モンスターと呼んだ熊を全て倒したとして、約束通り30円でアザラシの皮で出来た衣服を返してもらおうと水城達はダンの屋敷にいた。
「10円でも構わないぞ」
「えっ?本当に!?」
アザラシの衣服を取り出しながらダンは値引きをしてくれると言った。
しかも20円も安くなり、水城は驚いた表情を浮かべる。
そんな水城にダンは頷きながら水城の手をそっと取った。
水城はダンの手に取られ、その手を見下ろした後ダンを見る。
ダンはうっとりとした目で水城を見つめており『ただし条件がある』と続ける。
その条件という言葉に水城は顔を引きつらせた。
「10円でその服を渡しても構わない…ただ、その代わりといってはなんだが……スギモト…と言ったね?君、私の愛人にならないか?」
「
お断りさせていただきます」
ダンの言葉に水城は即答で答える。
軍人時代に『うまい話には裏がある』ということわざを何度も実感した水城は『条件』という言葉にいい思い出はなかった。
しかも今回も愛人になれと言われ水城は即答で断る以外の選択肢を知らない。
即答で断られたダンに白石が密かに吹き出したが、それに気づいたのはキロランケしかいなかった。
アシリパは水城を愛人にと望むダンを信じられないような目で見ていた。
恐らく男に迫っているのが信じられなかったのだろうが、彼女は若山と仲沢というカップリングを知ってしまった。
即答で断られたダンはそれでも引かず、ズイッと迫るように近づきギュッと水城の手を強く握り逃げれなくさせる。
「では恋人ではどうだろうか…それでも不満があるなら妻として迎え入れても構わない」
『その代わり女装することになるが』、という言葉からして水城を女ではなく男と分かって求婚しているようだった。
水城は顔を引きつらせる。
別に同性愛に偏見はない。
そんな偏見があれば軍ではやっていけない。
ただ自分に向けられるのは慣れていなかった。
水城はモテるタイプの顔なのに慣れていないのは、吉平が水城を独占していたから吉平を恐れ誰もが水城を遠巻きに見ていたからだ。
「私は男なんで…」
「子供の事を心配しているのか?それなら養子を貰えればいい…私の立場を案じてくれているのなら君が女装してくれれば解決する」
「……旅の途中だしまだやることもあるから一緒にはなれないんで…」
「全てが終わった後帰ってきてくれるなら今は君を縛らないと約束しよう!全てが終わった後…私のもとへ帰ってきてくれないか!」
「き、傷だらけなんで!!顔で分かると思うけど体中も傷だらけなんで!!絶対に萎えると思うんで!!!」
「萎えるものか!!君と初めて会った時から私は君に魅入られてしまったんだ!あの時も傷を負ってしまった君を心配しつつもときめいてしまった自分がいるんだ!!こんな事初めてだ!!どうしてくれる!!この責任を取ってもらおうか!!」
水城はダンから逃げようとしたが、ダンもダンで逃がさないと力を入れる。
水城はこの瞬間気づいてしまった。
初めてこの部屋に来た時からずっと睨んでいたと思っていたのだが……あれは睨んでいたわけではなく、見初められて見つめられていただけだと。
水城は傷を見ても萎えるどころか興奮するダンに『こいつアイツ(吉平)と同じタイプかよおお』とドン引きしていた。
水城は思いっきり手を振ってダンの手から逃れた。
「そんな事知るか!!アンタが勝手に惚れたんだろうが!!」
ギッと睨む水城にダンは怯むどころか頬を染めて感極まった声を上げ水城に向かって腕を広げた。
「それ!それだよ!!私は君のその目に心を奪われてしまったんだ!!君のその人を人と思わないような鋭い眼光!!たまらない!!」
「い、意味がわからん…!」
なんで睨んだだけで惚れられるのか…水城には全く理解不能だった。
変態の考えていることは分からん、と追いかけてくるダンに水城はガタイのいいキロランケを盾に使おうとキロランケの太い腕に抱き着き…
「この人と恋仲なんで無理です!!」
そう言った。
キロランケ含むその場にいる全員が『へ?』という呆気に取られた顔で水城を見た。
キロランケも他人事だと思い(いや、実際は他人事なのだが)煙草をふかしてニタニタと笑って楽しんでいたのだが…水城の言葉にそのまま固まった。
水城はキロランケが何も言わないのをいい事に更に畳みかける。
「く、口づけだって毎日一回は濃厚なやつをしないと嫌だし!宿で泊れないから本番は出来ないけど擦り合いとか手淫とか口淫とかしてあげてるし!!本番は本番で激しいしチンポ大きいからもうこの人以外じゃ満足できない体だし!!今だってぐっちょぐちょのべっちょべちょにしてもらいたくてたまらないし!!!」
『だから無理ですんで!!!』と叫ぶ水城は今、自分が何を叫んでいるのか全く理解していなかった。
これほどしつこく求婚されたのは初めてで、だからこそパニックを起こしていた。
これが吉平のように取り引きだ何だと言い出したのなら、水城は冷静のまま跳ね返していただろう。
とにかくこのしつこい変態から逃れたかった。
白石は水城の暴走に…いや、ダンが水城に求婚した時からアシリパの耳を塞ぎ、水城から目を逸らす。
水城は美人だがついさっきゴリラはどうあがいてもゴリラだと学習したのでキロランケが羨ましいとは全くこれっぽっちもミジンコ程も思っていない。(でも柔らかい女人に抱き着かれていいなとは思っている)
「ぐっちょぐちょのべっちょべちょ?」
「ぐ、ぐっちょぐちょのべっちょべちょ」
ぐちょぐちょという部分に反応したダンに水城は何度も頷く。
勿論、分かっていない。
我に返ったキロランケも何度も頷く水城に苦笑いを浮かべる。
キロランケはとりあえず水城の好きにさせるつもりらしい。
ダンも流石にここまで言えば諦めるだろうか、と思ったのだが…
「それでも構わない!ぜひ私を愛人にしてくれ!」
「
なんで!?」
なにをどう受け止めてそうなったのか…逆にダンが愛人になると言い出した。
キロランケの腕に抱き着く水城の片手を奪い、ギュッと力いっぱい握るダンに水城は心底思った言葉で突っ込んだ。
キロランケは目をうっとりとさせながら水城を見つめ迫るダンを見ながら『ああ、このタイプは何言っても無駄なタイプだな』と思いつつ静かに煙草を吸った。
もう他人事である。(他人事ではあるのだが)
恋人や愛人や妻になるよう言われて断っても無駄。
恋人がいると断っても無駄。
むしろ恋人がいようと愛人になると言い出す始末。
水城は『仕方ない』と腹を括り、ダンの握られている手を振り払いキロランケの腕から離れ…
「今まで騙していたようで申し訳ないけど…―――私、女なんです!!」
服をはだけさせサラシを巻いている胸を見せる。
男に求婚するくらいだから性欲は男に向けられ、女は対象外だろうと思ったのだ。
潰してはいるが、谷間があれば女だと信じてもらえるだろう。
バッと服を肌蹴させた水城の胸元をダン―――と白石が凝視する。
その場は静まり返り水城は『分かってくれただろうか』とチラッとダンを見た。
その時、水城の手はダンに掴まれた。
「それならなおの事私の妻に…いや…私を愛人にしてくれ!!」
「
だからなんでだよ!!!」
水城は二度目の心底思った言葉で突っ込みを入れた。
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