水城達は白石を助けるため軍都・旭川に足を踏み入れた。
第七師団の駐屯というのもあり、水城はマフラーで顔を隠し街を歩く。
水城だけではなく、白石奪還のため水城と共に下見に来ていた土方、尾形、牛山も追われている身なため顔を隠しいた。
唯一顔を隠さず歩いているのは、変装している鈴川だけである。
「ずいぶんと栄えているのね…北海道のど真ん中なのに…」
街を見渡してみれば人も多く、店も豊富に色々出ていた。
だが、そんな栄えた街にはなんとも悲しい裏話が存在していた。
「旭川の発展をもたらした『上川道路』、札幌と旭川を結ぶ長い長い道路脇には…おびただしい死体が埋まっている…ヒグマと狼におびえながら寒さと飢えに苦しみ死んでいった囚人たちだ」
土方に続き、鈴川が犬童になりきり中々なゲスな言葉を吐く。
その言葉に水城は囚人とはいえ捨て駒にされた死者に同情した。
「樺戸集治監に収容されたのは戊辰戦争や西南戦争で負けた国事犯と呼ばれる武士達だ…勝てば官軍、負ければ賊軍…戦争というのは負けてはいかんのだ」
ぽつりと呟かれたその言葉であるが、水城にはどんな重い物よりも更に重く聞こえた。
土方も多くを失った人間だと、水城は気づかされる。
街を通り過ぎ、水城達は問題の第七師団の兵舎へと向かう。
「問題はこの広大な第七師団の敷地のどこに白石がいるかよね…監獄じゃないから敷地内に入るのは容易だろうけど…流石に建物を一軒一軒探して回るなんて出来るわけがないし……連中の方から白石を差し出させるように仕向けましょうか」
街のように歩き回ると逆に怪しまれるので遠くから双眼鏡で覗く。
白石の姿を無意識に探すも、囚人であるため双眼鏡で見える場所にいるわけがなく水城は無意識に溜息を小さく零した。
双眼鏡を見るのをやめ、鈴川に双眼鏡を渡す。
「全く…逃げたのに捕まるなんて…脱獄王が聞いて呆れるわね…」
そう愚痴る水城だったが、その声はどこか明るかった。
◇◇◇◇◇◇◇
一通り下見も終え、別れて調べていたキロランケ達とコタンで合流した。
キロランケが入手した地図を見ながら水城達はこれからの段取りを相談する。
「白石を連行した連中の肩章の番号が27だった…旭川に4つある歩兵聯隊のひとつ、歩兵第27聯隊だ」
実際白石を連行した軍と接触したキロランケはそう説明しながら地図をのぞき込み、『ここが27聯隊の兵舎だ』と言ってキロランケは多くある兵舎のうちの一つを指さす。
「ちょっと待て…27聯隊?」
「ええ、27聯隊らしいけど…それがどうしたの?」
「いや、お前らアホか」
何か引っかかりを覚えたらしい尾形の問いに水城が頷いて返す。
そんな水城達に呆れたように尾形は肩章を見せた。
そこには先ほどキロランケが言っていた27と書かれた肩章があり、水城は『あっ』と声を零す。
「そうだったっけ…ってことは鶴見中尉も同じ聯隊か…」
尾形も27聯隊に所属しており、その上官は鶴見であった。
白石が捕まるという騒動ですっかり忘れていた水城達に尾形は更に続けた。
「白石は27聯隊が密かに確保している可能性が高い…なぜなら聯隊長は鶴見中尉の息がかかった淀川中佐だ」
淀川中佐…と聞き水城はどこか聞いたことがあるような気がして考え込む。
『淀川中佐…淀川中佐…』と何度もぶつぶつと呟き、やっと思い出す。
「あ!谷垣から聞いたときからどこかで聞いたことあるなって思ったら…あいつか!!」
キロランケと初めて会った時、谷垣からもその男の名を聞いたことがあった。
あの時は大して反応を見せていなかったが、内心聞いたことある名に首をかしげていた。
それを思い出し、知っている様子の水城にキロランケ達は水城を見る。
「知ってるのか?」
「いえ…その淀川中佐とは
あいつ…私の上官だった男に会いに来た程度だから顔見知りってわけじゃないわ……でも…なるほど…淀川中佐なら白石は確保されている可能性が高いわね…」
淀川中佐は一度顔を合わせたことがある。
とはいえ水城に用事があったわけではなく、上官だった男…吉平に用事があり訪れてきたのだ。
吉平の名に尾形がピクリと反応を見せたが、それを上手く隠し『どんな用事だったんだ』と問う。
その問いに大して疑問も持たず、水城は答える。
「確か…簡単に言えば立場が悪くなったから上官に鞍替えしたがって会いに来た…だったかしら……上官は鶴見中尉と仲悪かったし、鶴見中尉の手垢がついた者を特に嫌っていたから追い返したけど…」
「どんな人物か分かるか?」
鈴川の問いに水城は首を振る。
知っていると言っても一度会っただけで、今まで忘れていた程度の人間だ。
あちらも吉平のそばにいた水城などもう忘れているだろう。
「ごめん、知ってるって言っても話したことないし…でも淀川中佐は二〇三高地での正面突破っていう無謀な作戦の欠陥を鶴見中尉に指摘されたのに全部聞く耳持たずもみ消したの…でも結局その作戦は大失敗だったみたい……私は第一師団だったから詳しくは知らないんだけど…谷垣から聞けばそれ以来淀川中佐は鶴見中尉に逆らえなくなったらしいわ」
「なるほど…なら鶴見の命令で白石を確保しているだろうな」
第七師団だった谷垣も言っていたので、吉平の情報は正しかったのだろう。
今まで忘れていたが水城の脳裏に仲間になることを断られたときの彼の顔が浮かぶ。
吉平は鶴見を毛嫌いしており、淀川中佐だけではなく月島や尾形でさえ嫌っていたほど鶴見中尉に関しては徹底していた。
それに表立って敵対しないとはいえ、スパイを疑わないわけがない。
可哀想だとは思うが、避難場所を吉平に選んだ時点で彼は世渡りはあまり上手くないのだろう。
水城の説明に更に白石は第七師団に確保されている確率が高くなった。
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