(51 / 274) 原作沿い (51)

水城達は30円でアシリパの家の宝物を取り返し、大伯母に渡した。
大伯母は泣いて喜び水城は熊三頭と戦うはめになったが、大伯母が喜んでくれたのなら傷を負った甲斐があったと思う。
あの後ダンはしつこく迫ったが、何とかキロランケの介入のお陰で渋々ではあったがダンを諦めさせる事に成功した。(白石にはアシリパの耳を塞ぐと言う大事な役目があった)
水城は白石の『ほんと、杉元って変な奴に好かれやすいよな〜』という揶揄いの言葉に言い返す事は出来なかった。
そんな水城は今、山に入っていた。


「プクサ…ギョウジャニンニクもアイヌにとって無くてはならない食材だ…フラ(匂い)ルイ(強い)キナ()ともいう…臭くて病魔が逃げ出すと言われているから枕の下に置いたり玄関や窓に吊るしたりする」


アシリパの説明を聞きながら水城はプクサを一緒に摘む。
吊るす事もある食材だが、この時期は生で食べる事もでき、美味しいからとアシリパは摘んだばかりのプクサを水城に渡した。
それを受け取って水城は葉っぱから食べる。


「ちょっと辛いけど…でも、うん!美味しい!ヒンナだよアシリパさん!」


ピリッとした辛みはあったが、水城の口に合ったのか美味しいと笑う。
水城が美味しい美味しいと食べてくれるのでアシリパも笑顔になる。


「プクサはすごく精力がつく食材だ…働きながら沢山食べろ水城……プクサはどんな病気にも効く…その顔の傷も早く治るはずだ」


アシリパはそう言って日当たりのいいところに生えている二枚の葉を採るよう指示をした。
ただし、根っこだけは絶対に採るなとも伝えて。
アイヌの間では根っこを採るとカムイが怒り採った者を病気にすると言われており、根っこから採ると次の年は生えなくなるのだとか。
それを頭に入れながら水城は葉っぱだけを採る。
しかし、ふと水城は思い出す。


(これ…味噌付けたら美味しいんじゃないかな…)


ふと脳裏に味噌の事が浮かび、この葉に味噌を付けたら更に美味しいのではないかと考え鞄からそっと味噌の入っている器を取り出す。
あと少ししかない味噌にプクサを付け水城は口に運んだ。


(やっぱりすごく合う!生のプクサに味噌は抜群に合うなぁ…ヒンナヒンナ!)


口に入れるとすぐに美味しさに気付く。
味噌の甘みとピリッとしたプクサの辛みが絶妙に合い、プクサだけでも美味しいのだが、味噌を合わせると更に食が進んだ。
しかし水城は気づいた。


(見てる…)


ふと視線を感じ振り返れば遠目でも分かるほどアシリパがこちらを凝視しているのが分かった。
それをあえて無視し味噌を付けてもう一枚プクサを食べる。
そして美味しい美味しいと言いながら水城は再びアシリパの方へ振り向いた。


(…近づいてきた……)


遠くにいたのに今はすぐそばにアシリパが立っていた。
少しずつ近づいてくる恐怖を感じつつアシリパに視線を外しもう一枚味噌を付けてプクサを食べようとした時――…アシリパがすぐ隣にいる事に気付いた。
水城は負けた。


「水城のオソマは何にでも合うなぁ!ヒンナヒンナ!」

「んもう!ウンコじゃないってば〜」


まだ味噌をオソマだと思っているアシリパに水城は笑う。
味噌を取られた水城はそれでもプクサを食べていたが、途中、アシリパはフキとフキノトウを見つけ摘んで食べる。


コロコニ(ふき)カヨマ(ふきのとう)もこの時期に採れるおいしい春の食材だ…フキの若葉も生で食べられる…アイヌの子供たちが遊びながらおやつにするんだ…でも口の周りが真っ黒になるからフキを食べたのが分かってしまう…フキノトウは大きくなっても葉と花をちぎって茎を焼き皮をむいて鍋に入れるとフキより美味い」


そう言って水城にもフキを渡す。
食べてみると苦味があったが、嫌いな味ではない。
アシリパの言う通り、彼女の口の周りも水城の口の周りもフキを食べて黒くなっていた。
それに水城もアシリパもお互いの顔を見合わせながら笑う。


「アイヌにとっての季節は冬と夏だけが交互に来る…『春』と『秋』はその隙間にちょっとくっついてくるもの…冬は山へ狩りに行く『男の季節』で、氷が解けて見ずになるとマッネパという『女の季節』が来る」


アイヌにとって、季節は冬と夏の二つしかなく、二つの季節で仕事が決められている。
冬は狩りをするため『男の季節』とされ、夏は冬の間ひもじい思いをさせないよう女達が山に入り山菜や野菜などを沢山採る『女の季節』となっている。


「だから水城も私が教えた事をちゃんと覚えておけ」

「え?別にいいけど…どうして?」


アシリパの説明をふむふむと聞いていると思いがけない事を言われ水城は首を傾げた。
そんな水城にアシリパもキョトンとさせ首を傾げる。


「?、お前は私の家族じゃないか…お前は女なんだから女の季節では働いてもらわなければ冬に困るだろう?」


その言葉に水城は目を丸くした。
アシリパは先の事を言っていたのだ。
この金塊争奪が終わった後の事を。
水城はそれに驚いた。
水城をアイヌとして受け入れてくれるアシリパもだが、ちゃんと未来を考えていたアシリパに水城は驚いた。


(そっか…この旅もいつか終わりは来るんだよね…)


ずっと旅をするつもりも、ずっと男装しているつもりもなかった。
だがアシリパ達との旅が楽しくて水城は未来を見ていなかった。
金塊を見つける、という思いは忘れてはいない。
だが、金塊を見つけた後の事は考えていなかった。
キョトンとさせるアシリパに水城はふと笑った。


「そうね…ちゃんと覚えておかないと駄目ね…」

「そうだぞ…私は冬、水城は夏だ」


水城は帰る場所がないと思っていた。
待っている家族も静秋以外いないと。
だけどそれは違ったのだ。
帰る場所も待っている家族も、アシリパがくれた。
水城はもう一人ではないのだ。


「だからちゃんとニリンソウとトリカブトの違いを覚えろよ?私はお前に毒殺されたくないからな」

「んもう!アシリパさんったら!いい雰囲気ぶち壊しぃ〜!そこ掘り下げないでほしかったなぁ〜!」


水城がそう言えばアシリパは笑った。
その笑みに水城も釣られ、その場はきゃっきゃっと女性の朗らかな笑い声が響いた。

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