水城達は無事樺戸へつき、事前に決めていた待ち合わせの樺戸監獄から近い宿に向かった。
そこで水城達は衝撃的なことを知らされる。
「はあ!?白石が捕まったあ!?」
水城は思わずそう声を上げる。
まず、永倉は出迎えた水城達に二つの悪い知らせがあるといった。
一つは熊岸が死んだという知らせ。
永倉と家永は一度樺戸監獄を訪れていた。
その時に樺戸監獄の典獄に去年の春に外役中に脱走を企て射殺されたと言われたらしい。
しかし本当はあるアイヌのコタンで偽札を刷ることを強制させられていただけなのだが、どっちにしろ熊岸は死んだ。
そしてもう一つの悪い知らせとは―――白石が捕まったという知らせだった。
どうしてか、朝早くに外に出かけ、偶然旭川に帰る兵士達に鉢合わせてしまいそのまま捕まったのだという。
今土方とキロランケが奪還するため動いているらしいが、相手が相手なだけに上手くいくかは半々だろう。
「何考えてんの…あいつ…」
水城は白石の突然の行動に溜息をつき顔を片手で覆う。
◇◇◇◇◇◇◇
水城達は白石を奪還しに向かった土方とキロランケと合流しに旭川まで約25キロ手前にある深川村に向かった。
そこで二人と合流したが、二人のそばに白石の姿はなかった。
「恐らく白石は今頃は旭川へ着いてしまっているだろう…」
どうやら白石奪還は失敗に終わったらしい。
というのも何度か救えるタイミングがあったのだが、白石自身が逃げようとしなかったらしい。
それも最後のチャンスである
神居古潭では白石含む兵を川に落としその隙に白石を拾う作戦であったが、白石は迎えにきたキロランケの手を掴もうとしたがなぜか思いとどまって引っ込めたという。
「アイツが勝手に脱出できたとしてもいつになるか分からない者を我々は待っているわけにもいかない」
「そもそも脱出できるかどうか…脱獄王とは言え監獄とは違うんだ…どんな扱いを受けているか…」
「今この瞬間、皮を剥がされているかも」
脱獄王と呼ばれるほど多くの監獄を脱出し逃げ回っていた白石ではあるが流石に兵に囲まれて脱出できるか分からない。
そんな懸念を零す永倉に対し、家永は物騒なことを呟き鈴川をドン引きさせていた。
「尾形見て来いよ…お前第七師団だろ?」
「………俺は今脱走兵扱いだ」
「キロランケは?元第七師団でしょ?」
「俺はカムイコタンで顔を見られた」
牛山が尾形に、水城がキロランケに、それぞれ元第七師団だった尾形とキロランケに問うが、なかなかいい返事は帰ってこなかった。
旭川に向かう途中の道での救出は失敗に終わり、いい案もない中、一同全員脳裏に白石を思い浮かべる。
それも普段の…いや、普段は普段の姿なのだろうか。
所謂、顔芸とやらの白石を全員脳裏に浮かべていた。
そして一同思うことは…
「「「まあ…いいか…」」」
「あいつの入れ墨は写してあるしな」
一同全員が白石を諦めるという意見で一致した。
そもそも白石は犯罪者である。
この集まりもアイヌの人間以外、囚人と兵隊というのもあって仲間意識はあまりない。
放っておいても勝手に逃げ出すか、死ぬだけだと白石を放置することを決めた。
牛山の言うようにここにいる囚人の体にある入れ墨はすでに写しており、白石がいなければ前へ進めないというわけではない。
普段のふざけた様子からして…まあ、自業自得ではあるだろう。
しかし…
「私は助けたい」
ただ一人…水城だけは白石を諦め見捨てることはなかった。
あんなふざけた男ではあるが白石は仲間なのだ。
「…ふざけた男だが白石にはまだ使い道がある」
「しかしどう助けるんです?」
「それならこの詐欺師を使おう」
水城の言葉に賛同してくれたのは、意外にも土方だった。
水城は土方を見れば、土方も水城を見つめていた。
二人の視線は永倉が問うまで絡まりあっていた。
永倉の問いに水城は土方から視線を外し、そばにいた鈴川を引き寄せ、彼の禿げた頭を軽くペチペチと叩く。
鈴川は話が全く見えなかったが、嫌な予感だけは感じた。
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