうとしていた仲沢は愛する人の声に瞑りかけた目を明け、声のした方へ視線を向ける。
そこには同じく傷だらけの恋人がいた。
「ざまあみろ親分…もう私に隠れて浮気できないね……私と一緒に死んじゃうもんね…これで私は親分の最後のひとだからね…」
例え同性同士といえど、浮気されて喜ぶ性癖ではない限り許せなかった。
だから拗ねて若山が困らせる事ばかりしてきた。
結果、死んでしまおうとも若山もこのまま一緒に死ねばもう彼は浮気できず自分は最後の恋人になる。
仲沢は自分が死のうとも満足だった。
「馬鹿野郎…」
仲沢の言葉に若山は笑う。
そして震える手を伸ばし、彼の手を取った。
指と指の間に己の指を滑らせギュッと握り―――二人は死んだ。
「二人は永遠の愛を手に入れたのね…」
水城はポツリと呟いた。
白石はそんな水城を見る。
水城の横顔は女の顔をしていた。
感動したのか、涙が浮かんでおり微笑んでいた。
そう言えば仲沢をよく相手にしていたな、と白石はパニックになりつつも覚えていた事を思い出す。
不覚にも白石の目にはそんな水城の横顔が美しく写った。
普段は恐ろしい女としか思えないのに、涙を浮かべ恋人たちの最後を見守る彼女に白石は魅入られた。
だからか、つい目の前の美女を慰めてあげたくてそっと手に触れた。
白石の手に気付いた水城は白石へ目をやる。
濡れた目と目が合う。
その目はとても美しく色っぽかった。
水城が微笑んだため、白石もつられて微笑む。
『このまま口説こうか』とついその気になった白石だったが…
「じゃあ…―――ちょっと皮剥いでくる」
どんなに色っぽくても。
どんなに美しくても。
所詮、ゴリラはゴリラだと白石は今、この瞬間…学習した。
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