牛山は未亡人である女性方と遺体を運んでいた。
絵図はえげつないが、牛山は久々の女に囲まれ機嫌を良くしていた。
しかし後ろからドン、と衝撃が走り、更にドンドンとまるで拳で殴られるようにリズムよく叩かれていた。
「……何してんだ、杉元…」
牛山は後ろを見なくてもそれが誰なのか分かっていた。
そもそも牛山に抱き着き八つ当たりのように叩ける人間などこの中に1人しかいない。
尾形は仲間意識はあるもののコミュニケーションという名をどこかで撃ち殺した如く単独行動派、アシリパは自分を慕ってくれるためそのような無礼な事はしない。
と、なれば残ったのは水城だけである。
というか結構力を入れているため、戦闘能力に特化している彼女しかいないだろう。
牛山は半目で後ろにいるであろう水城を見る。
水城は先ほどからうーうーと唸りながら牛山の背中に顔を埋めていた。
「なんだよ、何があった?」
「私は!!淫乱じゃ!!ない!!!」
「は???」
「私は!!娼婦でも!!ない!!!!」
「お、おう…?」
水城が突然卑猥な言葉を叫び出し、牛山はギョッとさせた。
何を話しているか分からないアイヌの女性も突然叫び出した水城に驚いているようだが、空気を読み見なかった事にしてくれた。
やさしい…とますますこのコタンのアイヌの女性に惚れ直しながら牛山は『どうどう』と暴れ馬を宥める様に水城を宥めた。
振り返れば水城の顔は真っ赤にしており、羞恥心からか目を濡らしていた。
それがまた色っぽく、つい牛山は水城の濡れた目に引き寄せられキスをしようとした。
だが、それを水城に叩かれ失敗する。
「なにすんだ!!変態!!!」
「しょうがねえだろ!!お前自分の顔鏡で見てみろよ!誰がどう見ても襲ってくださいって言ってる顔だろ!!」
「私は!!娼婦じゃ!!ない!!!」
「はいはい分かりました!ごめんなさい!!だから泣くな!!不死身の名が廃るぞ!!」
「泣いて!!ない!!不死身の名前も!!廃れないッ!!」
そう言いつつも水城の目からは涙が溢れていた。
水城は尾形があまりにも理不尽に怒るから仕返ししてやろうとした。
それが案外恥ずかしくて今になって羞恥が襲い掛かってきた。
丁度牛山が見えたので、その広い背中に向かってGO!をしたのだ。
水城が八つ当たりで殴ろうとしてきたので両手首を掴んで止める。
それでも、うっうっ、と顔を赤くしながら泣く水城に牛山は困ったように眉を下げた。
しかしふと水城の手首の細さに気付く。
(これが不死身と呼ばれた女かよ…抱きしめれば折れそうな体してんな…)
手首を掴まれても抵抗せず自分のした事への恥ずかしさに顔を真っ赤にさせる水城を牛山は見下ろし、ゴクリと喉を鳴らす。
元々水城は守備範囲内である。
傷が目立ってあまり注目されないが、よく見れば顔は整っており、服で隠れてしまっているが(牛山の予想では)体も悪くはないだろう。
あの柔らかい体を抱けばきっと娼婦は暫く抱けないはず。
それに戦っている時の水城と普段の水城とのギャップもたまらない。
牛山は土方と行動を共にしていた時とは違い、森を進むこの旅では女は抱けず、最近欲求不満になっていた。
「チ…チンポ先生…?」
とは言えこの女を抱くのは骨が折れそうだ。
はあ、と熱の籠った溜息をついていると後ろから少女の声と共にカランカランと何かが地面に落ちる軽い音が聞こえ振り向く。
そこには自分を先生と慕ってくれるアイヌの少女がいた。
恐らく死体を埋めるための道具だろう…少女の足元には鍬やら見たことのない道具が4本落ちていた。
少女ことアシリパは水城が殺した男の死体を見て顔色を青くしていた時以上に牛山を見て顔を青ざめていた。
ショックを受けたように体を震わせているアシリパに牛山は嫌な予感がした。
「チ、チンポ先生が…水城を泣かせ…!?」
「いやいやいやいや!!違う!違うぞ嬢ちゃん!!」
あわあわと牛山と水城を指差すアシリパが誤解をしていると気づき、牛山は慌ててその誤解を解こうとした。
な!杉元!!、と水城に助けを求めれば水城はスンスンと鼻を鳴らしながら頷く。
それにホッと安堵していた牛山だったが…
「猫にでも噛まれたと思う事にする…」
そうポツリ吐き出した。
その言葉にアシリパはスンッと表情を無にし、得物である弓を持ち…
「なるほど、尾形が泣かしたんだな?」
『ちょっと殺ってくる』と物騒な漢字変換をしながら尾形がいるであろう方向へ走っていこうとした。
それに牛山は慌てて止めるが、怒りゆえなのか…少女の力とは思えない力で抵抗され元凶である水城に助けを求めた。
水城は泣いて目元を赤くしながら先ほど牛山にされたように『どうどう』とアシリパを宥める。
「お、落ち着いてアシリパさん…尾形は何もしてないから…」
「なら誰が水城を泣かした!言え水城!そいつを射殺してやる!」
「いやアシリパさんがそれやっちゃったら駄目でしょ…私なら大丈夫だから…これは猫に噛ませてやっただけだから…そう…別に…お、尾形が何かしたとかじゃなくて…わ、わた…私が…」
ボンッ、と顔を赤くし水城はついに耐えられず顔を覆った。
何度も男と寝た経験はあれど、水城があそこまで自分から誘ったのは初めてだった。
あんな娼婦や遊女のお姉様方のような男の扱いに手慣れたようなやり方…初めてなのだ。
尾形が引っかかってくれるか内心ドキドキだったが、尾形は引っかかった。
しかし、よくよく考えれば水城は思う。
『あれ…これって…やばくね?』と。
尾形がアシリパを脅迫材料として迫ったが、外が嫌だからと今日まで寝ることはなかった。
しかしだ。
しかし、ここには屋根があるお家が沢山おありなのではないだろうか??
と、いうことは―――
水城は自ら墓穴を掘った事になる。
尾形がそれに気づき、気づいても誘ってくるかは分からないが、誘惑した自分が恥ずかしすぎて耐えられなかった。
顔を手で覆う水城を見たアシリパは更にヒートアップさせり。
それを抑えながら不敗の牛山は『なんで俺がこんな目に』と土方と行動を共にしていた頃がとても平和で懐かしく感じてしまう。
その後、ぎゃあぎゃあ騒ぐ三人に気付き尾形が来て更に騒動が起こるのを…牛山は知らない。
そして更には尾形こそ『犬に噛まれたと思う事にする』と言う権利を持っている事も、牛山は知らない。
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