(60 / 274) 原作沿い (60)

水城と尾形はあの後何もせず眠りについた。
室内でなら尾形と寝る事を承知した水城の言葉を聞き入れたからだ。
アシリパを脅迫材料にしておいてそこは律儀に守るんだ…と相変わらず変な所で優しい男だなと水城は眠りながら思う。
そして翌朝。
水城はアシリパと共に罠を見に向かっていた。


「ヤマシギが罠で獲れた!……けど…」

「みんなで食べるには足りないかもね…」


罠を見に行くとヤマシギが罠に掛かっていた。
しかし二羽しか獲れておらず、アシリパはムッと頬を膨らませる。
『水城も羽むしるの手伝え』と言い水城に一羽渡し羽を毟る。


「わっ!あ、アシリパさん…も、もうちょっと静かに毟ってほしいんですが…」

「ケッ」

「沢山罠を仕掛けたのに二羽だけだからご機嫌斜めだな」


渡された鳥の羽を毟ろうとしたが、隣から大量の羽毛が水城の顔に向かって飛んできており、水城は口に入った羽を吐き出しながら柔らかくアシリパを宥めた。
牛山の呟き通り、アシリパは沢山罠を張り水城と『食べるのが楽しみだな』とワクワクしていたのだ。
だが、翌朝見てみればかかったのはたった二羽。
4人で食べるには少なかった。
そのためご立腹となりアシリパは八つ当たりのように鳥の羽を毟っていく。
するとそんなアシリパ達の傍に五羽追加された。
ドサドサと落とされるように置かれた七羽のヤマシギに水城は顔を上げればそこには尾形がいた。


「今朝また居なくなったと思ったら…散弾じゃないのによく撃ち落としてこれたもんだ」


水城が目を覚ました時、尾形はすでに起きていて姿を消していた。
彼自身付けられた名前の通り猫のように気紛れな所があるためさして気にはしていなかった。
そんな彼はどうやら鳥を獲りに行っていたらしく、牛山の言葉にドヤ顔をし胸を張った。
その顔に牛山と水城はイラッとしたのは否定しない。


「アシリパさんに無理だって言われたからムキになっちゃってさ…」

「水城は銃が下手くそだから妬ましいな」

「べ、べべ別に!?妬ましいなんてこれっぽっちも思っていないし!!そもそも私は銃なんて使わなくても強いし!!」

「そうだな、水城は目と鼻の距離にいるヒグマしか仕留められてないものな」

「アシリパさん!?やめて!?人の気にしている事をグリグリ穿り回すのやめて!?」


ハンッ、と鼻で笑う水城にアシリパが微笑ましそうに見つめてきた。
銃が下手なのはアシリパだけではなくキロランケと白石も知っており、もはや他人が認めるノーコンであった。
逆にキロランケに『あれだけの距離で仕留められないのは逆にすごい』と言われたのは良くもない思い出である。
水城が銃を使い仕留めた獲物と言えば、今のところあのダンのところにいた赤毛のヒグマのみだ。
その言葉に今度は尾形が鼻で笑った。


「お前、まだ銃が苦手なのか…どうだ?久々に俺の指導を受けてみるか?」

「いりませんけど!?お前の指導なんて二度と受けるか!!」


前髪をかき上げ上から目線で吐く尾形に水城はすかさず断った。
顔を青ざめるのを見れば、よほど尾形の指導は辛かったのだろう。
牛山も短い間だが尾形の性格を何となく把握しており、当時から目を付けられていた水城に同情した目線を送っていた。
そんな牛山の生暖かい目に負けそうになりながら水城はビッシッと尾形が獲ってきた七羽のヤマイギを指さす。


「だ、大体こんなに獲ってきてどうするのよ!!七羽なんて4人で食べれるわけないじゃない!!」


どう見ても八つ当たりである。
そして話をそらせたい一心なのは誰が見ても分かる。
だが、水城の言葉も正しく、真冬ではない今、旅をしているため保存方法は限られる。
とにかく銃の話から逸らしたかった水城だったが、その選択は間違っていた。
水城の言葉に尾形はフッ、と笑って見せ…


「精を付けなきゃならんだろ?」


そう言った。
牛山とアシリパはその言葉に首を傾げつつも『精』とは体力の事だと思った。
だが水城は鳥を指差したまま固まり、顔を真っ赤に染めながらワナワナと体を震わせる。


「お、まえ…!尾形!お前…!!アシリパさんの前で何言って…っ!!」

「俺は別に何も変な事は言ってないけどなぁ?山を進むなら体力はいるだろうし………なあ?水城?」

「〜〜〜〜〜〜ッ!!!てめぇ…!!表出ろや!!クソ猫!!」


牛山は二人のやり取りに全てを察した。
それと同時に昨日の夜尾形も森の中に消えた事にも納得した。
帰りは別々だったが、よくよく考えれば帰ってきた方向は同じだし、逢引しているカップルでは常套手段であった。


「ああ、お前ら…そういう関係だったのか…」


最初から可笑しいなと思ってたんだよな、と零す牛山に水城はギロッと睨む。


「違いますから!!!」


水城は心からの叫びを言葉にした。
アシリパは首を傾げた。
水城と尾形の間に子供がいるのは知っている。
世の中反りが合わず離婚する事もあると一応は分かっている。
だがだとしても…どうして水城はここまで尾形を拒絶するのかがまだアシリパには分からなかった。
牛山は『違うのか』と納得したように頷きにやりと笑い水城を見る。


「なら、俺もチャンスがあるってわけか」

「あ"?あるわけがないだろ…コレは俺のだぞ」

「おい…いつから私がお前の物になった?」


ふむふむと頷く牛山の言葉に間も空けず尾形が牛山に釘を打ち、その釘を水城が必死に抜こうとしていた。


「杉元は否定しているじゃないか…結局選ぶのは杉元だろ?…杉元、俺のチンポは紳士だぞ?お前はチンポではなく心が大事だと言っていたが、チンポも大事だと言っていただろう?ならそれを俺と証明してみるのはどうだろうか」

「付け込もうとするチンポのどこが紳士だ…それに言っておくがこいつの"子壷"は俺が先約ず―――」


済みだ、と言おうとした尾形を水城が殴って止めた。
子壷、とは子宮を意味し、それはすなわち孕ませるぞと言っているようなものである。
牛山に気を取られていた尾形は水城に気付かず殴られ、力を入れて殴ったためか尾形は頭を押さえしゃがみ込んでしまう。
そんな尾形を見た後牛山は水城を見る。


「尾形ぁ…牛山ぁ…これ以上アシリパさんの前で卑猥な事を言って見ろ…不死身と呼ばれた私が黙ってないからな」


普段なら牛山は水城ほど強い者なら望むところだと言っていたところだろう。
だが、その背後に見える鬼神のような背後霊と威圧感にいつものように強気にはなれず何度も頷いた。

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